事業計画書と聞いて頭を抱えるシンシア達三人。
まあ、そうだろう。
そこまでは国軍も教えていないだろう。
そこで俺は懇切丁寧にその書式を説明した。
聞き終えた三人の感想が凄い。
「まるで軍事演習の工程表ね」
「行軍や陣地構築も参考になるわね」
「そう言われると、糧秣管理や賦役の扱いもね」
国軍を舐めていた。
類似する書式が存在していた。
考えてみると確かにそうだ。
軍と商い、お題目は違っても、最終的には数字で語るもの。
でないと仕事にならない。
終了したところ、ベティ様に呼ばれた。
「佐藤子爵、こちらへいらっしゃい」
公式の名称で呼ばれた。
何か・・・。
ベティ様はイヴ様を膝に抱いて、俺を見て笑みを浮かべておられた。
嫌な予感、でも無視できない。
演技スキル全開で対応した。
「はい、ただ今」
歩を進めた。
ベティ様はソファーなので、位置が低い。
俺はそれに合わせて両膝を着いた。
イヴ様がソファーから飛び降りられた。
そして俺の首目掛けてダイブ。
俺をムチ打ちにする気か。
俺は慌てながらも素早く身体強化した。
それでもって両手でイヴ様を受け止めた。
低い姿勢を保ったまま、イヴ様をクルリと回転させて肩車した。
ベティ様が驚かれた。
「器用ね」
頭上ではイヴ様が喜ばれていた。
「ニャ~ン、いい子」
俺はベティ様に尋ねた。
「ご用でしょうか」
「株主会とか事業計画書とか、子供の考える事ではないわね。
どこから仕入れた知識なの」
演技スキル全開なので怖がる必要はない。
「子供ですが、将来を考えて勉強しています。
幼年学校だけでは不足すると思い、街歩きでも学んでいます。
どんな店が繁盛しているのか、潰れそうな店の特徴は、
今の売れ筋は何か、あの商品が廃れたのは何故か、売れっ子の職人は、
これが好まれる理由は、このギルドが存在する意味は、
まあこんな感じで、野次馬気分で街の知識を仕入れています。
・・・。
人の真似だけでは必ず限界が来ます。
ですから、それら仕入れた知識を元に、考察し、新たに組み立てます。
次の時代は如何にあるべきか。
それが今回の株主会であり、事業計画書でもあります」
ベティ様が満足されたのかどうかは分からない。
ただ、期待とは違っているようだ。
ベティ様は諦めた様に目で俺を見、
それから視線をポール殿に転じられた。
「私に商売は分からないわ。
貴方はどうかしら」
「まあ、・・・何となく。
それより本題に移られては如何ですか」
ベティ様はポール殿の言葉で本題に入られた。
「子爵、貴方は美濃の現状を分ってますよね。
そして、その問題点も。
それを聞かせてくれませんか」
「大きなのは寄親伯爵の不在ですね。
次は伯爵に従った貴族の多さ、でしょうか。
お陰で統治者不在の領地が美濃の各地に出来ています。
派遣された国軍の文武官が代官代わりを務めてますが、
慣れない仕事で民に不平不満が溜まっている、そう聞いています」
木曽の代官・カールからの報告書ではそうなっていた。
美濃の先代寄親伯爵・バート斎藤は陞爵で侯爵に上がり、
現在は国都で評定衆の席にある。
代替わりで伯爵家を継いだのがアレックス斎藤。
これが寄子貴族を騙して挙兵した。
国軍駐屯地を壊滅せしめ、我が木曽領を襲った。
その危難はアリスとハッピーから聞かされた。
俺は即座に行動した。
伯爵軍を陰から退却に追い込む事にした。
まず、命令系統の最上位である伯爵を拉致した。
これが功を奏した。
夜明けとともに伯爵軍は機能不全に陥った。
ベティ様が述べられた。
「美濃は代々斎藤家が治めてたの。
でも今回の件で、それが無に帰した。
斎藤家から寄親を出す事は出来ない。
永遠にね。
それは斎藤侯爵も分ってくれた。
仕方ないわね。
大勢の寄子貴族を道連れにしたのだから情状酌量の余地はないわ。
評定衆を前にしての言葉だから覆る事はない。
公式文書にも記した。
そういう事情を頭の片隅に置いて聞いて欲しいの。
・・・。
後任の寄親伯爵を余所から持ってくる事はないわ。
まず美濃の内部で調整するの。
それに相応しい人物をね。
・・・。
困った事に相応しい人物が一人に限られているの。
今美濃に残った貴族はその一人を除いて、男爵や下の者達ばかり」
ベティ様は言葉を切って、俺をジッと見詰められた。
居合わせた者達も俺に視線をくれた。
心臓が跳ね上がった。
予想していない事態に俺の心臓は跳ね続けた。
このままでは破裂する。
その前に手を打たなければ。
ポール殿に救いを求めた。
「済まない子爵。
他に居ないのだよ」
釈然としない。
「陰でお子様子爵と笑われているのに、今度はお子様伯爵ですか。
寄親として相応しくない、そう思いませんか」
「否、君しかいない。
他の男爵等は兵も親族も心許ない。
正直言うと、貴族としての資質すらも疑う。
挙兵した伯爵も彼等には声を掛けなかった程だ。
ところが君は違う。
その気になれば、実家から人を呼び寄せられる。
呼び寄せなくても、全く初対面の者を使い熟す事が出来る」
「使い熟してるのは代官のカールです」
ポール殿が芝居っ気たっぷりに肩を竦めた。
そして皆を見回してから言う。
「それも含めてだ。
・・・。
分かり易く言おう。
佐藤子爵家は伯爵軍を撃退し、伯爵をも捕えた。
美濃の外へ広がるのをも防いだ。
その功績は大だ。
木曽の家来衆の貢献に褒美が与えられるべきだ。
そうは思わないかね佐藤子爵」
「思います。
執事に、彼等の功績を点数化し、
釣り合う褒賞を見繕う様に指示してあります」
その褒賞に苦労していた。
金銭にするか、魔道具にするか、買える爵位にするか。
「カールが弟だから言う訳ではないが、
あれは指揮官として陞爵に値する仕事をした。
ところが佐藤子爵殿が子爵位にあったままでは上げられない」
あっ、忘れていた訳ではないが、カールを後回しにしていた。
これまでの付き合いから甘えが出た。
反省反省。
親しき仲にも陞爵あり。
「理解しました。
カール子爵に伯爵家の代官として美濃全体を委ねます。
ついては、その下に就く文武官の紹介をお願いします。
身分は問いません。
優秀であれば結構です」
ベティ様が言われた。
「今回の陞爵で王宮が正しく機能している事を内外に示します。
その点を踏まえて宜しくね」
肩車していたイヴ様に俺は頭を撫で回された。
「ニャ~ン、いい子いい子」
まあ、そうだろう。
そこまでは国軍も教えていないだろう。
そこで俺は懇切丁寧にその書式を説明した。
聞き終えた三人の感想が凄い。
「まるで軍事演習の工程表ね」
「行軍や陣地構築も参考になるわね」
「そう言われると、糧秣管理や賦役の扱いもね」
国軍を舐めていた。
類似する書式が存在していた。
考えてみると確かにそうだ。
軍と商い、お題目は違っても、最終的には数字で語るもの。
でないと仕事にならない。
終了したところ、ベティ様に呼ばれた。
「佐藤子爵、こちらへいらっしゃい」
公式の名称で呼ばれた。
何か・・・。
ベティ様はイヴ様を膝に抱いて、俺を見て笑みを浮かべておられた。
嫌な予感、でも無視できない。
演技スキル全開で対応した。
「はい、ただ今」
歩を進めた。
ベティ様はソファーなので、位置が低い。
俺はそれに合わせて両膝を着いた。
イヴ様がソファーから飛び降りられた。
そして俺の首目掛けてダイブ。
俺をムチ打ちにする気か。
俺は慌てながらも素早く身体強化した。
それでもって両手でイヴ様を受け止めた。
低い姿勢を保ったまま、イヴ様をクルリと回転させて肩車した。
ベティ様が驚かれた。
「器用ね」
頭上ではイヴ様が喜ばれていた。
「ニャ~ン、いい子」
俺はベティ様に尋ねた。
「ご用でしょうか」
「株主会とか事業計画書とか、子供の考える事ではないわね。
どこから仕入れた知識なの」
演技スキル全開なので怖がる必要はない。
「子供ですが、将来を考えて勉強しています。
幼年学校だけでは不足すると思い、街歩きでも学んでいます。
どんな店が繁盛しているのか、潰れそうな店の特徴は、
今の売れ筋は何か、あの商品が廃れたのは何故か、売れっ子の職人は、
これが好まれる理由は、このギルドが存在する意味は、
まあこんな感じで、野次馬気分で街の知識を仕入れています。
・・・。
人の真似だけでは必ず限界が来ます。
ですから、それら仕入れた知識を元に、考察し、新たに組み立てます。
次の時代は如何にあるべきか。
それが今回の株主会であり、事業計画書でもあります」
ベティ様が満足されたのかどうかは分からない。
ただ、期待とは違っているようだ。
ベティ様は諦めた様に目で俺を見、
それから視線をポール殿に転じられた。
「私に商売は分からないわ。
貴方はどうかしら」
「まあ、・・・何となく。
それより本題に移られては如何ですか」
ベティ様はポール殿の言葉で本題に入られた。
「子爵、貴方は美濃の現状を分ってますよね。
そして、その問題点も。
それを聞かせてくれませんか」
「大きなのは寄親伯爵の不在ですね。
次は伯爵に従った貴族の多さ、でしょうか。
お陰で統治者不在の領地が美濃の各地に出来ています。
派遣された国軍の文武官が代官代わりを務めてますが、
慣れない仕事で民に不平不満が溜まっている、そう聞いています」
木曽の代官・カールからの報告書ではそうなっていた。
美濃の先代寄親伯爵・バート斎藤は陞爵で侯爵に上がり、
現在は国都で評定衆の席にある。
代替わりで伯爵家を継いだのがアレックス斎藤。
これが寄子貴族を騙して挙兵した。
国軍駐屯地を壊滅せしめ、我が木曽領を襲った。
その危難はアリスとハッピーから聞かされた。
俺は即座に行動した。
伯爵軍を陰から退却に追い込む事にした。
まず、命令系統の最上位である伯爵を拉致した。
これが功を奏した。
夜明けとともに伯爵軍は機能不全に陥った。
ベティ様が述べられた。
「美濃は代々斎藤家が治めてたの。
でも今回の件で、それが無に帰した。
斎藤家から寄親を出す事は出来ない。
永遠にね。
それは斎藤侯爵も分ってくれた。
仕方ないわね。
大勢の寄子貴族を道連れにしたのだから情状酌量の余地はないわ。
評定衆を前にしての言葉だから覆る事はない。
公式文書にも記した。
そういう事情を頭の片隅に置いて聞いて欲しいの。
・・・。
後任の寄親伯爵を余所から持ってくる事はないわ。
まず美濃の内部で調整するの。
それに相応しい人物をね。
・・・。
困った事に相応しい人物が一人に限られているの。
今美濃に残った貴族はその一人を除いて、男爵や下の者達ばかり」
ベティ様は言葉を切って、俺をジッと見詰められた。
居合わせた者達も俺に視線をくれた。
心臓が跳ね上がった。
予想していない事態に俺の心臓は跳ね続けた。
このままでは破裂する。
その前に手を打たなければ。
ポール殿に救いを求めた。
「済まない子爵。
他に居ないのだよ」
釈然としない。
「陰でお子様子爵と笑われているのに、今度はお子様伯爵ですか。
寄親として相応しくない、そう思いませんか」
「否、君しかいない。
他の男爵等は兵も親族も心許ない。
正直言うと、貴族としての資質すらも疑う。
挙兵した伯爵も彼等には声を掛けなかった程だ。
ところが君は違う。
その気になれば、実家から人を呼び寄せられる。
呼び寄せなくても、全く初対面の者を使い熟す事が出来る」
「使い熟してるのは代官のカールです」
ポール殿が芝居っ気たっぷりに肩を竦めた。
そして皆を見回してから言う。
「それも含めてだ。
・・・。
分かり易く言おう。
佐藤子爵家は伯爵軍を撃退し、伯爵をも捕えた。
美濃の外へ広がるのをも防いだ。
その功績は大だ。
木曽の家来衆の貢献に褒美が与えられるべきだ。
そうは思わないかね佐藤子爵」
「思います。
執事に、彼等の功績を点数化し、
釣り合う褒賞を見繕う様に指示してあります」
その褒賞に苦労していた。
金銭にするか、魔道具にするか、買える爵位にするか。
「カールが弟だから言う訳ではないが、
あれは指揮官として陞爵に値する仕事をした。
ところが佐藤子爵殿が子爵位にあったままでは上げられない」
あっ、忘れていた訳ではないが、カールを後回しにしていた。
これまでの付き合いから甘えが出た。
反省反省。
親しき仲にも陞爵あり。
「理解しました。
カール子爵に伯爵家の代官として美濃全体を委ねます。
ついては、その下に就く文武官の紹介をお願いします。
身分は問いません。
優秀であれば結構です」
ベティ様が言われた。
「今回の陞爵で王宮が正しく機能している事を内外に示します。
その点を踏まえて宜しくね」
肩車していたイヴ様に俺は頭を撫で回された。
「ニャ~ン、いい子いい子」