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書籍之海 漂流記

看板に掲げているのは「書籍」だけですが、実際は人間の精神の営みすべての海を航海しています。

『東トルキスタン共和国憲法』を読む

2009年12月15日 | 政治
「東トルキスタン共和国亡命政府」ウェブサイト〈http://uy.eastturkistan-gov.org/〉掲載。

英語版名「THE CONSTITUTION OF EASTERN TURKISTAN GOVERNMENT-IN-EXILE OF EASTERN TURKISTAN REPUBLIC」
 〈http://en.eastturkistan-gov.org/constitution/


ARTICLE 4: THE COAT OF ARMS OF THE STATE: Nine points on both the right and left of the Crescent moon with the Bismillah Formula inscribed in the middle of the Crescent. Three stars above the mouth of the Crescent with a cordon joining the points there below. The eighteen points represent the eighteen Turk clans living in Eastern Turkistan, while the three stars symbolize the States of Göktürk, Qarakhanids and Uighurs that were previously founded in Eastern Turkistan (Enclosure B).

(日本語版:第4条 国章は新月の両側にそれぞれ九つの円を持ち、底部にある二つの円は一本の帯で結ばれており、新月の中央には花文字で「優しいアラーの名によって始める」との言葉が記されている。新月の両端には三つの星が左右対称に施されている。十八個の円は東トルキスタンに生活する十八の突厥民族を象徴し、三つの星は東トルキスタンにかつて存在した突厥ハン国、ウイグル国およびカラハン国を表す。《付図B参照》)

 英語版中の太字は引用者による。通常、people(民族)とされるところが clan(氏族)となっている。Turk clans の集合が Turk people(テュルク民族)ということなのだろう。ウェブサイトの別の箇所(亡命政府設立直後に発表された「東トルキスタン共和国亡命政府政府声明」2004年9月17日)では、自分たちは東トルキスタンに居住する人びとすなわち東トルキスタン人(Eastern Turkestanis)もしくは東トルコ人(Eastern Turks)を代表するものだという立場を明確に述べている。これは反対にいえば、東トルキスタンはそこに現に居住している人びと――伝統的に大多数がイスラム教を信仰するテュルク系民族という限定がついているが(この問題については後述)――のものだと言っているわけで、さらには古い歴史ではどうだこうだということをほとんど言わない点、非常に平明で、好感がもてる。突厥(西突厥)、カラハン朝、ウイグル国(西ウイグル王国)云々についても、すべてそのときこの地にいたテュルク民族の建てた国だといえば、それは正しいわけで、どこからも苦情は出ない。
 この東トルキスタン共和国亡命政府の行き方は、大ウイグル族主義とは一線を画し、またただし宗教はイスラームを国教とするが、他宗教の信教の自由も保障してイスラーム一辺倒も避けている点では、じつに素晴らしいものであるといっていい。

 しかし、いくつか懸念がある。
 先ず第一に。
 たとえば第6条に気になるくだりがある。

ARTICLE 6: THE LANGUAGE, RELIGION AND CAPITAL OF THE STATE: The state language of Eastern Turkistan Republic is Uighur Turkish. Kazak Turkish and Kyrgyz Turkish are used as national languages. Religion: The state religion is Islam. The State respects and protects other religions and fully guarantees the rights of religious practice. Capital of the State: Urumchi.

(日本語版:第6条 国語、宗教および首都
 東トルキスタン共和国の国語はウイグルチュルク語とする。《カザク語、キルギス語などその他チュルクの言語を民族の言語とする》。
 宗教は、イスラム教。同時に国家はその他の宗教およびその信徒の各種権益を保護し尊重する。
 首都はウルムチとする。)

 'state language' は公用語、いわば国家の言語である。'national language’は国語、国民を構成する民族・氏族の言語。つまり東トルキスタン共和国とは、実際には東トルキスタンに住む十八の「トルコ氏族」といいながら厳密にはウイグル、カザフ、キルギス三氏族だけの国民国家を目指しているのである。ほかの十五の氏族はどうなるのか。
 第二に、「東トルキスタン人」が、東トルキスタン(新疆ウイグル自治区)内に居住するいわゆるテュルク系諸民族だけを意味しているのだとすれば、それもまた問題である。  
 現在新疆ウイグル自治区にはテュルク系以外にも、モンゴル(オイラット)族、タジク族、シボ族、満族、オロス族をはじめ、十数個をかぞえる非テュルク系民族が居住している。彼らはどうするのか。彼らは自らの帰属する民族を名乗る権利と固有の言語を公用語・国語とする権利を奪われることになる。
 先に触れた「政治声明」の、東トルキスタン人(東トルコ人)について定義した箇所があるのを見られたい。

As the name “Eastern Turkistan” implies, this vast region has for centuries been the land of the Eastern Turks, who are Muslim by faith, Caucasian by race, and whose native language is not remotely related to Chinese.  ( "DECLARATION OF THE FORMATION OF THE GOVERNMENT-IN-EXILE OF THE REPUBLIC OF EAST TURKISTAN", September 14, 2004, Capitol Hill, Washington )

(日本語版「政府声明」に該当部分の訳なし。拙訳:「『東トルキスタン』という名称は、この広大な地域が数世紀のあいだ、宗教においてイスラム教徒であり、人種においてコーカソイドであり、その母語が中国語とはいささかかも関係のない東トルコ人の土地であったことを示している。」)

 コーカソイドでない(あるいはそうは見えない)者は「東トルコ人」ではないというのであろうか。定義としてひどく無神経な印象を受ける。それなら大方のキルギス族ははねられてしまうのではないか。
 それに、ダフール族やシボ族、回族といった東トルキスタン内のモンゴロイド系住民(回族以外ほぼ非イスラーム)についてはどう処遇するのか。彼らも短くは18世紀以来、長きはそれ以前から数百年、東トルキスタンに住んでいる、れっきとした土着の住民である。そしてそれに比べれば新参者とはいえ、いまでは新疆ウイグル自治区総人口の約半数を占めるに至っている漢族(中国人)は? 革命成った暁には彼らはすべて国外へ追放するのか。
 最後に、第四に、テュルク族にしてイスラームを信奉しない者がいれば、その者をどう扱うのか。
 これら四つの疑念を総じるに、つまり、東トルキスタン共和国亡命政府は、「大(東)テュルク主義」とはいわないが、「東トルキスタン人」とは何かについての突き詰め方が中途半端であるということだ。