ごっとさんのブログ

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尿1滴で覚醒剤など薬物40種類を判別

2024-05-01 10:34:41 | 健康・医療
私が現役のころ、ラットやマウスの尿中の薬物排出量を測定して欲しいという依頼がありました。

ところが尿というのは当然ですが老廃物の宝庫で、無数と言える化合物を含んでいます。しかもこの老廃物のパターンは、同じ個体でもいつ採尿したかによって大きく異なり、うまくバックグラウンドを消去するのに非常に苦労した記憶があります。

近畿大学や愛知県警科学捜査研究所のグループが、尿1滴で覚醒剤など数種類以上の薬物を3分以内に特定できる手法を開発したと発表しました。

これまで薬物犯罪捜査で科捜研に送られた被害者や被疑者の尿を、分析化学に精通した人が鑑定する際に時間がかかり、簡易検査では疑陽性の誤った結果も出るという問題がありました。

このため逮捕から検察官送致のリミットである48時間以内にできず結果が出せないこともあり、被疑者が釈放されるといったこともあったようです。現在全国の警察で採用されている尿の薬物簡易検査は、化学構造が似た薬物群の推定に留まるうえ、疑陽性の誤判定が出ることもありました。

正確な物質特定のために用いられる質量分析は、試料を調整したり成分を分離したりするために熟練の技が必要で時間もかかりました。今回開発したものは、サンプルプレートに尿と試薬を混ぜて1滴たらしたものから、薬物を分析することができる装置です。

約40種類の薬物特有の情報を機械に覚えさせ、一致する物質を判別し、波形の大きさから検出濃度が分かる機能を備えています。数種類の薬物が含まれている尿や、遺体の尿でも鑑定が可能としています。

薬物分析の手順は、尿に内部標準溶液のジアゼパムD5溶液とエタノールの試薬を添加し、混合した溶液を鍼灸用の鍼につけます。続いて鍼に電圧をかけてイオン化し、真空状態でアルゴンガスと衝突させます。すると薬物構造に特有の断片が生じます。

これを断片情報と照らし合わせて何の物質かを特定する仕組みです。特定する薬剤の種類を増やすことも可能ですが、現在は薬物犯罪で主に使われている物質にターゲットを絞る工夫を凝らしています。

この装置は本体の幅が1メートルほどで、机におけるサイズで、将来的には現場に持ち込んで分析することも可能としています。

2023年版犯罪白書によると、大麻取締法違反の検挙者は2014年から増加傾向にあり、覚醒剤取締法違反では減少傾向にあるものの、使用罪の割合が過半数を超え、中学生の検挙例もあったようです。

こういった薬物犯罪を減らすうえでも、迅速な測定法が果たす役割は大きいような気がします。