金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

(注)文字サイズ変更が左下にあります。

昨日今日明日あさって。(テニス元年)13

2023-04-30 06:57:49 | Weblog
 俺はサンチョには会えなかったが、代わりにクラークに仕事を命じた。
嫌な奴だが、加えてご老体だが、まだまだ働けると思う。
けど、全幅の信頼を寄せている訳ではない。
ちょっとだけ、持ち前の気質がねっ。
だから表の人間からも情報を得よう。
 アルファ商会の保安警備全般を担っている連中を屋敷に呼んだ。
その系統は二つ。
一つは傭兵団『赤鬼』。
もう一つは冒険者クラン『ウォリアー』。
共に木曽領地にて常時雇用しているので、その主力は留守がち。
それでも、本部事務所が国都にあるので留守居を複数置いていた。
その者達にアルファ商会の保安警備全般を委ねていた。
 留守居とはいうが、役に立たないという意味ではない。
多くは、古参と新人の二種。
留守中に、現場に出すには早い新人を古参が指導していた。
そこへ提案されたのが、今回のアルファ商会の保安警備。
渡りに船、彼等は飛びついた。

 『赤鬼』からはカドラが来た。
見た目は、一見すると無害な中肉中背の中年女性。
だが、これで傭兵団の留守居を任されているのだ。
温い性格でない事だけは確か。
「伯爵様、今日も麗しいお服ですね」
「それは僕には似合わないという意味かな」
「とんでもございません。
とてもお似合いです。
私は大好きです」
 俺の後ろには、服を選んだメイド長・ドリスの勝ち誇った笑顔があった。
反対に悔しそうなのは、服選びに負けたメイド・ジューン。

 『ウォリアー』からはハンフリーが来た。
元々は会計士。
でも頑固な性格が災いし、職を失った。
そこを救ったのがクラン。
それからは裏方一筋。
性格も穏やかになったのか、何時も笑顔を絶やさない。
「ジューン殿、私に服を選んで貰えないだろうか」
 ナンパも学んだようだ。
だが、世間は甘くない。
「そんな暇はありません」
 ジューンの一言で玉砕した。

 二人はテーブルの上に一件書類を置いた。
「双方で擦り合わせ済みです」
 カドラが口にし、ハンフリーが同意した。
俺はそれを手にした。
アルファ商会に危機を齎す者達の名簿だ。
侯爵一人、伯爵一人、商会の商会長が二人、金貸しが一人。

 ラファエル松永侯爵。
彼は、三好侯爵家の派閥に属し、評定衆にも連なっている人物。
派閥の重鎮にして、裏技が得意と評されていた。
実に厄介な相手だ。
 ラファエルの狙いは一つだけ。
アルファ商会の生み出す利益。
その利益に預かろうと画策し、頻りに裏から手を伸ばして来た。
具体的な被害がなければ、無視するだけなのだが、遂に被害が出た。
事務員が拉致され、尋問されそうになった。
幸い、赤鬼・カドラ達の救出が間に合った。

 ミゲル長井伯爵。
美作地方の寄親伯爵で、
悲運の死を遂げたハドリー長井伯爵の子孫でもある。
だからといって手加減は出来ない。
 そのミゲルの狙いもラファエルと同じ。
アルファ商会の利益に預かろうとした。
こちらはシルビア達を付け狙った。
幸い、こちらも保安警備のお陰で未遂で済んだ。

 ルベン・セサル商会長。
大手の商会・セサルの現会長だ。
本拠は難波、その難波の中小商会を買収して急拡大した。
先見の明があると評判で、庶民の受けが良い。
けれど、調べて裏が分かった。
低賃金と下請けからの搾取で、儲けているだけだった。
 ルベンの狙いはアルファ商会の製品の奪取。
保管倉庫からの横流しを企んだ。
その為に倉庫作業員を買収した。
それを事前に保安警備が察知し、潰した。

 ホセ・ラウル商会長。
こちらも大手、ラウル商会の会長だ。
それもバリバリの若手、五代目。
本拠は国都、老舗。
王宮の御用達、特に軍からの信用が厚かった。
納める軍需品が高品質なのだ。
 そのホセの狙いが分かった。
金と暴力で、工房の職人を引き抜こうとした。
これも事前に潰した。

 ペミョン・デサリ金融。
カジノと組む貸金業者、ペミョンがそこの商会長。
こちも本拠は国都。
 その狙いは実に単純なもの。
アルファ商会の製品の模倣。
コピーした商品で大儲けを企んだ。
その為の工房を建て、職人を集めた。
しかし、如何せん、技術水準が伴っていなかった。
一目で見破られる物ばかりが出荷された。
売れる訳がない。
 そこで狙いを変えた。
こちらの工房の職人を引き抜こうとした。
為に何度か保安警備と衝突して、潰された。

 この五件は一時は潰されたにも関わらず、
今もって手を引こうとしない連中のリストだ。
それもこれも本体が大きい為に彼等は、
自分達にまでは手が届かないと侮っていた。
 そんな彼等に制裁を加えるのは確定だが、注意事項が一つだけ。
アルファ商会絡みと思わせないこと。
アルファ商会の企業イメージは、「爽やか」その一点。
詰まらない噂で汚してはならない。

 十日後の期限が来た。
クラークに会いに出かけた。
今回の悪党ファッションは、前回のとは色違い。
赤を基調とした。
そして仮面も。
お多福にした。
得も言われぬ可愛らしさ、だと思う。

 【光学迷彩】【索敵】【転移】【転移】で目的地の上空に辿り着いた。
重力スキルで下の屋根にゆっくり着地。
そこで思いがけぬ光景を目の当たりにした。
クラークやサンチョが本拠にしてる建物が包囲されていた。
こっ、これは面白い。
 何れの面々も武器を手に、暗がりに身を潜めていた。
建物から出て来るのを待ち構えている気配。
対して、建物から打って出る気配は皆無。
それはそうだろう。
これほどの人数ともなると、発生と同時に騒乱罪が適用されて、
奉行所から捕り手の群れが出動して来る。
だからクラークは、冷静に籠城を選択したとも言えた。

 その奉行所の手先は・・・、探した。
いたいた。
少し後方で、のんびり見守っていた。
人数は一個分隊、十名。
暴力沙汰発生と同時に、数人が近隣の番屋に走り、出動を乞うのだろう。
もしかすると、本隊は既に待機済みか。 

 俺は透視スキルで建物内の防御態勢を点検した。
入り口は、裏も表も厳重な二重扉。
窓も、全て鉄板で補強されている
何れにしても、これらを破るにはかなり手間取る。
対して、防御側は人数をしっかり配し、予備の戦力もある。
一夜で落とすのは無理だ。

 俺はクラークの部屋にお邪魔した。
俺は恥ずかしがり屋なので、当然、光学迷彩を施したままの転移だ。
室内では喧々諤々の議論が交わされていた。
サンチョとクラークが中心で、幹部クラスらしき連中が三名いた。
一番の若手が吼えた。
「舐められたらいかん。
打って出ようぜ、親分たち」
 親分たち・・・。
サンチョとクラークが対等の親分たち、なのか。
そのサンチョが答えた。
「そうは言うがな、ここを戦場にすると奉行所の手入れを喰らう。
床下から天井裏まで調べられ、これまでの商売がばれる。
そこんところ、分かってるか」
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昨日今日明日あさって。(テニス元年)12

2023-04-23 07:07:25 | Weblog
 アルファ商会を代表してシンシアとルースが屋敷に来た。
二人は初っ端に、迎え出たダンカンに注文した。
「室内じゃなく、庭園じゃ駄目かしら。
この所、事務仕事で疲れているの。
新鮮な空気に触れたいわ」

 それをダンカンから聞かされた。
ご要望にお応えして、池の畔の四阿で面会した。
行くと、二人は見るからに疲れ切った表情でお茶していた。
果たしてそれでお茶の味が分かるのだろうか、甚だ疑問だ。
それでも態度は立派なもの。
俺の視線をしっかり受け止めた。
シンシアに尋ねられた。
「この場合は商会長ですか、それとも伯爵様」
「身内だけの時は昔通りにダンで」
「それではダン、まず朗報から、売れ行きは好調よ。
お貴族様向けの高価版も、一般向けの廉価版も品切れ寸前ね。
各工房の尻を叩いているけど、熟練工が育つまでは無理みたい。
だから商圏は、暫くの間は国都に絞るわ」

 儲かっているなら文句はない。
まずは初期投資分の回収だ。
「それで結構です。
朗報の次は何ですか」
「面倒臭い連中が湧いてるの」
「この伯爵様相手に」
「儲かるからね。
正面から来ないで搦め手で来てるわよ」
「例えば」
「工房の職人のスカウト、もしくはその工房の買収。
まあ、これらは可愛いものよ。
面倒なのは、商品の横流しを唆す輩や、技術を盗み取ろうとする輩ね。
倉庫に忍び込む輩もいるし、守ろうにも人手が足りないのよ」

 俺はお茶を飲みながら思案した。
「結局、僕は甘く見られていると」
「そこまでは言わないわ」
 ルースが言い添えた。
「私達の方で強硬手段に出ても良いかしら。
今日はそういう話よ」
 止むに止まれぬ結論に達したらしい。
「それはシビルも含めての結論」
「そうよ、女だからと甘く見られると困るのよね」
「つまり裏にいる奴等が分かってるんだね。
分かった、それらを一人残らず教えて欲しいな」
「どうするの」
「裏を取ってから、こちらで対処する。
それまで辛抱して貰えるかい」

 俺はその日は深夜労働。
外出なので着替えた。
何時もの悪党用ファッションだ。
細目のズボンにシャツ、編み上げの長靴にフード付きローブ。
魔法杖に仮面。
何れも【自動サイズ調整】の術式が施されているので問題はない。
 【索敵】で安全を確認し、時空スキルで自分の屋敷の屋根に転移。
そこから更に相手先の屋根の上空へ転移した。
重力スキルでゆっくり着地。
下を透視スキルで覗き見た。

 向かった先は外郭東区画のスラム。
久し振りにサンチョとクラークのアジトを訪れた。
この二人は相変わらずの仕事好き。
深夜にも関わらず、明かりが点いていた。
 おや、珍しくサンチョの姿がない。
代わりに別の輩が書類仕事を熟していた。
もう一人のクラークは平常運転。
ソファーで酒を飲んでいた。

 光学迷彩を起動して、その室内にお邪魔した。
執務中の輩は気付いた様子はないが、クラークは流石。
手のグラスをテーブルに戻した。
そして室内をキョロキョロ、ウキョロキョロ、見回した。
それでも俺の居場所の特定には至らない。
 俺は室内の片隅で光学迷彩を解いた。
所謂、背後を取られない四つ隅の一つだ。
クラークが即座に視線を向けて来た。
「おや、お出ましですかい、御大将」
 余裕を見せているが、心拍数が跳ね上がっているのは丸分かり。
食わせ者には違いないが、愛すべき高齢者、ご老体だ。

 執務中の輩が顔を上げた。
サンチョから比べれは若造だ。
その若造がクラークを見てから俺の方へ視線を転じた。
「誰っ・・・」

 俺は無視してクラークに尋ねた。
「サンチョが随分と若返ったみたいだが、どうしたんだ」
 クラークは余裕を見せつけんと、再びグラスを手にし、飲み干し、
叩きつける様にテーブルに戻した。
「ほんとに随分だな。
こっちの都合も考えてくれんか」
「はて、都合とね。
それを聞こうじゃないか」
「アンタが来んようになってから、ここだけじゃなく、
全部のスラムがガタガタになった。
西も東も、南も北も。
反乱や政争のお陰で、奉行所から毎日の様に手入れだよ。
手入れを喰らって大手は全部潰された」

 俺の責任の様に言うのは止めて欲しい。
でも相手はご老体、労わってあげようじゃないか。
「つまりスラムは住み易くなったって事かい」
「いや、逆だ。
これまで大手があったから、ある意味、住み易かった。
ところが大手が潰れて、代わりに若造達が伸して来た。
毎日の様にあっちで抗争、こっちでも抗争。
群雄割拠で、シッチャカメッチャだよ」
 クラークは暴力が大好物だとばかり思っていた。
違うのか、意外っ。
「それがサンチョと何の関係が」
「アンタのお陰でウチは資金が潤沢だ。
何せ返済しなくて良いからな。
こちらの懐具合は隠していたんだが、どうやら漏れたらしい。
サンチョが付け狙われる様になった。
だから今は、スラムの外に潜伏させてる」
 サンチョはスラムのファミリー構成員だったが、元は冒険者。
暴力はお手の物、そんな彼が潜伏を余儀なくされるとは。

 俺はクラークを見据えた。
目色で分かったのか、クラークが先に言う。
「ああ、俺を狙う奴はいねえよ」
 そうだろう、そうだろう。
クラークには奥の手があった。
獣化だ。
加えて闇魔法もある。
敢えて正面から挑む奴はいないだろう。
「急ぎの仕事を持って来た。
受けてくれるよな」
 クラークが仰々しく両肩を窄めた。
「ウチにそんな余裕があると思うのか」
 俺はローブの内に手を入れ、虚空から小袋三つを取り出した。
それをクラークのソファーの上に放り投げた。
ジャラリ、ジャラリ、ジャラリ、金貨三百枚。
途端、クラークの目色が変わった。
お金も大好物らしい。
「仕事の内容は」
 俺は続けて一枚の紙を、風魔法でクラークの手元に飛ばした。

「侯爵一人、伯爵一人、商会の商会長が二人、金貸しが一人」
 紙に記載したのは人名だけなのだが、流石は裏の住民。
言い当ててくれたので、説明が省けた。
「人名だけで分かるということは、そいつらは裏とは親しいのか」
 得意満面なクラーク、待ってましたとばかりに言う。
「親しいって言えば親しい。
しかし、正確を期すなら、身分職分は違うが同じ穴の貉だ」
「こいつらがやってる現在進行中の汚い仕事を洗ってくれ」
「どんな・・・」
「それをこちらが知りたい。
十日後に報告書にして提出してくれ」
「おいおい、十日かよ」
「もっと人手を増やしな。
大手にいた連中を雇えば良いだろう」
 俺は更に小袋を三つ追加した。
ジャラリ、ジャラリ、ジャラリ、金貨三百枚。
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昨日今日明日あさって。(テニス元年)11

2023-04-16 09:18:09 | Weblog
 センターホールは満席であった。
双方の家族、縁戚、友人、職場の者達、寄子の貴族、土地の有力者、
伯爵家の主立った者達が顔を揃えていた。
ただ一頭、チョンボのみは除外されていたが、誰も気にしない。
 列席者は左右の隅の小さな方のドアから入った。
ホール真ん中の観音開きのドアは締め切られていた。
そのドアの前に、邪魔にならぬ形でブースが置かれ、
楽器を手にした者達が位置に着いていた。
バイオリン二名、ヴィオラ一名、チェロ一名。
もう一名は楽器なしの楽団課長。

 俺はダンカンを連れていた。
そのダンカンが俺の目色を読み、演奏課長に合図した。
演奏が始まった。
歩き易さを眼目とした曲。
小さな編成だが、ホールを満たすには充分だった。
高音部が天井へ走って下へ跳ね返る。
低音部が足下を擽り、横壁を揺るがせる。
そんな中をダンカンは俺から離れ、ゆっくりした歩みで、
センターの赤い絨毯を踏み、最前列に向かった。
大階段下の司会者の立ち位置に付いた。
「新郎新婦のご入場です。
皆様、立ち上がってお出迎え下さい」

 観音開きのドアが大きく左右に開かれた。
向かって左側から本日の主役、
白いウエディングドレス姿のイライザが現れた。
エスコート役はこちらも白装束の司祭様。
付き従う白装束のベルガールが四名。
 右側からは白いタキシード姿のカールが現れた。
エスコート役はこれまた白装束の宮司様。
付き従う白装束姿のベルボーイが二名。

 直前までは緊張していたイライザも、元々が図太い性格。
開始と告げられるや、態度を一変させた。
臆することなく、しっかりと歩を進めた。
 一方のカールは淡々としたもの。
自分が主役ではないと理解してからは余計にそう。
余裕の笑みでイライザにウィンクした。
 双方共に気を付けたのは、歩みのみ。
歩幅を合わせ、笑顔で赤い絨毯の上を静々と進む。
皆の祝福の声を受けて、センターを抜けると、そこからは大階段。
その高さは中二階程度。

 奥まった所の、嵌め殺しの窓からの陽射しが降り注ぐなか、
階段の上に辿り着いた二人は、エスコート役の指示で足を止め、
ゆっくりと背後を振り返った。
立ち位置はイライザとカールが最前列中央。
二人の斜め後ろに宮司と司祭。
そしてベルガールとベルボーイ。
 司会者・ダンカンが声にした。
「ご起立の皆様方全員が立会人となります」
 合わせて演奏曲が変わった。
厳かさを眼目とした曲。

 ここまで来れば滞りなく進むだろう。
俺はダンカンに後を委ね、演奏ブース後方から次へ向かった。
隣接する大ホールだ。
挙式の後はここで披露宴が行われる。
 テーブルのセッティングは事前に終えているが、
生物の配膳はただ今真っ最中。
スタッフだけでは足りないので、屋敷のメイド達も狩り出されていた。
彼等彼女等の手により、蓋つきの物が次々に配膳されて行く。
飲み物やグラスもだ。
その全てを仕切っているのはメイド課長。

 最後は厨房。
料理課長が俺に気付いた。
早足で寄って来た。
「できました」
 巨大なイミテーションケーキが台車に載せられていた。
その台車にしてもウェディングを意識して、華美な装飾が施されていた。
イミテーションケーキの背後には、本物のイチゴショートが山を成し、
出番を今か今かと待ち構えていた。

 三度目のカラ~ン、コロ~ン、カラ~ンが聞こえて来た。
フラワーシャワーを浴びてる頃だ。
俺は大ホールに戻った。
何故か、侍女長のバーバラがいた。
それも涙を拭いていた。
俺に気付いて、気まずい顔をした。
「すみません、見苦しいところをお見せしました」
「いいよ、気にしないで」
「伯爵様のせいですよ。
こんな素晴らしい挙式を演出なされるなんて・・・。
齢は取りたくないですわね」
 零れる涙に耐え切れず、ホンターホールから抜け出して来たらしい。
「ありがとう、誉め言葉をありがとう」
「もうちょっとを若かれば、ここで挙式したかったですわね」
「今からでも遅くないと思うけど」
 閃いた。
思わず口にした。
「ああ、そうだ、そうだよバーバラ。
例えば結婚してから二十年目とか、三十年目とかの節目だ。
身内だけを集めて小ホールで披露するのはどうだろう」

 バーバラが固まり、近くで働いていたスタッフ二名が歓声を上げた。
そして謝った。
「「すみません、仕事中でした」」
「いいよいいよ、どうかな今の考えは」
 バーバラも再起動した。
三名揃って、「「「良いと思います」」」賛同した。
 商売にするか。
表現は悪いが、貴族の子供を唆し、両親の挙式二十周年、
三十周年をお祝いさせる。
ついでに嫡子への爵位相続も合わせれば・・・。
それをこの施設で。
ああ、なんて素晴らしい。
お金の匂いがする。
投下した資金の回収が早まる。

 全てを滞りなく終えた。
身内のみを集めた席でカールとイライザが俺に感謝した。
「「ありがとうございました」」
「気にしないで、これも商売の宣伝の一つなんだからね」
 カールに言われた。
「本当にダンは昔のまんまだな。
照れないでそこは素直に受け取って欲しいな」
「まあまあ、話しを変えよう。
この施設名をオメガ会館とします。
商会長は当然、僕。
取締役を三名置きます。
筆頭はイライザ。
残り二人はカールに選んで貰います」
 カールが難しい顔をした。
「商売に精通してる人材ね」
 するとそれまで黙っていたポール殿が口を開いた。
「ここで足りなければ私の方から回そうか。
心当たりならタップリ」
 社交の幅が狭い、浅い、そんな俺は頷くしかない。
「お願いします」

 国都に戻って三日目、ポール殿から五名斡旋された。
何れも大手商会や商人ギルド由縁の人材ばかり。
俺はラファエルとルベンを選んだ。

 この件では商人ギルド口座に5000万ドロンを入金した。
株主は俺一人。
俺以外の八名、キャロル、マーリン、モニカ、シェリル、ボニー、シンシア、
ルース、シビルは巻き込まなかった。
個人の私情からの設立だったので、敢えて巻き込まなかった。
だから怒らないと思う。
でも儲かったら怒るんだろうか。 

 そんな所にシンシア、ルース、シビル三人からの先触れ。
「お戻りと聞きました。
至急面会を求めます」と来た。
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昨日今日明日あさって。(テニス元年)10

2023-04-09 08:01:18 | Weblog
 屋敷で椅子を暖めている暇はなかった。
毎日、件の施設に出向いた。
そこで各担当者と打ち合わせした。
宮司や司祭は当然として、他には現地雇用の料理課長、メイド課長、
警備課長、楽団課長、雑務から人事経理事務までを担う総務課長。
こういった面々と当日のスケジュールを綿密に組み立てた。

 当日を迎えた。
箱馬車で施設に向かった。
俺にカールにイライザ、ダンカン。
当然、イライザがテイムしたチョンボが馬車脇を並走した。
「クエクエ」と煩い。
 野生の勘で、祝いを述べているのかも知れない。

 ここまで来るとカールも疑問を抱いたらしい。
「ダン、何かおかしくないか」
「なにが」
「何かが・・・、何かが引っかかるんだ。
ここ数日のダンの様子も変だったし、屋敷の者達も」
「そうかな」
 カールは同乗していたダンカンを見た。
「何か隠してないか」
「別に」
 イライザもカールに同調した。
「確かにそうよね。
皆の様子もおかしいのよね」

 そうこうしてる間に馬車が施設の馬車寄せに入った。
施設のメイド達が待ち受けていた。
降りたカールとイライザを取り囲み、それぞれ別個に案内しようとした。
「カール様はこちらに」
「イライザ様はこちらに」
 狼狽する二人。
そんな二人に俺は声を掛けた。
「カール、控室でポール殿がお待ちかねだ。
イライザもそう。
国都から二人の家族が来ている。
抵抗せずに控室に向かってくれ」
 流石の二人も急な事に対応しきれない。
渋々といった感じで従う。
見送ったダンカンが溜息を漏らした。
「もう少しで気付かれそうでしたね」
「ああ、二人が鈍くて助かったよ」

 ダンカンから警備員の一人にチョンボが受け渡された。
立ち去るチョンボを見送りながら、俺は表玄関の総務課長に合図した。
その総務課長から施設内に合図が送られた。
途端、鐘が鳴らされた。
「カラ~ン、コロ~ン、カラ~ン」
 街中に響けと言わんばかりの音量。
ダンカンが俺に尋ねた。
「これが鐘の音論争の着地点ですか」
 神社と教会で鐘の音を巡って論争になった。
高いだ、低いだ、鈍重だ、耳に痛いだ、神々しくないだ、大いに揉めた。
結果、これに落ち着いた。
「そう、これが幸せを招く鐘の音だよ」
「双方がおり合ったと。
これでいよいよ本番ですね」
 そうなんだ。
計画はずっと前にスタートした。
カールとイライザを除け者にして。
そして辿り着いた、当日に。

 ダンカンと連れ立って玄関に足を踏み入れた。
真新しい赤い絨毯が敷き詰められていて、何とも贅沢な気分。
内装にまで口出ししたのは俺なんだけど。
まぁ、成金気分かな。

 総務課長の案内で俺とダンカンは施設内を見て回った。
センターホールの準備よし、大ホールの準備よし、厨房もよし、
楽団もよし。
今のところ問題なし。
総務課長が俺に尋ねた。
「伯爵様、如何ですか」
「良いよ、準備に怠りなし。
このまま何事もなく終わる事を願うよ」
「伯爵様もここで為さいますか」
 俺の結婚式ねぇ、・・・。

 イライザの控室を訪れた。
ウェディングドレスを身に纏い、泣き崩れるイライザがいた。
それを家族三人が生暖かい目で見ていた。
父は八百屋の主人・マルコム、母のオルガ、兄・サム。
俺の入室に気付いたメイドが小走りで寄って来た。
「涙で化粧が崩れました」
 俺はイライザに歩み寄った。
「結婚式は女の戦だよ」
 イライザが顔を上げた。
涙で崩壊した顔で応じた。
「伯爵様、いいえ、ダン、子供に言われるとはね、まさかね。
うわぁ~ん、うわぁぁぁぁぁぁぁ」
 面白い。
もっと泣かせよう。
「ねえイライザ、カールの控室にはポール殿の家族も来ているよ。
屋敷の者達も、もうそろそろ到着する頃だ。
代官所の文官や武官、それに寄子貴族もね」
 イライザが立ち上がって俺を抱きしめた。
「ひどい、ひどい、ひどいわぁ」
「二回目の為に練習だと思えば」
「それはもっと酷いわぁ」
 俺の頭を掻きむしった。
ああ、禿げる禿げる。

 俺はダンカンに髪を整えてもらってからカールの控室に入った。
ポール殿とその家族がいた。
妻一人、俺より年上の子供三人。
執事のブライアンもいた。
全員が俺に気付いて立ち上がった。
その全員を押し退けてカールが俺の前に来た。
何とも白いタキシードの似合うこと。
「ダン、今日まで騙し通してくれて有り難う、と言えばいいのか、
何と言っていいのか、よく分からないが有り難う、・・・かな」
 何時もは冷静な彼も、今は混乱していた。
「いいえ、どういたしまして」
 カールが俺の肩を両手でガシッと掴んだ。
「俺達の為にこれを建てたのかい」
「だったら怒るよね」
「当然だろう、無駄金だ」
「ふっふ、そうじゃない。
カールも何度か内部を見ているよね」
「見てる、代官として設計図の段階から立ち会ってる。
完全に頭に入ってる」
「良かった、それを思い出して。
ここの中心は厨房になるんだ。
今日はこちら側、センターホールや大ホールの営業になるけど、
通常は反対側のレストランやショーホールのみの営業になるんだ。
食文化とショー文化で儲けを出すつもりだよ」

 室内に音符の波が流れ込んで来た。
来客をセンターホールへ案内する合図の演奏が開始された。
総務課長が顔を出した。
「ダンカン様、そろそろです」
 式進行を務めるダンカンが総務課長に連行された。

 二度目の、カラ~ン、コロ~ン、カラ~ン。
施設のメイドが顔を覗かせた。
「来賓の皆様、センターホールへご案内いたします」
 ポール殿ご一家が部屋を出て行った。
手持ち無沙汰のカールを俺は励ました。
「ねえカール、緊張はしてないよね」
「当然だろう」
「結婚式は女の戦、男はただの置物で良いんだよ」
「あー、子供に言われてしまった」
「それからカール、今日まで有り難う。
本当はもっと早く挙げさせて」
「分かってる。
二人で話し合ったんだ。
周囲の状況が落ち着くまで伸ばそうって。
諸般の事情が色々とあったからね。
暇になったら結婚式を挙げる予定でいたんだ。
それがこんな事になるなんてね、先は分らん。
・・・。
ところでこの商会の名前は、商会長は」
 登録するのをすっかり忘れていた。
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昨日今日明日あさって。(テニス元年)9

2023-04-02 08:44:00 | Weblog
 山城から美濃は近い。
途中に近江を挟むのみ。
それでも途次に領地を拝領している貴族への挨拶は欠かせない。
格上の貴族が領地に居るのなら俺自ら寄って挨拶し、
格下の貴族なら執事長を挨拶に出向かせ、
代官が治めているのならなら只の執事を。
とにかく面倒臭いのだ。
 夜もそう。
本来の俺なら野営でも一向に構わないのだが、
貴族の作法がそれを許さない。
冗談で口にしたら皆にお説教された。
だから、夜はその地で一番の宿に泊まり、大金を湯水の様に流す。
 まあ、短い旅であったので我慢できた。
でなければ途中で発狂していた自信があった。

 美濃地方に入った。
すると国境でアドルフ宇佐美が騎士団と歩兵隊を率いて待っていた。
馬車の前で下馬すると、綺麗な所作で敬礼した。
「お待ちしてました」
 地位が人を作る、とは良く言ったものだ。
アドルフが別人に見えてしまった。
それとも、酒と食で贅肉が付いたのか。
真相は置いといて、折角だから俺は馬車から降りて二つの部隊を見た。
 騎士団は、軽装の五十騎と従士百名。
歩兵隊も軽装のみ、一個中隊二百五十名。
一見して問題なしと判断した。
きちんと整列していたからだ。
 部隊行動の第一は、整列した状態での縦横の間隔。
近付き過ぎない、離れ過ぎない。
そして、敵が入り込む隙間を生じない、ここが大事。
武器を構えて数で押して行くのが基本だから、これが初歩中の初歩。
これを最初から最後まで守り通せば、まず負けない。

「良く鍛えられているね」
「ありがとうございます。
でも残念ながら、直近の兵のみです」
「それは仕方ない。
うちは歴史が浅いからね。
「承知しています。
焦らずに、急いで全軍を仕上げます」
 それは悪手、拙いだろう。
「焦るな、焦るな、急ぐのもなし。
子供を育てるように、じっくり育てて欲しい」
「そう仰るのであれば」
「兵は死ぬ覚悟と、殺す覚悟を持った職業。
訓練は厳しくても良いけど、それだけでは駄目だよ。
空いた時間は楽しくやらせる。
人生を大いに謳歌させる。
緩めるのも大事」
 すると俺の後ろからウィリアム佐々木が口にした。
「いつ死んでも悔いのない様に、ですね」
 何代にも渡って只の村人だった筈が、先祖返りしてしまった。
根底に流れる血は争えないのだろう。

 古来より領都であった為、領主の屋敷は定められていた。
古い街並みの一角に、ドンと鎮座していた。
ただ、敷地が広いので建物自体は見えない。
見えるのは周囲を囲う外壁と、象徴の重厚な表門のみ。
古式ゆかしいとも、古臭いとも言えた。
 他人を寄せ付けぬ感じの表門を入ると、広大な庭園を走り抜け、
一行はその最奥へ招かれた。
そこにはカール夫妻を先頭にした使用人一同が待ち構えていた。

 屋敷のホールに皆を集めて、真っ先に着手したのは人事。
まずメイド長のバーバラを侍女長にした。
これまでは侍女職を置かなかったのだが、伯爵ともなるとそうも行かない。
必要に迫られた。
幸い適任者がいた。
「一からのスタートになる。
大変だけど、白紙委任で宜しくお願いしたい」
「はい、励みます。
人選も含めてお任せ下さい」
 次はメイドのドリスだ。
「バーバラの補佐を頼みたい。
後任のメイド長として助けてくれるかな」
「喜んでお引き受けします。
ただ、伯爵様のお世話も続けますわよ」
 ぶれない。
「了解」

 一晩明けて、真っ先に目的地に向かった。
寄親伯爵としてではなく、伯爵家としてでもなく、
個人として資金を提出し、建てさせた施設だ。
領都の北側にあった空地を買い取り、そこに建てさせた。
敷地を丸柱を連ねた外壁で囲わせた。
門構えも丸柱で組んだ。
門自体は木製だが、丸柱を彷彿させる造り。
 門自体が大きく広い。
開けさせた。
一気に視界が広がった。
大隊規模の隊列が横隊で入れる広さ。
中央には、大理石組みの、古風な大きな建物が一棟。
敷地内は芝生だが、各所に、これまた大理石の丸柱が無造作に、
捨て置かれる様に何柱も建てられていた。

 俺に付いて来た随行員が全員唸った。
「「「「「あっ、ああー」」」」」
 ダンカンの口から一言漏れた。
「神々しいですね」
 背後に峻険な山か、広大な緑の草原、もしくは大海原があれば、
そう思わずにはいられない。

 俺の来訪に合わせて出迎えの者達がいた。
この施設の関係者だ。
施工責任者が真っ先に前に進み出た。
彼は国都の錬金術師ギルドのギルドマスターにして、
高名な魔法使いでもあった。
「伯爵様、ここに関われた事に深く感謝いたします」
「仕事が気に入ったのかい」
「はい、面白と言っては失礼かも知れませんが、実に画期的でした」
「それは良かった。
しかし、国都のギルドを留守にさせて問題はなかったのかい」
「後進を育てる良い機会にもなりました。
そちらも含めての感謝です」
「それで儲けは出たのかい」
「もう充分に」
「それは良かった」
 魔水晶を大量に購入し、術式設計も依頼した。
大いに潤った筈だ。
これを大いに宣伝して欲しい。
ダンタルニャン佐藤伯爵は業者に損はさせないと。

 続けて神社の宮司と教会の司祭が連れ立って挨拶した。
共に岐阜の神社と教会の首座にある者だ。
「「伯爵様、今後ここに関われるとのこと、深く感謝します」」
「神社と教会の仕様は違うと思うけど、あれで良かったかい」
 心配したのは利害対立する教義ではなく、撞く鐘の音。
「「大変結構でした」」
「それは良かった。
安心して事に望めるよ」
 今回の胆の一つは宣伝。
その点も含めて、今回の件で大勢を巻き込んだ。
それも秘密厳守で。
難しいミッションになった、俺以外の皆は。
 宮司と司祭には、中央には漏らすなとも頼んだ。
宗教組織上、難しいのは分かっていた。
それを二人は快く了承してくれた。
「「我等二人で検討しました。
結論は、互いの信奉する神には背いてはいない。
後ろから謗りを受けるでしょうが、甘んじて受ける、
そういう答えに達しました」」との、連署の手紙を事前に受け取っていた。
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