金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

(注)文字サイズ変更が左下にあります。

昨日今日明日あさって。(どうしてこうなった)14

2024-02-25 13:09:39 | Weblog
 大役を勤め終えた気分だ。
欠伸をしていると、うちのメイド長のドリスが来た。
「そろそろお茶にしましょう」
 メイドのジューンが紅茶を運んで来た。
「目が覚めるように苦いのにしました」
 煮立てたかのように色が濃い。
砂糖も付いていない。
「まだ仕事をさせるつもりかい。
僕はこれでも子供なんだけど」
 ジューンが微笑み、ポケットから小さなポットを出して、
カップの隣に並べた。
ああこれは、砂糖だ。

 紅茶を飲みながら、これからの流れを考えた。
考えれば考えるほど難しい事ばかり。
さっさと手を引きたい。
だけど事情が許さない。
旗頭というか、責任を負う者は不可欠だ。
その場合、適任者は俺しかいない。
爵位は伯爵だが、一部には王妃様に贔屓されてるとの噂がある。
それを活かすしかない。
 俺は本営の中で働く者達を見回した。
王妃様に近い侍従や秘書、女官、彼等彼女等が中心になっているが、
それでも数が多いのは下級の文武官だ。
文句を言わず事態を打開すべく奔走していて頼もしい限り。
俺は、同じテーブルを囲む中核メンバーに声を掛けた。
「聞いて欲しい」

 中核メンバーだけでなく、他のテーブルの面々も手を止めた。
まあ、気にはなるだろうな。
子供が指示する訳だから。
俺は言葉に力を込めた。
「手伝ってくれた全員の名簿が欲しい。
爵位、職責、階級、身分は一切問わない。
分け隔てなく全員だ。
手分けして調べてくれないか。
ただし、本日手伝った人間のみだ。
明日からの分は必要ない」
 中核メンバーは顔を見合わせ、互いに頷き合い、声にした。
「「「はい、承知しました」」」
 理解が早い。
他のテーブルは半々だな。
それも無理からぬこと。

 治療を担当していた者が報告に来た。
「ポール細川子爵を発見しました。
重傷でしたが治癒魔法で回復させました。
ただ、血を大量に失っていましたので、暫くは動かせません」
 良かった、生きていた。
「どのくらいで歩けるように」
「一ㇳ月の安静は必要ですね」
「後遺症は」
「それは様子見です」
 贅沢は言えない。
生きていた事を素直に喜ぼう。

 俺の側のドリスとジューンも、子爵の事を喜んでいた。
互いに手を取り、今にも飛び上がらんばかり。
それはそうだろう。
うちの者達の多くはポール細川子爵家に雇用されていた者や、
その血縁、ないしは紹介された者なのだ。
嬉しくない訳がない。
 テーブルを囲む中核メンバーも喜んでいた。
こちらは同僚や顔馴染みなので、発見された事と、治癒が施された事に、
安堵の笑みを浮かべていた。

 俺はもう一人を心配した。
報告した者に尋ねた。
「子爵の執事は」
 ブライアン明智騎士爵だ。
うちのダンカンの父で、彼は常に子爵の身辺に侍っていた。
今回もそうだろう。
子爵が秘書執務室に居た場合は、
同階の従者控室で待機していたはず。
確実に今回の騒ぎに巻き込まれていただろう、とは推測できる。
「ああ、たぶんあの方ですね。
子爵の側で倒れていた方。
盾や短剣の様子から、随分と奮戦されていたようです。
でも大丈夫ですよ。
命に別条はありません。
魔力が切れても執拗に抵抗されていたのでしょう。
自身が倒れるまで。
暫くは昏睡状態が続きます。
日数は約束できませんが、何れ目覚めます」
 何れか、約束できないか。
「後遺症は」
「あの方も様子見です」
 彼は主人を守り切ったのだ。
そちらを喜ぼう。
そういう考えは俺だけではない。
他の者達も同様のようで、顔色からそうと読み取れた。

 複雑な空気の中に侍女が飛び込んで来た。
「伯爵様」
 その声で予想が付いた。
「はい、ここです」
「そろそろ暗くなりますが、あのう・・・」
 最後まで言わせない。
「こちらの方もそろそろ夕食になります。
僕もそちらに参ります」
 軍幕の一つで炊事が行われているせいか、
先程より良い匂いが漂っていた。
これでは仕事どころではない。
俺は皆に聞こえるように言った。
「僕はここまでにします。
後は皆さんにお任せします。
どうか宜しくお願いします」
 それはそうだろう。
俺は子供、育ち盛り。
食事と休憩は必須事項。
事前に中核メンバーには伝えて置いたので、
ここで消えても大丈夫だろう。

 侍女の案内で最奥の軍幕へ向かった。
「イヴ様のご様子は」
「辛抱してらっしゃいます」
「齢の割りに、あの方は気が回りますからね」
「ええ、それだけにお可哀想で」
「王妃様のことは」
「何も仰いません」

 周囲を女性騎士が警戒に当たっていた。
その一人が俺に気付くと軍幕へ通してくれた。
中は明るかった。
夜に備えて魔道具の灯りを増やしたみたいだ。
イヴ様は真ん中のテーブルに居られた。
俺を目にするや、椅子から飛び降り、駆け寄って来られた。
「ニャ~ン」
 ああ、目が潤んでいるではないか。
顔馴染みの者達に世話されてるとはいえ、
我慢の限界が近いのかも知れない。
俺は何時もの笑顔を貼り付け、両膝を付いた。
そこへイヴ様が遠慮会釈のないダイビング。
勢いがあった。
股間に激痛。
爪先が綺麗に入ったようだ。
「うっ」
 激痛、なのだが、顔には出さない。
誰にも気付かれぬ様よう、足裏から素早く【氷魔法】を起動した。
それでもって局部を急速に冷やしつ、治癒。
ヒエヒエ~。
気付かぬイヴ様が俺の顔を覗かれた。
「ニャ~ン、つかれてるみたいね」
「ええ、でも、ちょっとだけですよ。
大勢の大人に囲まれていましたからね」
「おしごとだったのね、えらいえらい」
 小さな手で俺の頭を撫で回された。
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昨日今日明日あさって。(どうしてこうなった)13

2024-02-18 10:00:00 | Weblog
「ここで何をしておる」
 荒げた物言いで、恰幅の良い男が本営に入って来た。
供回りは六名、それらは近衛の制服。
恰幅の良い男は貴族の装い。
男の態度から推し量ると近衛の文官、それも高位の。
これは、・・・誰っ。
俺を手伝ってくれている侍従からの耳打ち。
「近衛の長官です」
 ほほう。
近衛の最高位にあるのは二名。
文官の頂点である長官。
武官の頂点である元帥。
その二頭体制で近衛軍を動かしていた。
国軍、奉行所共に同様の体制。
これは武力を持つ組織の共通の、制御する為の仕組みとも言えた。

 俺は長官を手招きした。
「こちらへどうぞ、僕が説明します。
・・・。
僕はダンタルニャン佐藤伯爵です。
今回、王妃様から口頭で、イヴ様の警護を命ぜられました。
本来ならイヴ様の警護だけで、この様な事には関わりません。
ところが、管領がイヴ様を取り押さえようとした。
これは異常事態、いえ、非常事態とも言えます。
にも関わらず、近衛も国軍も動きがない。
おかしいですよね。
そこで僕がお節介を焼いている訳です」

 俺は手で椅子を指し示したのだが、長官は鼻息が荒い。
着席を拒否し、上から俺を見下ろした。
「子供がふざけるな、直ちにここを解散しろ。
王宮を含めた内郭は近衛の管轄だ、我等が受け持つ」
 長官は言い終えると僕を睨み付けた。
僕は相手には合わせない。
優しい物言いを心掛けた。
「管領の暴走を傍観していた貴方方には任せられません。
信用がならないのです。
早い話、管領に協力したのではないか、そう思っています。
理解して頂けたら直ちにお引き取りを。
・・・。
王妃様が帰られたら呼び出しがあるでしょう。
それまでは謹慎していて頂きたいのですが」

 長官の供回りの者達の表情が変わった。
自覚しているようだ。
俺や長官から視線を逸らした。
しかし、長官は違った。
テーブルに両手をつき、俺を威嚇した。
「貴様、何様のつもりだ」
「はあ、俺様ですが、何か」
 長官が真っ赤になってテーブルを叩いた。
バンッ。
「ふざけるな」と。
 ついでに額の血管が破れれば良かったのに。
惜しい。

 遅れて、俺を手伝っている者達の多くが咳込む。
肩が激しく揺れ動き、書き物の手が止まった。
笑いを堪えているとしか思えない。
何が・・・、どこが受けたのだろう。
 それはそれとして、俺は長官への対処法を考えた。
俺を手伝っている武官達は近衛に所属する者達。
彼等には荷が重いだろう。
となると、・・・。

 俺はうちの護衛に命じた。
「この男を捕えろ。
抵抗すれば怪我させても構わん。
間違えて殺しても、それはそれで仕方ない。
この程度ならお替わりは幾人も居る」
「「「はい」」」
 良い返事だ。
躊躇いがない。
俺の背後に控えていた三名が一斉に動いた。 

 うちの執事長、ダンカンが薦めた屋敷詰めの騎士三名。
ユアン、ジュード、オーランド。
普段の訓練の様子は見知っていたが、実戦でも中々のもの。
隙のない立ち回りを見せた。
指示役はユアン。
「ジュードは供回りを牽制。
オーランドは長官を捕えろ。
俺は控えに回る」
 ジュードが腰の長剣を抜いて、長官の供回りの者達に剣先を向けた。
彼等を剣先と視線で牽制した。
警告も忘れない。
「邪魔すれば斬る」

 オーランドが素手で長官に立ち向かった。
長官は文官ではあるが、武芸は貴族としての嗜み。
平民に比べれば、ある程度は動けた。
腰の長剣を抜こうと、手を伸ばした。
 それを見たオーランドだが、恐れる様子は微塵もない。
懐に飛び込んでショルダーアタック。
勢いのままに頭突き。
長剣を抜く暇を与えない。
面食らう長官の顎に、腰を綺麗に回転させて肘打ち。
極まった。
長官はその場に崩れ落ちた。
気絶のようだが、オーランドは容赦がない。
身体に蹴りを入れて転がし、俯せの頭を踏み付けた。

 控えのユアンは、長官とその供回りの者達、その双方を視界に入れ、
長剣を抜いて遊撃として備えた。
が、機会は巡って来なかった。
残念感一杯で、オーランドに指示した。
「身柄を確保しろ」

 俺は三名に命じた。
「ここには生憎、貴族用の牢がない。
代用として表の庭木をそれとする。
表の庭木に縛り付けろ。
出来るだけ太い庭木だ。
失礼のない様にな」
 口からすらすら出た。
意味が分からない。
たぶん、疲れもあるのだろう。
俺は俺が怖い。
額に手を当てた。
そんな俺を見兼ねたのか、
控えていた執事のスチュアートに言われた。
「少々お休みになっては」
 周りの者達の俺に注ぐ目色も似た様なもの。
残念だが、俺は頑張り過ぎたようだ。
でも休む前に、決着を付けよう。

 俺は気を取り直した。
表に運び出される長官を余所眼に、長官の供回りの者達を見回した。
彼等は大人しいもの。
職分で長官に従っているだけなのだろう。
そんな彼等に尋ねた。
「君達のうちで最も上位の者は」
 互いに顔を見合わせた。
そして、結果として一人に視線が集中した。
武官上がりの様な厳つい顔と体躯。
その者が口にした。
「階級は少将です。
長官に執務室の取り纏めを命ぜられています」
「それでは君を臨時で、長官代理に任命する。
これより近衛全体を取り纏めて欲しい」
 周りの大人達は理解が早い。
指示なしでもテキパキと仕事をした。
任命書を発行し、彼の補佐として、侍従の一人を付けた。
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昨日今日明日あさって。(どうしてこうなった)12

2024-02-11 09:35:41 | Weblog
 小隊は五十名編成。
ところが庭園を包囲しているのは、それよりも遥かに多い。
中尉に尋ねると、ボルビンが近衛軍から五個小隊を抽出したという。
おそらく不服従を懸念し、連携せぬように図ったのだろう。
失敗したので徒労に終わった訳だが、俺様的には丁度いい数だ。
 俺は全小隊長を呼び寄せ、イヴ様への忠誠を確認した。
ボルビンが消えた今、敢えて反抗する者はいない。
というか、互いに顔を見合わせ、雰囲気に迎合した。
そう、忖度。
全員が忠誠を誓った。

 俺は中尉五名に大まかに指示した。
一個小隊をイヴ様の警護の為にここへ残し、
残りの四個小隊にはそれぞれ仕事を割り振った。
王宮本館と別館の制圧、拘束された者達の解放、死傷者の搬出と治療、
そして関係各所への告知と情報交換。
やることが山盛り。
非常事態なので彼等に自由裁量権を与えた。
人手が足りないので、それを補う方策もだ。
「各部署に必要な人材提供を要請しろ。
確とした言がない部署は、命令系統を素っ飛ばして、
個々人を引き抜け。
ボルビンの手法を真似ても構わない」

 素人の俺が細かく口出しするより、
大まかな指示の方が彼等が快く働いてくれる、そう信じた。
武器は武器屋と言う。
パンはパン屋とも。
たぶん、大丈夫。
責任は俺が取る、だからしっかり働いてくれ。
念押しした。
「責任の所在を明確にする。
全て僕が負う。
その上で大事な点を説明する。
ここでの今までの遣り取りもだけど、これからの全てを記録して欲しい。
交渉の際は必ず書記を置いて、自分達の言動と、
相手方の言動を余すところなく文字化すること。
その際の対応は二つ。
不服従は放置。
抵抗する意志を示した場合は是非もなし。
その場の判断で無力化すること。
非常時なので殺しても差し支え無し。
以上。
これは君達の立場を守る為だ、そこを理解して貰えたら嬉しいかな」

 まず別館を制圧した。
敵は同じ近衛であった為に説得に応じたそうで、
流血の事態は避けられた。
エリスの率いていた男性騎士二十名が解放され、
複雑そうな表情でこちらに合流した。
エリスが彼等を慰めた。
「気にするな。
同僚の部隊に拘束されるとは誰も思わない」
 その通りなのだ。
同僚の部隊まで疑っていたら、きりがない。
俺もエリスの言葉に同意した。
「不可抗力だ、忘れろ。
さあ、気を取り直してイヴ様警護に専念してくれ」

 うちの者達も解放された。
執事のスチュアート、メイド長のドリス、メイドのジューン。
そして護衛のユアン、ジュード、オーランドの三名。
こちらも反省しきり。
スチュアート達が揃って謝罪した。
「「「申し訳ございません」」」
「とにかく全員が無事で良かった。
無駄死を避けられて嬉しいよ」

 庭園に残した小隊が、目の前で本営設置に奔走していた。
自由裁量権を与えたのが効いたらしい。
思った以上の働きで、こちらの期待に応えてくれた。
庭園の真ん中に大型軍幕を五張り設置し、
新たに招集した近衛の土魔法使い達で、
土壁で周囲を囲む徹底した仕事振り。
 あっれれ、・・・、見守っているだけで完成した。
ここは戦場ではないんだけど、それは言わぬが花か。
土壁の入り口は一つだけ。
その入り口の大型軍幕が本営。
最奥の軍幕がイヴ様専用。
エリス中尉が俺に耳打ちした。
「みんな張り切ってますよ。
自由裁量権が与えられていますからね。
・・・。
普段はただのマリオネット。
上から命令されて動くだけ。
ところが伯爵様は違う。
自分が軍事の素人だと自覚している」
「褒めてるのかな」
「そうですよ」
「丸投げしてるだけなんだけどね」
 エリスが笑う。
「でも責任は負って下さるのでしょう」

 続けてもう一つの小隊が王宮本館を制圧した。
ボルビンに従っていた近衛部隊を説得し、
無血で支配下に置いたと報告が来た。
それを受けてもう一つの隊が拘束された者達を解放し、
死傷者の搬送と治療を開始するとも。
 五番目の小隊も大忙しだ。
限られた五十名という人員で、関係各所への告知と情報交換。
こちらの小隊は中尉一名、少尉五名、他は兵卒のみ。
対して相手方は、部局の責任者ともなると佐官か上級貴族。
彼等との面接の際に威力を発揮したのが、書記の存在。
その理由を説明すると、態度を一変させて大方が協力してくれたと。

 近くに人の耳がないのを確認したエリスが俺に問う。
「管領殿を始めとして幾人もが急に姿を消したけど、あれは」
「相手方の魔法じゃないかな。
たぶん、高度な魔法の遁走術。
例えば韋駄天とか、疾風、神走。
だから消えたように見えるんだ。
興味があるなら管領殿に直接尋ねた方が良いよ。
僕では魔法方面の力にはなれない。
商売方面なら力になれるんだけどね」
 エリスは疑問の眼差し。
それでも渋々感たっぷりに頷いた。
「ふ~ん、そういう事にして置くわ」
 全員が疑問に思っているだろう。
俺に。
それでも面と向かって尋ねる奴はいない。
例外は気安い間柄のエリスくらい。
ああ、爵位は助けにはなる、ほんとうに。

 王宮で拘束されていた者達のうち、数名が俺に面会を求めた。
亡くなった国王の侍従や秘書、女官として勤めていた者達だ。
侍従が二名、秘書が四名、女官三名。
断る理由はない。
本営に招いた。
彼等彼女等は自分達の事ではなく、王妃様やイヴ様を心配していた。
「つい先ほど、山陰道山陽道の双方へ使者を派遣したばかり。
王妃様からのご返答を遅くなると思う。
イヴ様はご無事です。
この本営の後方の軍幕にて休まれています。
会われたいのであれば、エリス中尉にお願いして下さい。
彼女が護衛騎士の筆頭です」
 彼等彼女等が納得したのを見て、俺は提案した。
「皆さん、拘束されてお疲れとは思いますが、
宜しければ僕を助けてくれませんか。
・・・。
非常事態なので取り敢えずは僕が仕切っています。
ところがご覧のように周りは近衛の武官、軍事の専門家ばかり。
しかも数が少ない。
そこで皆さま方にお願いしたい。
本営に加わり、事態収拾を手伝って頂きたい」
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昨日今日明日あさって。(どうしてこうなった)11

2024-02-04 09:05:59 | Weblog
 俺は鑑定と探知を重ね掛けした。
周辺を調べた。
見つけた、見つけた。
こっそりと庭園に侵入した者達がいた。
ボルビン佐々木侯爵一行は陽動で、庭師集団が本命らしい。
庭園の木陰や岩陰を利用し、こちらに迫っていた。
三十五名。
戦闘に適したスキル持ちばかり。
 となると・・・。
前方のボルビン佐々木侯爵一行に治癒魔法使いが三名いたはず。
察するに、イヴ様が怪我する事態を想定してのこと。
用意周到だが、ふざけるなと叫びたい。
幼児に怪我させる、これのどこに、正道があるんだ。

「下がるよ」
 俺はエリスを促し、後方へ下がった。
「どうしたの」
「話しは後で」
 ボルビンと庭師は、そんな俺達を気の毒そうに見送った。
もう手遅れだ、とでも言いたそう目色。
何とも余裕綽々ではないか。

 円陣に戻り、俺は真っ先に光魔法を起動した。
周囲を半円形のシールドで覆った。
それに誰も気付かない。
透明のシールドなので、念の為、エリスを含めた全員に説明した。
「シールドで周囲を覆った。
全ての攻撃を弾き返すから安心して」
 幾人かがシールドに触れて確認しようとした。
それより先に襲撃された。
十二本の矢と攻撃魔法五つが飛来。
狙いが定められていた。
それらをシールドが弾き返して無効化した。
遅れて、槍を構えた十八名が突進して来た。
それも簡単に無効化。
弾き返される攻撃の音のみが虚しく響いた。

 幸い、イヴ様の周りを侍女やメイドが囲んでいて視線を遮っていた。
グッジョブ。
幼児に見せていい物ではない。
エリスが俺の方を見た。
「無詠唱でこれは凄いですわね」
 俺は忙しいので答えない。
シールドを維持しながら、足裏から地面に干渉した。
おお良い感じ。
シールドの外に、攻撃魔法の放出口を確保。
時空魔法を起動した。
庭師三十五名をロックオン。
イメージは、時空の彼方へ飛んで行け。
それもこれもイヴ様に血を見せない為。
数は多いが、そう難しい事ではない。
さて、GoGoGo。

 当人の俺も驚いた。
その威力に。
行き成り全員が消えたのだ。
そう、俺達を包囲攻撃していた三十五名が突然、掻き消えたのだ。
本当に掻き消えた、としか表現しようがない。
彼等に祝福を、アーメン、ナンマイダー。
 脳内モニターに久々の文字列。
「ddフライを獲得しました」
 意味が分からない。
けれど、時空の彼方へ飛ばした攻撃魔法の名称であるのは確か。
 人が消えただけではない。
辺りを静寂が支配した。
見た者達全員が呆けていた。

 ボルビンと庭師は危機回避能力が高いらしい。
呆けから早々に立ち直り、一行の方へ駆け戻って行く。
俺は二人だけでなく、一行も含めた全員をロックオンした。
おおっ、近衛軍や国軍の高官もいた。
 ボルビンが首謀者で、他の連中は共犯者、その認識で間違いなし。
さて・・・、どうする。
彼等を生かして捕えれば、必ずや同じ派閥の連中に擁護され、
取り調べの後、早期釈放されるだろう。
それでは問題解決にならない。
ただの先延ばし。
彼等が機を見て再起を謀るのは確か。
そうか・・・、よし。
だったら俺がここで摘み取る。

 時空魔法を再起動した。
ボルビン一行をロックオン。
血を流さない環境に優しい攻撃魔法。
ddフライ、やります。
 あっ、人は別にして、大事な物は残して置こう。
敵方に奪われたイヴ様のイライザとチョンボのフィギア。
自分で言うのも何だが、攻撃の巻き添えにしたくない。
塵と同じように分別して回収しよう。
イメージは、人は塵に出して、フィギアは回収。
ddフライ、GoGoGo。

 ボルビンの一行が掻き消えた。
静寂が続行された。
暫くして、立ち直ったエリスに寝起きのような声で尋ねられた。
「消えたわよね」
「ええ、そのようですね」
「何かしたの」
「えっ、何かって、誰が」
 俺は恍けた。
エリスは頭を振った。
「そう、そうよね」
 俺は彼等が消えた跡地を見た。
ポツンと残されたフィギア。
それが成功を物語っていた。

 脳内モニターに文字列。
「時空スキルのレベルが上がりました」
 俺は、時空魔法☆☆☆☆、を確認すると、光魔法のシールドを解いた。
皆に声を掛けた。
「王宮に向かうよ。
その前にここを囲んでる近衛の掌握が先だけどね」 
 途中でフィギアを拾い上げた。
イヴ様にそれを見られた。
ポテポテと駆けて来られた。
「わたしの」
 拾い上げてイヴ様に手渡した。
「どうぞ」
「ありがとう、ニャ~ン」
 イヴ様がフィギアを両手で抱え持ち、俺の隣に並ばれた。
この図は最強だ。
フィギアが盾、俺が矛。
どこにも、ほころびはなし。

 俺達は庭園の出入り口で立ち止まった。
見遣ると、包囲していた近衛部隊が動揺していた。
肝心のボルビン一行が消えたので、俺達への対処に困っている様子。
俺は誰にともなく声を掛けた。
「イヴ様がいらっしゃる。
指揮官は直ちに前に来るように」
 顔色の悪いのが俺達の前に駆けて来た。
エリスと同じ中尉の階級章。
その者が、あたふたしながら説明に務めた。
「かっ、管領のボルビン様より、この度わが小隊が招集され、
今回の、このような任務を命ぜられました。
イヴ様を保護するように、そう命ぜられましたので、
このような仕儀と相成っております」
 自己保身に走っていた。
けれど軍は階級社会。
言い分としては正しい。
俺は中尉に尋ねた。
「その管領殿がいなくなった。
さて、どうする」
 中尉は困り顔。
するとエリスが俺に並んで言う。
「管領はイヴ様の血を流しても確保するつもりだったのよ。
貴方もそのつもりだったの」
「いいえ、血を流すとは聞いておりません」
「だったら、イヴ様に従いなさい」
「はい、従います。
何なりと御下命を」
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