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チャンピオンデータを報告してはいけない理由

2023-04-08 10:33:42 | 化学
私が現役のころの研究者として最も非科学的な科学のはなしですが、これは私だけではなく研究者には常識的なものです。

それは実験をしていて出たチャンピオンデータは報告してはいけないというものです。毎日実験をしていると稀に素晴らしい結果が出ることがあります。それが再現性良く実施できれば問題ないのですが、その後再現できなくなることがあるのです。

もちろん分野によって内容はさまざまですが、非常に収率よく反応したり、できたものの物性が完璧だったりします。これは実験操作にミスがあったり、結果の判定がおかしいわけではなくすべてのデータがきれいにそろってしまいます。

これをチャンピオンデータと呼んでいますが、残念ながら2度と再現できないケースもあるのです。研究者はもちろん再現できるようにあらゆることを検討しますが、それに時間をかけるより別な実験を始めた方が効率が良くなり、チャンピオンデータはなかったことにするという非科学的なことが行われるのです。

科学的な実験というのは、毎回同じになるような気がしますが、同じ操作をしても若干違った結果になることの方が多いのです。権威ある雑誌に投稿された論文の通りに実験をして、同じ結果になる再現率は有機化学の分野は高く60%程度といわれています。

逆に言えば40%の論文は再現できないのです。これは特に医学分野は低く再現率は20%程度が当たり前になっているのです。これは別に不正をしているわけではなく、いわばチャンピオンデータを報告しているためでしょう。

論文通りの実験をやってうまくいかなくとも、著者を責めることはなく単に忘れ去られるだけとなっています。従って論文の価値は、他の論文にどれだけ引用されるかの個数で評価するようになっているのです。

チャンピオンデータのイメージを今話題のiPS細胞で説明してみます。現在100個の細胞に遺伝子操作をしてiPS細胞になるのは、数個(成功率数%)といわれています。

100個に同じ操作をしているのになぜすべてがiPS細胞にならないのかは不思議なところですが、この辺りが科学の面白いところです。

さてここからは仮定ですが、もしこの操作で30個のiPS細胞が出来たら素晴らしい結果となるでしょう(成功率30%)。しかしその後はやはり現在の数個しかできなければ、この30個できたというのがチャンピオンデータとなるのです。

この30個できたという事を発表しても何の意味もないことになるわけです。これは仮定ですが、現実でもこれに近い現象は起きてしまうのが科学であると感じています。

こういったことも踏まえると、科学にはまだまだ分からない事象がいっぱい存在するといえるのかもしれません。


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