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狙った臓器での金属触媒反応を実現

2017-02-24 10:44:00 | 化学
最近理化学研究所の研究グループから、体内の疾患部位で薬を作るという面白い試みが発表されました。

これは私の専門に近い研究で、私も現役のころ体の中に入ってから有効な薬となって、効力を発揮する薬剤の研究をやっていました。

主に狙っていたのは、良い効果がある薬でも、腸管吸収がないつまり飲むことができず注射しか投与方法がないという物がかなりあります。こういう薬は病院にいかないといけないという制約がありますので、これを飲み薬に代えてやれば、患者も使いやすい薬となるわけです。

こういった薬の腸からの吸収の妨げになるような部分を、化学修飾という手法で一部の構造を変化させます。そうすると腸から吸収するようになるのですが、一般に薬の効力がなくなってしまいます。しかし体内の血液中や肝臓には分解酵素に分類される酵素がいろいろありますので、体内に入ってから化学修飾した部分が外れて、元の薬の構造になればよいわけです。

こういった生体内で分解されて活性が出るような手法を、プロドラッグと呼んでおり、何種類か成功例も出ています。実際には腸管吸収や分解酵素量は種差が大きく、動物実験でうまくいっても人にまで使えるようにするのは、かなり難しい課題でした。

これはあくまで生体が持っている酵素を使って、薬を変換するものですが、今回の理研の研究はもう一歩進んだものでした。

有機化学では色々な金属、例えばルテニウムやパラジウムなどが、色々な反応の触媒となる、つまり反応を促進させる効果があることが知られています。この金属を目的とする臓器に運び、そこで反応を起こさせようという物です。

この研究で用いた金属は3価の金で、これを「糖鎖クラスター」と呼ばれる血清タンパクであるアルブミンに金を結合させ、糖鎖を選択することで親和性のある臓器にこの金触媒を届けようという実験です。また反応の基質となる物質として、プロパギルエステルに蛍光物質を結合させたものを使用しました。この金触媒があると、プロパギルエステルはアミン類と反応してアミド化反応が生じ蛍光を発するようになっています。

まず糖鎖の末端にシアル酸という糖を付けたもので、“金の運び屋”を合成し、ヌードマウスに静脈注射しました。このシアル酸は肝臓と親和性があり、30分以内に肝臓表面に金触媒が植えつけられました。続いて反応の基質であるプロパギルエステルを静脈注射すると、肝臓のリジンなどのアミノ基と反応してアミド化が進行し、肝臓部分に蛍光が発生しました。

同様に腸と親和性のあるガラクトースの糖鎖を用い同じ操作をすると、腸に蛍光が認められました。今回は比較的単純な反応ですが、例えばガン細胞に金属触媒を植え付け、抗ガン剤を活性化することなどができれば、部位特異的な作用が期待できるとしています。

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