金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

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白銀の翼(動乱)430

2015-04-01 20:57:37 | Weblog
 何美雨は鎧姿の一団が扉の向こうに消えると、改めて太后皇后の前に両膝ついた。
畏まって言う。
「出過ぎた真似を致しました。お許し下さい」
 董太后は何皇后と顔を見合わせた。
しかし何皇后とは言葉を交わさず、暫し考えてから何美雨に視線を戻した。
「まるで曹操や袁紹達と事前に打ち合わせでもしてたかのようね」
 何美雨は、「いいえ、それはありません。勘違いです」惚けた。
 董太后の視線が柔らかくなった。
ゆったりと椅子に腰を下ろし、
「そう言うことにして置きましょう。
・・・。
それで他に何か言い残した事はないの」鷹揚に問う。
 曹操に聞いた市中の懸念を伝えた。
「外郭に住む庶民達が、外郭の四門を守る兵が少ないのに怯えているようです」
 都は二つの城壁で守られていた。
中心部にある王宮が内郭。
その外側にある市街地が外郭。
共に高い城壁と、厚い門構えで外敵の侵入に備えていた。
 董太后が問う。
「どうしろと」
「妥協の産物である中途半端が一番悪いそうです」
 図星であったらしい。
董太后が顔色を変えた。
というのは、朝議で最も時間をとられたのは、「如何にして外郭四門を守るか」。
守るにしても外郭の防備を任されている国軍は二千余しか残されておらず、
兵力不足は火を見るよりも明らか
そこで議論は、
「外郭に住む庶民から義勇軍を募り、さらに不足するようなら強制的に徴兵する」
という方向で進められていた。
 内郭の守りを任されている近衛軍一万余に触れたのは、ごく一部の武官のみ。
彼等が、「近衛軍の半数を外郭に回すべし」と意見を述べたのだが、
採り上げられる事はなかった。
多くの高官は自分達の身を心配し、内郭の守りを最優先した。
外郭が破られたら自分達の家族を内郭に避難させる心積もりと見えた。
 董太后の視線が何美雨に張り付いた。
「考えを申せ」と言いたげ。
 何美雨は曹操に聞いた防御策は語らない。
意地が悪いようだが、太后の器を測るつもりでいた。
と言うのも心底では曹操が申す通り、「鮮卑の騎馬隊は撤退した」と思っていて、
危機感は毛頭なかった。
ただ、それだけに、素人の太后が気の毒に思え、それとなく匂わせる事にした。
「兵力が足りなければ女武者もおります」
 とたんに董太后の表情が緩む。
椅子から立ち上がって一同を見回した。
「近衛軍全軍を外郭の守備に回しなさい」迷いはない。
 さらに何美雨の後ろに控えている劉春燕と劉茉莉に声をかけた。
「そなた達は劉家の女武者だったわね。
ただちに仲間達の元に戻り、内郭四門の守備につくように申しなさい」
 太后は満足気な表情で何美雨を見返した。
「どうだ」と言わんばかり。
 多くの高官は戸惑っていた。
先までの議論が根底から覆されたので、対応に苦慮している様子。
 彼等を尻目に何美雨は大きな声で賛同した。
「ご英断です。
近衛軍が外郭の守りにつけば、庶民達は落ち着きを取り戻し、
多くが義勇軍に志願して来るでしょう」
 触発されたかのように武官連中が次々と賛同の声を上げた。
流れが文官達にも広がって行く。
 太后の鶴の一声。
となれば再考の余地はない。
近衛軍の分割再配備。
三公九卿が中心となって新たな防御策を練った。
そこは行政手腕に長けた者達。
武官達から聞き取りながら、遅滞なく策定して行く。
 その様子を近くで覗いていた何美雨は、後ろから自分が呼ばれているのに気付いた。
振り返ると董太后が手招きしていた。
自分の隣の空席を指し示し、「ここに腰掛けなさい」と言うのだ。
先ほどまでは何も無かった筈なのに、いつの間にか椅子が用意されていた。
せっかくの好意を無にするのも子供らしくないので、とっておきの無邪気な笑顔で、
その椅子に駆け寄って腰掛けた。
流石に太后が用意させたもの。
ふかふかして、心地好い。
「わーおう」素っ頓狂に声を上げて見せた。
 董太后が喜ぶ。
「喜んでくれて嬉しいわ」
「良いのですか。私のような者が隣に腰掛けて」
「子供は遠慮せぬものよ」
 何美雨はこの席順に違和感を覚えた。
彼女の右に太后。さらに右が皇后。
彼女に席が与えられるまでは太后皇后二人で席を並べていた。
帝が病に伏せていたので、席順のように太后と皇后が同格として権勢を振るっていた。
ところが彼女に席が与えられた事により、太后の右には何皇后、左には何美雨、
そして真ん中に董太后という並びになった。
誰が見ても真ん中の太后が最高権威者である。
意識して椅子を用意させたのか、それとも無意識でのことか、理解しかねた。
たとえ意識していたとしても、一時の気紛れだとは思うのだが。




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