だが、そうは言っても、人中に混じって生きている訳だから、とりわけて異常であると思われないためには、常に人の目を意識し続けていなければならない。たとえ、他人から見れば手に取るように、実に良く見透かされてしまっていようともだ。どんなに強い人であっても、世の中にたった独りだけで立ち行くことなどできないことを知っている。知らないのは狂人だけである。
しかし、この時追いかけてきた人物は、そんな慧眼をつゆ持たないくせに、いや、それだからこそ、自分がこの世で抜きん出て物事を見る目というものに恵まれていると固く信じている人間、著しく外に対して強く出られる人種の一人だったのである。つまり、いかなる場面においても始末に負えぬ人物だった。その人物の前に立つと、そんな必要もないのに何かしら演技を強いられるような気分に襲われてしまうのである。もともと、人と関わり合うことが苦手中の苦手と来ているのに、よりにもよってこんなところで特製の妖人物を相手にするとは何とも宇宙大の迷惑なのである。
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