書籍之海 漂流記

看板に掲げているのは「書籍」だけですが、実際は人間の精神の営みすべての海を航海しています。

井筒俊彦訳注 "Lao-tzu: The Way and Its Virtue"

2017年02月07日 | 哲学
 出版社による紹介

 『老子』原本の暗示的な語彙・表現・文と、本来断片的であるがゆえに趣旨のはっきりしない文章(これはかなりの程度『論語』にも言えることだが)を、字面に正確に英語に変換し、しかしそれによる"オリエンタル”な神秘さ奇妙さを、出来るだけ押さえるホーリスティクな(つまりは訳者の読者としての主観的な)理解が、ぎりぎりの線でなりたっているかという感想。英語の訳文自体は英語としてまるで無理のない、傑作だと思う。巻末に付けられた訳者による英語による解題もしくは論文'APPENDIX'も素晴らしい。
 面白いのは、井筒先生は日本語で書いても英語で書いても、ことばから受ける印象がかわらないことだ。論理構成が一緒なのである。英語として文法的にも論理的にもまったくnaturalなのだが、修辞(論の順番や細部への言及のタイミングとその程度)が、先生の日本語と同じである。これは井筒語の英訳なのであろう。日本語が日本語訳であるように。先生は何語で思考されていたのだろう。それとも言語を使わなかったのか。

(慶應義塾大学出版会 2001年11月)