金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

(注)文字サイズ変更が左下にあります。

昨日今日明日あさって。(大乱)236

2021-09-26 08:40:26 | Weblog
 カトリーヌ明石少佐は少し考えた末、
自分に付いて来ていた副官に耳打ちした。
聞いた副官は小声で復唱すると、踵を返した。
それほど待たされなかった。
該当する人物は幸いにも近くにいた。
副官が背の高い女性騎士を連れて来た。
後宮警備に上番中の中尉であった。

 俺は紹介された中尉に説明した。
「イヴ様の畝に蒔かれて種を鑑定して欲しいのです。
出来るのなら、他の子供達の畝の種と比較して下さい」
 お安い御用とばかり、中尉が鑑定を始めた。
すると中尉の顔色が面白いように変化して行く。
一人頷きながら、イヴ様の畝と他の畝を何度も繰り返して鑑定した。
結論に至ったようだ。
俺とカトリーヌに報告した。
「異様ですが、イヴ様の畝の種に発芽の兆しがあります。
他の方の蒔かれた種よりも発育が早いのです。
土魔法の話は聞いていますが、これは有り得ません」

 俺は説明した。
「まず最初にイヴ様の畝に他の畝とは違う魔力を感じ取りました。
所謂、生命力と言うか、活性化ですね。
その元になっているのは土なのか種なのかと迷いました。
そこで水魔法の使い手であるシンシアに水撒きをお願いしました。
普通の水ではなく、魔水です。
魔水で活性化をより促進して、答えを得ようと思ったのです。
・・・。
僕は専門家ではないので、正解かどうかの判断は差し控えます。
素人の想像として申します。
イヴ様の土魔法は土だけでなく、種にも影響を及ぼすようですね」
 カトリーヌの目が点になった。
先に中尉が口を開いた。
鑑定スキル持ちだけに、理解が及んだようだ。
「ただの土魔法ではない、そういうことですね」
「はい、もしかするとですがね」
「あながち間違いではないかも知れないわね。
魔法は色々とあるのよ、方向性と言うか、偏りがね」
 カトリーヌが口を挟んだ。
「私にも分かるように、お願い」

 中尉が考えて言葉にした。
「身近な例で申しますと、レオン織田伯爵ですね
あの方も土魔法の使い手ですが、造られたゴーレムから判断するに、
あれは鍛冶師寄りになっています。
ただの土魔法の使い手では造れない仕様になっているので、
そう色分けしても差し支えない筈です」
 カトリーヌがコクコクと頷いた。
「それは分かる。
他の土魔法の使い手では真似出来ないのよ。
それがイヴ様とは・・・」
「イヴ様は、大地魔法の色が濃いと言う話です」
 シンシアの仲間のシビルが口を挟んだ。
「土だけでなく、種にも干渉できるのなら、そう言う結論になるわね」
 シビルは土魔法スキル持ち。
俺達より土魔法に詳しい。
カトリーヌが疑問を口にした。
「大地魔法と言うのは聞いた事がないんだけど」
 シビルが応じた。
「使い手が滅多に現れないので、あまり知られていないの。
それに当人も気付かないと言うのもあるわね。
土の中で完結してしまうから」

 中尉とシビルで遣り取りした。
それを横で聞いてカトリーヌが理解したのか、フムフムと頷いた。
「肥えた土を作り、気候や害虫に左右されない種を育む。
それが大地魔法。
指導によってはイヴ様も大地魔法を使えるようになると」
 俺はカトリーヌに注意した。
「無理強いはよくないですよ。
あくまでも可能性の話ですから」
「分かってるわよ、イヴ様は王女様よ。
無理強いする者はいないわ」
 可能性のあるのが一人いたが、名は出さない。

 イヴ様が俺に歩み寄って来て、上目遣い。
「ニャ~ン、遊ぼう」
 仲間外れにされた、そう思っているのだろう。
俺は従者・スチュワートを呼んだ。
「あれを」
 王宮内へのマジックバッグ等の持ち込みは禁止されていた。
それを破って持ち込んだ者は、如何なる者でも重罪に科されていた。
余程の事がない限り、処刑。
ただ特例があった。
近衛の許可。
 誰でもと言う訳ではない。
国王ないしは王妃の御声掛かりを受けた者だけが、
近衛の許可のもとで持ち込めた。
本日は俺。
マジックバッグを持つのはスチュワート。
立会人はカトリーヌ少佐。
 
 近くの四阿に移動した。
大きなテーブル二つと俺を数に入れた椅子が用意されていた。
一方のテーブルにスチュワートがマジックバックから物を取り出し、
綺麗に並べて行く。
ジユース樽、ホールケーキを入れた箱、レーキナイフ、カップ、皿等々。
普通は持参した者が毒味役なのだが、鑑定スキル持ちがいた。
中尉にお願いした。
 俺達子供はもう一つのテーブルについた。
イヴ様は椅子ではなく、俺の膝の上でご満悦。
「ニャンは椅子、ニャン椅子」
 それを侍女達が横目で見て、笑いながらケーキを切り分け、
カップにジュースを注いで行く。

 配られたジュースを皆が飲む」
「おいちい」イヴ様。
 俺は説明した。
「ジュースもケーキも木曽の産品が大部分です。
ジュースは木曽オレンチ。
ケーキは木曽麦に木曽牛の乳を練り込んでいます」
 イヴ様はさておき、女の子達を見た。
商家の娘三人は満面の笑み。
貴族の娘の喰いつきは良い。
問題はないようだ。

 俺はスチュワートに合図して、
マジックバッグから人形を取り出して貰った。
昨夜、錬金スキルを駆使して造り上げた物だ。
それをイヴ様の目の前に並べさせた。
一番大きな物にイヴ様の目が行く。
「これは」
「木曽で出遭ったパルスザウルスと言う魔物です」
「こわい顔、つよそう。
これは・・・」
「同じくダッチョウと言う魔物です」
「かわいいわね。
こっちは人よね」
 一番小さな物を指差された。
「イライザと申します。
木曽に住む女の子です」
「イライザ、綺麗・・・」
「実はこのダッチョウと言う魔物が僕達の方へ逃げて来たのです」
「にげてきたの」
「はい、この大きなパルスザウルスと言う魔物に追われて、
僕達に擦り付けて来たのです」
 俺はパルスザウルスとの一件を面白おかしく話した。
当然、俺は傍観者。
パルスザウルスを討伐したのは当家の兵士達。
イライザがダッチョウをテイムするまでを身振り手振りで語った。
思っていたよりも受けた、受けた。
「テイムしてチョンボと名付けました」
「みたい、チョンボとイライザを見てみたい」
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昨日今日明日あさって。(大乱)235

2021-09-20 09:01:10 | Weblog
 文官らしき人物が現れた。
こちらを確認するや、近付いて来た。
警備していた者達が何も問わずに道を開けた。
その人物が俺に軽く目礼し、王妃様の傍で足を止めて耳打ちした。
聞いた王妃様の表情が曇った。
思案の末、渋々頷き、俺を見た。
「それでは少年、私は仕事に戻る。
娘を押し付けるようだけど、相手をしてやってね」
 王妃様が立ち上がり、踵を返した。
文官らしき人物を供にし、颯爽と歩を進めた。
散開して警備していた女性騎士達が押し包むように隊列を組む。
波が引くように一団が遠ざかって行く。
 残された俺とカトリーヌ明石少佐は立ち上がって、それを見送った。
その時点で俺は、ようやく自分の従者に気付いた。
スチュワートが背後で固まっていた。
「大丈夫か」
「ええ、なんとか」

 普通、従者は控室で待機するもの。
王妃様との場に立ち会わされる事はない。
「ベティ様は何度か屋敷に来られた。
その時に会っているだろう」
「そうなんですが、今もって慣れません」
「そうか」
「そうです。
あの方はまるで女神様です。
慣れる方がおかしいのです」顔が赤い。
 聞いていたカトリーヌが苦笑いした。
「はっはっは、その通りだ。
女性騎士の中にも陰で女神さまと言う者がいる。
今もって緊張するそうだ。
それと同じだな」

 カトリーヌの案内に従い、後宮に隣接した庭園に入った。
幼い笑い声が聞こえて来た。
「キャッキャッキャ」
ベティ様だ。
そちらへ向かう。
 女性の集団が見えた。
シンシア、ルース、モニカ、ボニーの成人女性が外側の警備。
侍女三人が内側。
見守られているのは四人と一人。
キャロル、マーリン、モニカ、シェリル、そしてベティ様。
五人で花畑の一角を耕し、花の種を蒔いていた。

 王女様がやる遊びか・・・、と疑問に思う。
俺の顔色を読んだのだろう。
カトリーヌが言う。
「今はこれに凝られておられる」
「土で汚れますけど」
「それも喜んでらっしゃるわ」
「洗濯が大変でしょう」
「知らない人はそう思うでしょうね。
ところがそうでもないの。
どういう訳か、イヴ様に土魔法が発現したの。
その土魔法で泥汚れを落されてるわ。
乾燥させてからパタパタ叩いね。
それは見事なものよ」

 俺はイヴ様を鑑定した。
ここでも慎重に、魔力を足の裏から地中を通し、
誰にも気付かれぬように行った。

「名前、イヴ足利。
種別、人間。
年齢、四才。
性別、雌。
住所、足利国山城地方国都住人。
職業、なし。
ランク、F。
HP、25。
MP、45。
スキル、土魔法☆」

 俺はカトリーヌに尋ねた。
「このような小さな子供でも魔法が発現するものですか」
「人によるわね。
でも心配は無用よ。
暴走せぬように側仕えの侍女達が見守っているから。
それに、鑑定できる者や治癒魔法が使える者が後宮にいるわ。
毎日、朝昼夕に鑑定と治癒。
それはもう大事にされているわ」

 俺とカトリーヌの声が聞こえたのだろう。
「あっ、ニャ~ンだ」
 イヴ様が叫ばれた。
目敏く見つけられると、勢いよく走って来られた。
小さな両手を前に出し、小走りで、転ぶ事無く、俺の前へ。
 お約束・・・。
俺は腰を落として片膝ついた。
そこへイヴ様が躊躇いなく飛び込んで来られた。
俺は身体強化し、優しくキャッチ。
持ち上げながらイヴ様を宙で半回転させて肩車。
「ヒャッハッハ」足をバタバタさせて、悲鳴に近い笑い声。
 
 イヴ様は肩車に満足されると、俺に言われた。
「ニャン、一緒に種蒔きしよう」
 暫く見ぬ間に言葉も明瞭になっていた。
断る選択肢はない。
王女様の土魔法は是非とも見てみたい。

 何やら小さな声で唱えられた。
聞いて驚いた。
「柔らかくな~れ、柔らかくな~れ」
 なんだ、それ。
魔法の詠唱ではない。
呪文とも違う。
でも結果は出た。
小さく狭い範囲を耕され、畝が作られた。
 俺は呆れながらも、鑑定と探知を連携させて状況を調べた。
畝にイヴ様の魔力の残滓を見つけた。
つまり、魔法が行使されていたと言う事になる。

 イヴ様は畝を作り終えられるとキャロルから種を受け取り、
その半分を俺に手渡された。
「蒔くわよ」
 一緒に蒔いた。
蒔いた種にイヴ様は土を被された。
「大きくな~れ、大きくな~れ」

 イヴ様の魔力は土に効果があった。
小さな畑そのものが活性化した。
周りの土とは明らかに違っていた。
俺は警備中のシンシアを声をかけた。
「シンシア、水魔法で魔水を出せるかい」
「できるけど」
「このイヴ様の畑に魔水を撒いて欲しいんだ。
薄く広く、朝露のような霧状に」
「お安い御用だ」

 シンシアが歩み寄って来て、イヴ様の畑を確認した。
「この一角で良いのね」
「ああ、お願い」
 シンシアは片手を畑に翳し、無詠唱で水魔法を発動した。
たちどころに霧が出た。
俺は鑑定で詳細に畑を観察した。
イヴ様の畝と他の子供達の畝の違いが明確になった。
活性化した土が種に干渉を始めていた。
 俺はこの力は秘匿しているので、説明は難しい。
そこでカトリーヌに声をかけた。
「畑の中の具合を見たい。
近くに鑑定のできる人はいないかな」
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昨日今日明日あさって。(大乱)234

2021-09-12 09:08:20 | Weblog
 俺は噴水前のテーブルに案内された。
温水の流れを見ると色とりどりの魚が泳いでいた。
まだ煮魚にはなっていない。
よろける様子がないところを見ると、彼等にとっては適温なんだろう。
俺は椅子に腰を下ろした。
けれど案内役のカトリーヌ明石少佐は腰を下ろさない。
「私はここに案内するのが役目ですからね」
 確かにそうだ。
カトリーヌが俺に尋ねた。
「子爵様はコーヒーにしますか」
「飲んで待ってた方がいいのかな」
「たぶん、時間がかかると思います」
「それじゃ、ついでにケーキも」
 カトリーヌ少佐は遠くのカウンターに合図した。
メイドが応じた。
優雅な足取りで、こちらへ注文を取りに来た。

 注文の品が運ばれて来るのに時間は要しない。
メイドが俺の前にコーヒーとケーキを置いた。
コーヒーの香りが鼻を擽った。
良い豆を使用しているようだ。
ケーキはイチゴショート。
ど真ん中にオーガの男性器の筒先大の苺が鎮座していた。
 コーヒーにはミルクと砂糖を多めに入れた。
背後に突っ立っているカトリーヌが心配した。
「ジュースでも良かったのじゃないですか」
「だよね。
でも、王宮の今の豆を知りたくて」
「品質の良い物が納入されているのか、その辺りですか」
「そうだよ。
前と同じ品が納入されてるのなら、問題なしだね」

 俺は最初の一口に挑んだ。
熱いけど甘い、そして奥から旨味。
口内でソッと鑑定した。
産地は琉球オアシス。
反乱軍の支配下にあるオアシス都市から仕入れられていた。
 鑑定精度を上げて、採取された年を調べた。
なんと、去年ではないか。
琉球で採取、薩摩で加工、豊後の商社に卸され、
土佐経由で昨年暮れに王宮に納入された。
 遊び感覚で鑑定して意外な事を教えられた。
戦争と経済は同一歩調で動いているように見えるが、
水面下では利益優先で怪し気に蠢くもの。
権力で制御するには限界がある証だ。

 ケーキを食べていると、周囲に何気に動きが。
近衛軍の女性騎士達が複数が入って来て、店内の客達に耳打ち、
「王妃様がご来店なさいます。
皆様には申し訳御座いませんが、直ちにご退店をお願い致します。
御会計は私共が行いますので、急いで下さい」促して行く。
 拒む者は存在しない。
 
 予想していたようにベティ様が現れた。
近衛軍の女性騎士複数を従えていた。
俺はカトリーヌに確認した。
「女性騎士を増やしたの」
「そうです。
王妃様と王女様を守る為に増員しました。
当然、精鋭です」
 平民の女子も含まれていると言う意味だろう。
俺をそれを鑑定で確認はしない。
何しろ王妃様は鑑定スキル持ち。
俺よりランクが低いので見抜けないが、
万が一、ランクアップしていたら拙いので安全策を講じた。

 俺は王妃様を迎える為に立ち上がった。
臣下として跪こうとしたが、それは王妃様に手で制された。
「固い固い、省略しなさい」
 カトリーヌが引いた椅子に王妃様が腰を下ろされた。
そして手を伸ばされ、俺が残していたケーキの苺を摘ままれた。
「嫌いなら私が食べるわね」
 返事も聞かずに笑顔で口にされた。
俺は返す言葉がなかった。
呆然としていると、王妃様に手で椅子を指し示された。
「さあ、腰掛けなさい。
突っ立ったままじゃ話がし難いでしょう」
 カトリーヌが声を上げずに笑っていた。
俺が元の椅子に腰を下ろすと、そのカトリーヌがカウンターに合図した。
事前に通達されていたのか、何時もの事なのか、
素早く物が運ばれて来た。
王妃様には紅茶とチーズケーキ。
俺にはオレンチジュースとイチゴショートケーキ。

 紅茶を口にしながら王妃様が俺に質問された。
「この冬は木曽に戻ったそうね。
現状はどうなってるのかしら」
 気軽な口調で質問が重ねられた。
再開発中の木曽の様子。
隣接する地に創建される神社の進捗状況。
同じく国軍駐屯地の規模と訓練具合。
それに丁寧に答えて行くと王妃様は満足の笑みを浮かべられた。
「支障なく進められているようね」
 実際にそうだけど。

 王妃様が話題を替えられた。
「ところでセリナ松平の件では世話になったわね」
 三河から脱出して来た松平伯爵家の娘の名が出た。
「たいした事はしていません。
お伺いします。
関東反乱の噂を聞きませんが、どうなっているのですか」
「近衛の密偵、国軍からは斥候を出して確認させているわ。
今はその報告を待っているのよ。
分かり次第、当然、何らかの手を打つわ」
 動いてはいた。
「それで大丈夫なのですか」
「大丈夫よ」
 王妃様が不敵な笑みを浮かべて説明してくれた。
この時期の北陸道は降雪と凍結で軍勢が通れ難い。
東海道は季節を問わず、木曽の大樹海で通れない。
二つの理由から春になるまで関東の反乱軍は動きようがない。
その前に西を片付ける、そう断言された。

 俺は前から気になっていた事を告げた。
「関東訛りの連中が集団で、スラムに住み着いているようですが、
そちらは耳にされていますか」
 王妃様も驚いたが、それ以上にカトリーヌ少佐が喰いついて来た。
「本当か、それは本当か、信用せぬ訳ではないが・・・」
「国都を発つ前にそう言う噂を聞きました。
その時はそれほど重大には思わなかったのですが、今となると、
本当であれば、繋がっているとしか思えません」
 カトリーヌ少佐が王妃様に進言した。
「流民かも知れませんが、調べてみる必要があります。
直ちに御下命を」
「そうよね。
ただの流民であれば良し、違っていたら大変。
奉行所から、それらしい報告が上がっているかどうか調べて、
上がっていなかったら奉行所の内偵も必要ね。
・・・。
近衛のみで調べて貰いたいけど、人手は足りてるの」
 カトリーヌ少佐の顔が曇った。
「万全とは申せません。
密偵方の熟練した者達は西と東に派遣しました。
残りは些か劣ります。
それでも何もせぬよりは・・・」
 俺は口出しした。
「宜しいですか」
 二人の目が俺に向けられた。
「何か手があるのかしら」王妃様。
「近衛はスラムの悪党に手蔓はないのですか」
 ハッとした表情のカトリーヌ少佐。
「そうか、スラムにはスラムの悪党ね。
心当たりがあります、王妃様。
私に任せて頂けますか」
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昨日今日明日あさって。(大乱)233

2021-09-05 14:35:48 | Weblog
 王宮から招待状が届けられた。
勿論、俺宛て。
王女・イヴ様からの私的な招待なので、扱いは非公式になる。
その招待状を持参したのはシェリル京極。
「確かに渡したわよ」
「日時が指定されてないけど」
「貴方が空いた時間で良いそうよ。
イヴ様はニャン様に優しいから」
 イヴ様は俺をニャンと呼ぶ。
ダンタルニャンだから、愛称はダンだと思うのだが・・・。
「未だに猫扱いか」
「嫌なの」
「まあ、シェリルに言っても仕方ないか。
・・・。
日時の指定がないのに、門衛が、はいそうですかと通してくれるかな」
「南門には通達してあるそうよ。
王妃様からだから問題ないと思うわ。
でも心配なら先触れを出すと良いわね」
 伴侶を失ったから元王妃様のベティ様。
それでも権力だけは絶大だ。
亡き国王の側近衆や評定衆の支持があるので、
今もって王妃様と呼ばれていた。

 俺は三日後、屋敷から内郭南門に先触れを出し、王宮を訪れた。
当然ながら非公式なので、馬車で門内には入れない。
従者・スチュワートを連れ、徒歩で門を潜った。
すると門衛の検査ではなく、案内人が待っていた。
 女性将校のカトリーヌ明石大尉・・・。
何時の間にか肩章が少佐になっていた。
その彼女が俺の方へ悠然と歩み寄って来た。
「お待ちしてたわ」
「有難うございます。
それより、昇進したんですね。
おめでとう御座います」
「ありがとう。
さあ、行くわよ」
 案内しようとする方向はイヴ様の住まう後宮ではなかった。
「どちらへ」
「イヴ様の前に王妃様に会って頂くわ」
「でもどうして」
「色々とね・・・」

 王妃様とあれば逆らえない。
素直に従った。
連れて行かれたのは王宮本館方向。
 道々、周囲を見回して、我が目を疑った。
ワイバーン襲来と反乱のせいで、王宮区画の多くの建物が壊された。
特に中心部の建物群が一番被害を受けた。
なのに、それが、修復や建て替えが思いのほか早く進んでいた。
真新しい正面玄関や側壁がそれを物語っていた。
この短期間で・・・、これが足利家の底力なのか。
 カトリーヌ少佐が俺に笑いかけた。
「ふっふっふ、驚いて貰えて嬉しいわ」
「そりゃあそうでしょう。
あれは地獄絵図でしたからね」
「確かに地獄絵図だったわね。
でも今はこれよ。
あれを見てご覧なさい」
 指し示された解体現場で大きな図体の奴が立ち働いていた。
高さは三メートルほど。
どう見てもコーレムだ。
「もしかしてレオン織田伯爵のゴーレム・・・」

 ゴーレムが十体近く見えた。
現場の中心に小男がいた。
あれは織田伯爵家の執事のサイラス羽柴。
俺の視線にカトリーヌが気付いた。
「サイラス殿をご存知か」
「一度見ました」
「それで覚えていると・・・、何か含むところでも・・・」
「いいえ、多少気にかかるだけです」
「それは分かります。
愛嬌はあるのですが、目は笑っていない・・・、ですよね。
油断ならぬ奴です。
まあ今回はいいでしょう。
・・・。
あの男が伯爵家のゴーレム使いや風や土魔法使いを指揮して、
瓦礫撤去から資材の搬入搬出をしているのです。
今や、この現場に欠かせない男です」

 普通に鑑定すると露見する恐れがあるので、
俺は足の裏から地に魔力を走らせた。
それに誰かが気付いた様子はない。
安心してサイラスのいる現場を漏れなく鑑定した。
 ゴーレム使いは、正しくは土魔法使いでもあった。
それが十八名。
十名がゴーレムを動かして作業していた。
残り八名と風魔法使い十二名が他の作業に従事していた。
この現場の魔法使いに興味はない。
ランクは低く、スキルにも目新しい物はない。
 俺はゴーレムに興味があった。
こんな面白そうな物はない。
幸い俺のスキルには土魔法だけでなく、錬金魔法もある。
これより強力な物が造れる筈だ。
学習の為に鑑定した。
 土のゴーレムが六体、岩のゴーレムが四体。
無造作な造りではない。
人体を理解した造りになっていて、関節部に特に力が入れられていた。
腰を据えて観察したいが、隣にカトリーヌがいた。
急いでコピーした。

 カトリーヌが修復なった王宮本館そのものに案内した。
「ここは近衛軍の魔法使い達が奮闘しました。
お陰で解体せずに済みました」
「魔力切れを起こして大変だったんじゃないですか」
「そうですが、歴史ある本館を解体する訳には行きません。
近衛軍が意地になって修復しました」
「かなりのポーションを消費しましたね」
「お金には替えられませんからね」
 カトリーヌの目が何故か笑っていた。
俺は突っ込んだ。
「本音は」
「解体するとなると、書類等の引っ越しが大変なんですよ。
そして、一時引っ越したは良いが、完成したらまた元の戻す。
それを誰がやるの。
大事な書類もあるから文官には任せられないでしょう。
そうなると近衛軍、そうでしょう」
 王宮本館の書類等になると、歴史があるだけに相当な分量になる。
日常業務の書類から、果ては歴史的な機密書類まで。
これを機に整理整頓を行おうとする意見も出る筈だ。
それを見越して近衛軍は修復に拘ったのだろう。

 カトリーヌの顔パスで中に入った。
一階奥へ案内された。
食堂とは、少し違う。
喫茶店か・・・。
それにしては大きい、広い。
中央に噴水があり、その上が吹き抜けになっていた。
「ここは・・・」
「ただの憩いの広場よ」
「噴水が必要なの」
「たぶん・・・。
ここで待っててね」
 噴水が盛大に水を吹き上げていた。
あっ、温水だ。
誰の発案なんだろう。
たぶん、それだけの権力者。
趣味が突き抜けていた。
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