飛騨さるぼぼ湧水

飛騨の山奥から発信しています。少々目が悪い山猿かな?

(続) 連載小説「幸福の木」 277話 天空への木の階段!

2021-08-29 20:45:55 | 小説の部屋

ハイハイハイハーイ、おまたせ、飛騨の小路 小湧水でーす、ようやく夜が初秋らしく涼しくなりました。
またテレビではパラリンピックが始り、またコロナも相変わらず増えていて、さらに政局も加わって、騒がしい秋になりそうです。
そうそう、コロナなのですから選挙も郵便投票をサッサト準備すべき!とウチの先生が言ってますが、果たして・・・?です。
はいはい、ギリギリですが、何はともかく原稿が届きましたので、小説とまいりまーす、はい、では、開幕、開幕ー!

277 天空への木の階段!

「急げ、急げ、とんだ時間つぶしをしてしまった!こんな事になるのなら、初めから遊びやからかいの恋の方がよかった」
太郎は恋した事を悔やんでいた。
それに、今さら皆に会わせる顔も無かった。
たぶん、いや、間違いなく、長老達が、
「おお、太郎、帰ってきたな、どうした?ふられたのか?やっぱり!」
なんて大笑いして喜ぶ顔が想像できた。
「くそっ、彼女は第一印象が控え目なつつましそうな感じだったので、うまくゆくかなと思ったけど、やはり駄目だった・・」
太郎は無念さを吹き払うかのように全力疾走した。
かなり走り続けて息が切れ、疲れてきたので歩き始めた。
気づくと全身が汗びっしょりだった。
「さーて、皆は、どの辺にいるかな?」
と額に片手をかざして、路の先の森を見渡した。
しかし、どこにも、それらしき影は見当たらなかった。
「さてさて、どこへ行ったんだろう?」
続いていた森はすぐに木々が無くなって姿を失い、その先は元の富士のような山の裾野の草原だった。
「えーっ?森はもうおしまいみたいだ」
驚いた太郎が、目を皿のようにして周囲を探すと、草の路の脇に小高い緑の台地が見つかった。
近寄ると緑の台地は四角く盛り上がっていて、周りが花園で囲まれていた。
「えーっ、何だ、こんな所に花園なんて?それにしても、皆はいったい何処へ消えたんだ?どうなっているんだ?」
太郎が花園に目を向けたまま途方に暮れ、しばしボーッとしていた。
すると背後遠くから聞き慣れた女性の声がした。
「太郎さまー、ああ、よかった!ようやく追い着きました・・・・太郎様、初めにもお話いたしましたが、わたくしが案内役を任せられているのです」
と彼女が安心したような顔で駆け寄ってきた。
太郎は彼女の事はさっぱり忘れようと思って振り切って来たつもりだった。
が、今はそんな事も言ってられなかった。
「あのさ、ちょっと聞きたいんだけど、俺の仲間と言うか、皆はどこへ行ったのか、あんた、知ってるかい?」
と太郎は過去のわだかまりを捨て、素直に聞いた。
「はい、存知ております、お仲間の方は、ご神殿の方へ参りました、はい、上の方です」
と空を見上げた。
「えっ、上って?」
太郎も空を見上げたが、青空の他に雲ひとつ見えなかった。
「あの、実はご神殿と言うのは天空に浮かんでいるのでございます。でも、それ等は、あなた方のようなふつうの人々には見えないのです」
「えっ、見えないって?俺達に?ふつうの人に?」
「はい、そうです。なぜなら波動と言うか、振動数が高い物質でできているからです。今のわたくしにも見えません、 わたくしが見えるようになるためには、振動数を上げて元の高い波動にもどさなければなりません」
「えっ、元の波動にもどすって?それじゃ、あんた達は元々は波動が高いのかい?」
「はい、そうです、でもあなた方を案内するためにあなた方と同じ波動に合わせていたのです」
「それじゃ、俺達に合わせるためにわざわざ波動を落としていたと言うのかい?」
「はい、そうです。前にもわたし達は人や動物の心が読めると言う事をお話しいたしましたが、高いままだと、多分、あなた方には驚く事ばかりで、ふつうの会話ができなくなると思ったからです」
「えーっ、それじゃ、あんた達は見かけは俺達と同じように見えるけど、実際は何者なんだ?妖怪やあやかしかい?」
「ええ、残念ながら、遠い未来の世では「魔女」と呼ばれる苦難の時代が来ると木花咲姫様から聞いています」
「えっ、やっぱり。でも、前の話では、もっと昔には俺達もその能力を持っていたと言ってたんじゃなかったかな?確か、そう言ってたよ」
「はい、そうです、今のわたくし達は頭の脳のほとんどを働かせておりますが、あなた達は多くの部分を眠らせています、そこを働かせるようになれば元の能力を発揮できるようになります」
「えっ、本当かい?今からでも元へもどれるのかい?それは嬉しい話だ、夢みたいな話だ」
と太郎は、昔の子供の頃に聞いた御伽噺のような仙人達の話を思い出した。
それは、眼を瞑った仙人が、念力で大きい岩を投げ飛ばしたり、岩に乗って空中を飛ぶ話だった。
「はい、それでは今から波動を高める作業をいたしましょう。作業と言っても肉体でなく、心の作業ですから例えば、瞑想や祈りや独称のような方法でも良いのですが、今回は、わたくしの方法でさせていただきます」
と言って彼女は、太郎の顔の真正面に顔を向けて近づいてきた。
「いいですか?これからはわたくしの目を見続けて、決して目を離さないでください、少しぐらいは瞬きをしてもいいですけど、しばらく目を見続けてください」
言われたように太郎は彼女の顔に顔を近づけた。
「そして、わたくしの瞼の中に、神様の光と神様の愛があるはずですので、それを心の目で見ようと想い続けてください、そう、念じ続けてください、必ず見えるはずです」
太郎が見続けていると、なぜか自分の心や体が別の世界の中に入り込んだような気がしてきた。
そこはすべてが神の光と神の愛に包まれた世界で、まるで赤ん坊の自分が父母の愛に抱きしめられたような幸せな気分だった。
「あなたが今感じているこの上もない幸せな想いと心からの感謝の想い、これ等の想いが全身に満ちている時には、あなたの波動や振動数が格段に高まっています。どうぞ、この想いを続けてください、他の事を考えないでください」
太郎はすべての面で気持ちがいいので、女性の言葉に素直に従っていた。
「ありがとうございました、お蔭さまで、あなたの波動も振動数も十分に高まったようでございます。
今のあなたは神様の光と愛がいっぱい満ちた大変軽い霊と身になりました。今のあなたは、以前とは見える世界も違うはずです。
どうぞ、わたくしの目から視線を外して、あなたの周囲の様子を詳しく観察してくださいませ」
太郎が周りに目を向けると、今までにはなかった何やら薄い霧のような、霞のようなものが立ち込めていた。
「えっ、何だろう、霧か、それとも霞かい?」
そのモノクロの墨絵のような景色をよくよく見ると、空高く空中階段のような物が、天に向ってどこまでも伸びているのが見えた。
「えっ、何だ、あれは?階段だ、しかも木の枝でできた空中階段だ」
太郎は、天への縄はしごの話なら、幼い頃に聞いたが、まさか、木の枝やツルでできた階段なんて、今まで聞いた事がなかった。
「えーっ、いったい誰が作ったんだ?ひょっとしてどこかの山の民とか?」
「はい、これは木花咲姫様がそのお力で作られたものです、この階段を使って、あなたのお仲間方を天空のご神殿に案内されたのです」
「えっ、そうなのか?それじゃ、皆は、この階段を登って、もう神殿の方へ行ってるのかい?」
「はい、おそらく・・」
「えっ、それは大変だ、追い着かなきゃ!すぐにも出かけよう、モタモタしていると、皆が神殿を見終わってしまうからな、さて、どこから登ればいいのかな?」
と登り口を探すと、それは、かなり離れた場所だった。
「あっ、あそこだ、仕方ない、あそこまで駆けよう!」
太郎が走り出そうとすると、彼女が、
「あの、ちょっとお待ちください、それよりもっと良い方法があります」
と引き留めた。
そして、太郎の横に並ぶと、
「どうぞ、片手でわたくしの肩に手をかけてください」
と言った。
太郎は変な事を言うなと思いながらも素直に彼女の言葉に従った。
すると、不思議不思議、彼女の足が地面をわずかに浮くと、少し遅れて太郎の足も宙に浮いた。
二人はそのままの姿勢で、ゆっくりと宙に浮き、どんどん上昇して行った。
そして、数十メートルの高さの空中に浮かんでいる木の階段の上に、スーット降りた。
「いやいや、これは驚いた、たまげた!すごい術だ、いやすごい業だ、長老や修験者が見たら肝をつぶす業だ」
と太郎は彼女の業に、改めて感動した。
「あのさ、俺、思ったんだけど、さっきの術を使えば、こんな階段なんて必要ないんじゃないかな?このまま直接俺を皆のいる場所まで飛んで連れていってくれ たらいいんじゃないかな?その方が早いんじゃないかな?」
と少々遠慮がちに言った。
「あの、はい、それは仰る通りです、でも、わたくしはまだ力不足の身なので、ここまでで精いっぱいなのです。なので、これ以上は無理です。
今は、もう精神力も疲れ切っていて、あなたを軽いまま存続させる事もままならないくらいなのです」
と言い終わるや否や、彼女は急に疲れ切った顔に変わった。
と同時に、太郎の足元の枝木が大きく沈み、たわみ始めた。
「えっ、えっ?まずい!俺って重くなっていくみたいだ」
太郎の顔が、急に青ざめた。
彼女も慌てたが、疲れ切っていて小声で話すのがせいいっぱいだった。
「あの、太郎様、どうか神様の光や愛の事を強く心に思ってください、他の事、例えば自分だけの欲望的な事は考えないようにしてください。そして、他の人達の幸せや喜ぶ事や動物とか植物達の喜ぶ事を考えてください、そうすれば波動や振動数が上がり、身も魂も軽くなるのです」
彼女は、せいいっぱい言い続けた。
「えっ、今更、そんな事を急に言われたって無理だよ、知らない内に、好きな事ばかり浮かんできてしまう。
そう、魚をたくさん釣って焼いて食べるとか、久々に猪の肉を焼いて食べるとか、長老達の醸した酒を飲んで宴会を開くとか、そうそう、ハナ達を先に寝かせて、俺だけであんた達みたいな大人の女性を呼んでいちゃつくとか・・そんな事しか思い浮かばないよ」
と太郎は泣きそうな顔で答えた。
「ああ、それは困った事になりました。それ等は、欲望や自己愛ばかりです。
なので波動がどんどん低くなり、同時に身も霊も重くなるのです。もっと波動の上がる事、先ほどの神の光や愛や他の人々や生き物の幸せや喜ぶ事を考えてください、そう、どうしたら皆が喜ぶようになるかとか、?どうしたら皆がこれから幸せになるか?と言う事を考えよう!と想うだけでも波動は上がり、体も軽くなります、どうぞ、皆の幸せを考えてください。
またわたくしの無力さもお赦しください」
と彼女も泣き出しそうな顔になった。
「あの、ちょっと思ったんだけど、俺の仲間の皆は、もう天の方へ上がったんだろ?俺がこんなに苦労して大変なのに、皆はどうやって上がれたんだろう?まさか、俺だけが特別に波動が低く体が重いって訳じゃないだろうに?俺達は皆同じようなレベルだと思うんんだけど?」
と太郎は少し不安そうに聞いた。
「はい、それは太郎様が皆よりずっと波動が低くて、身や霊が重いと言う訳ではありません。わたくしが力不足だからなのです。あちらの皆さん方は、木花咲姫様や侍女の方々とご一緒ですので、お仲間の皆さん方の波動や振動数も知らない内に影響を受けて上がっているのです。わたくしも木花咲姫様のように神の光や愛が強ければ、同様に太郎様も知らない内に波動や振動数も上がっていたでしょう、くれぐれも力不足で真に申し訳ありません」
と彼女はとうとうサメザメト泣き出した。
その彼女の悲しそうな姿に、太郎も悲しくなってきた。
「この俺のせいで、彼女は泣いている、俺って何て駄目な奴なんだ!
と太郎は心底から反省し、詫びた。
そして、自分から努力しようとしなかった事を思い出し、心から悔い改めた。
「俺としても、本当に申し訳なかった、全くごめんなさいだ、たった今から改めます、勘弁してください!」
太郎の言葉は天地に響いた。
いや、そのように感じた。
すると、不思議にも、足元が自分の重さで沈んでいくのが止まった気がした。
と言うよりも、今まで足底で感じていた自分の体の重さが、感じられなくなった。
「えっ?」
太郎の驚きの声に、彼女が太郎の顔を見た。
「あれっ、重さが無くなった、不思議だ、俺の体が空気みたいになった」
と言うと、太郎は妖精のように軽々と木の枝の階段をトントンと上がって行った。
それを見て彼女は、今度は嬉し涙が溢れた。
「ああ、本当に良かったです、本当にありがとうございます、これで、わたくしの務めも果たせそうです」
とかってない笑顔になった。
「いやーっ、軽い軽い、これならどんどん上がれそうだ、ああ、楽しい楽しい」
太郎は、まるで幼い児童のように心の底から喜んで階段を上がって行った。
そこには、大人の欲望も自我の存在も無かった。
そこには、「無我」の心の、幼い頃の太郎がいた。

(つづく)

ハイハイハイハーイ、いやいや、パラリンピックもたくさん競技があって、なかなか見るのが大変です、アメリカの選手が多くないようですが?それほど注目されてないのでしょうか?はい、よく知りませんが、とにかく世界中の障碍者達が堂々と表に出られると言う良い時代となりました。
はい、またのお運びを願い、バイバイバーイでーす!