金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

(注)文字サイズ変更が左下にあります。

昨日今日明日あさって。(解放)171

2020-06-28 07:38:27 | Weblog
 Bランクの火魔法、ファイアスピア・火槍が飛んで来た。
Cランクの風魔法、ウィンドカッター・風刃も飛んで来た。
更には、もう一人のBランクが俺に向けて鑑定を発動した。
流石は公爵家の家来、無駄がない。
 面白い。
歴とした魔法使いや兵士、複数と戦える。
まず鑑定は問題ない。
偽装に気付いて、より踏み込んで来れば自動的に撹乱が発動する。
相手の脳内を撹乱し、ついでに無用な大量のデータを送り付ける。
それでどうなるかは知らん。
攻撃して来る連中への対処で忙しいので、相手してる暇はない。
 俺は水魔法、ウオータシールド・水盾を周りに張り巡らした。
それに火槍や風刃が当たる。
しかし、一発や二発では破壊できない。
焦った二人が連続して攻撃して来る。
間合いを詰めて来た兵士達も水盾に阻まれる。
槍や剣を振り回して壊そうとするが、これまたビクともしない。
 見兼ねたAランクが駆けて来た。
得意の槍術一撃で水盾を破壊した。
それで持って部下達を叱咤した。
「腰を落として叩き壊せ」
 理解していないようだ。
俺が反撃していない事に。

 俺はAランク対策として水盾の弾力性をアップし、加えて厚目にした。
難しくはない。
瞬時で全ての水盾を新仕様に入れ替えた。
それに連中が気付いたかどうか、それは知らない。
 Aランクが前進して水盾に阻まれると、
お手本とばかりに槍を振り回した。
今度は壊れない。
何度も挑むが壊れない。
怒り心頭で俺を睨む。
「卑怯者、後ろに隠れていないで前に出てこい」
 魔法使いの本質は後方からの攻撃。
前に出てこいと言われて、はいはいと前に出る奴はいない。
Aランクの顔が怒り一色に染まった。
「この臆病者、尋常に勝負しろ」
 児童の俺に挑むとは、なんて奴だ。
児童虐待で訴えたい。
訴える役所がないのが残念だ。
 口喧しいAランクと違い、その部下達は攻撃の手を緩めない。
阻む水盾を突き崩そうと何度も何度も挑む。
蟻の一穴の故事を知っているのだろうか。
知ってるわけないな。
もっとも、その程度では俺の水盾は攻略できないのだが。

 歴とした連中の実力が計れた。
やはりランクや個々の数値がモノを言う世界だ。
さて連中をどうしよう。
 と、外が喧しい。
轟音も。
俺は風魔法を発動した。
テントの天井に開けられた穴から飛び出した。
何時の間にか夕暮れ。
 テントの骨組みの一つを足場にして辺りを見回した。
響き渡る悲鳴と怒号。
公爵邸本館から大勢が我先に逃げ出している。
付近は来客らしき連中と屋敷使用人達が入り混じり、大混乱。
 公爵邸本館そのものが無残な姿を晒していた。
見る限りの窓が破壊され、壁には穴が開けられ、
屋根の一部が崩れ落ちていた。
アリス達の仕業だ。
 当のアリス達を探すと、彼女達は別館に取り掛かっていた。
風魔法で窓を粉々に破壊。
屋根や外壁にも絶え間なく攻撃を加えている。
人は狙ってないが、巻き込まれるのは承知の上とみた。
容赦のない攻撃。
 俺はアリス達を止めようとは思わない。
囚われていた妖精達の気持ちが分かるからだ。
溜まっていた鬱憤はこうして晴らすしかないだろう。
足場に腰を下ろし、ジッと見守った。
下からAランクの挑発する声が届くが、相手にはしない。
ただ、念の為、魔法攻撃に備え、周辺に水盾を張り巡らした。

 公爵邸表門付近が騒がしくなってきた。
脱出する馬車や徒歩の人々を押し退けるように、
新たな集団が入って来た。
奉行所の者達だ。
脱出しようとする連中を強制的に一角に押し留め、次々に入って来た。
 公爵邸周辺を見遣ると、全ての屋敷が窓を全開にし、
主従の関係なく物見高い者達が身を乗り出し、こちらを見ていた。
路上の野次馬はそれ以上だ。
貴族街に平民までが波の様に押し寄せていた。
その野次馬の遥か後方には国軍の一隊が見えた。
騎兵隊を先頭に、野次馬の波を断ち割って急行して来る。
 俺は念話でアリスに連絡した。
『奉行所や国軍の者達が現れた。
潮時だ、引き上げよう』
『ええ、まだお酒を回収してないわよ』
『珍しいね、お酒が後回しなんて』
『この子達から目が離せないもの。
回収して来るから、ちょっと待ってて』
 アリスは皆を説得すると、一つの塊になって公爵邸本館に飛行。
壊れた窓から侵入して行く。
厨房か貯蔵庫を目指すのだろう。

 奉行所の者達の行動は理に適っていた。
公爵邸から出ようとする者は全て、身分に関係なく拘束。
手の空いている者達が状況を確認すべく、
何組かに分かれて邸内を捜索する。
これに遅れて到着した国軍が加わる。
 俺の尻の下の方で叫んでいたAランクの声が、
何時の間にか消えていた。
下を見渡すと、当人も部下達も姿がない。
んっ、一人、鑑定スキルを持つ魔法使いだけが残されていた。
俯せになって倒れていて、その耳から血が流れていた。
・・・見なかった事にしよう。

 アリスから念話が届いた。
『回収した。
私達はダンジョンに向かうわ』
 アリスはワイバーンの卵を忘れている。
俺はそれを指摘しようとして・・・、止めた。
一緒に飲まされるのは嫌だ。
俺も忘れよう。
『了解、気を付けてね』

 奉行所と国軍の者達が一緒になって、下のテントに入って来た。
入るや否や、驚きの声。
「臭い」
「魔物の臭いだ」
「檻が並んでいます」
「うわー」足下が暗いので、倒れている者に気付かず、躓いて転ぶ。
「誰か携行灯を持ってこい」指示が飛ぶ。
 さっそく魔道具の携行灯が持ち込まれ、明かりが点けられた。
周囲を照らす。
あちこちに人が倒れ、手足も転がっていた。
「生存している者はいるか」
 それぞれが確認に当たった。
「出血多量で死んでいます」
「こちらでは二人が死んでいます」
「血を流し過ぎて危ういですが、まだ息が有ります」
 結局、三人が生存していた。
すると別の誰かが叫んだ。
「魔物の幼体だけでなく、人や獣人の幼児も囚われています」
「えっ、・・・鍵は」
「掛かっているので開けられません」
 それを聞いて俺は安心した。
二つの公的機関が発見したのだ。
人の口に戸は立てられない。
無視する事も、揉み消す事もないだろう。
 俺は風魔法で空高く飛んだ。
途中で光学迷彩を再起動した。
こうなれば鑑定も探知も効かない。
そのまま寮の上へ転移した。
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昨日今日明日あさって。(解放)170

2020-06-21 07:29:16 | Weblog
 アリスとハッピーが助け出した三人を連れて俺の傍に飛んで来た。
用件は言わずと知れたこと。
入浴と洗濯のライトクリーン。
続けて心身の疲労を取り除くライトリフレッシュ。
囚われていた妖精三人を回復させた。
 その様子を見たデミアンが怒鳴り声。
「舐めた真似を、殺せ、殺せ」
 デミアンの配下が一斉に動いた。
まず五人の魔法使いが攻撃してきた。
と言っても所詮はスラムの魔法使い。
しょぼい火魔法に風魔法、水魔法。
 俺は水魔法で防御。
ウォーターシールドを周囲に張り巡らした。
全ての攻撃を跳ね返し、ランク違いを鮮明にした。

 学ばないのだろう。
第二陣、十二人が槍や剣、斧を片手に襲って来た。
 俺は水魔法で応じた。
イメージはミサイル乱射。
ウォーターボール、水弾を自動装填し、
襲撃して来る連中全員の肘膝の何れかをアトランダムでロックオン。
ホーミング誘導、遊び心で軌道は高速カーブ。
順次、放った。
 一人として逃さない。
連中の中には防具を身に付けている者もいるが、
俺の攻撃の前には無力でしかない。
簡単に破壊し、狙った部位に当てた。
全員が肘膝の欠損により、手足の何れかが飛び、
出血と痛みで悲鳴を上げた。
 次はデミアンと五人の魔法使い。
彼等にも水弾第二波を向けた。
対応の早い奴がシールドを張るが、無駄。
ここでもランク違いを見せつけた。
いとも簡単に破壊して着弾。
 驚かされたのはデミアン。
水弾を寸前で素早く躱した。
流石はBランク。
でもホーミング誘導なので、追尾から逃れられる分けがない。
水弾は大きな軌道を描いて反転した。
 足掻くデミアン。
何を考えたのか、考えないのか、長剣で対峙。
思い切り振り下ろした。
水弾を真っ二つに切り裂いた。
 もしかしてと思い、俺は長剣を鑑定した。
術式が付与されていた。
切れ味特化の魔剣仕様ではないか。
 ポキリ。
長剣が鍔元から折れた。
耐久性はなかった。

 デミアンの逃げ足は速かった。
長剣が折れたと同時にテントから一目散だった。
配下の者達には一瞥もくれなかった。
あざとい。
これが悪党の生き残る道なのだろう。
 テント内に居残っていた値付け客等も逃げ出す。
状況の悪化をようやくの事で理解したようで、
テントから転げ出る醜態を演じた。
 場内は怪我人の悲鳴と泣き声、散らばる手足、
魔物の幼体の声に異臭、それらが入り混じり、実に殺伐としていた。

 俺は動けない。
デミアンどころではなかった。
問題は別の檻。
人間や獣人の子供達が入れられている檻。
幼体か、それとも幼児か、・・・同じか。
 これは・・・。
攫って来たのか、あるいは牧場があるのか。
どちらにしても見過ごせない。
 そんな俺にアリスからの念話。
『ダン、これ貰うね』
 そちらを振り向いた。
アリス達はワイバーンの卵の檻を見下ろしていた。
『どうするの』
『生卵のうちに、みんなで飲むのよ』
『俺もかい』
『当然でしょう。
精力がつくわよ。
ダンもどう』

 脳内モニターに文字が走った。
「Aランクの者が接近しています」
 探知と鑑定の範囲を広げた。
見付けた。
Aランク。
公爵家に仕える男爵様で、公爵家の警備兵の隊長。
得意なのは槍術と体術。
根っからの武闘派だ。
彼が兵士七人と魔法使い三人を連れ、こちらに向かって来た。

 俺はアリスに敵接近を知らせた。
『Aランクは俺が引き受けるから、アリス達は邸内で思い切り暴れてくれ』
『一人で大丈夫なの』
『俺も暴れたい気分なんだ』
 アリスは察したのか、幼児の檻を見遣った。
『助けたいの』
『助けられるものなら助けたい』
『でもダンはまだ子供。
あんなに大勢の母親役は出来ないでしょう』
『分かってる』
『で、どうしたいの』
『公爵邸に奉行所や国軍の連中が踏み込む理由が欲しい』
 幼児を奉行所か国軍に発見させるしかない。
『・・・そうね、私達が公爵邸を壊して回れば良いのね』
『それで頼む』
『任された』
『パー、ピー』ハッピーも頷いた。

 決まると早い。
アリス達は風魔法を連発。
テントの屋根を大きく切り裂いて、そこから抜け出した。
 彼女達と入れ替わるようにAランクが部下を率いて現れた。
テントに入ると、中の様子を見て足を止めた。
落ちていた腕を俺の方へ蹴り飛ばした。
「これはお前の仕業か」
 デミアンの時もそうだったが、口を開く気分ではない。
口を閉じたまま、ジッと睨みつけた。
個人に恨みはない、が、許せない愚行だ。
 Aランクの部下達が左右に走り、俺を遠巻きに包囲した。
それを見ながら奴はなおも俺に問う。
「妖精の檻が空だ。
どうした。
いま返すなら許してやるぞ」
 人を舐め切った態度。
高ランクに胡坐をかいているとしか思えない。
部下の一人がテントの天井を指し示した。
それで奴も察知した。
「なるほど、そういう分けか。
喋る気がないなら、喋らせてやろう。
・・・。
こいつを捕らえろ。
怪我させても構わん。
ポーションで治す」
 一斉に部下達が行動に出た。
初手は三人の魔法使い。
一拍開けて七人の兵士が武器を片手に、詰めて来た。
デミアンの配下に比べて連携がとれていた。
常日頃の訓練の賜物だろう。

 公爵邸の魔法使いの攻撃は火魔法と風魔法。
スラムの魔法使いに比べて威力が高い。
魔法学園の卒業生なのだろう。
 三人目はその隙を突くように俺を鑑定する。
こちらも練度が高い。
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昨日今日明日あさって。(解放)169

2020-06-14 07:58:34 | Weblog
 俺は魔波に違和感を感じた。
何かが、おかしい。
妖精を助ける目的もあるが、その違和感の正体を見極める必要もあり、
出入りする客に紛れ、光学迷彩を施したまま、会場に入ろうとした。
 そこで別の、おかしいに気付いた。
大多数の客がマスク姿なのだ。
警備している冒険者達も。
怪しげなマスク姿。
これでは強盗か何か。
 俺の鼻が原因を捉えた。
テント内から異臭、が漂ってきた。
これだけ離れているのに。
『ブーブー、鼻が曲がっちゃうよー』
 ハッピーの言い分も分かる。
用がなければ退散したい。
それも大急ぎで。
『ダン、臭いで死ぬ、五、四、三』アリスがカウントダウン
 風魔法の出番。
大急ぎで光学迷彩に臭い消しの術式を施した。

 テントの最奥の演壇までの通路が広い。
その通路の左右には大小様々な檻が並んでいた。
檻にはオークションに出品されるモノが入れられていた。
魔物から獣人、果ては人間まで、
驚いた事に全ては幼体、あるいは卵のまま。
いずれの檻の前にも客が群がり、熱い視線を送っていた。
欲望に塗れた視線もあるが、多くは値付けの算段の目色。
 臭いの原因が分かった。
魔物の幼体が垂れ流していた。
それも殆どの幼体が。
主催者側が臭い消しの術式を施しているようだが、
全くと言っていいほど効果を上げていない。
術者の腕が悪いのだろう。
 この酷い状況下、値付けに奔走している連中の逞しいこと。
檻を見回ってランク付けしている。
臭いより金銭が優先するらしい。

『人間ってある意味、凄いわね』アリスが呆れた。
『ある意味かい・・・』
『そうよ。
生薬の原料としては成体より幼体の方が適しているのよ。
成体は汚れているけど、幼体はそこまで酷くはないわ。
牧場で繁殖させた奴なら、最高の逸品だわ』
『牧場・・・』
『私達の里に近い開拓村には牧場があったわ。
高ランクの狩人達が拓いた村よ。
・・・。
あそこの卵を見てごらんなさい』
 土が敷き詰められた檻の中に大きな卵が鎮座していた。
『あれは・・・』
『ワイバーンの卵よ』
『ワイバーンも牧場で・・・』
『ワスバーンは飼育が難しいから無理よ。
産卵しているのを、隙をみて盗んだんでしょうね』
『命懸けだね』
『それだけの価値があるってことよ。
卵でも生薬の原料になるし、
孵化させて飼育に成功すればもっと高く売れる。
幼体は薬効があるし、調教すればワイバーン騎兵の出来上がり』
 檻には卵を温める術式が施されていた。
ゆで卵にするのか、孵化させるのか、それは俺には分からない。

 俺達は本来の目的である妖精を目指した。
やはり、その檻が一番人気であった。
このところ妖精が腕尽くで助け出されているのを知っているだろうに、
この人気。
死にたがりが多いのだろうか。
 檻の中に三人の妖精がいた。
鑑定した。
何れもDランクで二対四枚羽根、アリスと同じペリローズの森生まれ。
三人とも首には小さな小さな【奴隷の首輪】が嵌められていた。
鉄格子そのものにも、妖精の抜け出しを防止する為に、
出入り阻止の術式が施されていた。
 と、こちらに殺気が向かって来た。
テント内を警備しているデミアン・ファミリーの者に違いない。
鑑定した。
先頭の奴がデミアン当人、従うのは配下二人。
デミアンはBランク。
鑑定も探知も持たないが、長年の勘が為せる業なのだろう。
光学迷彩で守られている俺達を目指していた。
目色から勘働きと察した。
 デミアンは来客を怯えさせぬ配慮か、武器は手にしない。
代わりに身体強化して体当たりして来た。
 俺達は妖精を助ける前の騒ぎは歓迎しない。
寸前で隣の檻の上に転移した。
さらに転移、転移。
転移を繰り返してテントの奥の陰に着地した。
 デミアンは勢いをつけすぎたのか、転がっていた。
間の悪そうな顔で辺りを見回し、首を傾げる。
俺達を見失ったと思っているのか、それとも、ただの勘違いと・・・。
奴は妖精の檻の近くに陣取った。
そこから動く気配を見せない。

『どうするの』アリスが奴の存在を懸念した。
『やるしかないだろう』
『暴れて良いのね』
『いつものことだろう』
『そうね』
『ピー、暴れる暴れる』
 この場所からなら問題はない。
契約魔法を起動した。
まず鉄格子に施された術式を解く。
余裕で届く。
解除。
次に『奴隷の首輪』を解く。
途端、三人の首輪が外れた。
音を立てて、床に落ちて転がる。
 妖精を値踏みしていた連中が気付かぬ分けがない。
何しろ目の前の出来事なのだ。
驚きで誰も声がない。
当然、デミアンも気付いた。

 俺は光学迷彩を解いた。
陰から出て、悪党ファッションを人目に晒す。
俺が黒覆面のブラック。
赤覆面の白い子猫がレッド。
青覆面の黒い子猫がブルー。
 俺は魔法使いの杖を片手に、通路にゆっくり進み出た。
レッドは宙を駆けた。
それを追尾するブルー。
 俺に気付いた幾人かが不審な声を上げた。
デミアンもそれに気付いた。
剣帯に下げてる長剣に触れながら、誰何した。
「誰だ、お前」
 デミアンの配下は連携がとれていた。
素早くデミアンの前に飛び出し、何時でも長剣を抜ける態勢を見せた。

 レッドが檻の上に着地して中に向けて話しかけた。
「助けに来たわよ」
 風魔法で鉄格子の一角に穴を開けた。
ブルーが文句を言う。
「ブー、僕の仕事がない」

 デミアンが声を上げた。
「全員集まれ、妖精を奪う連中だ」
 その一声でテント内が騒然とした。
逃げ出す者。
野次馬と化す者。
迷う者。
 デミアン・ファミリーだけは一糸乱れずに集まって来た。
得意の武器を手に、俺を取り囲む一方で檻をも囲む。

 檻から脱出する妖精を目の当たりにして、デミアンが怒鳴る。
「捕えろ、無理なら殺せ」 
 俺より先にアリスが反応した。
デミアンを振り返った。
「殺されるのはお前達だよ」
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昨日今日明日あさって。(解放)168

2020-06-07 07:31:47 | Weblog
 ここは王宮。
国王の執務室は何時にも増して熱を帯びていた。
書類の山、書類の山、書類の山、それはまるで山脈の如し。
その山脈に取り組む国王を補佐する秘書方は通常四名。
全く減らぬ仕事量に音を上げたブルーノ足利が新たな増員を行った。
新規の四名が加わり、八人体制。
ブルーノを含めた九名で山脈を削ろうと奮闘。
結果、一つの山を消した。
 気付くと肝心のブルーノの手が止まっていた。
一件書類に目を落とし、熟慮している様子。
表情が冴えない。
部屋の隅で気配を消していた侍従長がそっと歩み寄った。
「如何いたしました」
「今日、ポールは出勤日か」
「はい、自室で書類を書き上げていらっしゃいます」
「ここの書類を増やすつもりか。
まあいい、急いで呼んでくれ」

 ポール細川子爵が現れた。
「お呼びですか」
 ブルーノは一件書類を指し示した。
「これは卿の提出物か」
 ポールは表記文字を読んだ。
「はい。
私が北方山地に赴いて足で集めた情報と、
依頼した冒険者達が持ってきた情報を合わせ、精査したところ、
そのような結論に達しました」
 我が国と北域諸国との間には険しい大山岳地帯がある。
九州北部から北海道北部にかけて連なる山々で、
俗に北方山地と呼ばれている。
 そこは奥深い自然の要害でもある。
それでも踏破する人々がいた。
初期は商人であり、狩人であり、冒険者であった。
 獣道が踏み固められて街道擬きになると、更に人々が山地に挑んだ。
結果、魔物達の縄張りでない場所が拓かれ、
何処の国にも属さぬ町や村ができた。
 そのような北方山地から不穏な情報がもたらされるようになった。
一つは、とある開拓村の消失。
もう一つは魔物の活性化。
懸念したブルーノはポールに調査を命じていた。

 ブルーノが言う。
「よく調べてある」
「有難う御座います」
「よく検討している」
「有難う御座います」
 ブルーノはポールをジッと見た。
ポールは次の言葉を待つが、聞こえて来ない。
何故か、ブルーノは言葉を溜めている様子。
なので待つことにした。
 居合わせた秘書方も全員が手を止め、二人を見ていた、
それは侍従長も同じ。
部屋が沈黙に包まれた。
破ったのは当然、ブルーノ。
「色々と材料を集めたものだな。
これだけ集められるとは知らなんだ。
・・・。
憶測か当てずっぽうかは知らんが、仮説もなかなか良いと思う。
・・・。
要約すると、北方山地の生態系が崩れた。
それによって、それまで保たれていた魔物のバランスも崩れた。
強者が弱者を駆逐し、人間の領域まで侵すようになった。
その動きが北方山地だけに留まるのか、それとも外に拡散するのか、
そこまでは推し量れない。
これで合ってるか」
「はい」
「木曽の魔物が溢れて大移動を開始したような動きになるのかな」
「どの方向に動くのかが分かりません。
北に向かうのか、西に向かうのか、あるいは東に向かうのか」
「南に向かえば我が国か」
「はい、・・・ワイバーンの縄張りも在りますので、
どのような結果になるのか、全く推し量れません」

 ワイバーン。
ドラゴンの下位種とも、トカゲが巨大化して翼を生やした魔物とも。
飛ぶ魔物なので、どこに向かうかまでは推し量れない。
ブルーノは頭を抱えた。
「そのワイバーンが開拓村の一つを襲ったのだろう」
「はい、村を更地に変えました」
「卿は知ってるか。
最近、上空を飛ぶワイバーンが多数目撃されている」
「はい。
北方山地から来ているのでしょう。
幸い距離が近い事もあり、どこにも着地せず、
そのまま南の海を目指しています」
「どこに向かっていると思う」
「平民達が噂する南の大陸ではないでしょうか」

 ブルーノは一旦、皆を見回した。
それから再びポールを見遣った。
「元凶は妖精の減少にあるのだな」
「土地の噂ではそうです。
ワイバーンの天敵は妖精だそうです。
知ってか知らずか、あるいは性か、
妖精がワイバーンの卵を割って回っているそうです。
対してワイバーンは妖精に何の対抗策も持ちません。
妖精の里すら見付けられないそうです」
「その妖精の天敵は人間か。
発見しだい、捕獲して売買しているそうだな。
このところの妖精騒ぎで初めて知った。
妖精が今だに存在していることも、売買対象であることも。
・・・。
何か打つ手はないか」  

 俺達は庭園に隣接する馬場を見下ろしていた。
中央に巨大なテントがデンと鎮座し、
一際厳しい警戒体制が敷かれていることから、たぶん、これがそう。
オークション会場。
 俺達は光学迷彩を維持したまま、人影のない雑木林に降下した。
風魔法で雑草を掻き分け、通路に出た。
少し進むと巡回中の兵士二人に遭遇した。
道を譲った。
気付かれない。

 オークション会場の内外を探知と鑑定で調べた。
テントの外は冒険者、内側はデミアン・ファミリーとすみ分け。
高ランクもいれば中ランクや低ランクも。
探知や鑑定のスキルを持つ者もいるが、警戒を要する者はいない。
収益との兼ね合いで、高ランクばかりを集めるのは厳しいのだろう。

 俺とアリスは妖精の魔波を探した。
捕えられた妖精が【奴隷の首輪】【魔封じの首輪】を強いられていても、
魔波自体は呼吸のようなもの。
体外に自然に漏れ出るのを妨げる事はできない。
『ダン、いたわ』アリス。
『ああ、三つ、これだな』
『よくこれだけ捕獲したものね』
『妖精は騙し易いんだろう』
『否定できないわね』弱々しい声。
 そのアリスの声音が変わった。
『それとは別の魔波も結構あるわね』
『魔物も扱っているみたいだな。
コールビー、ガゼラージュ、パイア、ヘルハウンド・・・。
怖いもの知らずにも程があるな』
『たぶんだけど、これらの魔物は生薬の材料よね。
乾燥させて、磨り潰すのじゃないかしら』
『へえー、知らなかった。
魔物もそんな使い方があるんだ』
『気味が悪いから禁止されてるけど、裏では流通してるのよ。
スラムの裏店で売ってるわ』
『効能は』
『扱う薬師の腕しだいね』
『と言うことは効くんだ』 
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