金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

(注)文字サイズ変更が左下にあります。

昨日今日明日あさって。(大乱)213

2021-04-25 10:37:55 | Weblog
 十日も過ぎた頃、王宮から迎えが来た。
復旧を終えたそうだ。
王妃様自身が馬車で迎えに来られた。
イヴ様が大喜びでベティ様に飛びついた。
「かえれるの」
「そうよ、待たせたわね」
「うれしい」
 笑顔で送り出す俺達を振り返り、その表情が曇った。
「にゃ~ん、キャロ、マーリ、モニー、シェリー・・・」言葉が怪しくなった。
 ついには大粒の涙をこぼす。
「いやー、いやー」泣き始めた。
 ベティ様が困った顔で俺達を見た。
頼られても俺に為す術はなし。
すると、キャロルがイヴ様の所に歩み寄った。
「イヴ様、私達はずっとずっと、友達ですから」
「ほんとうに、ほんとう」
 マーリンやモニカ、シェリルも歩み寄った。
俺も遅れじと後に続いた。
シェリルが代表して良い笑顔で別れを告げた。
「イヴ様、いつまでも友達ですわよ」
「やくそくよ、やくそく」一人一人とハグをした。
 イヴ様は最後に俺の首に抱きついた。
「にゃ~ん、にゃ~ん」俺は猫か。
 ただただイヴ様の頭をなでなでした。

 王宮のそれからの動きは早かった。
国王陛下の死亡を隠蔽する為、
「反乱軍との戦闘で負傷なされました。
ついては長期のご静養が必要です」と偽りの公表がなされた。
続け様に評定衆の一部入れ替え。
省庁の大幅な人事移動。
そして国王陛下不在の間、
「王妃と管領、評定衆、その三者によって王政を共同運営する」と発表。
異論には耳を貸さず、強行された。
 それで終わりではない。
一連の騒ぎを鎮める功績のあった者達への論功行賞が行われた。
中でも特に目をひいたのはレオン織田子爵。
伯爵に陞爵し、直ちに尾張の織田伯爵家を継ぐことになった。
実父であるフレデリー織田伯爵は国都にて隠居。
嫡男は廃嫡の上、継承権喪失。
次男も継承権を失った。

 一方では多くの貴族や商家に処罰が下された。
反乱を起こした公爵家、ワイバーンの卵に関わった公爵家、
合わせて三家が爵位と財産を取り上げられた。
三家の騒ぎに参加した貴族や商家、幇助した家々、
彼等も同様に断罪された。
逃れた者も大勢いるので、それらは指名手配され、賞金がかけられた。
当然、国王陛下の実弟である公爵二人の賞金は最高額。
冒険者ギルドや傭兵ギルドだけでなく、裏社会も付け狙うだろう。

 反乱を起こした公爵二人が逃げ込んだ伯爵二家、
そこへの通告がなされた。
バーナード今川公爵の正室の生家・島津伯爵家。
カーティス北畠公爵の正室の生家・尼子伯爵家。
「直ちに捕らえ、領内の駐屯地に引き渡すように」
 現地の国軍駐屯地だ。
ただし兵力は心許ない。
予算の都合で各地方の国軍兵力の上限は2000名。
伯爵家が反乱に組すれば一日で踏み潰される。
この様な事態になると、現地の国軍は踏み絵の様な存在でしかない。

 醜い大人の争いをよそに、俺はのんびりしていた。
貴族社会が混乱しているので、幼年学校の休校が続いているのだ。
何もやる事がない。
そこで俺は学校の寮を出ることにした。
この決定に屋敷の者達は、そりゃ~大喜びさあ。
執事・ダンカンや執事見習い・コリン、従者・スチュアートが率先して、
引っ越し作業を行った。
引っ越しと言っても大した量じゃない、お粗末様。
荷馬車の荷台が寂しかった。
 勿論、寮のダンジョンコアの子供コアも引っ越した。
深夜、誰もいない時に自室の天井に設置し直した。
秘匿する為に術式も施した。
掃除好きのメイドでも見つけられだろう、たぶん。

 急な引っ越しだったので眷属の二人は大激怒。
アリスは俺の鼻先を突っついた。
『先に言いなさいよ』
『プー、言うんだぞ』ハッピーがお腹にアタック。
 俺が悪い理由が分からない。
二人がダンジョンに籠っていた為、連絡がつかなかっただけ。
えっ、ダンジョンコアで転移できるだろうって。
そっ、そう、そうだな。
完全に失念していた。
転移ではなく、二人を。
二人は完全な放し飼い状態なので、存在は頭の片隅にしかなかった。
まあ、そこは内緒、内緒。
俺は謝り倒してやった。

 今日は傭兵団『赤鬼』と冒険者クラン『ウォリアー』、
二つとの契約が切れる日だ。
お昼に彼等全員を集めて、今日までの仕事ぶりを労うパーティにした。
人数が多いので立食パーティ。
料理は言うまでもなく、酒もふんだんに並べた。
「今日までご苦労様、皆がいて、とても助かった。
色々あったけど、これを縁に、
これからは何かあれば真っ先に声をかけさせてもらう。
あっ、断らない様に。
依頼受領中だったら、仕方ないけどね。
・・・。
みんなもご存知の様に、このところの世間様は、きな臭い。
もし何か起これば、一発で火が燃え広がる。
それに巻き込まれたら、この屋敷を頼って欲しい。
出来るだけの事はする。
・・・。
目の前に御馳走が並べられてると、長い挨拶は嫌われます。
だから、ここまでにします。
楽しんでください。
ただし、二本足で歩いて帰れる様に、お酒はほどほどにね」
 俺はこの僅かの期間に大人になったのか、思うよりも喋れた。
口上手のスキルが生えたのかも知れない。
これで俺も社会の荒波のサーファーさあ。
それはさて置き、みんな喜んでくれた。
俺の挨拶にではない。
格テーブルに並べられた料理や酒にだ。
「よっしゃ、食ったるでー」
「そこのフロッグレイドのフライをくれ」
「ここの飯は美味いな、今日でお終いか」
「おいお前、その酒だ、こっちに寄越せ」
「なにぬかす、こいつは滅法高い奴だ、お前には飲ません」
「独り占めは拙いだろう、仲間じゃないか」

 盛り上がってる、盛り上がってる。
企画倒れにならず俺はホッとした。
完璧を期すなら後は俺が消えるだけ。
この様な場に上司的な存在の俺は邪魔なのだ。
彼等の前から消える事にした。
 そんな俺の前に二人が来た。
傭兵団の団長と冒険者クランの団長だ。
揃って頭を下げた。
「情報、ありがとうございました」
 俺は彼等の今後の活動が心配になって、情報の収集を行った。
実際に行ったのは眷属二人。
丁度いい時に二人が帰って来たので、これ幸いと頼み込んだ。
『お願いします、アリス様、ハッピー様』
『ふん、頼まれてやるわよ』
『パー、お仕事、お仕事』
 主に王宮に侵入してもらった。
集められた情報で意外な王宮の裏事情が分かった。

「これから一番美味しそうな依頼が、
傭兵ギルドや冒険者ギルドに提出されます。
反乱を起こした前公爵二人の討伐への従軍です。
西国へ二つの討伐軍が派遣されます。
一つは島津伯爵家に対するもの。
もう一つは尼子伯爵家に対するもの。
・・・。
二つの伯爵家が前公爵二人を差し出したとしても、決定は覆りません。
既に部隊編成が進んでいるからです。
兵糧も搔き集められています。
伯爵家も巻き込み、前公爵もろとも殲滅するつもりです。
・・・。
表向きは反乱軍の討伐ですが、裏があります。
王家は貴族を磨り潰す様です。
今回の騒ぎで日和見していた貴族の大半が討伐軍に加えられました。
名のある将官や官僚も含まれています、が、勘違いしてはいけません。
彼等も磨り潰しの対象なのです。
その討伐軍が傭兵ギルドや冒険者ギルドに従軍依頼を提出します。
超高額な依頼になります。
でも決して受けないで下さい。
確実に死にますよ」
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昨日今日明日あさって。(大乱)212

2021-04-25 07:45:35 | Weblog


ごめん、前の日曜日に212をアップした筈なんです。
でも、なかったですね。
今、気付きました。
本日は二つ、アップします。
ちょっと間を空けてからね。
ごめん。



 結局、俺はただの子供だった。
迂闊な是認はできない。
「僕では返事できません」
 ポール様はにこりん。
「わかった。
私の方で実家と話を詰める。
それでいいね」
「はい。
あっ、寄親の伯爵家を通さなくていいのですか」
 尾張地方の寄親は織田伯爵家。
ここを無視して話を進めると、後で色々と揉めるのは確定。
顔を立てるのが渡世の義理だろう。
「そちらも私に任せてもらおう。
そうそう、レオン織田子爵とは顔馴染みだったね」
「はい。
僕の陞爵パーティーにおいで頂きました」
「ここだけの話だが、そのレオン殿が近々、織田家を継ぐ」

 話が見えない。
レオン殿は確かに織田伯爵の子息だが、嫡男ではない。
正室の子でも側室の子でもない。
伯爵が家臣の娘に気まぐれに手をつけ、生まれた子。
運が良いのか悪いのか、正室や側室よりも先に生まれた子。
家臣の娘であったために有耶無耶にはできなかった。
なので所謂、庶長子。
 実父のフレデリー織田伯爵は後継問題が発せぬ様に、
家臣の家で生ませて、隠して育てさせた。
面会すらない。
だけではない、小細工をした。
レオンが成人するや別家を立てさせ、伯爵家から切り離した。
レオン織田男爵家。
 それが隣接する美濃地方で発生した魔物の群れ騒動で手柄を立てた。
木曽の大樹海から発した魔物の群れの大移動を阻止し、
壊滅に導くのに一役を買ったのだ。
功績を認められて陞爵し、子爵となった。
レオン織田子爵家。
 レオンは確たる地位を得た。
国王陛下のお気に入り子爵様。
それ以前に買っていた者もいた。
隣接する美濃地方の当時の寄親・バード斎藤元伯爵が、
別家を立てたレオン男爵に末娘を嫁がせていた。
評定衆に席を得たバード斎藤侯爵の後ろ盾もあり、今や無双状態。

 僕は素直に疑問を口にした。
「はあー、有り得ないですよね」
 織田伯爵家には嫡男もいれば次男もいる。
今はその二人は事情があって尾張には不在だ。
が、後継者には違いない。
ポール様が鼻で笑った。
「ふっ、君は忘れたのかな。
今の尾張には後継者がいない」
 理屈は分かる。
嫡男はレオン殿への嫉妬に駆られたのか、兵を上げた。
長年の懸案である伊勢地方との国境争いを解決すべく、大軍を編成し、
次男を帯同して伊勢に攻め入った。
そして罠に嵌り、捕虜となり抑留されている。
次男も同様である。
「まだ二人を引き取っていないのですか」
「子息二人の身代金に捕虜全員の身代金、それに加えて、
損害賠償金、罰則金、手柄を上げた自領の者達への褒賞金、
合わせると1000万ドロン金塊で20000本になるそうだ。
払えると思うかい」
 どう考えも国家予算に匹敵する。
俺はこの国の国家予算は知らんけど。
「100年の分割払いで」
「はっはっは、それはない。
当てにならない」
「裏で二人だけ引き取る交渉をしているんじゃないですか」
「断られているよ。
それに二人だけ引き取ることはない。
捕虜になった将兵や、その家族の恨みを買う」

 俺は子供なので解決策が思い付かない。
便利だね、子供って。
困ったら大人に丸投げだ。
大人のポール様が得意げに言う。
「今回は王家が介入する事にした。
伊勢地方の寄親は王家に近しい。
そして加えて、レオンは王家の覚えも目出度い。
仲介するに越したことはない」
 俺は黙ってポール様の言葉を待った。
「尾張に王家の使者を送った。
今は返事待ちだ。
まあ、拒否はしないだろう。
嫡男と次男だ。
1000万ドロン金塊20000本もある」
「継いだとして、レオン殿に払えるのですか」
「払える。
鉄鋼ゴーレムがある」
「鉄鋼ゴーレムですか、それが」
「今時、あの様なゴーレムを造れる者は存在しない。
君は見ていないから知らないだろうが、あれは脅威だ」
「これまでも鉄鋼ゴーレムは造られていた筈ですが」

 ポール様は言葉を選んで語られた。
「あれらとは物が違う。
全く違う。
動きがスムーズだ。
木偶の坊ではなく、プレートアーマーの騎士に近い動きをする。
術式と操作する者の腕もあると思うが、とにかく凄い。
あれならオークとかオーガは敵じゃない。
一撃で葬れる。
超一級品の鉄鋼兵だ。
・・・。
王家はレオンに鉄鋼ゴーレム製造を依頼した。
大量の金属を必要とするから超高価になるが、
これほど心強い兵士はいない。
順次、近衛軍に正式配備して行く。
一隊に一機だ」
 ようやく俺は理解した。
要約すれば、王家がレオンの保証人になる、そう言うことだろう。
「鉄鋼ゴーレムの凄さは分かりました。
たぶん、それで伊勢地方も納得するんでしょうね。
でもポール様はそれで良いんですか」
「なにが」
「レオン殿を嫌っている様な気がしたんですが」
「顔に出てたか」
「パーティーの時にそんな感じがしました」
「そうか。
私もまだ未熟だな。
嫌いと言うより苦手だな。
感性が違う。
美的なものが近いようで遠い。
永遠に交われない気がしてならない。
まあ、そこは大人同士、私から歩み寄るよ。
全ては王家の為だ。
この事はレオン殿には内緒だ」
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昨日今日明日あさって。(大乱)211

2021-04-13 06:56:34 | Weblog
 俺は動揺しながらも、慌てずに釈明した。
「陛下の怪我の状態については、とても質問しづらく・・・、
差し控えよう、そう判断しました」
 ポール様の表情が微妙に変化した。
「自分では、それなりに答えを持っているわけだ」
「はい、それなりに・・・」
 ボール様の右顔は猜疑心、左顔は好奇心。
「聞きたいね」
 俺はそれでも抵抗した。
具体的に口にしていい場合と、しない方がいい場合がある。
今回の正解はしない方だろう。
「勝手な憶測をするより、王宮からの公式発表を待とうと思います」
 ポール様は苦笑いされた。
「ふっ、まあいい。
ところで街中の噂はどうだね」
「皆の関心は元公爵お二人の動向です。
生きているのか、死んでいるのか」
「二人とも、しぶとく生きてる。
家族を連れて西へ逃れた」

 西へか。
逃れた先の予想はつく。
王弟・バーナード今川元公爵は正室の実家を頼り、
島津伯爵家へ落ちのびた。
王兄・カーティス北畠元公爵も正室の実家を頼り、
尼子伯爵家へ落ちのびた。
島津伯爵家は薩摩地方、大隅地方、薩南諸島の寄親。
尼子伯爵家は岩見地方の寄親。
共に西方の九州と山陰の有力者。
両家の地力は侮れない。
畿内より遠く離れているので、匿い、知らぬ存ぜぬを押し通すだろう。

 俺はポール様に尋ねた。
「討伐軍の噂を聞きません。
そのあたりは、どうなっているのですか」
「今はそれどころではない。
優先すべき事が沢山ある」
「討伐軍よりもですか」
 ポール様は当然とばかりに頷かれた。
「このままでは、もっと沢山の血が流れる。
国土も荒れる。
それを収めるのは刀槍ではない。
政治だ。
敵味方双方との駆け引きで治めるのが、もっとも賢いやり方だ」

 現状で国王陛下の死亡を公表すれば、
他の公爵家や王族の血族が黙ってはいない。
元凶が第一位王位継承権者、第二位王位継承権者、その両者なのだ。
それ以下の継承権を持つ者達が我先に手を上げる。
それらの縁戚に繋がる多くの者達もこれ幸いと狂喜乱舞、
王位を巡って暗躍する。
確実に大混乱に陥る。
かくなる事態を回避する為に、敢えて公表を控えているのだろう。
 でも俺は、うがった見かたもした。
王妃様は既得権益を優先した。
王妃様の一粒種の王女・イヴ様はまだ成人していないので、
王位継承権そのものがない。
成人したとしても女性であることから継承権は低い。
そこで王妃様は陛下の死を伏せ、既得権益者である評定衆と組み、
時間を稼いで内を固める。
権力を確実に掌握してからイヴ様を女王に祭り上げる。
そういう構想を抱いているのではないかと疑った、
 正解かどうかは分からないが、共通の敵の存在は欠かせない。
敵があれば内を纏めやすいからだ。
それが元凶公爵家二家への討伐軍が発せられない理由だろう。

 全く分からないのが反乱軍の出方だ。
彼等は国王陛下の死を知っていた。
何しろ手を下したのは王兄のカーティス北畠公爵自身。
下した上に棺桶に入れて保管していた。
 どういう出方をするのだろう。
自ら兄を殺したと公表するのだろうか。
否、それはない。
王妃様の側にとっては大きな痛手だが、
かと言って反乱軍に有利に働くか・・・。
働かない。
「兄殺し」の汚名しかない。
継承権を持つ者や王族に非難されるだけ。
多くの貴族も承服し難いだろう。
 王宮を占拠して政権を奪取すれば、病死として処理できたのだが、
失敗した今、口を閉ざすしかない。
王妃様の側が公表すれば、無関係を貫くしかない。

 何はともあれ気の毒なのは国王陛下だ。
おそらくは、腐敗させぬ為に氷魔法で保存されているのだろう。
棺桶の中でカチンカチンに。
政治の適切な頃合いをみて自然解凍されるのだろうが・・・。 
思案に暮れていたら、ポール様に呼ばれた。
「佐藤子爵、聞こえているか」
「はっ、すみません、色々考えていました」
「しようがないな。
今回の恩賞の話だ」
「恩賞ですか」
「気が向かない話か」
「はい。
特例で子爵になって一年も経っていません。
これで恩賞をいただいたら・・・、周りの目が・・・」
 ポール様が裏のない笑みを浮かべられた。
「私や王妃様もそこを心配している。
しかし君は今回の件では手柄を立てた。
一つ、イヴ様を守り切った。
二つ、独自の判断で評定衆に書状を送り、王妃様を側面から支援した。
この二つで大きく貢献した。
それは功績第一等にも相応しい。
・・・。
君の懸念も分かる。
大人達の嫉妬を買いそうだからな。
下手すると後ろから撃たれる、足を引っ張られる。
それが心配なんだろう」
「はい」
「商売人ではないが、後払いでいいか」
「なくても構いません。
子爵の先は伯爵しかありませんので」
「そうか、伯爵か」

 ポール様は暫し考えられた。
そして尋ねられた。
「君の実家、佐藤家本家は田舎に隠棲するのが望みだったね」
「はい、政治には関わりたくないそうです。
それは元家臣の村人達も同様です」
「でも商売は嫌いじゃないだろう」
 俺は先が読めなかった。
どうして今、村の話。
この人、何を考えているのだろう。
「その方向で村は生きて行くと思います」
「よかった。
君の功績は佐藤家本家へ送ろう」
「それは困ります。
本家が目立ちます」
「勿論、目立たぬ様にする。
貴族に取り立てる事はしない。
・・・。
佐藤家本家の村は三河大湿原に面していたね」
「はい。
三河大湿原の獣を警戒して距離はありますが、間には町も村も、
他家の領地もありません」
「よかった。
尾張地方に面する一帯を王家の狩場とし、佐藤家に管理を委託しよう。
当然、年に数回は獲物を献上してもらう」
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ごめん。

2021-04-11 05:20:11 | Weblog
 ごめん。
急用ができたのでお休みします。
あっ、体調不調ではありません。
入院もしません。
元気です、たぶん。
今週中にアップします。
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昨日今日明日あさって。(大乱)210

2021-04-04 06:43:37 | Weblog
 王妃軍が王宮を実効支配する様になって十日が過ぎた。
外郭の反乱軍残党も掃討し、事態を鎮静化させた。
けれど国都の空気は重い。
ワイバーン襲来に次いでの反乱。
ワイバーンの後始末に反乱の後始末が上乗せされた。
終える目処がつかない。
貴賤に拘わらず人心に等しく疲弊をもたらした。
 経緯が公開されれば人々も少しは安心できると思うのだが、
何等の説明もなされない。
小出しにもされない。
噂だけが流布するのみ。
人々には疑問、不安だけが積み重なっていた。

 俺の手元にも正確な情報が入らない。
情報収集をしていた眷属が機能していないのが痛い。
脳筋妖精・アリスとダンジョンスライム・ハッピー。
二人して、王妃軍が勝利するや、人間の争いには飽きたと公言し、
ここのところ姿をみせていない。
おそらく、ダンジョンの魔改造に専念しているのだろう。
うちの眷属、自由すぎる。
 俺が王宮へ出仕できれば情報収集ができるだが、
生憎とお子様子爵、王宮への出仕そのものができない。
もっとも、現在は成人していても自由に王宮の門は潜れない。
事前に予約し、承諾を得る必要がある。
規制の理由は、反乱軍への対処。
反乱軍の首謀者である公爵二人が生存している状況では頷ける話。
おかしくはない。
おかしくはないのだが、正確な情報が欲しい。

 俺は応接室に入った。
上座の椅子を従者・スチュワートが引いてくれた。
それに俺は腰を下ろした。
背後に執事・ダンカンが控えた。
 下座で立って迎えてくれるのは大人七人。
子爵軍小隊長・ウィリアム。
傭兵団『赤鬼』団長・アーノルド倉木。
その副団長・ドリフ。
同じく会計係・ジュード。
冒険者クラン『ウォリアー』団長・ピーター渡辺。
その副官・テッド。
同じく会計係・ウォルター。
 俺はウィリアムを見た。
彼が深く頷いた。
事前の話し合いは了解に達していた。
俺は全員を見回し、椅子に腰を下ろす様に勧めた。
「さあ、座って。
問題がない様だからお茶にしよう」

 ワゴンを押してメイド達が入って来た。
俺は差し出された紅茶を飲んだ。
温い、甘い、子供の舌には丁度いい。
皆の手元のお茶が入れ替えられた。
コーヒー党もいれば緑茶党もいる。
メイド達はそれぞの好みを承知していた。
一つの間違いなく入れ替えた。
俺が飲み終えたのを見て、ピーターがコーヒーを手元に置いた。
「子爵様、契約の継続、ありがとうございます」
 アーノルドも同様に言う。
彼等とは十五日間の契約であったが、延長をお願いした。
「こちらこそ助かります。
ウィリアムが説明した様に、イヴ様を預かっているのです。
新たに雇い入れるのは、ちょっと躊躇います。
こちらの事情を知って変な奴に入り込まれては困りますからね。
特に反乱軍に繋がりがある者。
・・・。
それに、何故かお二人はイヴ様に好かれていますからね」
 団長の二人、ピーターとアーノルドはイヴ様に懐かれていた。
仕事の合間に何時も何時もイヴ様を肩車していた。
幼女に好かれるのもリーダーの素質なのだろうか。
アーノルドが言い訳した。
「子爵様がお忙しいので、代わりに肩車をせがまれているだけです」
 二人を支える副団長と会計係は苦笑い。
「ですよね」
「顔は怖いのに、イヴ様は怯みませんね」
「私の子供は団長を見ると泣きます」
「私も最初、団長の顔を見たら泣きました。
大の大人でも怖いですもんね」

 表門の門衛が慌てた顔で入室して来た。
「王妃様が参られるそうです」
 屋敷を訪問されるのは二回目だ。
目的は勿論、イヴ様。
暗殺対策として、先触れは当日、直前。
ポール細川子爵家の馬車に同乗して王妃様が入られる。
勿論、護衛にも怠りはない。
ポール細川子爵家の騎士に扮した近衛騎士団が帯同しているのだ。

 俺達はお茶を中断して本館を飛び出した。
その目の前を馬車が通り過ぎた。
到着が早過ぎるだろう。
そんな俺の気持ちは置いてけぼりで、馬車は内庭を通過、
噴水の前のコンコースでようやく止まった。
 供周りの騎士たちが次々に下馬し、警護の為に散開した。
女性騎士四騎が馬車のドアの前に整列した。
指示一つもないのに、目に鮮やかなテキパキした動き。
鍛えられている。

 先にポール様が馬車から降りてベティ様をエスコート。
何やら二人して顔色が悪い。
明らかに疲れが溜まっている。
今にも倒れそう。
 理由は分かる。
国王陛下の死は秘されている。
けれど国政は待ってはくれない。
秘したまま、王妃と国王陛下の最側近がその重責を担っているのだろう。
たとえ評定衆の助言があるとはいえ決断するのはプレッシャー。
俺ならそんな立場はごめんだ。
まあ、そんな立場とは無縁だけど。
二人に同情した。

 散開した騎士の一人が声を上げた。
「こちらにイヴ様がおられます」
 途端、ベティ様の表情が変わった。
目が光を得た。
早い足取りで声の方へ向かわれた。
花壇の方でイヴ様が遊ばれているのだろう。

 ポール様が俺の方へ歩いて来た。
「お邪魔するよ」
「いいえいいえ、イヴ様もお喜びでしょう」
「ベティ様は疲れていらっしゃる。
先に君に挨拶するのが筋だが、目を瞑ってくれ」
「構いません。
事情が事情ですから」
 ポール様は疲れを隠そうともしない。
「疲れた。
立っているのも歩くのもキツイ。
馬車の中で座って話をしようか」
「はい」断る理由はない、が、ダンカンへの、
「皆様にお茶を振舞って。
馬車には二人分」指示も忘れない。
 はあ、俺ってお貴族様・・・。

 ポール様の疲労は重そうだ。
深々と座席に腰を下ろされた。
「ふー、疲れたよ」
「大変そうですね」
「ほんとう、大変だよ。
それはそうと・・・」言葉を切られて、俺に視線を向け、
「もう少し、イヴ様を頼む。
後宮の修復は優先度が低い。
どうしても王政を司る建物が優先される」と頼まれた。
「理解してます」
「たすかるよ」またもや言葉を切られ、俺を観察する様に繁々と見て、
「一つ尋ねたい」と言われた。
「どうぞ」
「前回の訪問時もそうだったけど、
君は国王陛下に関しては一切、質問しないね、どうしてだい」
 死亡は眷属の二人が確認している。
だから敢えて尋ねなかった。
それが、こうなるとは・・・。
最側近は疲れていても手強い。
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