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書籍之海 漂流記

看板に掲げているのは「書籍」だけですが、実際は人間の精神の営みすべての海を航海しています。

平川祐弘 『アーサー・ウェイリー 「源氏物語」の翻訳者』

2017年11月29日 | 抜き書き
 私個人は〔中略〕ウェイリーという学者を通して西欧の偉大さをも学んだという気がする。が、同時に、私はウェイリーやサンソムを物差しとして、その後に来たもろもろの西洋の二流、三流以下の、そしてそれだけに時に横柄で思いあがった、西洋の日本学者の値踏みもしてきたということである。昨今の西洋の日本学界には理論倒れの、不毛な、お悧巧さんの学者が、イデオロギーを振りかざして、大きな顔をしている。なぜこんな政治的に立ちまわる学者が幅を利かせるのだろうか。なぜテクストに密着する学問をきちんとしないのだろうか。論文制作に際しオリジナリティーを求めるあまり理論倒れになり、そのために原典精読を疎(おろそか)にするからであろうか。
 理論で外界を支配しようとする支配欲にとらわれる人よりも、テクストの前に謙虚に頭を垂れる人が私には好ましい。人文学の世界でドグマ一辺倒の学者ほど哀れなものはない。かつての日本ではモスクワ本位のテーゼや北京本位のインターナショナリズムに一部知識人が傾倒した時期があった。幸いにもそうした外国崇拝の時代は遠くに去った。 
(「あとがき」 本書475頁)

(白水社 2008年11月)

今週のコメントしない本

2006年11月12日 | 
 悪性の風邪をひきました。この週末は回復に専念しています。

①感想を書くには目下こちらの知識と能力が不足している本
  彌永昌吉監修 『日本の科学精神』 ① 「数理と情報 数の直観にはじまる」 (工作舎 1981年6月第四刷)

②読んですぐ感想をまとめようとすべきでないと思える本
  鶴見俊輔 『鶴見俊輔集』 9 「方法としてのアナキズム」 (筑摩書房 1991年8月)

③面白すぎて冷静な感想をまとめられない本
  キャサリン・サンソム著 大久保美春訳 『東京に暮らす 1928-1936』 (岩波書店 1995年9月第6刷)

④参考文献なのでとくに感想はない本
  トク・ベルツ編 菅沼竜太郎訳 『ベルツの日記』 上下 (岩波書店 1992年3月第5刷) 〈再読〉
  エドワード・サイデンステッガー著 安西徹雄訳 『東京 下町山の手 1867-1923』 (筑摩書房版 1992年12月)
  セオダテ・ジョフリー著 中西道子訳 『横浜ものがたり アメリカ女性が見た大正期の日本』 (雄松堂出版 1998年9月)
  R.P.ドーア著 青井和夫/塚本哲人訳 『都市の日本人』 (岩波書店 1966年9月第四刷)

  松本清張 『昭和史発掘』 11・12 (文藝春秋文春文庫版 1978年12月)

  内海愛子 『朝鮮人BC級戦犯の記録』 (勁草書房 1982年11月第1版第2刷)
  中田整一 『満州国皇帝の秘録 ラストエンペラーと「厳秘会見録」の謎』 (幻戯書房 2005年9月)
  高木惣吉 『自伝的日本海軍始末記 帝国海軍の内に秘められたる栄光と悲劇の事情』 (光人社NF文庫版 1995年10月)
  梯久美子 『散るぞ悲しき 硫黄島総指揮官・栗林忠道』 (新潮社 2005年7月)

  安倍晋三 『美しい国へ』 (文藝春秋 2006年8月第5刷)

  小野和子編著 『京大・矢野事件 キャンパス・セクハラ裁判の問うたもの』 (インパクト出版会 1998年9月)

  ジョージ・ケナン著 松本重治編訳 『アメリカ外交の基本問題』 (岩波書店 1965年6月) 〈再読〉

  セイムア・ハーシュ著 小田実訳 『ソンミ ミライ第四地区における虐殺とその波紋』 (草思社 1970年7月第4刷)

⑤ただ楽しむために読んだ本
  ナサニエル・ベンチリー著 石田善彦訳 『ボギー』 (晶文社 1991年12月4刷)
  イングリッド・バーグマン/アラン・バージェス著 『イングリッド・バーグマン マイ・ストーリー』 (新潮社 1982年5月4刷)

  コンラッド作 土岐恒二訳 『密偵』 (岩波書店 1990年6月)
  コンラッド作 中島賢二訳 『西洋人の眼に』 上下 (岩波書店 1998年12月)

  アブドル・ラフマーン・アッ・シャルカーウィー著 奴田原睦明訳 『現代アラブ小説全集』 3 「大地」 (河出書房新社 1979年6月)

  コンラート・ローレンツ著 日高敏隆/久保和彦共訳 『攻撃 悪の自然誌』 (みすず書房 1986年6月新装第3刷) 

  手塚治虫 『ミッドナイト』 2・3 (秋田書店秋田文庫版 1999年7月5版ほか)

  暉峻康隆 『落語の年輪』 (講談社 1978年3月)

 ではまた来週。

G. B. サンソム著 金井圓/多田実/芳賀徹/平川祐弘訳 『西欧世界と日本』 上中下

2005年11月18日 | 日本史
 原書 The Western World and Japan は1950年刊。
 日本通史として、エドウィン・ライシャワー『ライシャワーの日本史』(国弘正雄訳、文藝春秋、1986年10月)を、量のみならず質においても凌駕するという読後感。
 著者こそ、真実の探究者と呼ぶにふさわしい。

(筑摩書房ちくま学芸文庫版 1995年2月・3月・4月)