都、洛陽は朝から賑わっていた。
外郭四門から内郭四門へと続く東西南北四つの大路には、
この日の為に特別に許された露店が軒を連ね、
都人だけでなく近郊からも人々が押し寄せ、祭りか市のような活況を呈していた。
やがて昼近くになると王宮で銅鑼が打ち鳴らされた。
呼応して外郭四門でも銅鑼が打ち鳴らされた。
それを合図に大路を行き交っていた人々が道の端に、左右に割れて真ん中を開けた。
襲来した鮮卑の撤退が確認されてより三日後のこと。
鮮卑の騎馬隊と交戦し、撃退に努めた軍勢が凱旋することになった。
東門よりは、「一番の功績」と認められた董卓将軍と、彼が率いる部隊。
西門からは何進大将軍麾下であった国軍部隊。
南門よりは袁紹、曹操等の貴族豪族の混成部隊。
北門よりは都で募られた民兵と、近郊より掻き集められた在郷兵の混成部隊。
ただ何進大将軍は病気を理由に凱旋を辞退していた。
銅鑼を合図に、東門の外で待機していた董卓麾下の軍が整列した。
国軍と董卓家の兵、赤劉家の兵、混成部隊であった。
董卓将軍が騎乗して、みんなを見回した。
「派手な格好だな」溜め息をついた。
戦の終わりを告げる凱旋なので、戦で草臥れた鎧兜でも一向に構わないのだが、
多くの兵は洗い立ての衣服の上に、真新しい鎧兜を身に着けていた。
董卓が溜め息をついたのは、鎧の下の派手な色使いの衣服。
「目立とう、目立とう」としていて、実にいじらしい。
そういう董卓自身も似たようなもの。
彼等に負けぬ色使いの衣服。
鎧兜も、このような時の為に買い揃えていた逸品。
その兜が陽射しを受けて輝いた。
みんなを見回して号令した。
「のんびり参るぞ」
董卓が隊列の先頭に立った。
李儒と郭夷が従い、供回りの騎兵が続いた。
少し間隔を置いて国軍の騎馬隊。
董卓家の騎馬隊。
赤劉家の騎馬隊。
それらは生き残った者達のうち、騎乗に耐えられる者達だけで編成されていた。
耐えられぬ者達は今頃、董卓将軍管轄の牧場で酒を酌み交わしている筈だ。
「飲める体力がある者は」だ。
物足りなさを感じた董卓は後ろを振り返った。
「四人を連れてこい」と郭夷に命じた。
外郭東大路沿いの店の二階に赤劉家の女達がいた。
窓際にいるのは方術修行中の姫五人。
劉麗華、劉林杏、劉紅花、劉深緑、劉水晶。
この店が赤劉家と親しいことから、二階の一部屋を借り切り、
凱旋を見物することにした。
赤劉家騎馬隊の晴れ舞台を見たい一心であった。
彼女達は今か今かと、窓際から大路を見下ろしていた。
部屋の中に居るのは姫達だけではなかった。
姫それぞれの守り役の女武者五人と、華雄の娘の華雪梅がいた。
「来た」という声に、華雪梅が敏感に反応した。
飲みかけのお茶を卓上に戻し、窓際に駆け寄って来た。
それを劉林杏が抱き上げ、窓に腰掛けさせた。
大きな歓声が上がった。
東門より騎馬隊の入城が始まった。
先頭の一騎は言わずと知れた董卓将軍。
親しまれているのだろう。
「いよっ、将軍」と野太い掛け声。
董卓は声の方を見て、気さくに片手を上げて応じた。
ところが董卓に続いて入った四騎を見て、みんな固唾を呑んだ。
四騎は鎧兜姿ではなかった。
金髪碧眼の呂布は赤い衣服の上に虎の毛皮を巻き付けていた。
傍目には彼が双眼を怒らせているように見えた。
黒い衣服の上に狼の毛皮を巻き付けた華雄は、周囲を脅すように睥睨。
今にも噛みつきそう。
白い衣服の上に熊の毛皮を巻き付けた許褚は、我関せずといった顔。
三人からは血の臭いしか漂って来ない。
ところがマリリン一人は違った。
女物としか思えぬ色鮮やかな衣服に身を包み、背中には「風神の剣」。
薫風を漂わせ、悠然と騎乗していた。
彼等の出で立ちは姫達が見立てたもの。
「恐いくらいに似合ってるわね」と劉水晶。
「本当、恐い恐い」劉麗華が含み笑い。
「そうよね、恐いわね」と劉紅花。
「はっはっは」華雪梅が大きく口を開けて笑う。
劉麗華の守り役である朱郁が誰にともなく呟いた。
「あの格好で宮殿には入らないわよね」
「入らない予定よ。・・・まさかね」劉麗華が首を傾げた。
すると劉林杏が、
「董卓将軍は酔狂な方と聞いています」と言うではないか。
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この日の為に特別に許された露店が軒を連ね、
都人だけでなく近郊からも人々が押し寄せ、祭りか市のような活況を呈していた。
やがて昼近くになると王宮で銅鑼が打ち鳴らされた。
呼応して外郭四門でも銅鑼が打ち鳴らされた。
それを合図に大路を行き交っていた人々が道の端に、左右に割れて真ん中を開けた。
襲来した鮮卑の撤退が確認されてより三日後のこと。
鮮卑の騎馬隊と交戦し、撃退に努めた軍勢が凱旋することになった。
東門よりは、「一番の功績」と認められた董卓将軍と、彼が率いる部隊。
西門からは何進大将軍麾下であった国軍部隊。
南門よりは袁紹、曹操等の貴族豪族の混成部隊。
北門よりは都で募られた民兵と、近郊より掻き集められた在郷兵の混成部隊。
ただ何進大将軍は病気を理由に凱旋を辞退していた。
銅鑼を合図に、東門の外で待機していた董卓麾下の軍が整列した。
国軍と董卓家の兵、赤劉家の兵、混成部隊であった。
董卓将軍が騎乗して、みんなを見回した。
「派手な格好だな」溜め息をついた。
戦の終わりを告げる凱旋なので、戦で草臥れた鎧兜でも一向に構わないのだが、
多くの兵は洗い立ての衣服の上に、真新しい鎧兜を身に着けていた。
董卓が溜め息をついたのは、鎧の下の派手な色使いの衣服。
「目立とう、目立とう」としていて、実にいじらしい。
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鎧兜も、このような時の為に買い揃えていた逸品。
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董卓が隊列の先頭に立った。
李儒と郭夷が従い、供回りの騎兵が続いた。
少し間隔を置いて国軍の騎馬隊。
董卓家の騎馬隊。
赤劉家の騎馬隊。
それらは生き残った者達のうち、騎乗に耐えられる者達だけで編成されていた。
耐えられぬ者達は今頃、董卓将軍管轄の牧場で酒を酌み交わしている筈だ。
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物足りなさを感じた董卓は後ろを振り返った。
「四人を連れてこい」と郭夷に命じた。
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劉麗華、劉林杏、劉紅花、劉深緑、劉水晶。
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赤劉家騎馬隊の晴れ舞台を見たい一心であった。
彼女達は今か今かと、窓際から大路を見下ろしていた。
部屋の中に居るのは姫達だけではなかった。
姫それぞれの守り役の女武者五人と、華雄の娘の華雪梅がいた。
「来た」という声に、華雪梅が敏感に反応した。
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それを劉林杏が抱き上げ、窓に腰掛けさせた。
大きな歓声が上がった。
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先頭の一騎は言わずと知れた董卓将軍。
親しまれているのだろう。
「いよっ、将軍」と野太い掛け声。
董卓は声の方を見て、気さくに片手を上げて応じた。
ところが董卓に続いて入った四騎を見て、みんな固唾を呑んだ。
四騎は鎧兜姿ではなかった。
金髪碧眼の呂布は赤い衣服の上に虎の毛皮を巻き付けていた。
傍目には彼が双眼を怒らせているように見えた。
黒い衣服の上に狼の毛皮を巻き付けた華雄は、周囲を脅すように睥睨。
今にも噛みつきそう。
白い衣服の上に熊の毛皮を巻き付けた許褚は、我関せずといった顔。
三人からは血の臭いしか漂って来ない。
ところがマリリン一人は違った。
女物としか思えぬ色鮮やかな衣服に身を包み、背中には「風神の剣」。
薫風を漂わせ、悠然と騎乗していた。
彼等の出で立ちは姫達が見立てたもの。
「恐いくらいに似合ってるわね」と劉水晶。
「本当、恐い恐い」劉麗華が含み笑い。
「そうよね、恐いわね」と劉紅花。
「はっはっは」華雪梅が大きく口を開けて笑う。
劉麗華の守り役である朱郁が誰にともなく呟いた。
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