ごっとさんのブログ

病気を治すのは薬ではなく自分自身
  
   薬と猫と時々時事

蓄膿症と呼ばれた副鼻腔炎の新薬登場

2022-02-28 10:34:10 | 
昔は蓄膿症と呼ばれていた病気が、現在は「慢性副鼻腔炎」という名前になっているようです。

昔職場の先輩がこの蓄膿症の手術をして、上唇の内側から切開するという話を聞いて驚いた記憶があります。

風邪やインフルエンザなどの細菌・ウイルス感染、花粉からハウスダストといったアレルギーから引き起こされ、これらをきっかけに鼻炎となるのが副鼻腔炎です。

副鼻腔とは顔の左右にそれぞれ4個ずつ、合計8個ある空洞のことです。これらは小さな穴で鼻腔とつながっていますが、粘膜の炎症や鼻水によって副鼻腔と鼻の間にある通り道がふさがって、副鼻腔から分泌物や異物を排泄できなくなり、鼻水や膿が溜まることがあります。

発症から4週間以内は「急性副鼻腔炎」、3か月以上症状が続けば「慢性副鼻腔炎」と呼ばれています。膿が出るタイプの古典的な慢性副鼻腔炎は、かつて「蓄膿症」と呼ばれていましたが、近年衛生状態がよくなり、患者は減少傾向にあります。

その一方アレルギーとも関連の深い難治性の「好酸球性副鼻腔炎」が増加しています。好酸球とはアレルギーを起こしたときに増加する細胞です。この場合喘息を合併していることが多く、鼻づまり、鼻茸(鼻ポリープ)、嗅覚障害などが特徴となります。

この治療法としては、膿が出るタイプの非好酸球性の慢性副鼻腔炎の場合は、低用量の抗菌薬を長期間内服する治療が主な方法で、改善しない場合は手術となります。この手術法も近年は鼻から内視鏡を入れて行う低侵襲な手術が標準的になっています。

また副鼻腔炎と同様の症状を起こすカビ(真菌)が原因の「副鼻腔真菌症」という病気もあります。難治性の好酸球性副鼻腔炎の治療は、抗アレルギー薬や抗菌薬の内服で治療しますが、この場合も鼻茸の切除手術などが行われます。

ただし手術後も再発が多く、手術を繰り返すことになるケースもあるようです。ステロイド以外に明確に効果がある治療が乏しいとされてきましたが、新たに切り札となる注射薬が登場しました。

これは「ヂュピルマブ」という薬で、アトピー性皮膚炎や気管支喘息の治療薬として知られています。手術を繰り返しても鼻茸が再発してしまうような重症の場合に使用する薬です。

ヂュピルマブを注射すると、鼻炎症状の改善や鼻茸が小さくなるなど、これまでの治療では改善が見られなかった人でも、かなりの割合で治療効果がみられるようです。

好酸球性副鼻腔炎は免疫細胞から作られる物質が病状を悪くしていることが分かっていますが、この薬はこれらの物質の働きを抑えることで症状を改善できるとしています。

やや高価な薬のようですが、こういった新薬が出ることにより難治性疾患の治療が可能になるのは、もと薬屋としてもうれしいことです。

睡眠時間と病気の関連あれこれ

2022-02-27 09:28:39 | 健康・医療
私は健康は食事と睡眠からというのが信条ですので、このブログでも睡眠はたびたび取り上げています。

私自身は比較的寝つきもよく、ほとんど目が覚めることなく(たまにトイレに行くことはありますが)大体7時間ぐらいで自然に目が覚めますので、ほとんど問題はないと思っています。

現役のころは平日は睡眠不足で、休日に寝だめをするという生活でしたが、引退してからは十分な睡眠時間(ちょっと長すぎる気もしますが)が取れています。

睡眠のサイクルは1.5時間周期なので、1.5時間の倍数分の睡眠時間を取ると目覚めがいいという説もあるようですが、最近の研究ではこれは俗説と言えるようです。睡眠不足と色々な病気リスクの関係は非常に多くの研究が報告されています。

2019年のイギリスの研究では、約50万人の40〜69歳の成人を7年間追跡し、睡眠時間が6時間未満の人はそれ以上の人と比べ、心筋梗塞になるリスクが20%も高いことを報告しています。また睡眠時間が1時間延びるごとに心筋梗塞のリスクが約20%低下することも分かりました。

スペインで約4000人を対象として行われた研究では、睡眠時間が6時間未満の人は、動脈硬化が進んでいることが明らかになっています。睡眠時間が短くなると、血液中の炎症性物質が増えるといわれており、これが原因と考えられています。

その他睡眠時間が短いことは、不整脈や免疫機能を低下させるだけでなく、死亡率の増加にもつながると報告されています。2008年の研究では睡眠時間の短い人ほど肥満のリスクが高いと報告されています。

12名の健康で標準体重の男性の被験者を、食事カロリーや運動量をコントロールされた環境下で、短時間(4時間)睡眠と長時間(10時間)睡眠を無作為に割り付けた実験があります。

その結果睡眠不足によって食欲を増す効果のあるグレリンというホルモンの分泌が促進され、食欲を抑制するレプチンというホルモンの分泌は逆に減ることが明らかになりました。

また睡眠不足は脳の食欲をコントロールする部分の活動を低下させ、それによって特にカロリーが高く炭水化物の割合の高い食事を欲するようになることも別の研究から分かっています。

睡眠と仕事の生産性に関する研究もあり、48名の被験者を無作為に異なる睡眠のパターンに割り付けて、頭の働きを評価した研究もあります。被験者をそれぞれ4時間、6時間、8時間睡眠を続ける3つのグループ、および3日間徹夜という4つのグループに割り付け、精神動態覚醒水準課題(PVT)手使途と呼ばれる作業能力などを評価するテストを受けさせました。

その結果睡眠時間が短いほどミスが多いというある意味当然のことが分かりました。ここで自覚している眠気の強さとミスの頻度は比例していませんでした。3日間徹夜のグループを除いて、睡眠時間の長短に関わらず4〜5日すると眠気はそれ以上強くならなかったようです。

このあたりは眠気の自覚という点で興味ある結果と言えそうです。この様に睡眠不足は色々な問題を引き起こす可能性がありますが、現代人としては十分な睡眠時間を取るのは難しいのかもしれません。

増加中の花粉症を含むアレルギー性鼻炎のはなし

2022-02-26 10:31:07 | 健康・医療
花粉症の時期になっていますが、幸い私はこの歳まで花粉症の症状は出ていませんので、無縁の生活を送れそうです。

私が勤務していた研究所は非常に花粉の多いところで、1日駐車しておくと帰りには車全体が黄色く花粉で覆われていました。

日本耳鼻咽喉科学会が2019年の全国調査では、アレルギー性鼻炎の有病率は全体として49.2%で2人に1人がこの病気を持っています。これは11年前と比較して約10%増加しており、中でもスギ花粉症の増加率が高くなっています。

スギ花粉症の有病率は11年の間に26.5%から38.8%に増加し、スギ以外の花粉症も増加傾向にあることが分かりました。スギ花粉症の年齢別有病率を見ると、10歳未満では3人に1人が花粉症であり、ピークは10歳代の49.5%で、20代から50代までの45%に症状があるようです。

アレルギー性鼻炎の治療に関しては、日本耳鼻咽喉科アレルギー感染症学会が発行している「鼻アレルギー診療ガイドライン」があります。

原因となる抗原の除去及び回避を原則として、薬物療法やアレルギーの原因物質を少量から投与するアレルゲン免疫療法、手術療法を効率よく組み合わせます。重症度やタイプに基づいた治療戦略を患者の治療目標や通院環境に応じて検討するものです。

また国のアレルギー疾患対策には、2014年アレルギー疾患対策基本法が施行され、全国どこにいても一定水準の治療を受けられることを目指しています。都道府県レベルではアレルギー拠点病院が設置され、診療のボトムアップを図っています。

例えばアレルギーエヂュケーター(PAE)に認定された看護師、薬剤師、管理栄養士は、服薬指導やスキンケア、日常の生活指導を通じてアレルギー治療の重要な役割を担っています。

最近ではアレルギー疾患治療や管理に関する専門知識を有し、患者や家族への指導スキルを備えたコメディカルスタッフであるアレルギー疾患療養指導師(CAI)が創設されました。このような人材を増やすことによって、アレルギー診療を広く充実させることが重要な意味を持っています。

抗原の除去・回避というアレルギー治療の原則を顧みれば、原因であるスギ花粉そのものを減少させる方法も重要です。無花粉スギの植林によって、飛散するスギ花粉の数を減少させる対策も試みられていますが、これらは短期的に結果が得られるものではなく、今後も継続的に実行する必要があります。

この様に花粉症を含むアレルギー性鼻炎の対策は非常に広範囲に行われていますが、なぜ近年増加しているかは触れていませんでした。色々な説が出ていますがこれといった根拠のないものも多く、まだまだ分からないところが多い疾患なのかもしれません。

通常時にも出現するオートファジーの仕組み

2022-02-25 10:25:45 | 健康・医療
細胞が自己を食べてしまうという「オートファジー」は飢餓時の栄養源確保と考えられていましたが、通常時にも生じていることが徐々に分かってきたようです。

飢餓状態ではオートファジーによって成分を包み込んだ袋「オートファゴソーム」が急にたくさん出現するため、オートファジーが起きていることが分かりやすくなります。

この時LC3というタンパク質がオートファゴソームの膜に特異的に結合することを見出し、LC3を蛍光で光らせることでオートファゴソームを光学顕微鏡で簡単に観察できるようになりました。

体重60キロの成人の場合、体の中で1日に約240グラムのタンパク質が作られています。ところが食事から摂取するタンパク質は約70グラムで、これを分解してできるアミノ酸だけでは材料が足りなくなります。

この不足分を細胞中のタンパク質をオートファジーなどで分解してアミノ酸にしているのです。240グラムのタンパク質というとステーキにしてもかなりの量ですが、細胞は37兆個もあるので、細胞1個当りの量はわずかで、細胞内のタンパク質の1〜2%を分解して、アミノ酸を材料に新しいタンパク質を作っています。

オートファジーによって分解されるのはタンパク質だけではなく、高分子や超分子複合体、オルガネラ(細胞小器官)などさまざまなものを分解し新しいものを作っています。これを細胞成分の新陳代謝で「代謝回転」がオートファジーの2つめの主要機能となっています。

オートファジーに必須な遺伝子が発見され、遺伝子工学を使ってオートファジーが起きないマウスを作ることができるようになりました。このマウスを観察すると、オートファジーが起きない臓器の機能に異常が生じました。

これはオートファジーによる細胞の中身の入れ替えは細胞の維持に不可欠であることを示唆しています。細胞の中にあるものを分解して同じものを作ることで、何日かで細胞の中身がすべて入れ替わり、新しい状態が保たれるのです。

オートファジーは日本語では「自食作用」と訳されるとおり、自己の成分を分解する現象とされてきました。ところがオートファジーは自己成分を分解するだけではなく、細胞内に入ってきた細菌などの有害物を隔離して除去する機能も持っていることが分かってきました。

この様にオートファジーは細胞が機能不全を起こして疾患に陥ることが無いように仕組まれた、非常に重要な機能と言えます。

オートファジーの研究は、まだまだ新たな知見が発見されている研究段階にあるようで、これからどんな発見があるのか楽しみな分野でもあるようです。

老化研究の成果で老化を防ぐ薬の候補発見

2022-02-24 10:25:59 | 
近年老化の研究は非常に盛んになり、老化は病気の一種という説や、老化予防のワクチンまで飛び出しこのブログでも取り上げています。

老化を抑制するには、すでにサプリメントとして販売されているMNMなどが良いという説も出ていますが、ここでは老化を止める有力候補という薬を紹介します。

最近出てきたのが糖尿病治療薬としてよく使われる「メトホルミン」と、臓器移植で拒絶反応を抑えるために用いられてきた「ラパマイシン」です。いずれも動物実験で長寿効果が期待されており、両方とも細胞の老化に関連する分子プロセスを標的にしています。

もうひとつの方法は「セノリティクス(老化細胞除去薬)」と呼ばれる新しいタイプの薬剤です。これは有害な老化細胞を体内から取り除く働きをし、老化細胞は全身の組織に蓄積され他の細胞にダメージを与える因子を分泌します。

さらに細胞が老化すると時計の針を戻し、若い細胞の機能を回復する「細胞の初期化」という戦略まで出てきているようです。こういった長寿の夢を追いかけ、学術研究機関やバイオテクノロジー企業などが次々とアンチエイジング分野に参入しています。

その活動は米国老化研究所の年間30億ドル(約3400億円)の研究予算や一部の著名な富豪、ベンチャーキャピタル投資家に支えられています。しかし技術面だけではなく、規制上や経済的、社会的にもハードルは高いといえます。

例えばFDA(米食品医薬品局)は老化を治療すべき疾患とは認めておらず、老化をターゲットにした薬剤が承認される明確な道筋はありません。

主要な医学的死因、例えば心血管疾患、脳卒中など多くの病気は通常人生後半に発症し、一定の生物学的な老化の特徴を伴うことが明らかになっています。こうしたプロセスを遅らせたり、回復させたりする薬があれば、加齢性疾患のリスクを低下すると期待されます。

そういった点からも薬としての開発の意義は大きいと考えられています。これに最も近いのが現在計画されている、メトホルミンの長寿効果を調べる臨床試験「TAME」と言えるようです。

メトホルミンは血糖値を下げ、インスリンの効き目を改善する薬ですが、同時に代謝を良くして炎症を抑え、ミトコンドリアを活性化するなど加齢に伴う細胞機能にも影響を与えます。またヒトへの使用歴も長く、安全性にも優れているようです。

この研究はコロナのためまだ開始していませんが、男女3000人を対象に全米14カ所で行われる予定です。またラパマイシンの可能性は、ワシントン大学の動物実験で老化に幅広い効果が認められたとしています。

どちらも古くから人間に処方されていますので、そういった効果が報告されていても良いはずですが、あまり聞いたことが無いというのはそれほど効果がないのかもしれません。

私にとっては抗老化薬が開発されても手遅れですが、いわば夢を追う研究として面白いのかもしれません。