書籍之海 漂流記

看板に掲げているのは「書籍」だけですが、実際は人間の精神の営みすべての海を航海しています。

松尾康典 『増補改訂版 現代ベトナム入門 ドイモイが国を変えた』

2008年12月30日 | 東洋史
 ベトナムは10世紀のなかばにそれまでの中国による約1,000年の直接支配時代(いわゆる北属期)を脱して独立を達成し、その後歴代王朝の君主は、宋・元・明・清といった代々の中国王朝から国王として冊封され、表向きは中国の正朔を奉じたが、国内では一貫して独自の元号を用い、また自らを皇帝と名乗った。ベトナム諸王朝の君主は、中国を北国、自国を南国と呼び、中国の皇帝=北帝に対して自らを南帝として対等視していた。この点、国内においても中華(天朝)に仕える藩属国の国王として自らを規定し、三国時代など古い時代は別として、中国でいえば唐時代以後、中国における王朝交代期のわずかな例外をのぞき独自の元号を建てなかった朝鮮とは異なる。たとえば李氏朝鮮は、明が滅びて清に代わったあと、自らの元号を用いるのではなく、明最後の元号崇禎を用い続けるという抵抗の表現をとった。どちらも中国と国境を接しその圧力を直に受ける地理的条件にあった二国であり、後世どちらも「小中華」と称されるベトナムと朝鮮であるが、中国への対処の歴史的なありかたには大きな差がある。とはいえ、ベトナムのほうが朝鮮よりも自主性もしくは独立性が高かったかといえば、あながちそうとも言えないようである。この書の指摘によって知ったことで、これは現代の例であるが、1945年のベトナム民主共和国成立後、中越戦争期(1979年)も含め、ベトナムと中国の間で国家関係の断絶はなく、両国の大使館は閉鎖されたことはなく、国営ベトナム通信も国営新華社通信も北京とハノイに支局を開設し続けたという(242頁)。

(日中出版 2008年11月)