ごっとさんのブログ

病気を治すのは薬ではなく自分自身
  
   薬と猫と時々時事

AIによる有機分子の設計

2018-08-30 10:45:07 | 化学
理化学研究所革新知能統合研究センターの研究グループが、人工知能(AI)を用いて、所望の特性を持ちかつ合成可能な有機分子の設計に成功したと発表しました。

私のような有機化学者にとって、AIを利用して有機化合物を設計するということが一つの夢でもありました。

医薬品の開発をしている場合、ターゲットとなる酵素や受容体の立体構造が分かる時代になってきました。そこでこれを基にして基質結合部位のような活性部分の構造から、そこに最もうまく結合しそうな構造を設計するというのが一つの研究の流れです。

これは研究者が行っていましたが、コンピュータ(当時はAIという言葉はありませんでした)で計算させれば、もっと良い化合物設計ができるのではと考えていました。しかしそこには大きな課題があることも確かでした。

このように30年も前から所望の特性を持つ有機分子を計算機に設計させる技術が注目されていたわけです。しかしそのためには、有機分子を構成する化学法則を前もって入力しておく必要があり、労力がかかる上にすべての法則を網羅することは不可能でした。

しかし近年の「深層学習による人工知能技術」の発展により、複雑な有機分子を構成する法則を自動で計算機に学習させることが可能になりました。これにより、AIを用いて機能性分子を設計する技術は飛躍的な発展を遂げ、多数の新しい分子が設計されました。

しかしこのようにして設計された有機化合物が実際に合成できるのかについては、これまで検証されたことはありませんでした。一方で「量子力学に基づいた分子シミュレーション技術」が急激に発展しました。

機能性分子の多くには、分子の量子力学的性質から発現される特性が利用されており、この技術は分子設計に不可欠な技術といえます。

研究グループは有機化合物の特性の一つである「光吸収」に注目しました。設計方法としては、データベースにある水素、炭素、窒素、酸素原子で構成される分子量400程度の13,300個の有機分子に関する情報を入力し、深層学習の手法によってあらゆる有意分子の法則を学習させました。

次に特定の吸収波長を持つ分子をある手法で探索しました。さらに探索された分子の性質と安定性を、量子力学に基づいた分子シミュレーション技術によって計算しました。

この結果3,200個の分子が設計され、このうち86個が安定かつ所望の吸収波長をもつ分子と決定しました。この内6個を実験で合成し、紫外化吸収スペクトルを測定したところ、6個のうち5個が特定の吸収波長を示すことが分かりました。

今回は光吸収という簡単な性質ですが、私が考えていた医薬品をAIによって設計するという夢に一歩近づいた気がします。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿