俺は探知君で辺りの人口密度を調べた。
その結果、幾つかの空白地域を見つけた。
識別して空き家だと分かった。
二人が向かった先にも空き家があった。
目的に沿う大きさだ。
俺はアリスを帯同して裏通りを駆け、そこに先回りした。
大きな倉庫だった。
見ると、表も裏も釘で打ち付けてあった。
盗難防止、と言うよりは、どうやら完全な空き倉庫。
「借りる業者募集中」の看板。
人の出入りを封じても、ここはスラムに隣接した地域。
安全な分けがない。
探してみたら予想通り、路地側の外壁の一角に穴が空いていた。
都合の良いことに大人でも自由に出入りできる大きさ。
人の手によるものだろう。
すでに夕方。
辺りは暗くなり始めていた。
俺は躊躇わずに倉庫に入った。
明かり取りの窓がないので、中は余計に暗い。
幸い俺は夜目が利く。
アリスもそう。
二人して内部を観察した。
埃と空の木箱が散乱しているだけ。
それを除けば申し分のない広さ。
俺はアリスに段取りを説明した。
当初はアリスの復讐心を満たす為だったが、少し変えた。
詳細を説明する前に、直ぐに脳筋妖精は反発した。
罵詈雑言で返された。
あ~あ、面倒臭い。
気持ちが分からないわけではない。
宥めながら、何が重要なのか、丁寧に説明した。
俺はローブを深く被り、路地から顔を覗かせた。
丁度、獲物二人が足早に、こちらに向かって来たところに出会した。
夕方とは言え表通りなので人通りは絶えない。
その無関係の人達に危害を及ばさぬよう、最新の注意を払った。
勿論、魔法使いらしく杖を構えてだ。
水魔法。
威力のない、破裂もせぬウォーターボールをイメージした。
それを二つ、足下に浮かばせた。
相手二人は魔法使い。
それも裏街道を歩く猛者。
気付かぬ分けがない。
こちらの魔力を捉えたようで、即座に足を止め、発生源を探る仕草。
それと同時に俺は撃った。
威力に手を抜いても俺の魔法は速い。
目標には命中した。
二人の腰を濡らした。
破裂はしないが、多少の痛みは伴ったらしい。
二人は股間を押さえつつ、辺りを見回した。
売られた喧嘩は買う世界の住人。
直ぐに俺を見つけた。
反撃の魔法を放とうとした。
それを待つほど俺は暇ではない。
即座に踵を返した。
路地を早足で奥に向かった。
追い掛けて来る声。
「待ちやがれ」
「こんの野郎」
相手が単細胞で良かった。
威力のない水魔法から、俺を弱者と判断したようだ。
簡単に餌に食い付いて来た。
俺は探知君で相手との距離を測りながら、背中を見せるようにして、
倉庫の穴に飛び込んだ。
二人は流石に慎重になった。
穴の手前で一人が気配察知スキルを発動した。
サンチョだろう。
俺がその気になれば上位互換の探知君で、
気配察知ごときは一撃で潰せた。
が、敢えて遣らない。
俺は二人を誘導する餌なのだ。
その餌が倉庫の奥に居るのを確認したのか、まず一人が入って来た。
短剣を片手に構えたサンチョ。
油断無く周囲を見回した。
遅れてクラークがナイフを隠し持って入って来た。
商売柄か、二人は互いの背中を守る態勢。
俺の居場所を特定していても、隙を見せない。
目が慣れた頃合い、少し間隔を空けて奥に踏み込んで来た。
「どこだ」気配察知で分かっている筈なのに・・・。
応答で安心したいのかも知れない。
俺は無駄口は叩かない。
喧嘩する時は特にそうだ。
口より手。先手必勝。
俺は魔法で応じることにした。
光魔法。
前世の野球場のナイター照明をイメージした。
それを四基。
倉庫の東西南北にそれぞれ配置した。
途端、呆れるような明るさが出現した。
まるで太陽が四つあるかのよう。
四方からの照明なので一分の影も見当たらない。
暴力的な明るさに危惧を抱いたのか、
二人はゴキブリのように空き箱の陰に隠れた。
あまりのことに言葉を交わす余裕さえないらしい。
身を隠しながら顔を覗かせ、キョロキョロ、周りを伺うばかり。
俺は二人を引き出すことにした。
水魔法。
これまた威力のない、破裂もしないウォーターボール。
カーブで、二人の頭上から落とした。
続けざまに、それぞれ三つほど。
交差する悲鳴。
濡れ鼠になった二人が空き箱の陰から転がるように飛び出して来た。
髪も服もずぶ濡れ。
首に手を当てながら俺に向かって怒鳴った。
「なにしやがる、こんの野郎」
「巫山戯た真似すんじゃねぇー」
大の大人がみっともない。ボールもない。バットも。
ウォーターボールでは二人の性分までは洗い流せなかった。
落ち着いた二人の長年培った暴力性行が目を覚ました。
四つの目は激怒の色。
合図もなく反撃を開始した。
サンチョは掌を俺に向けた。
水魔法。
ウォーターカッター、全力の三連発。
如何に怒っているのかが丸分かり。
クラークは隠し持ったナイフを投擲。
スピードがあるだけでなく、正確だった。
俺は待ってましたとばかりに水魔法で防御した。
ウォーターシールドを五枚、重ね掛けした。
サンチョの三連発を一枚目が弾いた。
クラークのナイフも同様だった。
クラスの違いが、あからさまになった。
それでもサンチョは諦めない。
再びウォーターカッターを五連発、執拗に撃って来た。
それでようやく防御の一枚目を粉々に砕いた。
撃ち疲れたのか、挙動がのろくなったサンチョに比べ、
クラークはまだ余力を残していた。
魔法を使ってないからなのだろう。
その魔法を発動した。
掌を俺に向けると、その箇所の空間が黒く歪んだ。
闇魔法と分かった。
初見の魔法だが問題はないだろう。
クラークの掌から黒い塊が撃たれた。
スピードも威力も思っていた以上だった。
一撃で二枚目を砕いた。
正しくは砕いた、と言うより、二枚目を吸収して消えた。
破壊するのではなく、鍛冶スキルに似て、
対象物を魔素に変換する性質なのかも知れない。
「分析を開始しました」脳内モニターに文字。
自信を持ったのか、クラークが闇魔法を連発して来た。
その結果、幾つかの空白地域を見つけた。
識別して空き家だと分かった。
二人が向かった先にも空き家があった。
目的に沿う大きさだ。
俺はアリスを帯同して裏通りを駆け、そこに先回りした。
大きな倉庫だった。
見ると、表も裏も釘で打ち付けてあった。
盗難防止、と言うよりは、どうやら完全な空き倉庫。
「借りる業者募集中」の看板。
人の出入りを封じても、ここはスラムに隣接した地域。
安全な分けがない。
探してみたら予想通り、路地側の外壁の一角に穴が空いていた。
都合の良いことに大人でも自由に出入りできる大きさ。
人の手によるものだろう。
すでに夕方。
辺りは暗くなり始めていた。
俺は躊躇わずに倉庫に入った。
明かり取りの窓がないので、中は余計に暗い。
幸い俺は夜目が利く。
アリスもそう。
二人して内部を観察した。
埃と空の木箱が散乱しているだけ。
それを除けば申し分のない広さ。
俺はアリスに段取りを説明した。
当初はアリスの復讐心を満たす為だったが、少し変えた。
詳細を説明する前に、直ぐに脳筋妖精は反発した。
罵詈雑言で返された。
あ~あ、面倒臭い。
気持ちが分からないわけではない。
宥めながら、何が重要なのか、丁寧に説明した。
俺はローブを深く被り、路地から顔を覗かせた。
丁度、獲物二人が足早に、こちらに向かって来たところに出会した。
夕方とは言え表通りなので人通りは絶えない。
その無関係の人達に危害を及ばさぬよう、最新の注意を払った。
勿論、魔法使いらしく杖を構えてだ。
水魔法。
威力のない、破裂もせぬウォーターボールをイメージした。
それを二つ、足下に浮かばせた。
相手二人は魔法使い。
それも裏街道を歩く猛者。
気付かぬ分けがない。
こちらの魔力を捉えたようで、即座に足を止め、発生源を探る仕草。
それと同時に俺は撃った。
威力に手を抜いても俺の魔法は速い。
目標には命中した。
二人の腰を濡らした。
破裂はしないが、多少の痛みは伴ったらしい。
二人は股間を押さえつつ、辺りを見回した。
売られた喧嘩は買う世界の住人。
直ぐに俺を見つけた。
反撃の魔法を放とうとした。
それを待つほど俺は暇ではない。
即座に踵を返した。
路地を早足で奥に向かった。
追い掛けて来る声。
「待ちやがれ」
「こんの野郎」
相手が単細胞で良かった。
威力のない水魔法から、俺を弱者と判断したようだ。
簡単に餌に食い付いて来た。
俺は探知君で相手との距離を測りながら、背中を見せるようにして、
倉庫の穴に飛び込んだ。
二人は流石に慎重になった。
穴の手前で一人が気配察知スキルを発動した。
サンチョだろう。
俺がその気になれば上位互換の探知君で、
気配察知ごときは一撃で潰せた。
が、敢えて遣らない。
俺は二人を誘導する餌なのだ。
その餌が倉庫の奥に居るのを確認したのか、まず一人が入って来た。
短剣を片手に構えたサンチョ。
油断無く周囲を見回した。
遅れてクラークがナイフを隠し持って入って来た。
商売柄か、二人は互いの背中を守る態勢。
俺の居場所を特定していても、隙を見せない。
目が慣れた頃合い、少し間隔を空けて奥に踏み込んで来た。
「どこだ」気配察知で分かっている筈なのに・・・。
応答で安心したいのかも知れない。
俺は無駄口は叩かない。
喧嘩する時は特にそうだ。
口より手。先手必勝。
俺は魔法で応じることにした。
光魔法。
前世の野球場のナイター照明をイメージした。
それを四基。
倉庫の東西南北にそれぞれ配置した。
途端、呆れるような明るさが出現した。
まるで太陽が四つあるかのよう。
四方からの照明なので一分の影も見当たらない。
暴力的な明るさに危惧を抱いたのか、
二人はゴキブリのように空き箱の陰に隠れた。
あまりのことに言葉を交わす余裕さえないらしい。
身を隠しながら顔を覗かせ、キョロキョロ、周りを伺うばかり。
俺は二人を引き出すことにした。
水魔法。
これまた威力のない、破裂もしないウォーターボール。
カーブで、二人の頭上から落とした。
続けざまに、それぞれ三つほど。
交差する悲鳴。
濡れ鼠になった二人が空き箱の陰から転がるように飛び出して来た。
髪も服もずぶ濡れ。
首に手を当てながら俺に向かって怒鳴った。
「なにしやがる、こんの野郎」
「巫山戯た真似すんじゃねぇー」
大の大人がみっともない。ボールもない。バットも。
ウォーターボールでは二人の性分までは洗い流せなかった。
落ち着いた二人の長年培った暴力性行が目を覚ました。
四つの目は激怒の色。
合図もなく反撃を開始した。
サンチョは掌を俺に向けた。
水魔法。
ウォーターカッター、全力の三連発。
如何に怒っているのかが丸分かり。
クラークは隠し持ったナイフを投擲。
スピードがあるだけでなく、正確だった。
俺は待ってましたとばかりに水魔法で防御した。
ウォーターシールドを五枚、重ね掛けした。
サンチョの三連発を一枚目が弾いた。
クラークのナイフも同様だった。
クラスの違いが、あからさまになった。
それでもサンチョは諦めない。
再びウォーターカッターを五連発、執拗に撃って来た。
それでようやく防御の一枚目を粉々に砕いた。
撃ち疲れたのか、挙動がのろくなったサンチョに比べ、
クラークはまだ余力を残していた。
魔法を使ってないからなのだろう。
その魔法を発動した。
掌を俺に向けると、その箇所の空間が黒く歪んだ。
闇魔法と分かった。
初見の魔法だが問題はないだろう。
クラークの掌から黒い塊が撃たれた。
スピードも威力も思っていた以上だった。
一撃で二枚目を砕いた。
正しくは砕いた、と言うより、二枚目を吸収して消えた。
破壊するのではなく、鍛冶スキルに似て、
対象物を魔素に変換する性質なのかも知れない。
「分析を開始しました」脳内モニターに文字。
自信を持ったのか、クラークが闇魔法を連発して来た。