金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

(注)文字サイズ変更が左下にあります。

昨日今日明日あさって。(大乱)205

2021-02-28 07:11:04 | Weblog
 追い出される様に部屋を出た俺は、
出待ちしていた従者・スチュワートと視線がかち合った。
「おはようございます」
 当然だが丁寧な所作で挨拶された。
従者とは言え相手は年上、今もって慣れない。
「おはよう。
もう朝食は済ませたかい」
「はい」
 使用人達の朝は早い。
特に早番は。
従者であるスチュワートは俺が泊まりの日は必ず早番。
「朝は何だったの」
 貴族としては卑しい質問だが、まだ子供、許して貰えるだろう。
「私達は腹持ちのいい物です。
子爵様はご要望通り、トーストと目玉焼き、野菜サラダにスープです」

 主人一家の食堂は広い、無駄に広い。
今の俺は独り者だからか、余計に罪悪感に苛まれる。
まあ、たぶん、あるだろう未来に期待しよう。
スチュワートが上座の椅子を引いた。
俺は素直にそれに腰を下ろした。
当番のメイドがワゴンにモーニングを乗せて運んで来た。
 トーストの上に目玉焼きが乗せられ、バターと蜂蜜が添えられている。
これに出来立てのポテトサラダ、スパイスを効かせたオニオンスープ。
どう見ても普通のモーニングだが、料理長・ハミルトンに手にかかると、
ちょっと違う。
兎にも角にも美味い。
これは、まるで魔法。

 食後の搾りたてのジュースを飲んでいると執事・ダンカンが現れた。
「偵察に出ていた斥候が戻りました。
子爵様にご報告があるそうです」
「ウィリアムへの報告は先に済ませたのかい」
「はい」
「それでは会おう」

 まだ若い斥候は急いた表情をしていた。
此度は子爵家として初めての人間相手の実戦になるかも知れない。
それが彼の顔に如実に現れていた。
「南門の偵察より戻りました」声も強張っていた。
「どうなっているんだい」
「早朝より戦闘が再開されました」
「どちらから始めた」
「声からすると王妃様の側からです」
「旗色は」
「これも声からの判断ですが、反乱軍側が押されています」
 門内に入れる訳ではないので声や音、
門衛の挙動で判断するしかない。
「小隊長のウィリアムはどうしてる」
「全ての馬車を門前に整列させています」
 横で聞いていたダンカンが口を挟んだ。
「盾は全て積みこんで有ります」
 俺はダンカンに頷き、斥候に指示した。
「ウィリアムに告げてくれ。
予定より早いけど、前倒しで進める様にと」
「承りました」

 俺はダンカンとスチュワートを見た。
「着替えた方がいいみたいだね」
「そうですね」
「僕は着替えて来る。
君たちもそうしな。
先頭には立たせないけど、子爵家初めての戦闘で死なれちゃ困る。
防具でしっかり固めて来るんだよ」
 ダンカンが心配顔で言う。
「子爵様が出向く必要がありますか」
「こちらの兵力は少ない。
となれば士気が下がる。
それを当主の僕で補うしかないだろう。
効き目があるかどうかは知らんけど」

 俺は階段でパーティ仲間と擦れ違った。
彼女達は用意の良い事に、既に防具を身に纏っていた。
大人組の先読みだろう。
俺を見るキャロルの視線が痛い。
「これからお着替えかしら」
「身嗜みは大切だからね」
「常在戦場よ」
「意味を知ってるのかい」
「なんとなくね」
「はあ・・・。
早くしないとモーニングが冷めちゃうよ」
「それは困るわ。
早く下りて」後ろのマーリンがキャロルを急かした。

 幸い自室にはメイドのジューンがまだ残っていた。
床の掃き掃除をしていた。
汚した覚えはない、見えない埃でも落ちているんだろうか。
まあ、それはいい。
ジューンに声をかけた。
「戦だよ、着替えを手伝って」
 本当は一人でも出来るんだけど、それだと拙い。
使用人の仕事を取り上げる様なもの。
何につけ、近くに使用人がいたら声をかけるのは貴族の基本。
ジューンの顔色が変わった。
聞き返された。
「本当に子爵様が出られるのですか」
「当然だろう。
世界は僕を待っているんだ」
「何を仰ってるんですか」
「言ってみただけ。
聞き逃してよ」

 俺は始めて貴族仕様の防具を身につけた。
ただ、残念な事に子供用。
強度よりも身動きし易さ優先の配慮がしてあった。
つまり走り重視、・・・逃走前提だろう。
まあ、文句を言うのは筋違いだろう。
使用人達の心遣いに感謝だ。
手伝ってくれたジューンが膝を折って、俺を防具の上から抱きしめた。
「死んではいけませんよ」真顔で言う。
 当主と使用人の関係だから本来は咎められる行為。
でも実態は姉と弟の様なもの。
この屋敷の者達は俺にとって姉だけではない。
兄もいれば、父も母も、叔父も、叔母もいる。
恵まれている。
俺はジューンを抱き返した。
「ありがとう。
心配かけてゴメンね」

 アリスからの念話が届いた。
『王妃側のゴーレムが敵陣を真っ二つにしたわ』
『パー、鉄鋼の大きな、大きなゴーレムップー』
 思い当たるのは一つの顔。
『レオン織田子爵が来てるのかい』
『ええ、あいつの家臣が操作してるわ』
『鉄鋼ゴーレムだと無敵だね』
『ふん、私の風魔法なら一発で切り裂けるわ』対抗心丸出し。
『ピー、僕も、僕もっペー』こちらも負けない。
『味方に攻撃するのは止めようね』

 着替え終えた俺は一階に駆け下りた。
肘も膝も首元も丁度いい。
特注に応えた者に感謝だ。
階下にはダンカンとスチュワートだけでなく、
執事見習いのコリンまでが待っていた。
三人とも良い防具を身に纏い、武器を腰に下げていた。
「準備はいいですか」ダンカンに聞かれた。
「当然だよ」気負いはない。
 ダンカンがコリンとスチュワートに合図した。
応じて二人が玄関を左右に大きく開けた。
全開された先には完全武装の兵達が整列していた。
子爵家の国都における全兵力、五十名の小隊。
加えて期間限定雇用の傭兵三十四名。
冒険者クランの三十八名。
そして、パーティ仲間が八名。
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昨日今日明日あさって。(大乱)204

2021-02-21 07:26:50 | Weblog
 ベティ王妃は陣頭に立った。
軍服ではない。
そもそも王妃用の軍服はない。
そこで主立った連中が思い立ったのが儀式用の礼服・ドレス。
頭にはティアラ。
その姿で前線を見回してから視線を隣のロバート三好侯爵に転じた。
「これでいいの」
「はい、ベティ様のご尊顔で敵を威圧するのです」
「私で威圧ね・・・」
「敵の多くは雇われ者です。
ベティ様を見て、誰を敵に回しているのか、はっきり分かるでしょう」
 威圧してるかどうかは分からないが、
敵陣が静まり返っているのは分かる。 
「矢も魔法も飛んで来ないわね」
「美しいベティ様に見惚れているのでしょうな」
「貴方は余裕ね」

 ベティの困惑を無視してロバート三好が右手を上げた。
将兵が一斉に鬨の声を上げた。
それがベティの背中を押した。
国王の代理として采配を振った。
 途端、空気が変わった。
最初に飛び出したのは予想外の物。
隊列が左右に割れ、巨人が現れた。
3メートルの鉄鋼ゴーレム。
その一体がドタドタと駆けて行く。
巨体が起こす風ゆえに、ベティのドレスの裾がフワリと捲れ上がった。
 敵陣から悲鳴に似た怒号が上がった。
「誰か足止めしろ」
「シールドを張れ」
「魔法で迎撃しろ」

「ベティ様、お下がり下さい」
「分かったわ。
でも凄いゴーレムよね」
「確かに」
「敵が気の毒よね」
「はい、私なら真っ先に逃げますな」
「そうかしら。
そうは思えないわね。
貴方なら逃げる様に見せて、
追って来るゴーレムに罠を仕掛けるのではないですか」
「はっはっは、試す日が来なければ宜しいですな」
 ベティはロバート三好に背中を守られて後方へ退いた。
途中、レオン織田子爵に出迎えられた。
尾張地方を統治するフレデリー織田伯爵の庶子だ。
その彼が踵を揃えた敬礼した。
「驚かせましたでしょうか」
 レオンが土魔法でゴーレムを造り上げた。
土のゴーレムなら十体は可能なのだが、
それを自らの提言で敢えて一体の鋼鉄ゴーレムにした。
水魔法に弱い土のゴーレム十体より、
強度と剛性に優れた一体の鋼鉄ゴーレム。
「気にしないで。
それより、ゴーレムの操作をしなくていいのかしら」
「核の魔水晶に術式を施しています。
最高管理者は私ですが、サブとして家臣を書き込みました。
ゴーレム操作はその家臣に任せています。
お陰で今、私はとても暇なのです」
 ロバートが言う。
「あれだけのゴーレムだ、魔力を使い切ったのだろう。
ごくろうだった。
どうだ、王妃様と一緒にお茶でもどうだ」
「よろしいので」嬉しそう。
「よろしいも、よろしくもない、付き合え。
ポーションも奢るぞ。
王室の物だから高品質の物だ」

 敵陣から攻撃魔法や矢がゴーレムに集中した。
しかし、鉄鋼製。
蚊に刺された様なもの。
全てを弾き返した。
 鉄鋼ゴーレムが無傷で敵陣に突入した。
遅れじと王妃の軍が続く。
多勢に無勢。
加えて鉄鋼ゴーレム。
こうなると単なる虐殺でしかない。

 南門に陣を敷いたカーティス北畠公爵は、
前線から戻って来た側近の報告に我が耳を疑った。
「鉄鋼ゴーレムが現れたと」
「はい、
矢も攻撃魔法も通じません」
「鉄鋼ゴーレムか。
造れる者が存在したのか」
「如何いたます」
 応じたのは公爵家の執事。
「大切なのは公爵様の御身。
一度や二度の負けで命を散らしてはなりません。
再起を期して今は逃げましょう」
 カーティスは顔を歪めた。
「まだ一度も負けていないが・・・」
 執事は周りの者に指示を下した。
「一隊は先に出て貴族の屋敷を襲って下さい。
幸い、相手は南区の貴族街にいます。
ダンタルニャン佐藤子爵、お子様子です。
王妃軍に忍ばせている者の報告によると、
王妃は王女をお子様子爵に預けているそうです」
 カーティスは目を瞬いた。
「どうするんだ」
「一隊で子爵邸を襲い、王妃軍の目を引き付けます。
公爵様はその隙にもう一隊と共に外郭の南門から逃げていただきます」
「屋敷の者達は」
「逃げる準備はさせてあります」
「手回しがいいな。
負けると読んでいたのか」
「まさか。
全てに備えるのが執事の役目です」

 北門のバーナード今川公爵は兄からの使者に言葉を失った。
「兄はすでに逃げたと言うのか」
「はい、公爵様も直ちに逃げられる様にと」
「随分手回しがいいな」
 ここでも公爵家の執事が言葉を差し挟んだ。
「公爵様、こちらの屋敷も準備は終えています」
「向こうの執事と事前に示し合わせていたのか」
「それが執事の仕事です」
「そうか。
逃れられるか・・・」
「それ相応の者に殿を任せましょう」
 側近の一人が名乗りを上げた。
「私目にお任せ下さい」
「死ぬぞ」
「もう充分に生きました。
ここらで終えましょう」
「すまぬな。
必要な兵力を持って行け」
「自分の中隊で」
「少なくないか」
「門で防ぐだけなので、これで充分です」
「すまぬな」頭を下げた。
「公爵様、最後に言わせて頂きます。
主は臣に頭を下げてはなりません」
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昨日今日明日あさって。(大乱)203

2021-02-14 08:09:17 | Weblog
 俺の周辺は朝から騒がしい。
表門から屋敷警備の責任者である小隊長・ウィリアムの声が聞こえた。
「君たちは右へ」
「君たちは左へ」
ガヤガヤ、ガチャガチャ、ドタドタ・・・。
日の出と共に傭兵団『赤鬼』三十四名が屋敷に入って来た。
遅れじと冒険者クラン『ウォリアー』五パーティ三十八名も現れた。
 ウィリアムが傭兵ギルドと冒険者ギルドに期間限定の依頼を出したら、
幾つかのチームが推薦された。
彼が面接して選んだのは、この二チーム。
当然、俺は最後に面談して了承した。

 五日間期間限定の屋敷の防衛。
これに冒険者パーティ『プリン・プリン』も強引に割り込んできた。
その彼女達は昨夜より、この三階に宿泊中。
本来なら別館のメイド寮に泊まってもらうのが正解なのだが、
そちらには現在、イヴ様御一行が泊まっていた。
木を隠すなら森。
イヴ様御一行を隠すならメイド寮。
秘密なので仲間達の目からも隔離する、それしかない。
 その肝心の仲間達だが、こちらも朝から騒々しい。
大人組と子供組で部屋を分けたのだが、全員が女子。
「化粧しないの」
「えっ、戦うのに化粧・・・」
「身嗜みは当然でしょう」
「それより早く洗面所を空けなさいよ」
「先にトイレにしなさいよ」
「顔を洗わせてよ」
 姦しい。
俺は耳を塞ぐことにした。

 屋根から念声が聞こえた。
『朝から五月蠅いわね』
『パー、五月蠅い、五月蠅いプー』
 アリスとハッピーも朝から元気だ。
『女の子の朝は特にね』
『なにそれ、差別・・・』
『ピー、差別っペー』
『違う、区別だよ』
『下の男の群れはなんなの・・・』
『プー、男、男っパー』
 面倒臭い。
『女の子も混じっている筈だよ』
『でもあれらは完全に分類的に男でしょう』言い切った。
『ポー、男、男っピー』
『酷い、それこそ差別だよ』
『男臭くなるわね』
『ペッペッ、男、男臭いっペー』
 忘れていた。
スライムのハッピーの性別はメスだった。

『そんなことより、二人に質問です。
ダンジョンの用事は終わったのですか』
 簡単に済む用事ではなかった筈だ。
『馬鹿ね。
ダンジョンに行く訳ないでしょう』
『パッパッ、馬鹿、馬鹿っパー』
 良い訳にもなっていない。
『行くって言ってたじゃないか』
『嘘よ』
『プーペーポー』

 アリスが意外な事を言う。
『教えてあげる。
南門を占拠しているのはカーティス北畠家公爵軍100ほど。
前線に出ているのは2000ほど。
北門を占拠しているのはバーナード今川公爵軍200ほど。
前線に出ているのは3000ほど』
『プー、調べたっペー』
 事前に二人には人間の争いに関わらぬ様にと釘を刺したが、
完全に無視された。
『なにやってるの』
『片手間に調べてあげたのよ。
有り難く感謝なさい』
『ポー、感謝、感謝っポー』
 俺は思わず、知らず、声を上げた。
『関わっちゃ駄目って言っただろう』
『怒らない、怒らない。
怒ると皺が増えるわよ』
『ペッペッ、皺々っ増えるっペー』

 脳筋肉のアリスは俺を無視して話を続けた。
『国王陛下だっけ、あれは死んでたわよ。
北門で棺桶に入れられてるわ』
『パー、棺桶、棺桶獲って来るっペー』
 ハッピーなら体内に収納できる。
獲る気満々。
『それは放置していいよ』
『いいの、遠慮してるの』
『ピー、獲る、獲るっ収納っペー』
『遠慮はしてない。
遺体は王妃の軍が奪い返す必要があるんだ。
その為に大勢が戦っている訳だからね』
『訳が分からないけど、それじゃ放置決定ね』
『ポッポッポー』

 アリスは報告を続けた。
『次は王妃の軍ね。
王妃は西門にいるわ。
続々と味方が集まって7000近いわね。
東門にも味方が集まっているわ。
こちらは6000ほどかしら』
『パー、攻撃してっパー、散らすっパー』
 明らかにハッピーの語彙力が上がっている。
これでは面倒臭い度数が跳ね上がりそう。
っと、ドアがノックされた。
「入ります」朝食の時間だ。
「分かった」
 メイドのジューンが入って来て、にこやかに俺を見る。
「おはようございます」
「おはよう」
「下で用意は整っています」
 俺は追い出される様にして部屋を出た。
カーテンが開けられ、続いて窓が全開にされる音。

 廊下を歩く俺にアリスが続けた。
『どちらも今日中に決着をつける気でいるわ。
ダン、巻き込まれないようにしてね』
『ポー、巻き込まれちゃ駄目プー』
『そのつもりだよ。
亀の様に首を引っ込めてるよ』
『それが無難ね』
『パー、亀だよ、亀だよ、噛む噛むプー』
『二人はこれからどうするの』
『空から国都観光するわ』
『観光ピー、観光ピー』
 缶コーヒーに聞こえてしまい、思わず苦笑い。
『手出し無用だよ』
『分かってる。
上から人間の無様な様子を見ているわ。
でも、ダンが危ないとなったら駆け付けるわよ』
『駆け付けるペー、駆け付けるポー』
 遠ざかる二人の魔波。
王宮方向に向かっている。
情報収集を続けるのだろう。
それに俺は感謝した。
『ありがとう』
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昨日今日明日あさって。(大乱)202

2021-02-07 07:34:31 | Weblog
 従者・スチュワートがドアを開けて、脇に退いた。
俺は執事・ダンカンを従えて応接室に入った。
室内の者達が立ち上がって俺を迎えた。
テーブルの左側には初対面の客人六名。
右側には家臣のウィリアムと、・・・女達。
どうしてここに彼女達が・・・。
聞いてないよ、この場に居合わせるなんて。
驚きで足が止まりそうになったが、努めて冷静を装った。

 俺は上座の椅子に腰を下ろした。
背後にダンカンが立つ。
スチュアートが入室してドアを閉める。
俺はダンカンを振り返った。
何故か、目を逸らされた。
スチュワートに視線を転じた。
彼にもまた目を逸らされた。
どうやら二人とも彼女達の存在は承知らしい。
口止めされていたのだろう。

 俺はウィリアムに尋ねた。
「粗方の説明は終えたのかい」
「はい」
 俺は客人六人を見回した。
一癖も二癖もありそうな顔ぶれだ。
俺が六人の値踏みをしていると、六人も俺を値踏みしている目色。
初対面だからお互い様。
俺はニコヤカに言った。
「みんな、腰を下ろして。
お茶を入れ替えてもらおう」

 呼ぶより早くメイド達が入って来た。
俺にお茶が運ばれ、皆の手元のお茶が入れ替えられた。
俺は心を鎮める為にお茶を飲んだ。
んっ、熱いっ、苦い、それが良い。
まあ、それはさて置き、彼女達を見た。
 冒険者パーティ『プリン・ブリン』のメンバーが顔を揃えていた。
キャロル、マーリン、モニカ、シンシア、ルース、シビル、シェリル、ボニー。
俺、呼んでないんだけど・・・。
ウィリアムの隣のシンシアが口を開いた。
「ダンタルニャン佐藤子爵様、単刀直入に言うわね。
人手が足りないなら真っ先に私達に声をかけるべきでしょう。
そうは思わない」
 どこから聞き込んだのだろう。
俺はウィリアムに目を遣った。
ここでも逸らされた。
「私達は冒険者仲間でしょう」ルースが言う。
「違ったかしら」シビルも加わった。

 俺は躊躇いがちに答えた。
「まあ・・・、そうだよね。
でもね、今回は薬草採取じゃないんだよ。
貴族様が相手の喧嘩。
それも王族の侯爵様二人が率いる賊軍。
巻き込みたくないから声をかけなかったんだ。
そこんところ分かってよ」
 シンシアがにこやかに言う。
「失礼を承知で言わせてもらうわ。
貴方が私達をどう思ってるか知らないけど、
私達三人は貴方を弟の様に思っているの。
私達はその弟が困っているから手を貸すの、悪い・・・」

 年長組の考えは分かった。
そこでシェリルとボニーの主従に目を転じた。
代表してシェリルが言う。
「寮にお手紙ありがとう。
お陰で実家に面子が立ったわ。
兵力を整え次第、王妃様の下に駆け付けるそうよ。
本当にありがとう。
・・・。
代わりにと言っては何だけど、ここで私達二人が力になるわ」
 言葉足らずと思ったのか、ボニーが補足した。
「お嬢様は成人に達していないので、お家の軍には加われないのです。
ダンタルニャン様、何卒こちらに加えてもらえないでしょうか」

 俺は年少組を見た。
キャロル、マーリン、モニカ。
俺とは同年齢で同学年。
こんな子供達に血を流す現場に立ち会わせるのは・・・、
大人としてどうなんだろう、出来ないよね。
えっ、俺も子供。
キャロルが代表して言う。
「私達は商家の子供よ。
私もマーリンもモニカも家は継げないけど、商いで生きて行くつもりよ。
商いは戦いよ。
金銭だけでなく、実際に血も流れるわ。
キャラバンや行商だと魔物や山賊対策が必要だし、
街中の商いでも夜盗やならず者への対策は必須なの。
・・・。
今回の件は丁度いいわ。
対人戦が経験できるんだから。
だからお願い、私達も加えて」
「私も」マーリン。
「私も」モニカ。
 三人に懇願された。

 俺の判断は揺れた。
シンシア達は立派な大人。
シェリル主従にも目はつむれる。
でもキャロル達は子供・・・。
その点が・・・、三人の目が・・・。
「分かった。
皆に力を貸してもらいます。
ただし指示には従う事、いいですね」
 仲間達が笑みを浮かべて互いを見遣る。
俺は改めて仲間達を見回した。
「来てくれて、ありがとう」

 俺は客人六名に目を遣った。
「申し訳ない。
仲間内の話が先になってしまった」軽く頭を下げた。
 左側の上席の男が笑顔で応じた。
「気にしないでください。
すでに私達は雇われた身ですから。
あっ、遅れました。
私は傭兵ギルドの紹介で参りました。
傭兵団『赤鬼』の団長で、アーノルド倉木と申します。」
 隣の男。
「『赤鬼』の副団長のドリフです」
 更にその隣。
「『赤鬼』の会計係のジュードです」
 四人目。
「私は冒険者ギルドの紹介で参りました。
冒険者クラン『ウォリアー』の団長で、ピーター渡辺と申します。
傘下のパーティ五つを率いて参りました」
 五人目。
「『ウォリアー』の副団長のテッドと申します」
 六人目。
「『ウォリアー』の会計係のウォルターと申します」
 生真面目そうな六つの顔が並んでいた。

 ウィリアムがどういう基準で選んだのかは聞いていない。
任せるられるところは任せて、最終責任は当主である俺がとる。
それで良いと思う。
俺は頷くように六人を見回した。
「君達を歓迎するよ。
受諾してくれて、ありがとう。
遅れたけど、私が当主のダンタルニャン佐藤子爵です。
見た通りの子供だけど、心配はいらないよ。
周りの大人達が優秀だからね」
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