書籍之海 漂流記

看板に掲げているのは「書籍」だけですが、実際は人間の精神の営みすべての海を航海しています。

石川文康 「ドイツ啓蒙の異世界理解―特にヴォルフの中国哲学評価とカントの場合」

2014年09月03日 | 西洋史
 副題「ヨーロッパ的認知カテゴリーの挑戦」。
 中川久定『「一つの世界」の成立とその条件』(国際高等研究所 2007年12月)所収、同書73-91頁。
 本日「堀池信夫『中国哲学とヨーロッパの哲学者』上下、就中下を読後」より続き。
 
 この論考において、石川氏もライプニッツとヴォルフの中国哲学理解について、堀池氏と同様の評価を下している。

 右の『大学』のラテン語文面〔引用者注・「修身斉家治国平天下」のクプレ訳〕の連鎖式にも、明示されているのは明らかに前後関係だけであって、因果関係ではない。それにもかかわらず、ヴォルフの思考過程は充足理由律という『認知カテゴリー』によって原文の真意を汲み取り、そこに因果関係(充足理由の連鎖)を見抜いているのである。とすると、これこそがヨーロッパ的『認知カテゴリー』がかぎりなく『存在のカテゴリー』と一体化した典型例であるといえよう。 (82頁)

 なお同論文によれば、カントは「中庸」の考え方を、「論理学、すなわち『真か偽か』という二者択一が問題になる領域において」、「蓋然性の論理」として取り入れた由(87頁)。
 
 。関連する研究として、堀池信夫総編集『知のユーラシア 1「知は東から」(明治書院 2013年5月)、また中川久定/J.シュローバハ編『十八世紀における他者のイメージ アジアの側から、そしてヨーロッパの側から』(河合文化教育研究所2006/3)あり。これらも大変に興味深い論文集。

 9月23日補注堀池信夫『中国哲学とヨーロッパの哲学者』下では、『中国の哲学者孔子』における『大学』のラテン語訳の訳者は、イントルチェッタになっている。井川義次「イントルチェッタ『中国の哲学者孔子』に関する一考察」およびKnud Lunbaek "The First European Translations of Chinese Historical and Philosophical Works"と同じ。「第六章 中国古典の翻訳紹介と影響 第一節 クープレとイントルチェッタの『中国の哲学者孔子』」同書211頁。