金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

(注)文字サイズ変更が左下にあります。

昨日今日明日あさって。(アリス)92

2019-01-27 07:58:02 | Weblog
 脳内モニターのアラームが鳴った。
警報ではなくて起床のアラームが。
モニター画像は水平線の向こうから昇る朝日。
手前の砂浜の様子から、察するに九十九里か。
ウェブで見つけて収集した逸品だ。
 このところ眠い。眠い。
睡眠不足が半端ない。
我慢して上半身を起こした。
 灯りが点いてないので室内は暗い。
問題はない。
夜目が利くからだ。
眠い目で部屋の片隅を見た。
天井から垂れ下がる大きな繭。
これは脳筋妖精アリスが持ち運びするベッド兼家だ。
彼女は必要な物は全て、繭も含めて別空間の収納庫に入れ、
持ち運んでいた。
妖精はキッチンもトイレも不要なのでこれはこれで・・・、
充分なのかも知れないが、果たして文化的なのだろうか・・・。
 睡眠不足の一端はアリスにあった。
彼女が勝手に外出するのは構わない。
変身スキルを活用すれば余計な騒ぎは引き起こさない。
唯一問題なのは夜中に帰宅して俺を叩き起こすことだ。
無理矢理起こして、何のかのと喋る。
真夜中でも喋り続ける。
眠い、と告げても完無視。
念話なので耳は塞げない。
大都会に驚いているだけだと思うので、
暫くは俺が我慢するしかないのだろう。
でも眠い。
 掛け布団を除けてベッドから下りた。
調度品が少ないので何かに躓く心配はない。
窓に歩み寄った。
カーテンを開けた。
窓ガラスは前世のような洗練された物ではなく、
不純物満載の分厚いガラス。
救いは丈夫なので割れ難いこと。
アリスが出入りする際、風の魔法で強引に開け閉めしても壊れない。
 窓を開けた。
心地好い風が俺の脇を通り過ぎた。
向こうの東の空が燃えるように明るい。

 着替え終えると階段を駆け下りて寮から飛び出した。
朝のトレーニング。
最初はゆっくり散歩。
歩きながら体操らしき動きで身体を慣らして行く。
 服装は子供らしい短パンに丸首の半袖ティーシャツ。靴に靴下。
街で買い求めた物だ。
高かったが値段相応に肌触りが良い。
 ちょっと暖まったところで足を止めてストレッチ。
念入りに準備運動。
さらに暖まったので本格的な走り込みを開始した。
学校の敷地は緑地が多く、起伏にも富んでいるので飽きない。
池を迂回し、こんもりした芝地を駆け上がり、林を抜けた。
途中で同じ様に走り込みしている生徒達に出会うと、
片手を上げて挨拶。
仲間同士集まって武芸の稽古を積んでいる者達を見掛けると、
邪魔にならぬように迂回。
 昇る朝日を背景に鳥の声と生徒達の息吹が辺りを支配していた。
今日も気分の良い朝だ。
そんな俺の方に近付いて来る者がいた。
大柄な奴だ。
片手に二本の長い棒を無造作に掴んでいた。
棒術授業の際に用いられている生徒用の棒、と見受けた。
不審な歩み。
明らかに俺を目指しているような・・・、まさかね。
話したことのない人だし・・・。
 顔は見知っていた。
上級生の有名人。
シェリル京極。
評定衆に席を持つ京極侯爵家の長女だ。
縦にも横にも大きな女子で、腕っ節が強く、武芸好きときた。
気に食わぬ男子は上級生でも殴り飛ばす、類のとかくの噂がある。
その所為か、陰では、「鬼シェリル」呼ばわりが定着していた。
 そんなシェリルが俺の前で足を止めた。
少し上からジッと見下ろしてくる。
まん丸な顔、丸く肥えた胴回り、それを下から支える大根足。
年齢の割に豊かな胸なんだが、バストと表現していいのか、
分厚い大胸筋と表現していいのか・・・、本人には聞けない、よね。
悩む。
 シェリルに丁寧な挨拶をされた。
「おはよう、ダンタルニャン君。
私は三年のシェリル京極。よろしくね」軽く頭まで下げられた。
 鬼の欠片もない挨拶を俺は受け止め兼ねた。
ただ無難に返した。
「おはようございます」
 シェリルが俺の態度に微笑み、丸い顔で言う。
「大丈夫よ。
取って食べたりしないから」
「ごめんなさい。
話し掛けられるとは思わなかったので驚いただけです」
 シェリルが俺に棒の一本を差し出した。
「取りなさい」
 俺が言われた通り受け取ると、彼女は身軽な動作で後退し、
自分の手元に残された棒を掴んで構えた。
隙がない。
明らかに棒術を嗜んでいる者の構え。
それでも間合いが充分あるので脅威ではない。
 俺は狼狽して尋ねた。
「これは・・・」
「朝稽古よ。
貴男の毎朝の走り込みは見させて貰っているわ。
そろそろ身体も学校に慣れてきたでしょう。
さあ、相手なさい」
 一方的な・・・。
大貴族のお姫さまらしい我が儘なのか、それとも横暴なのか・・・。
理解に苦しむ。
「どうして僕が・・・」
「貴男が白色発光合格者だからよ」
 幼年学校の受験手続きの際、素質を調べる審査の魔水晶が光った。
お陰でその場で合格が確定した。
「あれは素質を見る物で、実力を図る物じゃありませんよ」
「分かってるわ。
でも貴男の実家は佐藤本家、始祖はジョナサン佐藤、違うかしら」
「そうですけど」
「なら問題ないわ。
弓馬の神と呼ばれた武人の血筋なんだから歓迎するわ」
 言い終えると表情を変えた。
「行くわよ」告げるなり、真摯な顔で棒を振り上げ、
間合いを一足跳びに踏み込んで来た。
早い。
 俺は躱すので精一杯。
だというのに彼女は手加減しない。
二の手、三の手を放って来た。
俺は右に躱し、左に躱し、「意味が分かりません」と抗議した。
 するとシェリルが動きを止めた。
「意味なんてないわ。
強いか弱いか、それだけ」
 再び、一足跳びに踏み込んで来た。
果敢というか、無謀というか・・・。
その表情の輝きは、古い表現で、漢らしい。
 俺は諦めない。
「どうして大貴族のお姫さまが寮住まいなんですか」
「私の勝手でしょう」勢い良く棒を振り下ろした。




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昨日今日明日あさって。(アリス)91

2019-01-20 07:38:54 | Weblog
 ブルーノは家系図を読み込む。
祖母のジェナが小島子爵家でクララとコーリーの姉妹を生み、
そのクララは木村子爵家で当主と妹を、
コーリーは神崎子爵家で当主と弟を生んだ。
木村家の当主は断頭台に消えた。
神崎家の当主も同様に消える予定でいた。
残る問題は木村家の妹と神崎の弟、二人の存在が頭を悩ませた。
 するとベティの懇願。
「ねえ、お願いがあるの。
妹や弟だけでなく、ジェナも含めてなんだけど、
その三人の追跡調査は妾に任せてほしいの」
「どうした・・・、何かあるのか」
「鑑定スキル持ちとしての興味ですわ。
同族に固有のスキルが遺伝することは知ってらっしゃるでしょう。
例えば水の魔法。
親が高レベルですと、子供や孫達の多くにそれがスキルとして現れる。
事実、妾の母親も鑑定スキル持ちでした。
高ランクでスキルレベルは☆三つ。
スキルと血、興味をそそられます。
スキルは別にして、
連綿と繋がる血が如何なる影響を子孫にもたらすのか・・・。
スキルに昇華されないのは何故か・・・。
ユニークスキルとしても現れませんものね」
「問題はない。
ポールに任せるつもりでいたが、そちに頼もうか。
事情が事情だから内密に進めてくれ。
スキルとか血とか、貴族が好む話の一つだ。
我は好かんが、貴族なら暇にあかせて如何様にも転ばせる」
「承知しています。
宮廷の人間ではなく、忍者を用いる予定でいますの」
「ほう、そちは忍者に伝手があったのか」
「妾付きの女武者の一人が伝手を持っています。
彼女を窓口にして口の固い腕利きを集めますわ」

 ブルーノはベティとポールがもたらした情報を元に、
判決文を書き上げた。
それをボルビン佐々木侯爵に渡した。
「下書きだ。遠慮はいらん。問題箇所があれば言ってくれ」
 ボルビンは片手に判決文を持ち、顎に手を当てた恰好で言う。
「苦渋の決断をなさいましたな」
「それが我の仕事だ」
 貴族に相応しい最期にしてやろう、と思っていた。
毒を下げ渡し、領地は半分没収に留める。
残った領地は爵位降格の上で実弟に継がせる。
子爵から男爵に。
没収した領地と同等の金額を被害者に損害賠償金として与える
そのつもりでいたが、取り止めた。
実弟に継がせる気が失せた。
少しでも疑問のある血は、禍根は残せない。
 ベティとポールも下書きを読んだ。
「早いですわね」ベティが驚いた。
 処刑日は明早朝にした。
場所は二つある刑場の一つ、西門刑場。
犯罪人として断頭台に送り、首を刑場に晒す。
「何かと口出す輩が増えてきたから、その前に処刑することにした」
「もしかして、あの方々ですわね」
「この国都は元より、山城一帯は国王の直轄地であるというのに、
何かと五月蠅い」
 評定衆のことだ。
彼等は国政全般への助言が役目で、
国王直轄地への口出しは越権行為として禁止されていた。
それでも彼等は何かにつけ、直轄地に食い込もうとする姿勢を見せた。
中には国王の専権事項にまで手を伸ばそうとする者も。
一線を越えようとして口先介入を試しみる者が多く、手を焼いた。
 それらを間近で見聞きしている三人が気の毒そうな表情をした。
陰にいる侍従は思い当たりが有り過ぎるのか、
拳を握り締めて下を向いた。
 ボルビンが思い出したように言う。
「一罰百戒、と言う言葉があります。
ここは一つ、処刑を遅らせてみようではありませんか」
 ベティが首を傾げた。
「評定衆が口を出して来るのではなくて。
神崎子爵の領地がある但馬地方は、
もしかして毛利侯爵の派閥ではなかったかしら。
寄親の伯爵がそうだとすると、
面子を潰された、とか言って毛利侯爵を担ぎ出すかも知れないわ」
 ボルビンは悪い笑顔。
「そこを待ってから処刑して、国王専権を思い知らせるのですよ」
「喧嘩を売るつもりなの」
「まさか、常識を教えてやるのですよ。
毛利が相手なら三好が味方するでしょう。
簡単に一蹴できます」
 ブルーノは引き出しから新しい用紙を取り出した。
「処刑日付を遅らせよう。
出来るだけ見物人が集まるようにしよう」

 ブルーノはアルバート中川中佐を呼び出した。
今回の取り調べを任せている近衛士官だ。
制帽を脱いで入室し、無表情で執務机の前に立つと、
制帽を持つ手を胸元に置き、背中を真っ直ぐ伸ばして言う。
「中川中佐、お召しにより参りました」
「待たせたな」
「いえ、職務です」
 ブルーノは判決文を手渡し、よく読んで間違いを指摘せよ、と命じた。
アルバートは制帽を脇の下に挟んで、両手で判決文を大きく広げた。
ゆっくり視線が動いた。
早く読もうという気はないらしい。
人ひとりの命がかかっているだけではない。
多くの家臣や領民の生活もかかっている。
それが分かっているので判決文を丁寧に精査している様子。
もしかすると、行間の意味まで汲み取っているのではなかろうか。
 アルバートが顔を上げた。
判決文を下ろして言う。
「遺漏もありません。
要約で確認いたします。
・・・。
六日後に西門刑場。
断頭台送り。
首晒し期間は十日。
遺体は、希望すれば遺族に送り返す。
国都の屋敷、領地は没収。
家名、爵位は取り上げの上、平民に落とす。
遺族や家臣は領地から三ヶ月の間に退去のこと。
移住先は国都以外ならどこでも許可する。
没収した屋敷は国軍の預かりとする。
同じく領地も現地の国軍の預かりとする。
被害者への賠償金は国王が差配する。
・・・。
以上ですね。よろしいでしょうか」
「よろしい。
それを近衛軍司令官に届けてくれ。
処刑人の選定から、諸々一切を司令官に一任する。
国軍との繋ぎも任せる」
「了解いたしました」
「あっ、そうだ、被害者の賠償金は我が差配する、となっているが、
もしかすると状況にもよるが、領地を与えるかも知れない。
その際は神崎子爵から没収した領地ではなく、
関係のない他の土地を振り分ける。
そこは承知して置いてくれ」
「余計な口出しになるかも知れませんが、
被害者のエリオス佐藤子爵様は宮廷貴族です。
領地運営の経験がない、と思うのですが」
 貴族と言っても様々な形態があった。
その一つが宮廷貴族。
領地を持たぬがゆえに文武官として国王の膝下、直に仕え、
引き換えに年俸を得る者達のことをそう表現した。
「そうか、失念していた。よくよく考慮しよう」
「了解いたしました。
他に何かございませんか」
「牢の神崎子爵には最後まで快適な暮らしを提供せよ。
面会希望も可能な限り許すように」




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昨日今日明日あさって。(アリス)90

2019-01-13 08:47:25 | Weblog
 ほどなくして二人が現れた。
王妃ベティがポール細川子爵を従える恰好で現れた。
この二人、顔形が似ているので親子に見えなくもない。
凛とした娘、それを嬉しそうに後ろから見守る父親。
親密な空気感に纏わているので、たいていの者は親子と勘違いした。
その勘違い、的を大きく外してはいない。
親子ではないが、遠縁の親戚なのだ。
二人は細川侯爵家一門の枝葉に位置した。
痩せ細った侯爵家とは対照的に、
二人は太い枝葉として日を浴びていた。
 ブルーノがポールに尋ねた。
「戻ったのか」
 この二月初頭に、問題が発生した北方山地に送り出していた。
遥か北にある北域諸国との境にある大山岳地帯。
九州北部から北海道北部にかけて山々が連なり、
その懐は奥深く、自然の要害となっていた。
だが、けっして人が足を踏み入れられぬ山地ではなかった。
険しい山脈を避けて低山や河川沿いを縫うようにすれば、
少人数であれば通り抜けられた。
魔物や獣の襲撃を撃退すれば、であったが。
それを踏破した人々がいた。
欲深い商人達であった。
 彼ら商人は傭兵や冒険者を警護に雇い、
自然の要害に挑み、踏破した。
北域諸国から来た商人達は北の商品を足利国に売り、
足利国の特産品を仕入れて持ち帰る。
逆に足利国の商人達は自国の商品を北域諸国で売り、
北域諸国の特産品を仕入れて持ち帰る。
莫大な利を生み出した。
 彼らは踏み固めた交易路を整備しつつ、
途中に幾つかの小規模な宿場町を置いた。
魔物や獣の襲撃は避けられないものの、
便利になると商人以外も通行するようになった。
山地の生態系を研究しようとする学者達や、
珍しい素材を手に入れようとする狩人達だ。
さらには山地を開拓する者達までが現れた。
足利国や北域諸国の支配を嫌い逃れた者達だ。
 北方山地の宿場町や開拓村は何処の支配も受け入れていない。
逆に足利国も北域諸国の何れも、彼らから税を取り立てようとはしない。
官吏や兵を送り込んでも、
魔物対策を考慮すると赤字にしかならないからだ。
そんな北方山地の一つの開拓村で問題が発生した。
同時に危惧する噂も聞こえるようになった。
そこでブルーノはポールを調査に向かわせたのだ。
そのポールが今、目の前にいた。
「はい、昨夕戻りました」
「帰任の報告をする前にベティに捕まった、と見える。
いつもいつもベティの我が儘に振り回されて、すまないな」
 ポールが苦笑いした。
「お気になさらずに、これも臣下の努めです」
 ベティが得意気な顔で割り込んだ。
「折良くポール殿が帰任したので、調べてもらったのよ」
 ベティに振り回されるのは慣れっこのポールを見ながら、
ブルーノはベティに尋ねた。
「何を調べてもらったんだね」
「三年前のブランドル木村子爵の一件を覚えてらっしゃるかしら」
 記憶を呼び起こすまでもなかった。
山地に囲まれた美作地方で起こった重大な事件だったからだ。
美作領の寄親、ハドリー長井伯爵が領内を巡回していたところ、
随行していた寄子のブランドル木村子爵が突如として抜刀、
長井伯爵を背後から斬り殺した。
「警護の者達が木村子爵を取り押さえたが、
領都での取り調べでは原因は分からず終い。
結局、最後は私の元に送られて来た」
「そうです」
「・・・似てるな、今回の一件に」
「似てるもなにも・・・。
木村子爵と今回の神崎子爵は従兄弟同士です。
母親が姉妹だったそうです。
その姉妹の生家が妾の生家と同じ因幡地方なので、
子爵家同士、それ相応に付き合いがありました」
 ポールから一枚の紙切れがブルーノに手渡された。
家系図が書かれていた。
クララとコーリーの姉妹。
姉妹は因幡地方の小島子爵家に生まれ、
姉のクララは美作地方の木村子爵家へ嫁ぎ、
妹のコーリーは但馬地方の神崎子爵家へ嫁いだ。
その三家の家系図が簡潔に纏められていた。
「時間が短かったので、これだけしか調べられませんでした」とポール。
 嫁ぎ先こそ違うが共通点は母親。 
血筋・・・、しかし迂闊な事は言えない。
ブルーノは頭を切り替え、家系図を見直した。
他に何か・・・ないかと。
 木村家へ嫁いだクララがブランドルを生み、
神崎家へ嫁いだコーリーがバイロンを生んだ。
姉妹を生んだ母親の名前はジェナ。
そのジェナは小島子爵の正室ではなかった。
側室で、姉妹を生むと若くして亡くなっていた。
「母親のジェナの経歴はどうなってる」
「どうも庶民のようです。
詳しく調べてみますか」
「そうしてくれ」
 ブルーノが頭を捻っていると、
ボルビン佐々木侯爵が傍から手を伸ばして来た。
許可も得ず、さも当然のように紙切れを奪うと、目を通した。
フムフムと呟きながら紙切れを片手に、ベティに尋ねた。
「ベティ様が今回の件と美作の事件を、
関連付けなされた理由を窺いたい」
「ジェナ様の生家までは知りませんが、亡くなった状況は、
噂で聞き知っています。
あくまでも噂ですよ。うわさ」
 ボルビンはブルーノと顔を見合わせ、踏み込んだ。
「噂とやらをお聞きしたいものですな」
「小島子爵家は病死扱いにしていますが・・・、
事情を知る親戚筋から流れた噂では、
ジェナ様は手首を切って領地の川に身を投げたそうです」
「ふうむ・・・。
ジェナ様の世話をしていたような医者は」
「いなかったみたいですね」
 ブルーノは頭を整理した。
単純だけど、説明し難い背景が目に浮かぶ。
自殺した母親が生んだ姉妹、孫達の凶行。
それを結びつけるのは・・・血。
ブルーノはポールに目を遣った。
目色を読んだポールが応えた。
「ブランドル子爵は断頭台送り、お家は取りつぶし。
子爵家の領地は賠償償金代わりに、長井伯爵家に併合されました」
 ブルーノが裁断を下した張本人なので忘れる分けがない。
ただ、今回は被害者が生きていた。
その辺りの塩梅が・・・。
 ベティが尋ねもしないのに口出し。
「断頭台送りにして、お家も取りつぶしにして欲しいですわ」
 綺麗な顔して平然と言い放つベティをブルーノは繁々と見た。
「エリオス佐藤子爵は手当てが早かったので生きているぞ」
「でも後遺症で身体が御不自由とか。お気の毒です」
「・・・だな」
「はっきり申し上げます。
血の濁った者が貴方様の近くに寄る機会を与えたくありません」
「・・・、そうか。
やはり血の所為だと思うか」
「姉妹の母親から先は分かりませんが、他に考えようがないでしょう。
行為とその前後の事情は似ています。
説明のつかない犯行。
間違いなく血が大きな要因です」
 ポールがベティに賛同した。
「私も貴方様に危うい輩が近付く機会は与えたくありません。
危険分子になる可能性を持つ者は未然に、断固排除すべきです」
 ボルビンが手元の紙切れをブルーノに差し戻した。
「バイロン神崎子爵に子供はいないが、弟がいますな。
同じ母親から生まれています。
後を継ぐとすれば当然、彼でしょう」
 ブルーノは手元に戻された紙切れを睨むように見た。
ベティとポールが背後に回り込み、不躾に覗き込む。




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昨日今日明日あさって。(アリス)89

2019-01-06 07:43:54 | Weblog
 この通りは食べ物屋の屋台が軒を連ねていた。
焼き鳥屋、焼きそば屋、ラーメン屋、おでん屋等々。
前世と変わらぬ食文化。
それらの匂いが人々の鼻をくすぐり、食欲を刺激して足を止めさせた。
どの屋台も客付きがいい。
 アリスが念話で俺に話し掛けてきた。
『あの女の子はなんなの』
『友達。
名前はマーリン。
学校の友達なんだけど、冒険者の友達でもあるんだ。
他にも二人いるよ。紹介した方がいいのかな』
『・・・五月蠅そうな感じがするから止めてよね』
『たぶん、見つけると何やかやと五月蠅いと思う。
上手く隠れていた方が無難かな』
『そうしてよね。
五月蠅いのは嫌い』
 自分のことは棚に上げた。
自分を認識していないのだろうか。
 俺の順番になった。
ここまでの流れだと注文するしかない。
俺が屋台のメニューに目を走らせていると、
「丁度良かった、はい、これ」マーリンが大きな包みを差し出して来た。
思わず受け取った。
分厚い紙包みは熱かった。
焼きたての焼き鳥が大量に入っているようだ。
俺が疑問に思っていると、
「みんなで食べるのよ。
それ持って学校の食堂で待ってなさい」上から目線で指示された。
「・・・」
「今日はどこも混んでいるから学校の食堂しかないと思うの。
寮生達の夕食の時間だから問題ないでしょう。
先に行って席取りしてね。
私はこれから、みんなに声をかけて回るから」
「学校の食堂だろう。問題だろう」
「男の子は変なことを気にするのよね。
大丈夫。
街の食堂とは違うのよ。
それに昼間はお弁当持ち込み組も一緒に食べてるじゃない。
分かったら早く行って。後ろがつかえちゃうでしょう」
 マーリンが屋台の女将さんに見えてしまった。

 バイロン神崎子爵がエリオス佐藤子爵に斬り掛かり、
深傷を負わせた一件に決着をつける日になった。
 バイロン神崎子爵は事件当日の園遊会執行役。
エリオス佐藤子爵は事件当日の謁見執行役。
 朝から関係者が国王の執務室隣の会議室に集められた。
内偵させていた秘書役の面々、典礼庁の長官、
現場に居合わせた典礼庁のクラウド守谷男爵とフランク板倉男爵、
公式に取り調べを行った近衛のアルバート中川中佐、
そして双方の子爵家からの代表者。
 報告を受けるのは国王は当然として、憮然とした顔の管領も。
ブルーノは裁定に不満が湧き上がるのを見越し、共犯者を必要とした。
思い浮かんだのは当初から関わっていたボルビン佐々木侯爵。
厄介事に巻き込まれまいとして辞退を申し出たボルビンを、
「国王として命ずる」と押し切って同席させたのだ。
 関係者それぞれから報告書の提出と説明を受けた。
事実は覆らなかった。
加害者はバイロン、被害者はエリオス。
残された問題は動機であった。
バイロンが口を閉じたままなので一切が不明のまま現在に至っていた。
典礼庁の長官や双方の補佐をしていた者達からも、
それらしい手懸かりは得られなかった。
双方の子爵家の代表者も同様であった。
ただ、謁見と園遊会が合同開催であったため、
その費用負担を巡っての協議が難航していた、とか。
どちらがどのくらいの割合で支出するのか最後まで揉めていた、
と双方の補佐役を務めていた男爵二人が認めた。
クラウド守谷男爵とフランク板倉男爵だ。
 ブルーノはアルバート中川中佐に尋ねた。
「神崎子爵の様子は相変わらずか」
「はい、ろくに答えてくれません。無駄口も叩きません」
 ブルーノは神崎子爵家の代表者に視線を向けた。
「職場での不平不満は聞かされてないのだな」
「はい、全く仰有らないです。
元々、口の重い方で、必要以外の事はお喋りになりません。
でも家臣には優しい方で、皆が、領民までが慕っております」
 ブルーノは典礼庁の長官に尋ねた。
「合同開催の費用負担で揉めたと言うことだが、
それが刃物沙汰にまで発展するのか。
国庫からの負担で誰の懐も傷まないと思うのだがな。
長官としてはどう考えている」
「負担協議の際に面子を潰されたのかも・・・と」

 午後、ブルーノは執務室にボルビン佐々木侯爵だけを招いた。
「爺、どう思う」
「どうと聞かれましても・・・。
私も昨日、神崎子爵の様子を見に行きました。
あれは、どうにもなりませんな。
そもそも会話が成り立たない。
お手上げですな」
「それでも裁定は下さねばならない」
 ボルビンは表情を硬いものにした。
「それで・・・」
「爺、分かって聞いているのだろう」
「ええ・・・、当然死罪でしょう」
「そうだ。
理由の如何は問わず、王宮区画での刃物沙汰は昔から死罪だ。
問題は情状酌量の余地有りか、なしか、
それによって死罪申し渡しの中身が違ってくる。
毒を下げ渡す、市中引き回しの上で磔、埋葬も弔いも許さない、
他にも色々とあるからな。
当人が何も喋らないのでは判断の下しようがない。
爺、どうしたら良いと思う」
「私に聞かれましても困ります」
 
 執務室のドアがノックされた。
この時間、面会の予定は入っていない。
そういう場合は外で警護に当たっている近衛兵が対応し、
断る事になっていた。
けれど、二度目のノックがなされた。
それまで部屋隅に控えていた侍従がドアに向かった。
ドアを少し開けて話しを聞いた。
聞き終えるとブルーノに報告した。
「王妃様がポール細川子爵様をお供に、お出でになるそうです」
 先触れの侍女が来たのだろう。
「分かった、通すように」
 ブルーノは勘繰った。
まず王妃。
珍しい。
王妃がこの時間帯に来る事自体が珍しい。
今日のブルーノの予定は知っている筈。
この一件に首を突っ込むつもり、としか思えない。
 加えてポール細川子爵。
細川侯爵家の一門であると共に国王側近でもある人物だ。
世間の認識では、常に国王の利益を優先していることから、
国王の最側近の一人に数えられていた。
この二人、何か重大事が持ち上がる度に手を組む。
そしてブルーノに上奏する。
今回もそれなんだろう。
関係者達が気付かぬ何が持ち上がった、と言うのか。




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昨日今日明日あさって。(アリス)88

2019-01-01 08:41:14 | Weblog
 ブルーノ足利は表情を改めた。
「使い潰す・・・か」
「何を心配しているのですか。
心配は無用です。
バート斉藤侯爵は昔気質の武士、と見受けました。
下手に言葉を飾るよりも単刀直入な物言いを好むと思われます。
ですから正面から取り込むのも一興かと」挑発する視線。
「お前は・・・。
つくづく思うのだが、お前が正室で良かった」
「とても嬉しいお言葉ですわ。
・・・。
それでは評定衆の増員で決まりですね」
 昔から評定衆は十席となっていた。
初代の手になる御定書に書かれている分けではないが、
いつからか慣例として十席が定着していた。
これまでそれを破った国王は存在しない。
「いや、増員ではなく、別の手を使う」
「どのような・・・」
「軋轢を生まぬように十席の一人を昇進させる」
「評定衆からの昇進となると管領職しか思い浮かばないのですが・・・」
 管領職の定員は定められていないが、常識的には一席。
現在、ボルビン佐々木侯爵が長期に渡って就いているのだが、
遣り手の彼を交替させるつもりは毛頭ない。
「あまり目立たぬのだが、大目付というのがある。
貴族を取り締まる役目だが、このところパッとせぬのだ。
貴族に強く出られると、どうしても腰砕けになるらしい。
それで困っていた
丁度良いから退任させ、評定衆の一人を代わりに任命しよう」
「バート斉藤侯爵はそれで決まりですね。
すると残りはレオン織田子爵の取り込みになりますわよね。
いかが致しますの」
「国都に呼び寄せる前に尾張での足場を固めてもらわないと困る。
そちらに専念させよう」
「肉親同士の争いですか」
「こちらが焚き付ける分けじゃない。
そもそもは織田家内部の問題だ。
レオンの陞爵を祝ってもらおうと、
引見や園遊会に織田伯爵家一同を招待したのだが、
一族がこぞって多忙を理由に断ってきた。
レオンが織田家内部で無視されている、という噂は事実のようで、
今回の陞爵で嫉妬が上乗せされ、事態がどう動くか分からない」

 街道は行き交う人々で溢れていた。
商人、旅人、農民、武士、騎士、貴族と様々。
国都の南門へ向かう者達、次の宿場へ向かう者達、
それぞれが無心に足を、馬を、荷車を、馬車を急がせていた。
俺達も脇道からその流れに紛れた。
白猫姿のアリスは俺が被ったフードの内側に潜り込み、
肩に乗ったままの姿勢で脳内に語り掛けてきた。
『物凄い人波ね』念話だ。
 眷属内の会話はこれで交わせわる、これは常識よ、
とアリスがついさっき得意気に教えてくれた。
魚ではないけど目から鱗。
『門の入り口に門衛がいて、簡単な取り調べがあるんだ。
魔法使いはいないと思うけど、念の為に魔力は控えてくれるかい』
『分かった。せっかく人族の町に入るんだもの。
極力、問題は起こさないようにするわ』
 門を入るにあたっては真偽の魔水晶をクリアしなければならない。
問題なのはその魔水晶ではなく、そこまでの行列。
何時に増して今日は行列が長い。
おそらく園遊会とかの影響だろう。
『なに、この大行列。人族が蟻の真似事』アリスが呆れた。
 働き蟻の同類に見なされた。
返す言葉がない俺は深い溜め息をついた。
これなら顔馴染みの東門に回れば良かった、と反省した。
冒険者パーティの一人として何度も入退場を繰り返しているので、
今では顔パスが常態化、行列を横目に通過できた。
 毎日門を使用していても、態度の悪い者はその限りではない。
門衛を怒らせると顔パスが拒否され、行列に並ぶように注意される。
貴族の一行でも例外ではない。
門衛の権限で強硬に行列に並ぶことを要求するのだ。
 今日は急ぐ用事もないので、そのまま行列に並んだ。
アリスに真偽の魔水晶を見せる機会でもあったからだ。
たぶん、興味を抱くだろう。
 ところがアリスは予想よりも早く魔水晶に気付いた。
ずいぶん先に置いてある筈なのだが、
微量に漏れる魔力を捉えたらしい。
『変な流れの魔力があるわ、ダン、気付いてる』
 俺は魔水晶の役割を説明した。
するとアリスは、
『それにしても無駄が多いわ。
付与した術者に問題があるわね』切り捨てた。
『施した術式に無駄が多い、と言うことかい』
『素人に毛の生えた術者にはありがちなの。
必要以上に文言を飾り立てるのよね。
無駄な厚化粧。
・・・。
これなら私を封じた術者の足下にも及ばないわ』低評価を下した。

 時間はかかったが、問題なく入門できた。
アリスがその小さな身体をフードの奥に仕舞うように、
巧みに隠れてくれたので、何の問題も生じなかった。
 俺がテイマーとなり、
アリスを従魔としてギルドに登録する方法もあったのだが、
『アンタ、馬鹿なの。
よく見てご覧なさい
私は可愛い妖精よ。しかも眷属よ。
それを従魔だなんて、アンタ、よほどの馬鹿なのね。
この大馬鹿さん』罵倒に近い拒否をされた。
 アリスは再び肩に腰を下ろすと、外の様子をきょろきょろ見回した。
何時もに増して街中は賑わっていた。
国王主催の行事が重なっていた為だ。
引見と園遊会。
平民に関係ないことだが、国王を慕う平民が黙っている分けがない。
祝い事だと知ると、自分達の事のようにお祭り騒ぎ。
街の至る所に出店や屋台を出して商売にも繋げる。
 アリスは何かに目を留める度に俺に問う。
完全なお上りさん状態。
まぁ、それも無理からぬこと。
俺も当初はそうだった。
前世の都市の賑わいを知っていても、こちらは見知らぬ異文化の都市。
珍しさに目を見張ったものだ。
その経験から俺はアリスに懇切丁寧に説明した。
口が草臥れたが、嫌な顔はせず、最後まで応じた。
 途中、何度か屋台の食い物を強請られた。
その度に買って、小さく千切ってアリスの口に献上した。
『そそられる匂いなんだけど、味はまあまあかしら』
 気に食わないと残す。
『ダンが食べなさい』残飯処理係に任命された。

 俺は西の空を見上げた。
日が暮れようとしていた。
そろそろお祭りも終わる頃合いだ。
露店の商売は日没まで、と定められているからだ。
 俺達は人波を縫うようにして東区画に向かった。
女児三人に約束させられていた。
店仕舞いしたらお疲れ会するからね、と。
遠慮すると、俺を仲間外れにはしたくない、とのこと。
断れなかった。
 最初に遭遇したのはマーリン。
実家が食料を主力商品にしている関係で、
焼き鳥の屋台を出していた。
その屋台から良い匂いが漂って来た。
誘われて二人連れが行列に並ぶ。
 マーリンは表で声を張り上げて呼び込みをしていた。
「国都で二番目に美味しい焼き鳥ですよ」
 俺を見つけると、
「お子様にも美味しく食べられますよ」太い身体を揺らして手招きした。
 ううっ、逃げたい。
でも、断れない。
「どうして二番目なの。一番目はどこのお店なの」さくらになった。
 待ってました、とばかりにマーリンが答えた。
「一番目はまだありません。
私共の店がそれに一番近い位置にいます」得意気に胸を張った。
 俺は逃げられなかった。
マーリンに腕をがっちり掴まれて行列の最後尾に連行された。
 屋台の陰からシビルが顔を覗かせた。
彼女は冒険者で、マーリンに土の魔法を教えている家庭教師だ。
店の主人に日雇いで屋台の手伝いを頼まれたのだろう。
俺を見て、ニコリと笑って手を振った。




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