十日も過ぎた頃、王宮から迎えが来た。
復旧を終えたそうだ。
王妃様自身が馬車で迎えに来られた。
イヴ様が大喜びでベティ様に飛びついた。
「かえれるの」
「そうよ、待たせたわね」
「うれしい」
笑顔で送り出す俺達を振り返り、その表情が曇った。
「にゃ~ん、キャロ、マーリ、モニー、シェリー・・・」言葉が怪しくなった。
ついには大粒の涙をこぼす。
「いやー、いやー」泣き始めた。
ベティ様が困った顔で俺達を見た。
頼られても俺に為す術はなし。
すると、キャロルがイヴ様の所に歩み寄った。
「イヴ様、私達はずっとずっと、友達ですから」
「ほんとうに、ほんとう」
マーリンやモニカ、シェリルも歩み寄った。
俺も遅れじと後に続いた。
シェリルが代表して良い笑顔で別れを告げた。
「イヴ様、いつまでも友達ですわよ」
「やくそくよ、やくそく」一人一人とハグをした。
イヴ様は最後に俺の首に抱きついた。
「にゃ~ん、にゃ~ん」俺は猫か。
ただただイヴ様の頭をなでなでした。
王宮のそれからの動きは早かった。
国王陛下の死亡を隠蔽する為、
「反乱軍との戦闘で負傷なされました。
ついては長期のご静養が必要です」と偽りの公表がなされた。
続け様に評定衆の一部入れ替え。
省庁の大幅な人事移動。
そして国王陛下不在の間、
「王妃と管領、評定衆、その三者によって王政を共同運営する」と発表。
異論には耳を貸さず、強行された。
それで終わりではない。
一連の騒ぎを鎮める功績のあった者達への論功行賞が行われた。
中でも特に目をひいたのはレオン織田子爵。
伯爵に陞爵し、直ちに尾張の織田伯爵家を継ぐことになった。
実父であるフレデリー織田伯爵は国都にて隠居。
嫡男は廃嫡の上、継承権喪失。
次男も継承権を失った。
一方では多くの貴族や商家に処罰が下された。
反乱を起こした公爵家、ワイバーンの卵に関わった公爵家、
合わせて三家が爵位と財産を取り上げられた。
三家の騒ぎに参加した貴族や商家、幇助した家々、
彼等も同様に断罪された。
逃れた者も大勢いるので、それらは指名手配され、賞金がかけられた。
当然、国王陛下の実弟である公爵二人の賞金は最高額。
冒険者ギルドや傭兵ギルドだけでなく、裏社会も付け狙うだろう。
反乱を起こした公爵二人が逃げ込んだ伯爵二家、
そこへの通告がなされた。
バーナード今川公爵の正室の生家・島津伯爵家。
カーティス北畠公爵の正室の生家・尼子伯爵家。
「直ちに捕らえ、領内の駐屯地に引き渡すように」
現地の国軍駐屯地だ。
ただし兵力は心許ない。
予算の都合で各地方の国軍兵力の上限は2000名。
伯爵家が反乱に組すれば一日で踏み潰される。
この様な事態になると、現地の国軍は踏み絵の様な存在でしかない。
醜い大人の争いをよそに、俺はのんびりしていた。
貴族社会が混乱しているので、幼年学校の休校が続いているのだ。
何もやる事がない。
そこで俺は学校の寮を出ることにした。
この決定に屋敷の者達は、そりゃ~大喜びさあ。
執事・ダンカンや執事見習い・コリン、従者・スチュアートが率先して、
引っ越し作業を行った。
引っ越しと言っても大した量じゃない、お粗末様。
荷馬車の荷台が寂しかった。
勿論、寮のダンジョンコアの子供コアも引っ越した。
深夜、誰もいない時に自室の天井に設置し直した。
秘匿する為に術式も施した。
掃除好きのメイドでも見つけられだろう、たぶん。
急な引っ越しだったので眷属の二人は大激怒。
アリスは俺の鼻先を突っついた。
『先に言いなさいよ』
『プー、言うんだぞ』ハッピーがお腹にアタック。
俺が悪い理由が分からない。
二人がダンジョンに籠っていた為、連絡がつかなかっただけ。
えっ、ダンジョンコアで転移できるだろうって。
そっ、そう、そうだな。
完全に失念していた。
転移ではなく、二人を。
二人は完全な放し飼い状態なので、存在は頭の片隅にしかなかった。
まあ、そこは内緒、内緒。
俺は謝り倒してやった。
今日は傭兵団『赤鬼』と冒険者クラン『ウォリアー』、
二つとの契約が切れる日だ。
お昼に彼等全員を集めて、今日までの仕事ぶりを労うパーティにした。
人数が多いので立食パーティ。
料理は言うまでもなく、酒もふんだんに並べた。
「今日までご苦労様、皆がいて、とても助かった。
色々あったけど、これを縁に、
これからは何かあれば真っ先に声をかけさせてもらう。
あっ、断らない様に。
依頼受領中だったら、仕方ないけどね。
・・・。
みんなもご存知の様に、このところの世間様は、きな臭い。
もし何か起これば、一発で火が燃え広がる。
それに巻き込まれたら、この屋敷を頼って欲しい。
出来るだけの事はする。
・・・。
目の前に御馳走が並べられてると、長い挨拶は嫌われます。
だから、ここまでにします。
楽しんでください。
ただし、二本足で歩いて帰れる様に、お酒はほどほどにね」
俺はこの僅かの期間に大人になったのか、思うよりも喋れた。
口上手のスキルが生えたのかも知れない。
これで俺も社会の荒波のサーファーさあ。
それはさて置き、みんな喜んでくれた。
俺の挨拶にではない。
格テーブルに並べられた料理や酒にだ。
「よっしゃ、食ったるでー」
「そこのフロッグレイドのフライをくれ」
「ここの飯は美味いな、今日でお終いか」
「おいお前、その酒だ、こっちに寄越せ」
「なにぬかす、こいつは滅法高い奴だ、お前には飲ません」
「独り占めは拙いだろう、仲間じゃないか」
盛り上がってる、盛り上がってる。
企画倒れにならず俺はホッとした。
完璧を期すなら後は俺が消えるだけ。
この様な場に上司的な存在の俺は邪魔なのだ。
彼等の前から消える事にした。
そんな俺の前に二人が来た。
傭兵団の団長と冒険者クランの団長だ。
揃って頭を下げた。
「情報、ありがとうございました」
俺は彼等の今後の活動が心配になって、情報の収集を行った。
実際に行ったのは眷属二人。
丁度いい時に二人が帰って来たので、これ幸いと頼み込んだ。
『お願いします、アリス様、ハッピー様』
『ふん、頼まれてやるわよ』
『パー、お仕事、お仕事』
主に王宮に侵入してもらった。
集められた情報で意外な王宮の裏事情が分かった。
「これから一番美味しそうな依頼が、
傭兵ギルドや冒険者ギルドに提出されます。
反乱を起こした前公爵二人の討伐への従軍です。
西国へ二つの討伐軍が派遣されます。
一つは島津伯爵家に対するもの。
もう一つは尼子伯爵家に対するもの。
・・・。
二つの伯爵家が前公爵二人を差し出したとしても、決定は覆りません。
既に部隊編成が進んでいるからです。
兵糧も搔き集められています。
伯爵家も巻き込み、前公爵もろとも殲滅するつもりです。
・・・。
表向きは反乱軍の討伐ですが、裏があります。
王家は貴族を磨り潰す様です。
今回の騒ぎで日和見していた貴族の大半が討伐軍に加えられました。
名のある将官や官僚も含まれています、が、勘違いしてはいけません。
彼等も磨り潰しの対象なのです。
その討伐軍が傭兵ギルドや冒険者ギルドに従軍依頼を提出します。
超高額な依頼になります。
でも決して受けないで下さい。
確実に死にますよ」
復旧を終えたそうだ。
王妃様自身が馬車で迎えに来られた。
イヴ様が大喜びでベティ様に飛びついた。
「かえれるの」
「そうよ、待たせたわね」
「うれしい」
笑顔で送り出す俺達を振り返り、その表情が曇った。
「にゃ~ん、キャロ、マーリ、モニー、シェリー・・・」言葉が怪しくなった。
ついには大粒の涙をこぼす。
「いやー、いやー」泣き始めた。
ベティ様が困った顔で俺達を見た。
頼られても俺に為す術はなし。
すると、キャロルがイヴ様の所に歩み寄った。
「イヴ様、私達はずっとずっと、友達ですから」
「ほんとうに、ほんとう」
マーリンやモニカ、シェリルも歩み寄った。
俺も遅れじと後に続いた。
シェリルが代表して良い笑顔で別れを告げた。
「イヴ様、いつまでも友達ですわよ」
「やくそくよ、やくそく」一人一人とハグをした。
イヴ様は最後に俺の首に抱きついた。
「にゃ~ん、にゃ~ん」俺は猫か。
ただただイヴ様の頭をなでなでした。
王宮のそれからの動きは早かった。
国王陛下の死亡を隠蔽する為、
「反乱軍との戦闘で負傷なされました。
ついては長期のご静養が必要です」と偽りの公表がなされた。
続け様に評定衆の一部入れ替え。
省庁の大幅な人事移動。
そして国王陛下不在の間、
「王妃と管領、評定衆、その三者によって王政を共同運営する」と発表。
異論には耳を貸さず、強行された。
それで終わりではない。
一連の騒ぎを鎮める功績のあった者達への論功行賞が行われた。
中でも特に目をひいたのはレオン織田子爵。
伯爵に陞爵し、直ちに尾張の織田伯爵家を継ぐことになった。
実父であるフレデリー織田伯爵は国都にて隠居。
嫡男は廃嫡の上、継承権喪失。
次男も継承権を失った。
一方では多くの貴族や商家に処罰が下された。
反乱を起こした公爵家、ワイバーンの卵に関わった公爵家、
合わせて三家が爵位と財産を取り上げられた。
三家の騒ぎに参加した貴族や商家、幇助した家々、
彼等も同様に断罪された。
逃れた者も大勢いるので、それらは指名手配され、賞金がかけられた。
当然、国王陛下の実弟である公爵二人の賞金は最高額。
冒険者ギルドや傭兵ギルドだけでなく、裏社会も付け狙うだろう。
反乱を起こした公爵二人が逃げ込んだ伯爵二家、
そこへの通告がなされた。
バーナード今川公爵の正室の生家・島津伯爵家。
カーティス北畠公爵の正室の生家・尼子伯爵家。
「直ちに捕らえ、領内の駐屯地に引き渡すように」
現地の国軍駐屯地だ。
ただし兵力は心許ない。
予算の都合で各地方の国軍兵力の上限は2000名。
伯爵家が反乱に組すれば一日で踏み潰される。
この様な事態になると、現地の国軍は踏み絵の様な存在でしかない。
醜い大人の争いをよそに、俺はのんびりしていた。
貴族社会が混乱しているので、幼年学校の休校が続いているのだ。
何もやる事がない。
そこで俺は学校の寮を出ることにした。
この決定に屋敷の者達は、そりゃ~大喜びさあ。
執事・ダンカンや執事見習い・コリン、従者・スチュアートが率先して、
引っ越し作業を行った。
引っ越しと言っても大した量じゃない、お粗末様。
荷馬車の荷台が寂しかった。
勿論、寮のダンジョンコアの子供コアも引っ越した。
深夜、誰もいない時に自室の天井に設置し直した。
秘匿する為に術式も施した。
掃除好きのメイドでも見つけられだろう、たぶん。
急な引っ越しだったので眷属の二人は大激怒。
アリスは俺の鼻先を突っついた。
『先に言いなさいよ』
『プー、言うんだぞ』ハッピーがお腹にアタック。
俺が悪い理由が分からない。
二人がダンジョンに籠っていた為、連絡がつかなかっただけ。
えっ、ダンジョンコアで転移できるだろうって。
そっ、そう、そうだな。
完全に失念していた。
転移ではなく、二人を。
二人は完全な放し飼い状態なので、存在は頭の片隅にしかなかった。
まあ、そこは内緒、内緒。
俺は謝り倒してやった。
今日は傭兵団『赤鬼』と冒険者クラン『ウォリアー』、
二つとの契約が切れる日だ。
お昼に彼等全員を集めて、今日までの仕事ぶりを労うパーティにした。
人数が多いので立食パーティ。
料理は言うまでもなく、酒もふんだんに並べた。
「今日までご苦労様、皆がいて、とても助かった。
色々あったけど、これを縁に、
これからは何かあれば真っ先に声をかけさせてもらう。
あっ、断らない様に。
依頼受領中だったら、仕方ないけどね。
・・・。
みんなもご存知の様に、このところの世間様は、きな臭い。
もし何か起これば、一発で火が燃え広がる。
それに巻き込まれたら、この屋敷を頼って欲しい。
出来るだけの事はする。
・・・。
目の前に御馳走が並べられてると、長い挨拶は嫌われます。
だから、ここまでにします。
楽しんでください。
ただし、二本足で歩いて帰れる様に、お酒はほどほどにね」
俺はこの僅かの期間に大人になったのか、思うよりも喋れた。
口上手のスキルが生えたのかも知れない。
これで俺も社会の荒波のサーファーさあ。
それはさて置き、みんな喜んでくれた。
俺の挨拶にではない。
格テーブルに並べられた料理や酒にだ。
「よっしゃ、食ったるでー」
「そこのフロッグレイドのフライをくれ」
「ここの飯は美味いな、今日でお終いか」
「おいお前、その酒だ、こっちに寄越せ」
「なにぬかす、こいつは滅法高い奴だ、お前には飲ません」
「独り占めは拙いだろう、仲間じゃないか」
盛り上がってる、盛り上がってる。
企画倒れにならず俺はホッとした。
完璧を期すなら後は俺が消えるだけ。
この様な場に上司的な存在の俺は邪魔なのだ。
彼等の前から消える事にした。
そんな俺の前に二人が来た。
傭兵団の団長と冒険者クランの団長だ。
揃って頭を下げた。
「情報、ありがとうございました」
俺は彼等の今後の活動が心配になって、情報の収集を行った。
実際に行ったのは眷属二人。
丁度いい時に二人が帰って来たので、これ幸いと頼み込んだ。
『お願いします、アリス様、ハッピー様』
『ふん、頼まれてやるわよ』
『パー、お仕事、お仕事』
主に王宮に侵入してもらった。
集められた情報で意外な王宮の裏事情が分かった。
「これから一番美味しそうな依頼が、
傭兵ギルドや冒険者ギルドに提出されます。
反乱を起こした前公爵二人の討伐への従軍です。
西国へ二つの討伐軍が派遣されます。
一つは島津伯爵家に対するもの。
もう一つは尼子伯爵家に対するもの。
・・・。
二つの伯爵家が前公爵二人を差し出したとしても、決定は覆りません。
既に部隊編成が進んでいるからです。
兵糧も搔き集められています。
伯爵家も巻き込み、前公爵もろとも殲滅するつもりです。
・・・。
表向きは反乱軍の討伐ですが、裏があります。
王家は貴族を磨り潰す様です。
今回の騒ぎで日和見していた貴族の大半が討伐軍に加えられました。
名のある将官や官僚も含まれています、が、勘違いしてはいけません。
彼等も磨り潰しの対象なのです。
その討伐軍が傭兵ギルドや冒険者ギルドに従軍依頼を提出します。
超高額な依頼になります。
でも決して受けないで下さい。
確実に死にますよ」