金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

(注)文字サイズ変更が左下にあります。

白銀の翼(満月の夜)4

2011-02-27 08:05:42 | Weblog
 『俺』の無駄話が続いた。
いつもに比べて饒舌だ。
何だか満月に思い入れがあるらしい。
 そこで毬子は直球勝負。
「好きな人と満月を見上げていた事でもあるみたいね」
 途端に『俺』の気配が変わった。
どぎまぎ感が伝わってきた。
 毬子は攻め手を緩めない。
「さあ、どうなの」
 『俺』が一呼吸置いて答えた。
「毬子が恋をするような年頃になったら話そう」
「もうお年頃よ」
 すると『俺』が、
「周りにいるのはジャリみたいなお子さんばかりじゃないか。
本物の男が一人もいない。全くいない」と強調した。
 毬子は毎年、何人かに告白されてはいた。
しかし、
「今のところボーイフレンドに興味はないの」とそれらを悉く断ってきた。
気安い男友達が大勢おり、特定のボーイフレンドが特に欲しいとは思わない。
「居候しているわりには私の気持が分からないのね」
「読もうと思えば読める。が、それには危険性が伴う」
「どういう・・・」
「読むという事は毬子の領域に入るという事だ。
この身体は毬子のものだから、
『俺』は領域に入った途端に毬子に吸収されるのじゃないかと心配なんだ」
「少しは試したの」
「いや、そんな気がするんだ」
「すると勘で物を言ってるのね」
「直感は大事だ」
 毬子のうちに意地悪な心が頭を擡げた。
「私に吸収されるのは嫌なの」
「そうは言ってない」
「言ってるのと同じ」
 『俺』の気配が変わった。
「逆に、『俺』が毬子を乗っ取るかもしれない」
 毬子は一瞬、ギクッとした。
「それは嫌。この身体は私の物よ」
 『俺』が愉快そうに笑う。

 連打される太鼓に応えるように項羽軍が二度、三度と鬨の声を上げた。
そして月明かりの下、反項羽連合軍へ向かって進撃を開始した。
敵陣の随所で焚かれている篝火が道標。
それは、まるで飛んで火に入る夏の虫。
 岩から飛び降りた項羽が全軍の先頭に立った。
遅れる事なく虞姫が続いた。
岩陰に待機していた彼女の配下の女兵士達が次々と姿を現わした。
項羽の側近達も配下を率いて後に従う。
 項羽軍の軍太鼓と鬨の声に反項羽連合軍の夜営地がざわめいた。
各陣所で怒鳴り声が飛び交い、右往左往する気配。
 項羽軍十万のうち、夜討ちに出撃したのは僅か三万余。
月明かりがあるとはいえ、こう暗くては同士討ちする危険性がある。
なので少数精鋭とした。
 この地で夜討ちをかけるのは、
一帯の地形に精通しているからに他ならない。
機会が必ず訪れる思い、この地に陣を構えて敵を呼び込んだのだ。
不満なのは夜なので騎馬が使えない事だけ。
 月明かりを浴びているとはいえ、木陰は闇になっていた。
項羽の目がその闇に順応始めた。
従う楚兵達も同じであろう。
地の凹凸に足を取られる事もなく力強い前進を続けた。
 この戦いは項羽軍十万対反項羽連合軍五十万というだけではなかった。
様子見している軍勢も多数いた。
彼等は行軍を遅くして、勝ち馬に乗ろうとしていた。
この夜討ちで敵勢を打ち破れば、彼等が味方に加わる筈だ。
なかには反項羽連合軍から寝返る者も出るかもしれない。
もっとも劉邦も含めてだが、全ては項羽の配下だった者ばかりなのだが。
 ついに敵の最前列が見えてきた。
篝火に軍旗が浮き上がっていた。
元は項羽の一番の配下であった英布の軍ではないか。
 英布は揚州の人で、
罪を犯して刺青を入れられた事から「鯨布」とも呼ばれた人物。
その彼は秦末期には盗賊同然の活動で秦軍を悩ませながら、
じわじわと活動領域を広げていた。
それを叔父の項梁が見出し、男気に惚れて反秦の自軍に誘い、
当陽君の称号までも与えた。
項梁の死後は、項梁の縁から項羽の配下となり、
反秦戦争で陰日向のない働きをした。
とにかく戦に強かった。
自ら先頭に立ち、力攻めをするのだ。
項羽は秦が滅亡するや、それまでの彼の功績に報いる為に九江王とし、
広大な土地を与えた。
それが今や、敵の謀略で離反し、反項羽の一角を担う存在となった。
 英布軍がこちらの接近に気付いたらしい。
怒号が飛び交い迎撃の矢が放たれた。
混乱しているようで無闇矢鱈な方向に飛んでゆく。
 項羽の合図で軍勢が鬨の声を上げ、一斉に駆け出した。
一万が左翼に、別の一万が右翼に、そして項羽率いる一万が中央に。
 項羽方は政治的には劣勢だが、項羽自ら率いる軍は負け知らず。
それを知っているので従う将兵に迷いはない。
敵陣に正面から突入した。
盾を蹴散らし、馬止めの柵を薙ぎ倒す。
 呼応して、先に侵入していた味方が立ち上がった。
各所に火を放って敵陣を掻き乱す。
 加えて、反項羽連合軍五十万というが、左右に広く展開しているので、
一直線に突き進めば、思いの外遭遇する部隊は少ない。
 敵の築いた盛り土の堤に項羽が立ち上がった。
「覇王の項羽である。英布はおらぬか」と大音量で叫んだ。
 英布軍で項羽の顔を知らぬ者はいない。
「あっ、大王様だ」「項羽様だ」と声が上がった。
大将首を取ろうとする気持よりも、恐れ、怯えが先走った。
一人が後退りすると、それが全体に波及した。
軍勢が四散するのに時間はかからない。
 残ったのは英布と僅かな手回りの者だけ。
項羽が一睨みすると英布は苦しそうな顔をした。
おそらく離反した事を恥じているのだろう。
 項羽は、「くるか」と剣を振りかざして挑発した。
しかし、英布は応じない。
深く頭を下げると踵を返して背中を見せた。




東京マラソンですか。
今年は・・・。
ニュージーランドに生き埋めの人達がいるというのに・・・。
騒げないですね。

活き梅を
横目に走る
桜ンナー


マスメデア
稼げるならと
マッチポンプ
恥もなければ
外聞もなし

白銀の翼(満月の夜)3

2011-02-25 21:51:37 | Weblog
 榊毬子が満月を見上げていると、どこからか呼ぶ声がした。
「毬子。どうした、月が珍しいのか」
 庭には、他に人影はない。
呼ぶ声は自分の内側から発せられたもの。
それは毬子以外には聞えない。

 毬子が自分の中の別の存在に気付いたのは、年端も行かぬ頃。
その時は、「毬子、毬子」と呼び掛けられた。
当初は、さして気にも留めず、姿は見えないが楽しい遊び仲間だと思った。
 内側からの声の相手をしていると、他の者達には一人遊びと映ったらしい。
みんなに、「毬子ちゃんは楽しそうに独り言で遊ぶのね」と笑われた。
 毬子は人の噂など気にしなかったが、『それ』は気にした。
「毬子、今度からは頭の中で話そう」と脳内での会話を練習させられた。
お蔭で今は脳内会話に習熟している。
 その副作用として、
『それ』が存在している気配を感じ取る事が出来るようになった。
『それ』は脳内の、使われていない一画に棲んでいた。
その事を毬子が指摘すると『それ』は、
「使われてないし、これからも使う事はないだろう」と笑った。
 ある時、「多重人格」という言葉を覚えた。
意味を知ると、「もしや自分も」と疑った。
すると『それ』が、
「違う、心配するな、俺はある理由から毬子の中に居候しただけだ」と。
「ある理由ってなーに」
「いつか時期が来れば話す」
「ふーん、分かった。約束よ」
「約束だ」
「ところで今、俺って言ったわね。前にも聞いた気がする。ねえ、男なの」
「男だよ。いけないか」
「意外。
今まで言葉使いが荒っぽいとは思っていたけど、まさか男だったとはね」
 驚きはしたが、長い付き合いなので安心感は揺るがない。
 安心感の最も良い例は中学一年になった頃だ。
学校から帰りが遅くなった時、暗がりから不審な男が現れた。
下半身を晒し、「えっへっへー」と近付いて来た。
毬子は初めての体験。頭の中が真っ白となり足が竦んでしまった。
その時『俺』が、「一人じゃない。俺がついてる」と力づけてくれた。
姿は見えないが、声が聞えただけで安心した。
心の底から暖かくなるのが分かった。
足も動く。逃げよう。
 逃げようとする毬子を『俺』が止めた。
「逃げるな。敵に背中を見せるんじゃない」
「敵・・・、相手は変態よ。相手したくない」
「それを聞いたら爺さんが悲しむぞ」
 剣道を教えている祖父は、毬子が何もせずに逃げたと知ると悲しむだろう。
人を打ち倒す為に教えているわけではないだろうが、
こういう場面では、祖父の教えに従えば成すべき事は一つ。
「そんな・・・、木刀はないのよ」
「俺の言うとおりに動けばいい。任せるか」
「・・・」
「悩む暇はない。決断しろ」
 逃げようとするところは誰にも見られてはいない。
しかし、ただ一人、『俺』がいた。
毬子は腹を決めた。
「分かった」
 逃げようとして足を止めた毬子を見て、変態が勘違いした。
「怖いのかい。足が竦んでるようだね。えっへへー」
 歪んだ笑顔で接近して来た。
 『俺』が楽しそうに指図した。
「股間を蹴り上げる。間合いに入るまで待て」
 後は簡単だった。
相手を睨み付けながら半身になって待ち受けた。
変態は警戒はしていない。血走った目で寄って来る。
『俺』の合図で変態の股間を蹴り上げた。
スカートだからか、思うよりも軽快に足が動いた。
足の甲が綺麗に極まる感触。
「げふっ」と変態。あまりの苦痛に身体をくの字に折り曲げた。
 『俺』は容赦がない。
「鞄を振り回して、相手の顔を打て」
 教科書とノートが入っているだけだが、それでも重量は充分。
鞄を思い切り振り回して、角を相手の頬にぶつけた。
「うっ」と変態。体勢を崩して横に倒れた。
 『俺』が満足そうに言う。
「逃げるぞ」
「えっ、どうして。警察には知らせないの」
「面倒だ。走って帰る」
 言われるままに逃げた。
足の動きに合せるかのように、体中を熱い血潮が駆け巡る。
初めての経験だ。
『俺』が満足そうに笑っていた。

 月を見上げながら毬子は『俺』に答えた。
「今日の月は色がやけに鮮やかに見えるの。気のせいかしら」
「たぶん、月で宴会しているんだろう」
「はぁ、誰が」
「かぐや姫達」
「かぐや姫ねえ、・・・何を食べてるのかしら」
 時として『俺』は詰まらない冗談を言う。
「月だけに、兎の丸焼きだろう」




風吹いて、
花粉乱舞す
春日和


花粉の粒が目に飛び込んでくる感触、もう最低です。
痛い、痒い・・・、仕事休みたい。

白銀の翼(満月の夜)2

2011-02-23 20:17:53 | Weblog
 岩の向こうには大量の篝火が焚かれていた。
劉邦の率いる漢軍を中心とした反項羽連合軍であった。
兵力は五十万余。
翼を広げるように左右に展開しているが、
「窮鼠猫を噛む」の喩えから、完全な包囲だけは避けていた。
 項羽の背後には彼の率いる西楚軍、十万余。
こちらも大量の篝火を焚いていたが、篝火の数では明らかに負けていた。
それでも実際の戦闘では連合軍五十万を相手に一歩も退かず、
互角の戦いをしていた。
と言うのは、
楚の荒々しい風土が兵として必要な頑健な体躯と気質を育むことから、
「楚兵一人が他国の兵五人に匹敵する」と評されていた。

 事の発端は秦の始皇帝の崩御にある。
秘められた彼の死は守られる事もなく、たちまちにして全土に広がり、
各地の虐げられた民衆の反乱を誘発した。
加えて、秦に滅ぼされた六カ国の遺臣達も立ち上がった。
 かつて、旧楚軍を率いて秦軍を幾度も撃退しながらも、
無念にも戦死した将軍がいた。
名は項燕。
彼の名は広く全土に知られ、尊敬されていた。
その直系の孫が項羽であった。
 あいにく項羽は幼児期に両親を亡くした。
その孤児となった項羽を手許に引き取ったのが叔父の項梁。
引き取られた項羽は武人として厳しく育てられた。
馬術、弓術は無論、書画の類まで。
その甲斐あってか、文武に秀でる若者に成長した。
しかし、それだけでは済まなかった。
近所の若者達を率いて近在の悪党共と乱闘騒ぎを繰り返す毎日。
一目置かれると同時に、手に負えぬ存在になった。
 そういう甥っ子を項梁は、「それでこそ項家の男」と褒め称え、
けっして叱責する事はなかった。
 項羽が血気盛んな若者に成長した頃に始皇帝が崩御した。
崩御の報が事実と知るや、項梁は項羽を従えて兵を挙げた。
 この時に馳せ参じた老人がいた。
知略家として知られる范僧であった。
彼の言に従い、旧楚の王家の遠縁であった羊飼いの老人を楚王に祭り上げ、
正統な楚軍として楚の若者達を動員した。
勿論、実際の大将は項梁。
 その項梁が途上で戦死するや、楚軍は混乱した。
それを乗り切ったのが項羽。
渦巻く軍内部の陰謀を武力で断ち切り、
当然のように楚軍の大将の座に就いた。
 軍を掌握するや、項羽は果敢な攻めに出た。
秦軍の大将軍率いる大軍を次々に打ち破り、
その実力を各地の反乱軍に見せ、武力でもって彼等を従えた。
日に日に膨れ上がる項羽率いる反秦連合軍。
そうなると秦の都に攻め上るのに時間はかからない。
瞬く間に関中に攻め入り、秦を滅ぼした。
 ところが項羽は、関中を手に入れたものの秦の都には関心がなかった。
「事が成ったので楚に帰国したい」という思いだけが強かった。
そこで、自ら「西楚の覇王」と宣言するや、
勝手に始皇帝の一族を皆殺しにし、
功績のあった反秦連合軍の将軍達を諸侯に任じ、それぞれに領地を与えた。
そして都を焼き払って楚へ帰国した。
 名目上の主である楚王を憚って「西楚の覇王」と名乗ったのだが、
項羽が新しい天下の主である事は周知の事実。 
しかし、数多くの火種は残っていた。
 その最たるものは項羽への恐れであった。
ことに反秦連合軍の将軍達には、その傾向が強かった。
「自分達も秦のように滅ぼされるのではないか」と疑心暗鬼になっていた。
 なにしろ項羽は「我が道をゆく男」。
他人の言に耳を貸さず、独断専行を常とした。
加えて、率いる楚軍は恐ろしいくらいに強い。
褒賞として各地に封じられたものの、これでは項羽の気分次第で、
一旦事あれば各個撃破される危険性があった。
 そういう空気を察知した項羽は、名目上の主、楚王の隔離を図った。
楚王が不穏な空気に誘われて野心を抱かぬように先手を打ったのだ。
なにしろ楚王には前歴があった。
王としての権威を示したかったのか、それとも気紛れか、
秦の都に攻め上るに際して、
「関中に一番乗りした者を関中王にする」と約した。
事前に項羽に何の相談もなく、
大勢の将軍、武将の面前で発言してしまったのだ。
名目上とはいえ王の発言である。
取り消しが出来るわけがない。
その件で一騒動となり、項羽は劉邦の恨みを買ってしまった。
 そこで今回は楚王を政治に関わらせぬ為に僻地の城に軟禁しようとした。
警護を任せたのは項羽の配下で最も信頼のおける英布。
「この際ですから、途中で捻り殺しましょうか」と英布。
しかし項羽は、
「そういうのは好かん。殺したくなったら正面から攻め殺す」。
 ところが僻地へ向かう途中、
武装集団に襲われて楚王が暗殺されてしまった。
険しい山道で、英布の軍列が間延びしたところを狙われたのだ。
襲撃側の何人かを討ち取ったが、犯人の正体は分からずじまいであった。
 この暗殺の報は全土を震撼させた。
そして誰もが当然のように、「犯人は英布で、黒幕は項羽」と噂した。
そういう風に項羽と楚王の関係は見られていたのだ。
「項羽打倒」の檄文が出回るのに時間はかからなかった。
 真っ先に挙兵したのは斉の田栄であったが、
他の諸侯は誰一人として彼の陣には参じなかった。
田栄が斉の旧王族で、古くからの家臣が大勢いた為、
諸侯は手垢のついてない人物を求めた。
野から出て、項羽とは正反対の徳があり、自分達を高く買ってくれる人物。
福耳を持つ劉邦がそれであった。
かくして漢王劉邦と西楚の覇王項羽の漢楚戦争が始まった。
 項羽は、劉邦が出撃する度に打ち破った。
何度も何度も打ち破った。
それでも劉邦本人の首は取れなかった。
逃げ足が速いというか、危険を嗅ぎ取る才があるというか。
 不思議な事に劉邦の側は負けても負けても兵士が増えてゆく。
味方する諸侯も増えてゆく。
全ては劉邦側の人材の成せる技。
軍師の張良、韓信、陳平の三人が知略の限りを尽くし、
大衆の糾合、諸侯の説得、悉くを成功させた。

 こうやって劉邦と対峙するのは何度目だろう。
項羽は敵陣の篝火から頭上の満月に視線を戻した。
「奴の逃げ足の早さは韋駄天並みだな」と呟けば、
虞姫が、「でも今夜は逃がさない。必ず、討つ」と応じた。
 その語気の強さに項羽は思わず振り向いた。
彼女は言霊を信じている。
今夜は言霊の力を借りて、自らの手で劉邦を討ち、
言葉を実現させるつもりのようだ。
彼女の出撃を思いとどまらせようとした時、
二人の立つ岩の下から声がした。
「そろそろ頃合いかと」
 聞き慣れた声の主は側近の宋文。
精鋭を夜陰に紛れて敵陣に侵入させたのだ。
 項羽は背後の岩陰に声をかけた。
「太鼓を打て」
 岩陰の楚の軍太鼓が打たれた。
ドーン、ドーン、ドーンと、間隔を置いて三発。夜空に大きく響き渡った。
そして間を置いて規則正しい連打が始まった。




面白い記事を見つけました。
二月二十二日、東京新聞の「こちら特捜部」のコーナーです。
『江戸の空にスカイツリー』とありました。
江戸の浮世絵師が隅田川を描いた風景画のなかに、
どう見てもスカイツリーとしか考えられない搭があるのです。
火の見櫓でも、相撲櫓でもありません。
埋め立て地なので、井戸掘りの櫓でもなさそうです。
はてさて・・・。
作者、歌川国芳。
絵は「東都三つ股の図」。
国芳の没後百五十年となる三月あたりに、
企画展を予定しているそうです。

白銀の翼(満月の夜)1

2011-02-20 09:18:25 | Weblog

新作を開始します。
今回もあまり深くは練っていません。
物語のテーマとか・・・色々考えても、
前回同様、物語の進行と同時に筋が変わるからです。
それに、長くなるのか、短くなるのか、それも分かりません。
たぶん、長くなるとは思うのですが・・・。
なので先に謝ります。
時間がかかりそうでゴメンナサイ。

それでは「白銀の翼」を始めます。





 体育館にボールを打つ音が響いた。
バレーボールのスパイクだ。
それがコートの隅ぎりぎりにインした。
床を直撃するボールの小気味よい音と同時に、
授業とは思えぬ黄色い歓声が上がった。
 三年三組と四組の女子の合同体育の授業。
クラスメート同士でチームを作って対戦していた。
 コートの一方には三組の榊毬子のチームがいた。
味方がサーブを打った。
まるで天井サーブ。
狙ったというより、力を入れ過ぎたのだろう。
「あーぁ」という溜息ともつかぬ歓声。
それでも運良く相手方のコートに落ちてゆく。
 相手チームの後衛にはバレー部の女子がいた。
彼女が死んだように落ちてくるボールを巧みなレシーブで掬い上げ、
前衛に戻した。
相手チームの前衛は授業とは思えぬ連携で、移動攻撃をみせた。
Cクイック。
たぶん、いや絶対、まぐれだろう。
 相手チームのスパイクを、味方後衛のレフトが辛うじてレシーブ。
続く前衛のセンターが必死になって、何とかヘロヘロのトスを上げた。
コントロールされてないせいか、ボールはコートの中央。高さだけは充分。
 後衛ライトの毬子がアタックライン手前から、
「任せて」と再びジャンプした。
長身でスレンダーな体付きは非力に見えるが、意外にもバネがあった。
「バレー部の選手か」と見紛わんばかりの高さまで跳躍した。
ボールを目で捉えながら、身体を弓のように反らせた。
宙で身体の軸を安定させ、半身を捻りながら右腕を振るう。
肘を効率的に使い、手首のスナップを効かせてボールを打った。
コントロールされた打球が勢いづいて相手方コートに飛んでゆく。
 着地した毬子の豊かな胸が揺れた。
キリッとした顔立ちで髪は無造作なショート。
胸さえ小さければ、「まるで美少年」かと見間違えそう。
生来の明るい性格と天然ボケで、
男子生徒ばかりでなく女子生徒にも好かれていた。
 後衛センターの野上百合子が、
「マリ、ジャンプする度に胸が外れそうになるね」と囁いた。
 毬子は、「分かる。重い、重い」と照れ笑い。
「少しは私に分けて貰いたいよ」
 百合子は名前通りに映える顔立ちだが、
身体付きは地味にもホッソリとしていた。
「分けられる物なら交換しようか。私はアンタの脳味噌が欲しい」
 いつも成績上位に名を連ねる百合子に比べ、
毬子は読書三昧で、教科の点数はバラツキが激しく、
常に下位に甘んじていた。
「たまには教科書も読みなよ」
 ここは東京、駒込の私立美波高校。
校名は傍にある美波神社に由来した。
文武の両立を目指し、実際、文は都内でも知られる有数の進学校であった。
 ただ、武では、「スポーツは他人との繋がりを学ぶに最適な手段」と、
スポーツの強豪校になるより、対人関係に主眼を置いていた。
なので、それぞれのクラブの戦績は思わしくはない。
それでも授業が終わりクラブ活動の時間になると、
校庭や体育館が人で溢れる。
 その賑わいを横目に毬子は下校して行く。
部活で擦れ違う男子生徒が声を掛けてきた。
「お婆ちゃんは元気か」
同じ中学出身なので毬子の家の事情は知っていた。
「元気過ぎるよ。ありがとう」
 毬子の家は歩いて行ける距離にあった。
駒込の隣の巣鴨。
山手線に駒込駅、巣鴨駅とあるが、乗って通学した事はない。
同じ巣鴨の中学出身者達も徒歩か自転車だ。
 榊家は巣鴨の旧家で、山手線沿いに居を構えていた。
年代を感じさせる木造の門構え。
手入れの行き届いた生垣と広い庭。
その奥の古くて小さい日本家屋がそれだ。
毬子と祖母の二人暮らしなので、それでも広く感じる。
 幸い、昔に敷地の一画を交番用地として譲渡していたので、
今も律儀に交番があり、女二人暮らしでも何の心配もいらない。
 祖母、紀子はもうじき八十歳になろうかという高齢にも関わらず、
通いのお手伝い、重子さんと一緒になって忙しそうに働いていた。
「ジッとしているとボケちゃうわ」と。
力仕事は重子に任せ、「細かい軽い仕事を選んで」というか、
無理して仕事を見つけている感じがした。
ボケもあるが、何かしてないと手持ち無沙汰なのだろう。
 夕食のメインは「カレイの煮付け」。
祖母の健康を考慮して薄味だが、若い毬子にも充分に美味い物だった。
重子の味付けで失敗策を見たことがない。
「家庭料理の達人」と言ってもいいだろう。
 日が暮れるのを待っていたかのように毬子が庭に出た。
手には木刀が握られていた。
芝生に素足で立ち、木刀を青眼に構える。
 初めて木刀を手にしたのは物心がついた頃。
二年前に亡くなった祖父の手作りの短い物であった。
 道場には通った事がない。
師が祖父だったからだ。
若い頃、学生剣道で鳴らしたと言う祖父が、手取り足取り教えてくれた。
晴れた日は芝生で、雨の日は広間で休みなく毎日続けられた。
お蔭で身体は至極健康。風邪一つ引いた事がない。
 木刀を振り続けていた毬子は位置取りを替えた際、頭上の月に気付いた。
満月で、黄色いような、橙色のような色彩に彩られていた。

 男は大きな岩の上で仰向けとなり、満月を見上げていた。
 その傍に女が歩み寄って来た。
「ここにいたの」
長身の女で、
戦場にも関わらず豊かな胸が強調される衣服を身に纏っていた。
それを注意されると、「戦場で色香に迷うようでは駄目でしょう」と笑う。
長い黒髪を風に棚引かせながら、
立ち姿勢のままで、同じように月を見上げた。
 やおら男が立ち上がった。
女より頭一つ高く、筋骨隆々たる体躯の持ち主。
姓は項、名は籍、字は羽。
みんなには項羽の呼び名で知られていた。
 女は、姓は虞、名は佑、字は桂。
彼女も同様に、虞美人、虞姫として広く知られていた。
「妖しげな色の満月ね」
「どう見る」
「前途は辛いものになりそうよ」
 項羽は虞姫を振り向いた。
彼女は方術家の生まれながら仙術を得意とした。
時には占術をも良くし、その結果を躊躇うことなく直言する。
「それでも付いて来るのか」
 虞姫は答え代りに笑顔を見せた。
片笑窪が何とも愛らしい。




それにつけても菅首相にはガッカリです。
世襲議員の首相が続き、飽き飽きしていた時に出現したのが管さん。
市民活動家出身というので期待していたのですが、
どうやら権力欲だけの古い政治家だったようです。

売り物の
熟議国会で
未熟晒す

カンカラカ
ああカンカラカ
カンカラカ

金色の涙(おわり)309

2011-02-09 23:01:27 | Weblog
 哲也が狐達を引き連れ、駆けて来た。
「大丈夫か」と哲也がヤマトを気遣った。
 彼等には透明の塊である「金色の涙」は見えない。
それでも何かしらの存在は感じているのだろう。
なかでも哲也とぴょん吉は火炎の中心をキチンと捉えていた。
 「金色の涙」は黒猫ヤマトとして答えた。
「大丈夫とは言えないね。身体を無くしちゃったし」
 安堵したように哲也が言う。
「それでも生きてるから安心したよ」
 続けて哲也は狐狸達に指示を飛ばした。
「生首を若菜の元に運べ」
 若菜が大手門前で九郎と於福、黒太郎の遺体を集め、
荼毘に付す準備をしている筈だ。
狐狸達は一斉に頷くと勝ち鬨を上げ、生首を抱きかかえた狸を真ん中に、
結界を維持しながら若菜の元に駆けて行く。
 ぴょん吉が深刻そうに問う。
「例の光体はどうした」
「胴体の中で足掻いているね」
「三体とも胴体にいるのか」
「数までは分からないよ」
「すると生首の方にも」
「いたとしても、結界で封じているから問題ないと思う。
そのまま焼いてしまえば消滅する筈だよ」
「こちらの胴体は」
「オイラが焼く」
 予想したように白拍子から首を斬り離すや、その身体から力が消滅した。
白銀の光も消え、衣服に火が点いた。
 すると体内で蠢く物達が慌てだした。
悲鳴であり、怒号でもあった。
解析すると、それぞれに波動が違った。
「金色の涙」は鞍馬の時の三体の波動を覚えていたので、比較照合を開始した。
 結果は直ぐに出た。
運の良い事に三体とも胴体に潜んでいるではないか。
 三体の脱出行動に合せて首の切口を火炎で塞いだ。
その熱さに動揺する三体。
実体は火に強かったが、光体は火に弱いらしい。
三体は何の抵抗もせずに後退した。
 「金色の涙」は佐助の様子が気になった。
片手に小太刀を持ったまま、ジッと突っ立っていた。
おそらく、白拍子の最後の言葉、
「佐助、ありがとう」に頭を痛めているのだろう。
そこで声を掛ける事にした。
「佐助、小太刀の先が折れてるよ」
 白拍子の首を斬り離すや否や切っ先が音もなく折れた。
それに佐助は気付いていなかったようだ。
 投げられた言葉に佐助は驚いて小太刀を持ち上げた。
そして、「これは・・・」と呟いた。
無念そうに頭を左右に振った。
「ヤマト、これはどうした訳だ」
「たぶん、寿命なんだろう」
「そうか、寿命か。・・・、ヤマト、あれで良かったのか」
「於雪の事かい」
「そう。最後の言葉が、何やら引っ掛かる」
「最後の最後に於雪が正気に戻って言った言葉なら、オイラも聞いたよ。
『佐助、ありがとう』だろう。
あれには何の嘘偽りもない。だから、あれで良かったんだよ」
「本当に、・・・。
最後に正気に戻ったのなら、何も斬る必要はなかったのじゃないか」
「違う。怨霊の身を成仏させたんだ。於雪も感謝している」
 「金色の涙」は己の意志とは別に、
火力が勝手に勢いを増してゆくのに気付いた。
白拍子の胴体を包む炎が一回り大きくなった。
火炎に同化する兆しなのか。
不安に駆られて周りの者達に注意を喚起した。
「みんな、急いで離れてくれ」
 残っていたのは哲也、ぴょん吉、佐助、それに万一に備えていた慶次郎。
二人と二匹。
彼等は「金色の涙」の声の様子から危機感を覚え、急ぎ離れた。
 哲也が問う。
「この辺りでいいか」
 離れたが、それでも普通に声が届く距離だ。
彼等はヤマトから遠くへ離れる気はないらしい。
「いいよ」
「でも、どうした。何か始まるのか」
「オイラにも分からないんだ」
 「金色の涙」の中での解析も思うように進まない。
先が全く見通せない。
ただ火炎の勢いが、更に強くなるのだけは分かった。
 「金色の涙」は慶次郎に呼び掛けた。
「五右衛門に会ったら、
『ヤマトの身体を壊して済まぬ』と伝えてくれるかい」
「それはいいが、・・・」
 次ぎに佐助に。
「若菜に、『済まぬ』と伝えてくれないか」
「自分で言えないのか」
「たぶん、・・・」
 そして、ぴょん吉に。
「京に戻ったら徳川屋敷の白猫、カエデに、
今日までの経緯を伝えてくれると助かるのだが、頼めるかい」
「白猫のカエデ、・・・」
 矢継ぎ早に言った。
詳しく説明する暇はないと思ったからだ。
そして、その通りだった。
危惧したように、それが始まった。
一挙に火炎が膨れ上がり、白拍子の胴体を巻き込んだままで宙に浮き上がった。
人家の二階ほどの高さまで浮き上がり、停止した。

 夜空の星の燦めき。
星明かりに反射して、寄せては帰すさざ波。
そんな自然な光景のなか、宙で燃える火炎の塊が妖しい波動を生じ始めた。
 突然、火炎の真ん中辺りに小さな黒い影が浮き出た。
小さな影は明らかに丸い穴。
 それは大質量、高密度の、他では類を見ない特異な穴だった。
黒い穴が、自分よりも大きな火炎を吸収し始めた。
白拍子の胴体だろうが、「金色の涙」だろうが全く苦にしない。
まるで水でも飲むかのよう吸い込まれてゆく。
「金色の涙」は仲間達に最後の言葉を伝えようとしたが、
それすらも吸い込まれた。
 漆黒の世界が目の前に広がっていた。
光が射さず、音すらしない世界。
上も下もないが、磁場が安定しているので安堵した。
落ちる心配がない。
これなら生存出来るかも知れない。
 「金色の涙」は時空を飛ぶ感覚を思い出した。
そっと身体を動かして確証を得るや、前進を開始した。
まずはこの漆黒の世界の全体を知らねばならない。
 黒い穴は、「金色の涙」と白拍子を吸い込むと、現れた時と同様、
いきなり消えた。

 ここは京都の徳川屋敷。
離れの縁側に敷かれた座布団に白猫が身を横たえていた。
雌猫で名はカエデ。
 座布団は徳川の重臣、本多忠勝が白猫の為に用意させたものだ。
忠勝は白猫カエデと黒猫ヤマトの仲を知ると、
「ふかふかの座布団が欲しい」と出入りの商人に頼んで取り寄せ、
縁側に敷かせた。
そして、「白猫カエデ以外の者、使用すべからず」と布令を出した。
 忠勝は優しい。
カエデが人の言葉を喋れる事は彼一人の腹にしまい、
何かと世話を焼いてくれた。
理由を聞くと、「ヤマトに貸しを作るだけだ。心配するな」と笑った。
 ふかふかの座布団は寝心地が良かった。
カエデは夜風に頬を撫で回されながら、遠くに見える月を眺めていた。
 今、この屋敷は空屋敷も同然。
というのは、江戸からの急使で「関東の一揆勃発」を知らされると、
徳川家康は豊臣秀吉に目通りし、帰国の許しを得た。
そして在京、在阪の全ての兵を集めて江戸に急いだ。
 その先鋒を買って出たのは忠勝。
一揆勃発の知らせを聞くやいなや、
「それがしが一足先に物見に出ます」と単騎で屋敷を飛び出した。
 そういう分けで、この屋敷には少数の老兵と、
口喧しい女中達しか残っていなかった。
 月を眺めていたカエデは顔を強張らせた。
腹部に痛み。
内部から蹴られた。
宿している子に違いない。

 ここは難波より京に通じる間道。
月明かりを浴びて一人の男が京に向かっていた。
夜道を歩くには理由があった。
お尋ね者なので表だって歩けないのだ。
 名は石川五右衛門。
この足運びなら、夜更けには京の隠れ家に入れるだろう。
 と朧気ながら、かなり前方に幾つかの人影を見つけた。
彼等は五右衛門の姿に気付くと左右の木陰に分かれた。
 安穏とはしていられない
待ち伏せの気配が濃い。
どうやら前回同様、自分の行動が京都所司代に筒抜けらしい。




ようやく終了しました。

読んでくれて、ありがとう。





金色の涙(その名を囁かば)308

2011-02-06 10:14:17 | Weblog
 白拍子は火炎の隙間に敵の姿を見つけた。
精悍な顔立ちの男で、大柄な身体で軽々と跳躍して来た。
男は片手に持つ刀で彼女の首を薙ごうとした。
 彼女は男と視線を合わせた。
人斬りに慣れた目をしていたが、それだけではなかった。
微かにだが彼女に対する憐憫の情が感じ取れた。
何故なんだろう。見知らぬ男に同情されるとは。
 男の刀が首に伸びてくるが、彼女は対処のしようがなかった。
火炎が彼女の全身に絡み付いていたからだ。
それはまるで生きた蛇の様。
彼女が脱出しようとする行為を寸前に見抜いて、自在に動いて制止する。
なかでも両腕は完全に封じられていた。
なので、彼女は両足を肩幅に開いて立っているので精一杯。
火炎から逃れる術はなかった。
 彼女は首に力を入れる以外に手がなかった。
しかし意地でも男から目は逸らさない。
グッと睨み付けた。
 白刃が容赦なく首に伸びて来た。
激しい衝撃。
だが、喰い込む様子は無い。
逆に弾き返す手応え。
 喉元の細い骨の一本も折れてはいないらしい。
改めて自分の身体の頑丈さに驚かされた。
驚きは相手も同じらしい。
驚愕の目で彼女を見返しながら、体勢を崩して、
砂浜に転がるように落ちていった。
 それを見ながら彼女は無意識に呟いた。
「慶次郎」と。
次々と名前が思い浮かぶ。

 佐助は慶次郎が砂浜に転がり落ちるのを横目に跳躍した。
ヤマトに、「一番手は技と力を兼ね備えた慶次郎だよ。
戦で鍛えた腕を見せてもらうよ」
「佐助が二番手なのは、けっして腕を軽んじているわけじゃないからね。
一番手には囮の役目もある。
慶次郎が於雪の目を引き付けている間に佐助には続いて欲しい」と。
 一の矢が慶次郎で、二の矢が佐助。
あまりにも少なすぎる勝負の矢。
その最後の矢が放たれた。
 小柄な佐助が宙で体勢を整えた。
火炎の隙間からの白拍子の視線をしっかりと受け止めた。
彼女は絶体絶命の立場であるにも関わらず、慌てている様子は全く無い。
それどころか佐助に対する殺気も、微塵も感じ取れない。
諦めたのか、・・・。
 宙にある佐助は身体の中心を軸とし、片手に構えた小太刀を振るう。
その小太刀が清らかな鈴の音を響かせた。
佐助の小太刀は「李淵の剣」。魔を断つ力を秘めていた。
 白刃が鈴の音を響かせながら火炎を潜り抜け、白拍子の首筋に喰い込んだ。
そして紙でも切るかのように、スイッと首を斬り離した。
 その寸前に発せられた白拍子の言葉を聞き逃さない。
「佐助、ありがとう」
 一瞬、宙を舞う白拍子の顔が笑顔に見えた。
着地した佐助は呆然と、その生首の行方を目で追った。
砂浜に落ちようとしていた。
 落ちてきた生首を受け止めたのは一匹の狸。
波打ち際で、両の前脚でしっかりと抱きかかえた。
それを見て、周りにいた狸達が素早く結界を張った。
外からの侵入に備えたのではなく、内からの脱出を封じる為だ。
 ヤマトが、
「鞍馬で吸収した三つの光体が、切口から解き放たれるかもしれない。
生首の切口か、胴体の切口からかは分からない。
だから、その双方を封じる必要があるね。
オイラは胴体を封じるよ。
みんなには、生首の方を封じて欲しい」と狸達に言っていた。

 火炎を操っていた「金色の涙」は、生首は狸達に任せ、
自分は残された胴体に集中した。
亡骸を解析すると内部で蠢くものがあった。
おそらく光体であろう。
 雷鬼、銀鬼、鬼の血に依存する吸血鬼のバロン。
その三つは鞍馬の戦いで実体を失い、光体となったのだが、
昔から近くの木の枝に腰掛けていた怨霊に吸収されてしまった。
そして生まれたのが白拍子の実体。
 胴体に残っているのが幾つの光体かは分からないが、
解き放たれたとすれば必ず脱出を図る筈だ。
となれば脱出口は切口しかない。




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 相撲の八百長が問題になっていますが、
そんな些細な事より、「相撲は何か」が問題でしょう。
勝負に徹したスポーツなのか、
プロレスのような興業なのか、
それとも本来の神事なのか。
 そして「国技」という冠。
本拠を「国技館」と名付けたので、そういう流れになったのでしょうが、
けっして国技と認められているわけではありません。
それでは弓道、剣道や茶道に申し訳ないです。
華道、香道、蹴鞠にも。

金色の涙(その名を囁かば)307

2011-02-02 22:37:57 | Weblog
 白拍子が跳び上がろうとするところを狐火が直撃した。
ヤマトの体内に「金色の涙」が居候していれば、何事も起こらなかった筈だ。
いつもだと狐火に癒されるだけで、猫の身体は無傷であった。
しかし今、猫の身体は「金色の涙」が解凍したことによって、
急激な膨張で張り裂けてしまった。
「金色の涙」から切り離された猫の血肉は魔猫、猫又の残骸でしかない。
それは魔物を退治する狐火の絶好の獲物。
血肉に狐火が着火した。
 時空を舞う龍は小技として火炎を口から吐く。
その為、龍のDNAを持つ「金色の涙」は、
龍の実体ではないので実際の火炎は放てないが、火とは親和性があった。
猫の血肉に着火し燃え盛る炎は不純な火であり、癒しの力は秘めていない。
それでも今の「金色の涙」には充分過ぎた。
己の透明の塊の外皮に火炎を纏い、適度な風を巻き起こして炎に勢いを与えた。
すると、たちどころに大きな炎となった。
そして、その炎を己の身体の一部とし、自在に操った。
手始めに跳び上がろうとした白拍子を押し止め、
続けて蛇が蜷局を巻くように彼女の全身に巻き付いた。
 思っていたように白拍子は手強い。
火炎ごときでは倒せそうにない。
衣服すら燃やせないのだ。
巻き付いて締め付けるので精一杯。
どうにか足止めだけはした。

 白拍子の意志とは無関係に、白銀の光が彼女を守ろうとしていた。
巻き付く火炎を内側から断ち切ろうと力を増す。
 白拍子本人は為す術がなかった。
あまりにも火炎の締め付ける力が強く、
剛力を持ってしても太刀打ち出来なかった。
幸いなのは炎で焼けない事か。
 あの黒猫が焼け死んだと思っていたら、この始末。
彼女は、「黒猫は焼け死んだのではなく、炎と一体化した」と理解した。
火炎の内側の気配と黒猫の気配が同じなのだ。
寸分の狂いもない。
こうなると火炎の弱まるのを待つしかない。

 ここが勝負所。
「金色の涙」は締め付ける力に全力を注いだ。
そして数カ所で白銀の光を打ち破った。
 と、背後に多数の気配。
身体を失った今は後ろを振り返えらなくとも、
そのままの姿勢で四方八方を見る事が出来た。
 人と獣が砂浜を巧みな足捌きで駆けて来た
先頭には前田慶次郎。
刀を肩に担ぎ持ち、鋭い眼光で駆けて来た。
「この機を逃しては白拍子を討てない」と。
 慶次郎は状況を読んだ。
ヤマトが、「おそらくオイラは炎と一体化している。
だから、どこを斬られても死ぬことはない」と言っていた。
その言葉通りに黒猫の姿は失せ、
代わって目の前にいるのは白拍子に絡みつく妖しげな炎。
 一気に跳躍した。
火炎の隙間に垣間見える白拍子の首を斬り捨てようと刀を薙いだ。
何の抵抗もなく炎を通り抜けた刀が彼女の首に当った。
手首を痛めんばかりの激しい衝撃。
刀が弾き返されてしまった。




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 宮崎、霧島噴火。
昔、昔、そのまた昔。
霧島に登ったことがあります。
登山というよりはハイキングコースで、
健常者であれば誰にも登れる山でした。
それが大噴火とは・・・。
 これまた昔、昔ではなく、つい数年前。
霧島山の大噴火をモデルにした本を読みました。
うろ覚えですけど、
作家は石黒・・・。
たしか作品名は「死都日本」・・・。
面白い本でしたけど、それが現実になるとは・・・。

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