続けて、「許しません」と響いた。
マリリンは思わず足を竦ませた。
つわものである呂布、褚許、華雄三人さえも身を強張らせた。
怒りには精一杯の感情が込められていた。
四人揃って足を止め、振り向いた。
彼女の怒りの矛先は四人にではなかった。
劉麗華達に向けられていた。
姫五人は勝手にマリリン達の後に付き、武器庫に向かおうとしていた。
どうやら共に戦場に赴くつもりらしい。
次期当主の怒りに触れ、姫五人が青ざめた。
五人揃って俯いた。
互いに目を合わせようともしない。
劉芽衣が五人を睨み付けた。
「貴女達、何を考えているの。
貴女達に武芸を授けているのは戦場で役立てる為ではないのよ。
あくまでも方術修行の一環なのよ。
分かっているの」
俯いたままの五人。
何も言い返さないのは、後ろめたさの現れであろうか。
劉芽衣は続けた。
「貴女達は赤劉邑の期待を担っているのよ。
その期待は武芸じゃない。
ご先祖様から伝わる赤劉家方術を受け継ぎ、磨き上げ、次代に繋げる為よ」
言うだけ言うと劉芽衣の表情から怒りが消えた。
穏やかな目で五人を見回した。
「貴女達の気持ちは分かるわ。
力を貸したかったのでしょう。
マリリン達がたったの四人で向かおうとしているものだから、
それを助けたいと考えたのでしょう。
良い心がけよ。
でもね、よく考えてみて。
貴女達では、何の力にもなれない。
かえって足手纏いになるだけ。
どんな大軍でも弱い箇所があれば、そこが突かれ、そこから崩れる」
いきなり劉麗華が動いた。
両膝を地につけて頭を垂れた。
遅れて他の姫達も倣う。
暫くして劉麗華が顔を上げて母、劉芽衣を見上げた。
「申し訳ありません」
「分かれば宜しい」
場の雰囲気を変えようとしたのかどうか分からないが、韓秀がしゃしゃり出てきた。
マリリンに問う。
「何か忘れてないか。
董卓将軍が布陣している場所を聞き忘れているぞ。失念か」
失念していた分けではない。
「董卓将軍は戦上手と聞きました。
だとすると、もう移動していて、そこには居ないでしょう」
韓秀が片頬を歪ませた。
「ほう。
戦上手だから多勢に無勢と判断して逃げたのか」
マリリン本人は戦とは無縁の者。
ところが脳内にはヒイラギがいた。
当人は言葉を濁すが、武神と尊ばれた男。
その男の記憶がマリリンに影響を与えぬ分けがない。
「いいえ。
たったの四千で敵の正面に立てば、簡単に一蹴されて踏み潰されるだけ。
それでは只の犬死に。
違いますか。
噂通りの戦上手なら、敵の進撃を遅らせることに努める筈です」
「どのように」
「敵は三万の強兵。
対する董卓将軍は四千。
兵の数でも、兵の質でも負けています。
でも、一つだけ。
董卓将軍には地の利があります。
それを利用すれば敵の進撃を何日かは遅らせる事が出来る筈です」
納得したのか、韓秀が軽く頷く仕草。
「すると転戦して、余計に居場所が分からぬな」
「取り敢えず北へ向かいます。
後は軍気を見定め、臨機応変に動くしかないでしょう」
敵三万は洛陽攻めの前に董卓将軍四千を追い求めている筈である。
たったの四千といえど、洛陽を攻めている際に背後から衝かれては堪らない。
本隊が攻められては致命傷ともなりかねない。
誰が考えても洛陽を攻める前に排除するのが定石だろう。
そんな最中に飛び込む分けだから、
敵の動きで董卓将軍の居場所も推測出来るというもの。
どんなに密かに行軍しようが、馬群が巻き上げる砂塵、馬蹄の響き、嘶きは隠せない。
所詮は人間と馬のやること。
どこからか、なにからか、事は露わになる。
韓秀が目を輝かせた。
「よし、俺は洛陽生まれの洛陽育ち。
あの辺りの地形にも詳しい。
どこなら四千を隠せるか、守れるか、出撃し易いかが分かる。
ここは俺が案内するしかないな」
独り合点すると近衛の騎兵を見遣った。
「そういうわけだから、赤劉家の兵は董卓将軍の元に駆け付ける。
上には、そう伝えてくれ」
さらには妻、劉芽衣に目を転じた。
「よいか」と了解を求めた。
妻は皮肉混じりに応じた。
「誰が指揮を執るのか分からぬ寄せ集めの大軍より、
マリリン達を盾にして戦った方が勝ち残れそうね」
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マリリンは思わず足を竦ませた。
つわものである呂布、褚許、華雄三人さえも身を強張らせた。
怒りには精一杯の感情が込められていた。
四人揃って足を止め、振り向いた。
彼女の怒りの矛先は四人にではなかった。
劉麗華達に向けられていた。
姫五人は勝手にマリリン達の後に付き、武器庫に向かおうとしていた。
どうやら共に戦場に赴くつもりらしい。
次期当主の怒りに触れ、姫五人が青ざめた。
五人揃って俯いた。
互いに目を合わせようともしない。
劉芽衣が五人を睨み付けた。
「貴女達、何を考えているの。
貴女達に武芸を授けているのは戦場で役立てる為ではないのよ。
あくまでも方術修行の一環なのよ。
分かっているの」
俯いたままの五人。
何も言い返さないのは、後ろめたさの現れであろうか。
劉芽衣は続けた。
「貴女達は赤劉邑の期待を担っているのよ。
その期待は武芸じゃない。
ご先祖様から伝わる赤劉家方術を受け継ぎ、磨き上げ、次代に繋げる為よ」
言うだけ言うと劉芽衣の表情から怒りが消えた。
穏やかな目で五人を見回した。
「貴女達の気持ちは分かるわ。
力を貸したかったのでしょう。
マリリン達がたったの四人で向かおうとしているものだから、
それを助けたいと考えたのでしょう。
良い心がけよ。
でもね、よく考えてみて。
貴女達では、何の力にもなれない。
かえって足手纏いになるだけ。
どんな大軍でも弱い箇所があれば、そこが突かれ、そこから崩れる」
いきなり劉麗華が動いた。
両膝を地につけて頭を垂れた。
遅れて他の姫達も倣う。
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「申し訳ありません」
「分かれば宜しい」
場の雰囲気を変えようとしたのかどうか分からないが、韓秀がしゃしゃり出てきた。
マリリンに問う。
「何か忘れてないか。
董卓将軍が布陣している場所を聞き忘れているぞ。失念か」
失念していた分けではない。
「董卓将軍は戦上手と聞きました。
だとすると、もう移動していて、そこには居ないでしょう」
韓秀が片頬を歪ませた。
「ほう。
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マリリン本人は戦とは無縁の者。
ところが脳内にはヒイラギがいた。
当人は言葉を濁すが、武神と尊ばれた男。
その男の記憶がマリリンに影響を与えぬ分けがない。
「いいえ。
たったの四千で敵の正面に立てば、簡単に一蹴されて踏み潰されるだけ。
それでは只の犬死に。
違いますか。
噂通りの戦上手なら、敵の進撃を遅らせることに努める筈です」
「どのように」
「敵は三万の強兵。
対する董卓将軍は四千。
兵の数でも、兵の質でも負けています。
でも、一つだけ。
董卓将軍には地の利があります。
それを利用すれば敵の進撃を何日かは遅らせる事が出来る筈です」
納得したのか、韓秀が軽く頷く仕草。
「すると転戦して、余計に居場所が分からぬな」
「取り敢えず北へ向かいます。
後は軍気を見定め、臨機応変に動くしかないでしょう」
敵三万は洛陽攻めの前に董卓将軍四千を追い求めている筈である。
たったの四千といえど、洛陽を攻めている際に背後から衝かれては堪らない。
本隊が攻められては致命傷ともなりかねない。
誰が考えても洛陽を攻める前に排除するのが定石だろう。
そんな最中に飛び込む分けだから、
敵の動きで董卓将軍の居場所も推測出来るというもの。
どんなに密かに行軍しようが、馬群が巻き上げる砂塵、馬蹄の響き、嘶きは隠せない。
所詮は人間と馬のやること。
どこからか、なにからか、事は露わになる。
韓秀が目を輝かせた。
「よし、俺は洛陽生まれの洛陽育ち。
あの辺りの地形にも詳しい。
どこなら四千を隠せるか、守れるか、出撃し易いかが分かる。
ここは俺が案内するしかないな」
独り合点すると近衛の騎兵を見遣った。
「そういうわけだから、赤劉家の兵は董卓将軍の元に駆け付ける。
上には、そう伝えてくれ」
さらには妻、劉芽衣に目を転じた。
「よいか」と了解を求めた。
妻は皮肉混じりに応じた。
「誰が指揮を執るのか分からぬ寄せ集めの大軍より、
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