金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

(注)文字サイズ変更が左下にあります。

昨日今日明日あさって。(アリス)101

2019-03-31 07:23:08 | Weblog
 俺は探知君で辺りの人口密度を調べた。
その結果、幾つかの空白地域を見つけた。
識別して空き家だと分かった。
二人が向かった先にも空き家があった。
目的に沿う大きさだ。
 俺はアリスを帯同して裏通りを駆け、そこに先回りした。
大きな倉庫だった。
見ると、表も裏も釘で打ち付けてあった。
盗難防止、と言うよりは、どうやら完全な空き倉庫。
「借りる業者募集中」の看板。
 人の出入りを封じても、ここはスラムに隣接した地域。
安全な分けがない。
探してみたら予想通り、路地側の外壁の一角に穴が空いていた。
都合の良いことに大人でも自由に出入りできる大きさ。
人の手によるものだろう。
 すでに夕方。
辺りは暗くなり始めていた。
俺は躊躇わずに倉庫に入った。
明かり取りの窓がないので、中は余計に暗い。
幸い俺は夜目が利く。
アリスもそう。
二人して内部を観察した。
埃と空の木箱が散乱しているだけ。
それを除けば申し分のない広さ。
 俺はアリスに段取りを説明した。
当初はアリスの復讐心を満たす為だったが、少し変えた。
詳細を説明する前に、直ぐに脳筋妖精は反発した。
罵詈雑言で返された。
あ~あ、面倒臭い。
気持ちが分からないわけではない。
宥めながら、何が重要なのか、丁寧に説明した。

 俺はローブを深く被り、路地から顔を覗かせた。
丁度、獲物二人が足早に、こちらに向かって来たところに出会した。
夕方とは言え表通りなので人通りは絶えない。
その無関係の人達に危害を及ばさぬよう、最新の注意を払った。
勿論、魔法使いらしく杖を構えてだ。
水魔法。
威力のない、破裂もせぬウォーターボールをイメージした。
それを二つ、足下に浮かばせた。
 相手二人は魔法使い。
それも裏街道を歩く猛者。
気付かぬ分けがない。
こちらの魔力を捉えたようで、即座に足を止め、発生源を探る仕草。
 それと同時に俺は撃った。
威力に手を抜いても俺の魔法は速い。
目標には命中した。
二人の腰を濡らした。
 破裂はしないが、多少の痛みは伴ったらしい。
二人は股間を押さえつつ、辺りを見回した。
売られた喧嘩は買う世界の住人。
直ぐに俺を見つけた。
反撃の魔法を放とうとした。
それを待つほど俺は暇ではない。
即座に踵を返した。
路地を早足で奥に向かった。
追い掛けて来る声。
「待ちやがれ」
「こんの野郎」

 相手が単細胞で良かった。
威力のない水魔法から、俺を弱者と判断したようだ。
簡単に餌に食い付いて来た。
俺は探知君で相手との距離を測りながら、背中を見せるようにして、
倉庫の穴に飛び込んだ。
 二人は流石に慎重になった。
穴の手前で一人が気配察知スキルを発動した。
サンチョだろう。
 俺がその気になれば上位互換の探知君で、
気配察知ごときは一撃で潰せた。
が、敢えて遣らない。
俺は二人を誘導する餌なのだ。
 その餌が倉庫の奥に居るのを確認したのか、まず一人が入って来た。
短剣を片手に構えたサンチョ。
油断無く周囲を見回した。
遅れてクラークがナイフを隠し持って入って来た。
 商売柄か、二人は互いの背中を守る態勢。
俺の居場所を特定していても、隙を見せない。
目が慣れた頃合い、少し間隔を空けて奥に踏み込んで来た。
「どこだ」気配察知で分かっている筈なのに・・・。
応答で安心したいのかも知れない。
 俺は無駄口は叩かない。
喧嘩する時は特にそうだ。
口より手。先手必勝。
俺は魔法で応じることにした。
光魔法。
前世の野球場のナイター照明をイメージした。
それを四基。
倉庫の東西南北にそれぞれ配置した。
 途端、呆れるような明るさが出現した。
まるで太陽が四つあるかのよう。
四方からの照明なので一分の影も見当たらない。
 暴力的な明るさに危惧を抱いたのか、
二人はゴキブリのように空き箱の陰に隠れた。
あまりのことに言葉を交わす余裕さえないらしい。
身を隠しながら顔を覗かせ、キョロキョロ、周りを伺うばかり。

 俺は二人を引き出すことにした。
水魔法。
これまた威力のない、破裂もしないウォーターボール。
カーブで、二人の頭上から落とした。
続けざまに、それぞれ三つほど。
 交差する悲鳴。
濡れ鼠になった二人が空き箱の陰から転がるように飛び出して来た。
髪も服もずぶ濡れ。
首に手を当てながら俺に向かって怒鳴った。
「なにしやがる、こんの野郎」
「巫山戯た真似すんじゃねぇー」
大の大人がみっともない。ボールもない。バットも。
 ウォーターボールでは二人の性分までは洗い流せなかった。
落ち着いた二人の長年培った暴力性行が目を覚ました。
四つの目は激怒の色。
合図もなく反撃を開始した。
 サンチョは掌を俺に向けた。
水魔法。
ウォーターカッター、全力の三連発。
如何に怒っているのかが丸分かり。
 クラークは隠し持ったナイフを投擲。
スピードがあるだけでなく、正確だった。
 俺は待ってましたとばかりに水魔法で防御した。
ウォーターシールドを五枚、重ね掛けした。
サンチョの三連発を一枚目が弾いた。
クラークのナイフも同様だった。
クラスの違いが、あからさまになった。
 それでもサンチョは諦めない。
再びウォーターカッターを五連発、執拗に撃って来た。
それでようやく防御の一枚目を粉々に砕いた。
 撃ち疲れたのか、挙動がのろくなったサンチョに比べ、
クラークはまだ余力を残していた。
魔法を使ってないからなのだろう。
その魔法を発動した。
掌を俺に向けると、その箇所の空間が黒く歪んだ。
闇魔法と分かった。
初見の魔法だが問題はないだろう。
 クラークの掌から黒い塊が撃たれた。
スピードも威力も思っていた以上だった。
一撃で二枚目を砕いた。
正しくは砕いた、と言うより、二枚目を吸収して消えた。
破壊するのではなく、鍛冶スキルに似て、
対象物を魔素に変換する性質なのかも知れない。
「分析を開始しました」脳内モニターに文字。
 自信を持ったのか、クラークが闇魔法を連発して来た。
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昨日今日明日あさって。(アリス)100

2019-03-24 06:59:30 | Weblog
 アリスが遠ざかるにつれて念話も薄れて行った。
送受信範囲から外れるので当然なのだが、俺は別の心配をした。
何しろ彼女は脳筋妖精、
短絡的な衝動に駆られて報復に出るのではないか、と。
 今の彼女のステータスは高い。
Bクラスにしてスキルの妖精魔法は☆三つ。
しかも飛行が出来る上に小さい。
実に狙いが定めにくい。
戦闘力が高いだけに、単純に自分の力を過信しかねない。
相手が普通の魔物であれば戦闘力のみで押し切れる。
しかし老練な魔法使いが相手ともなれば、そう簡単ではないだろう。
嵌め技の一つ二つは隠し持っていそう。
そうなれば、追い込まれた彼女は見境なく全力を揮う。
結果、どれほどの被害を周辺に与えるか。
第三者を巻き込まねば良いが。
 別の意味で懸念もした。
また同じ相手に騙されはしないか、と。
下手な手出しして相手に会話に持ち込まれれば・・・、また騙される。
たぶん・・・。
 
 俺の心配を掻き消すかのように、アリスの脳天気な念話が届いた。
かなり距離があるようで鮮明ではなかった。
要約すると、
『ラララーン、ラララーン。
外は気分が良いわね。
ダン、勉強ばかりしてると馬鹿になるわよ』こんなところ。
元気な調子で戻って来た。
 近付くにつれて会話が交わせるようになった。
そこからはアリスの独壇場。
余計な話しを挟みながら先方の行動を逐一、饒舌に報告してくれた。
一枚で済む報告書が百枚に膨れ上がった感が、無きにしも非ず。
アリスがお喋りなのは承知しているので、途中で遮ることはせず、
諦めながら最後まで聞いた。
 とにかく収穫はあった。
その一つが年寄りの名前。
『生意気にクラークって名前を持っているのよ』言葉に余裕があった。
『露店のお肉が美味しそう』
『連れの連中は冒険者ギルドに寄るそうよ』
『可愛い服が飾ってあるわ』
『小汚い連中が歩いて来るわ。
なんて見苦しい。殺してやろうかしら』とお喋りが続いた。
 それで肝心な部分を聞き逃した。
俺は慌てて聞き返した。
『どこに入ったって』
『クラークの野郎、娼館の裏口に入って行ったわ。
だから私も付いて入って、何をするのか確かめるわ』
 俺は唾を飲んだ。
娼館だって・・・、娼婦・・・だよね。
『入るな』俺は止めた。
『どうしてよ』
『娼館のような所は色んな連中が客として来る。
そこで探知スキル持ちに遭遇したらどうなる。
子猫の姿をしていても、誤魔化すには無理がある。
追われて妖精狩りだ。いいのか』
『返り討ちよ』
『それかよ。
今は目立つな。
噂になれば国都を上げての妖精狩りが始まる』
『・・・それじゃ』
『裏口近くで張り込んでいて。
俺も急いでそちらに向かう』
『来てくれるの』嬉しそうな声。
 彼女にとって俺という存在は、国都ではたった一人の話し相手・・・。

 夕食間近なんだが当然、アリスを優先した。
校門から見えなくなった辺りから駆け出した。
アリスが俺を待っていられるかどうか、焦った。
念話でだめ押しした。
 途中、公園に立ち寄った。
制服のローブからソロ活動用のグレーのローブに着替え、
フードを深く被って顔を隠した。
合わせて身体強化スキル、探知スキル、鑑定スキル。
準備万端で再スタート。
 育ち盛りなので空腹が俺を襲ってきた。
知らず知らずのうちに露店の前で足が止まってしまった。
思わず念話でアリスに確認した。
『腹減ってないか。
減ってるなら何か買って行くよ』
『アンタが減ってるんでしょうよ。
まあ良いわ、焼き鳥ね』

 探知君を拡大し、鑑定君でもってアリスの居場所を特定した。
そう離れてはいない。
焼き鳥の串を片手に持って急いだ。
タレが垂れた。
手首に纏わり付く感じ。
 スラムと表通りの境に見つけた。
娼館が軒を連ねていた。
辺りは脂ぎった男達で賑わっていた。
彼等を目当てに各店の呼び込みのスタッフが競っていた。
「こちらはお安いですよ」
「うちはお隣の二割引です」
「私共の店の女達は、お隣の三割増しの美しさですよ」
 男達も負けてはいない。
「どの辺りが美しいんだ」
「顔か」
「あそこか」
「あそこって」
 げすな笑い声が辺りに響き渡った。
俺は彼等をよそに、裏通りに向かった。
表通りに比べ、ごみごみしていた。
各店の塵も山積みで、人通りも少なく、都市計画から外れているのか、
建物が入り組んでいるので隠れる場所には事欠かない。
 アリスからの念話。
『こっちよ』
 そちらに向かうと、陰から子猫が飛んで来た。
俺の腕に飛び乗ると、手首を舐め回す。
『味が染み込んでいるわね。
このまま噛み切ってしまおうかしら』
『それは別の機会にして。
それでサンチョはどうした』俺は焼き鳥を口にした。
『まだ出てこないわ。
誰かに会っているのか、ここに住んでいるのか・・・』
『少し待ってみよう』
 返事代わりにアリスが焼き鳥に食い付いた。
 
 崩れた壁の陰に腰を下ろし、張り込んだ。
フードのお陰で子供とはわからないだろう。
それでも顔を背け、疲れて寝ている振りをした。
 時折、誰かが通り掛かるが、関わりたくないのだろう。
問い掛ける者はいない。
 それにしても腹が空いた。
育ち盛りに焼き鳥の串一本ではきつい。
そう考えていたら、アリスが叫んだ。
『出て来たわ』
 裏口から二人の男が出て来た。
一人は確かに年寄り。
一人は中年。
 鑑定君が働いた。
「名前、クラーク。
種別、人間。
年齢、六十五才。
性別、雄。
住所、旅人、国都在住。
職業、遊び人。
ランク、B。
HP、90。
EP、135。
スキル、闇魔法☆☆、契約☆☆。
ユニークスキル、獣化☆☆」
「名前、サンチョ。
種別、人間。
年齢、四十才。
性別、雄。
住所、足利国山城地方国都住人。
職業、ザッカリーファミリー構成員。
ランク、C。
HP、100。
EP、120。
スキル、水魔法☆☆、気配察知☆☆」
 二人共にそれなりの魔法使いだが、HPも侮れない。
スキルはなくても商売上、荒事には慣れている、と判断した。
それをアリスに説明した。
ところがアリスの反応は筋脳だった。
『面倒だから二人とも、ここで殺しちゃおうか』
 ある意味、清々しい。




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昨日今日明日あさって。(アリス)99

2019-03-17 08:13:03 | Weblog
 俺は教官に左前蹴りを放った。
簡単に外に受け流された。
体勢まで崩された。
想定内。
崩されるがまま最後の力を振り絞り、
入って来た相手に肘打ちを叩き込んだ。
空を切った。
次の瞬間、ポンと押されて芝生に転がされた。
受け身。
素速く起き上がり、息を整えながら構え直し、教官の出方を窺った。
 教官は満足そうな表情で俺を見遣った。
「ここまで。
うん、勘は良い。
足りないのは手足のリーチだけだ」
 クラスは格闘技の授業中。
何故か俺は冒頭で、教官の御指名で自由組み手を遣らされた。
すでに三本目なのだが、一つとして通用しない。
 教官は俺を待たせたまま、全員を見回した。
「見ていたように敵は待ってくれない。
倒されても直ぐに立ち上がって対応をすること。いいな」
 クラスのみんなは元気の良い返事をして、それぞれ組み合った。
それを満足そうに見遣った教官が俺を振り向いた。
「疲れたか。少し休め」
 確かに疲れた。
俺は授業の邪魔にならぬように木陰に移動し、腰を下ろした。
身体強化スキルを使わないので教官には全く敵わない。
マジで疲れた。
でも手応えは得た。
卒業までには素の体力で教官と互角の勝負が出来るはずだ。
たぶん・・・。
 
 アリスからの念話が飛び込んで来た。
『見つけた、見つけた』興奮していた。
『何を』
『私を騙した爺よ。
今、南門に向かっているわ』
 会話の成立する送受信距離が少しずつ伸びていた。
理由は知らないが、今は幼年学校の外にいても明確に届く。
『尾行は良いけど気付かれるなよ』
『分かっているわよ』
『それでどんな様子なんだ』
『年甲斐もなく冒険者みたいな恰好で、これから外に出るみたい。
誰もいなくなったら殺してやるわ』本気だ。
『落ち着け、落ち着け。
年寄りは旅にでも出るつもりなのか』
『荷物がない・・・ちょっと外に出掛ける感じかな。
んっ、別の奴が・・・三人ほど。
離れているけど、時折顔を見合わせているわ。
絶対、仲間に違いないと思う』
『様子見だ。
様子見して、相手の情報を集めろ。
どこに住んで、どんな仕事をして、どんな魔法を使うのか、
とにかくお前が殺す時は俺が援護する』
『協力してくれるの』
『眷属だろう』
 脳筋妖精を放し飼いにすると色んな意味で不安だ。
俺が手綱を取るしかない。

 クラークは南門から外に出た。
気のせいか、後頭部がチリチリした。
殺気混じりの視線。
けれど振り向かない。
気付かぬ振りして人気のない所で始末すれば良い、そう考えた。
 ゆっくりした足取りで巨椋湖方向に向かった。
昨日のサンチョとの遣り取りで地図は頭に入っていた。
行き交う人波に埋もれるように街道を下り、途中から間道に逸れた。
 視線も付いて来た。
長年の経験で培った勘が、「要注意」と。
相手は対立するテレンスファミリーか、官憲か。
無事に済まぬ感がヒシヒシと伝わって来た。
 荷馬車が当然通ったであろう道筋を辿って行く。
間道だからだろう、次第に人影が少なくなっきた。
その途中で足を止め、後続を待った。
やがて現れた三人。
恰好は冒険者。
実際に冒険者ギルドに在籍もしているが、本職はザッカリーファミリー。
「尾行はありません」一人が言う。
 知らぬ奴等ではない。
娼館の用心棒で腕も立つ。
今回はサンチョの命令でクラークを守るのが役目だ。
三人揃って尾行者に気付かぬ分けがない。
 クラークは悠然と来た道を振り返った。
気配察知スキルはないが、これまでの経験がある。
左右も見回した。
確かに人影はない。
隠れている様子もない。
今回の仕事のせいで神経が昂ぶっているのか・・・。
クラークは頭を切り換えた。
「ようし行くか」
 現場までは官憲の目を想定し、慎重に進んだ。
案に相違して障害はなく、魔物との遭遇が少々。
現れた小物を用心棒三人が連携して討伐した。
 現場は直ぐに分かった。
死骸は何一つ残されてないが、無数の蹄の跡で分かった。
踏みしだかれた雑草や藪が現場の広さであり、
薙ぎ倒された木々や折られた枝が死闘を物語っていた。
 クラークの目的は一つ。
荷馬車の消息。
血眼とまでは言わないが、用心棒三人の目もあるので、丁寧に探した。
範囲も広げた。
でもそれらしい物は見つけられない。
破片ですら見つけられない。

 調べを終えたクラークは夕方近くには南門を潜った。
再び視線を感じたが、気に留めぬことにした。
このままでは気の病になってしまう、と懸念した。
 用心棒三人は討伐した魔物の素材を冒険者ギルドに持ち込む、
と言うので手前で分かれた。
娼館に戻ると地下でサンチョが待っていた。
「どうだった」
「現場には木切れ一つなかった。
曳いていた馬が暴走して逃げたのか、騎馬隊が押収したかだな」
「暴走した荷馬車の目撃情報はない。
裏から手を回して調べたが押収もない。
騎馬隊で勝手に横取りした様子もない。
となればテレンスファミリーに聞くしかないな」
「どうやって聞く。
簡単に応じてくれるのか」
 サンチョの表情が和らいだ。
「掠うまでだ」
「相手に心当たりがあるようだな」
「ある」
「すでに特定済みか」
「ああ、掠った後はアンタに頼みたい」
「奴隷の首輪で充分じゃないか。
ペラペラ喋ってくれるだろう」
「それじゃあ詰まらん。
久しぶりにアンタの技を見せて貰いたい」目が笑っていた。
「趣味が悪いな」
「報酬ははずむ」
「当然だろう。
奴隷の首輪の術式は簡易だが、俺の契約スキルは別物だ」
 サンチョが立ち上がった。
「さあて、行くか」
「俺もか・・・。
まさか、二人で掠う、とは言わないよな」
「当たりだ。二人なら人目に付かない。
帰りは三人だがな」




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昨日今日明日あさって。(アリス)98

2019-03-10 08:01:51 | Weblog
 サンチョはザッカリーを説き伏せようとした。
ところが居合わせた護衛の連中が騒ぎ出した。
「テレンスを掠って聞き出せばいいだろう」
「仲間の仇討ちだ」
「とっとと片付けようぜ」
 この二階の護衛はただの護衛ではない。
それぞれが小さいながらも縄張り、手下を持つ幹部ばかり。
喧嘩好きが揃っているので簡単には承知しない。
 これにはザッカリーも苦笑い。
呆れた顔で双方を交互に見遣った。
 サンチョとしては荷馬車の中身を金銭換算すると、
お前等のような屑を束にしてもその一割にも満たない、
そう大声で本音を叫びたいところ、ザッカリーの立場を汲んで我慢した。
屑でもようは使い方次第。
遣る気だけは削げない。
話し合いの末に妥協案を出した。
「みんなの気持ちは分かった。
仲間を殺されたんだものなあ。
しかし、官憲の目がある。
下手は打てない。
・・・。
俺に三日だけ預けてくれ。
それまで我慢だ。いいな」

 サンチョは一人で建物を出た。
途端、視線を感じた。
敵意と言うより、興味津々な色。
これはテレンスファミリーではなく、官憲の密偵なのだろう。
 普段から下っ端を装っているせいか、尾行は付かない。
それでも万が一に備えた。
テレンスファミリーの見張りの存在も考慮し、
気配察知スキルを十全に機能させた。
 辻から辻を曲り、建物を幾つか通り抜けた。
尾行はなし。
馴染みの娼館に向かった。
周辺を調べながら近付いた。
こちらも異常なし。
 娼館は無論、この一角はザッカリーファミリーの縄張り。
サンチョが訪れても不審には思われない。
裏口から入った。
用心棒二人がすっ飛んで来た。
闖入者と思ったのだろう。
表情が厳めしい。
サンチョと分かると態度を改めた。
「こちらからとは珍しいですね」店のスタッフとしての口調。
 サンチョは命じた。
「クラーク老人を下に寄こしてくれ」

 サンチョは地下に下りた。
関係者以外は立ち入りを禁止しているフロアだ。
広い部屋と幾つかの小部屋があり、
ファミリーのセカンドハウスになっていた。
非常時の集合場所であり、指揮所だ。
もっとも、セカンドハウスはあくまでもセカンドハウスなので、
設置されてはいるが殆ど活用されていない。
それでも埃一つとして舞っていないのは、
管理責任者であるサンチョが奴隷三人を雇い入れ、
掃除を徹底させているからだ。
 出迎えに奴隷三人が現れた。
首に隷属の首輪を嵌めた女ばかり。
閉鎖された地下なので問題が発生せぬよう、
同性の平凡な容姿の借金奴隷を選んだ。
彼女等に尋ねた。
「どうだ、店の者達には大切にされているか」
「はい、とても」
「店の裏庭の散歩はどうだ」
「はい、朝の早い時間にやらせてもらっています」

 サンチョが彼女等とたわいもない会話をしていると、
階段を下りてくる足音がした。
軽い足取り。
年寄りにしては調子が良さそうだ。
 店に居続けている年寄りだ。
名はクラーク。
従業員ではない。
かと言って娼婦を買っている分けでもない。
娼舘の空気が好き、と言う理由で、
好んで高い賃料を払って個室に居続けている老人だ。
サンチョの口利きもあり、誰も何も言わない。
 クラークがサンチョの隣に並んだ。
「用事だそうだな」
「ああ、困ったことになった」
「困ったと言うより、面白くなったと言う顔をしてるな」
 サンチョはクラークを小部屋の一つに伴った。
奴隷がコーヒーと茶菓子を運んで来た。
国都の有名ブランドの一つだ。
サンチョの好きな銘柄だと知っているので、クラークが笑った。
「はっはっは、ここまで拘っているのか」
「不味い物は口にも胃にも悪い。
脳味噌まで腐りそうだ」
「そこまで言うとはな。ダンジョンでもそうか」
 サンチョは苦笑いして片手を上げた。
「まさか、あそこは別だ。
もっと美味い肉があるからな」
「ゴブリンか」
「馬鹿言うな、反吐が出る。
美味いと言えばオークとかオーガだろうが」
「俺も食ったことあるが、まあまあだな」
「お前は舌が音痴だな」
 クラークは表情を改めた。
「それで俺を呼んだ理由は」
「ああ、説明する」
 サンチョは自分達ファミリーの置かれた状況を逐一説明した。
ザッカリーファミリー、テレンスファミリー、国軍の騎馬隊、
官憲の密偵と覚しき視線、そして肝心の荷馬車の行方・・・。
 聞いたクラークは片頬を歪めた。
「七面倒臭いな」
「そこでお前の出番だ」
「俺か・・・、老人は労るもんだぞ」
「荷馬車にはお前から買い付けた二枚貝も積んでいた。
お前なら分かるだろう。
早く回収しないと中の妖精が死んじまう。そうなれば大損だ」
 獣化させた妖精を二枚貝に封じ、木箱に入れて売ったのはクラーク。
でもその所有権は売った時点で移転していた。
今のクラークには関係ないこと。
目をしばたかせた。
「そうは言うが、あれの所有権はファミリーに移っている。
今の俺は無関係だろう」
「そこは分かっている。
そこで依頼だ。
俺を手伝ってくれ。
お前はどこにも顔が割れてないから自由に動ける」
 クラークはあくどい商売をしているが、
基本、ザッカリーファミリーに売っているだけなので、
裏世界では全く知られていないも同然、自由に動けた。
 サンチョは地図を出した。
「ここが巨椋湖だ。現場はこの近くのここ」




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昨日今日明日あさって。(アリス)97

2019-03-03 07:34:45 | Weblog
 見張りは男の言葉を建物内部の者に伝えた。
少し待たされた。
身内にも厳しいのは何時ものこと。
男は肩を竦めて外壁にもたれた。
 立ち入りが許可された。
中に入るとボスの護衛の一人が待ち受けていた。
にやけた顔で男に尋ねた。
「処刑を見物したんだろう。
それで、どうだった」
「途中で邪魔が入った。
非番の門衛の一人に声をかけられてな、
聞いて損はありませんよとタレコミだ。
高い情報料も払わされた」
「ほおー、払ったってことは、それなりのタレコミか。
それをボスに報告に来たと言う分けか」
「そういうこと」
 建物の一階は倉庫のような広さなのだが、何も置かれていない。
奥の階段手前にテーブルが一つあり、
そこで数人の顔見知りが賭け事に興じているだけ。
彼等は通る男をチラ見しただけで、何も問わない。
彼等は休憩中の護衛兼障害物だ。
 護衛の案内で二階に上がった。
ここは廊下の左右にドアが幾つかあった。
何れもボス、ザッカリーの部屋だ。
ただ、どれが当日のボス部屋かは分からない。
 奥まったドアの前に二人の護衛が立って、こちらを見ていた。
だからと言って、そのドアの先が今日のボス部屋とは限らない。
ダミーの事が多い。
予想通り、男を案内した護衛は全く別のドアを開けた。
 広いが飾り気のない部屋だ。
ドアの内側にも護衛が二人、閉められた窓の方にも二人。
警護だけは厳重な事この上ない。
 ザッカリーは頑丈そうなデスクで書類を読んでいた。
男が部屋に入ると、眠そうな顔を上げた。
「問題が発生したのか」
 男が頷くとザッカリーはゆっくり立ち上がった。
まるでオークのような巨体。
窓の方へ歩み寄ってカーテンを閉め、大きく伸びをした。
今にも天井に手が届きそう。
「このところ、書類仕事ばかりで気が滅入っていた。
面白い話しなんだろうな」

 ザッカリーは元々は冒険者、最終ランクはB。
色々あり、紆余曲折の末、魔物より人間の相手をすることになった。
結果、今は外郭南区画のスラムの大立者の一人。
主力商品は暴力と盗品の買い上げ。
 ザッカリーの期待を受けて男が表情を曇らせた。
「面白くはありません」
「それは・・・、期待外れか」
「その前に一つ、質問をして宜しいでしょうか」
「何だと言うんだ」視線を強めた。
 男は名前を幾つか挙げ、「知ってますか」と尋ねた。
ザッカリーは耳を疑った。
知っているも何も、盗品を運ばせている手下の名前ばかり・・・。
 買い上げた盗品は当然ながら国都内で盗まれた物。
中には殺傷の末に強奪したものもあり、国都で捌けない。
万が一、捌いて足が付けば一巻の終わり。
相手が官憲であれば周到な手配で全員捕縛され、
主犯格は全員死刑、他は犯罪奴隷として鉱山に送られる。
貴族の恨みを買えば、襲撃され、容赦なく全員切り刻まれる。
何れにしても、どちらも選びたくない。
「お前も知っているだろう。うちの連中だ」
 他のファミリーもだが、やばい品物は地方に運んで売り捌く、
これが盗品売買の基本。
今回は摂津地方の領都、大阪で「泥棒市」が開かれる、
と聞いて荷馬車に盗品積んで送り出した。
 泥棒市だからと言って、堂々と盗品を並べる分けではない。
領都の大通りに普通の商人や一般人が露店を出し、
そこで盗品のように安く投げ売りされるので、そう呼ばれていた。
 実際はその賑わいに付け込んで、盗品が売買される。
昼日中の大通りではない。
大阪のスラムに各地から集められた盗品が、ご同業間で売買される。
北から持ち込まれた盗品は南のご同業に、
東から持ち込まれた盗品は西のご同業に、と言う具合に捌かれる。
 男も予想していたのだろう。
「やっぱり大阪の泥棒市でしたか」
「ああ、そこに荷馬車を送り出した。
今上がった名前は荷馬車を警護していた連中だ」

 男は表情を変え、
「これは非番の門衛からのタレコミです」と前置きして、
更に別の名前を次々と挙げた。
 聞いたザッカリーは困惑した。
配下ではないが、知った名前があった。
ご同業の配下ではないか。
外郭北区画のスラムの大立者、テレンスの幹部の名前が。
「どういうことだ」
「巨椋湖へ向かう間道で死体が見つかりました。
魔物の襲撃を受けて大勢が死亡していたそうです」
「大勢が・・・」
「宮中で陞爵が行われた日です。
国軍の騎馬隊が巨椋湖方向に異常を感じ、急行しました。
行ってみると、魔物の群の足下に大勢の人間の死体があり、
それを巡って魔物同士が奪い合っていたそうです。
・・・。
駆け付けた騎馬隊が魔物を追い散らし、
死体を、食い千切られていたそうですが、
近くの駐屯地から荷馬車を呼び、集められるだけ回収したそうです。
人数ははっきりしませんが、大雑把で四十人近いとか・・・」
 ザッカリーだけでなく居合わせた者達全員が顔色を変えた。
「確かなのか」
「門衛は国軍の騎馬隊の友人から酒の席で聞かされたそうです。
金目当てで嘘をつく奴じゃありません」
 暫し停止していたザッカリーの口が動いた。
目の前の男を案内して来た護衛に命じた。
「サンチョを捜して連れてこい」デスクに戻った。
 
 サンチョはザッカリーの片腕で金庫番。
元々はザッカリーの冒険者時代のパーティ仲間であった。
ザッカリーが身体を活かして盾役、サンチョは後方から魔法で支援。
役割が違っても、魔物相手に何度も修羅場を潜ったせいか、気が合う。 
 サンチョが顔色を変えて部屋に飛び込んで来た。
大方、来る途中、呼びに行かせた護衛に聞いたのだろう。 
デスクのザッカリーヘではなく、タレコミをもたらした男に詰め寄った。
「詳しく聞かせろ」
 男も又聞きなので、それほどの情報はない。
それでもサンチョは男の説明に満足げに頷いた。
ザッカリーを振り返った。
「このところの疑問に一つの答えが出た」
「疑問、答え・・・」
「ああ、今思うと日付は合う。
陞爵の後からだが、この辺りで妙な視線を感じていた。
それが官憲の見張りだとすれば納得が行く」
「なに・・・、見張りだと」
「一般人は誤魔化せても、魔法使いまでは誤魔化せない。
探知は無理でも、ダンジョンで鍛えた気配察知があるからな。
・・・。
今回の一件が表に出ないのは、官憲が情報を規制しているからだろう。
ザッカリーファミリーとテレンスファミリーが同じ場所で、
仲良く魔物の餌になっている。
そうなると官憲としても興味が湧く。
手柄の匂いもする。
ジッと双方の動きを見張っている筈だ」
「詳しく・・・」
「想像だが、うちの動きが筒抜けで、荷馬車をテレンス側が襲った。
その際に流れた血の臭いに魔物の群が誘われ、現れた。
ファミリー間の抗争に魔物が介入し、
遅れて国軍騎馬隊までもが駆け付けた来た。
そういうところだろう」
「そうか・・・」
「テレンスに殴り込むのは少し待ってくれ。
たぶん、官憲があちらも見張っている。
俺達が衝突するのを待ち望んでいる筈だ。
・・・。
もしかすると、こちらにテレンスの見張りも来ているかも知れん。
襲ったのはいいものの、
誰も帰って来ないから心配してこちらの出方を見張っている、
そうも考えられる」
「腹が立つ・・・。で、何時まで待てばいい」
「その前に探ることが二つ。
一つは荷馬車の行方。
現場で魔物に壊されたのか、国軍に接収されたのか。
そこをハッキリさせよう。
もう一つは、誰がテレンス側に情報を売ったのか」




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