ハイハイハイハーイ、いやいや突然飛騨は涼しくなりました。ウチの先生も夜中に毛布や電気アンカを取り出したくらいです。
また昼間は暑さが少しもどりましたが、朝夕は全く秋となりました。
今日何故か先生から原稿が届きましたので、早速、小説に参りたいと思います、はい、では開幕開幕!
364 三女の知恵
「ああ、それで倒れないように三本をまとめて並べる事にした、と言う訳なのじゃな?」
村長が言うと大家もこっくりとうなづいた。
「はい、仰る通りで」
「しかし、それじゃ、あの一生懸命ボールを投げている母親達がかわいそうにも想えるが・・」
村長が母親達を痛々そうな目で見ながら言った。
「ああ、その内あきらめて他のローソク台に的を変えると思いますよ、なにせ何回もボールを投げられますから・・」
と大家は以外にも悪びれず、さっぱりとした口調で答えた。
「ほう、そう言う事か?あの母親達が、それほどまでに夢中になって投げるのも、子供の時以来の楽しいゲームと言う訳かのう?」
「はい、村長さんの仰る通りで、恐れ入ります、村長さんは何もかもお見通しなので、いやはや参りました、ハハハ」
二人の背後で、太郎の耳だけがピクピク動いていた。
太郎は忍者のようにこっそり村長と大家の背後に近づいて、そ知らぬ顔で二人の会話を聞いていた。
(あれっ?この会話って、どこかで聞いたような?何かに似ているな・・・と思ったら、ああ、思い出した!よくテレビの時代劇に出てくる悪代官と悪商人の秘密の会話みたいだ)
等と太郎が思って、きっと次の言葉は
「お前も悪よのう」
でも出てくるのかと思いつつ聞き耳を立てていた。
すると、案の定、二人の会話はそんな雰囲気に変わっていった。
村長が自分の奇策に驚いていると思った大家は、さらに村長に他の内密の策を自慢顔で話し出した。
「村長さん、実は他にも人に言えない事があるんですよ。
まあ、これもわたくしが考えた策なんですが、今、それが八、九割方うまく運んでいるんで、今夜は一杯飲んで祝いたい気分なんですよ。
そこで、最高級ワインや酒を準備しているんですよ、村長さん、今夜はわたくしに突き合って二人だけで一杯飲みませんか?」
「ほお、最高級ワインと酒でのう・・まあ、ワシも付き合いの悪い方じゃないから、何の祝いか分からんが、大家さんが祝いたいなら付き合ってもいいが・・」
「ああ、それは有難い、嬉しい事は1人で飲むより、やはり二人で飲む方がだんぜん楽しいから、有難い」
と大家は大喜びだった。
この言葉を聞いていた太郎は、大家の祝いとは世話人達の今夜の内緒の宿泊会の事だと思った。
大家はさらに嬉しそうに話を続けた。
「それで村長さん、その最高級のワインや酒を、私が何処に置いていると思いますか?それが、ハハハハハ、あの巨大ケーキの上なんですよ、しかも景品としてですよ」
村長は、その言葉に驚いた。
「えっ、もし間違って倒されたりしたら大変じゃ?ごっそり持って行かれてしまうぞ」
大家は笑いながら答えた。
「いえいえ、大丈夫です、包装紙で見えなくしてありますから誰も最高級ワインや酒とは気づきません。安物の油や醤油や液体洗剤ぐらいにしか見えないので誰も狙ったりしません、ほらっ、あそこです」
と台の上を指さした。
そこにはクシャクシャの包装紙で隠されたビンらしき景品が立っていた。
その秘密の会話を聞いていた太郎は激怒した。
「何って事だ、チクショー大家の奴、俺達をだました事がうまくいったので、今夜祝杯を上げるつもりなんだ、おまけにだました村長を誘って、村長は二重にだまされる事になる、何て奴だ大家は!よーし、それならあの最高級のワインと酒をボールで倒して分捕ってやろう!)
と太郎は決意した。
多呂は、迷っていた狙うべき目標が見つかって、俄然やる気が出てきた。
おまけに、それが最高級のワインと酒と聞いてますますやる気が高まっていった。
その時また長老と修験者が期待を込めて楽しそうに、あの勝気の三女を見ていた。
「おいおい、見ろよ!あの三女が、また何かしでかしそうじゃな?」
「ほんとじゃ、きっとあの大きいお兄ちゃんが一杯食わされるぞ」
爺二人はわくわくしながら言い合っていた。
見れば、巨大なケーキ台の近くで、大きな男の子達が台の上に小さな人形や飾り物をいくつか並べていた。
ゲットした景品が女の子用だったので、それを再度景品にして同じようなゲームでこずかい稼ぎをしているようだった。
「さあさあ、いらっしゃい、いらっしゃい!ここのピンポン玉を投げて人形や飾り物を倒せばもらえるよ、三個でたったの百円だよ、当たれば儲けものだよー」
景品から一メートルほど離れた場所に、籠の中に凹んだり割れたりして捨てるピンポン玉がたくさん入っていた。
大きな女の子達が、景品が気に入ったのか、百円出してピンポン玉を投げていた。
が、何せ軽いので景品が倒れる事はなかった。
女の子達はくやしさで顔がだんだん青ざめていったが、反対にお金がたまる男の子達はホクホク顔になっていった。
あの三女もそこにいた。
そして景品の人形のひとつをジット見つめていた。
それが長老や修験者達には、三女が何かやらかす直前だと察した。
案の定、その時、三女が持っていたピンポン玉を姉に渡し、
「お姉ちゃん、これであのお人形さんに当てて、ぜったい倒れるから」
と小声で頼んだ。
姉はピンポン玉が何故か重く感じたが、三女に言われた通りにお目当ての人形に向って投げた。
するとピンポン玉は人形に当たり、今までと違って、何故かみごとに人形が倒れた。
「ワーッツ倒れた倒れた!、これは私の物よ」
待っていたように大喜びで飛び出した三女は、倒れた人形を手にして叫んだ。
姉達も喜び、男の子達は唖然とした。
女の子達は三女に駆け寄り、どうしたのか内緒で秘密を聞いた。
しばらくすると、他の女の子達もどんどん景品を倒すようになり、今までのくやしさを晴らすように景品を掲げて大喜びした。
ひとりの男の子が叫んだ。
「あーーっ、どうも変だと思っていたら、ピンポン玉の中に水が入っている、インチキだ!」
すると、女の子達は、
「水を入れたら駄目よって言われてないわよ!」
と大声で言い返した。
男の子達は反論できず黙ってしまった。
その様子を遠くから長老と修験者がづっと見ていた。
「おうおう、とうとうやったのう、やはり期待通りじゃった」
修験者が大喜びで隣の長老の肩を叩いた。
「ほんとじゃ、ほらっ、あの三女は、してやった!と言う顔をしているぞ、なかなかの知恵者じゃのう、これは末が楽しみじゃのう」
薄長老も満足顔で答えた。
それ等の様子は太郎も一部始終を見ていた。
太郎は心の中で叫んでいた。
(これだ、これだ!このやり方なら、あの大家の最高級ワインや酒も倒せるぞ)
太郎は早速、こっそり三女に詳しく聞こうと思った。
しかし、先を越した大人達がいた。
そう、既に母親達が、小さな三女を取り囲んでいた。
「ねえ、どうやって水をピンポン玉の中に入れたの?教えて」
「それは簡単よ、小さな穴を空けて口からストローで入れるのよ、最後にビニールテープを張るのよ」
「なるほどなるほど、ありがとうね」
母親達は、早速、協力して一個のボールに穴を空け、水をストローで入れてテープでフタをした。
その重いボールを近くの景品に向って投げると、三本まとめの醤油容器が倒れた。
「わーっ、倒れた倒れた!簡単に倒れた !」
母親達の歓声があがった。
それを村長と一緒に見ていた大家は、慌てふためいて真っ青になった。
そして口を震わせながら大広間の奥へ駆け出した。
しばらくすると、発明兄ちゃんのアナウンスが、突然大広間に鳴り響いた。
「突然ですが、皆さんにお知らせいたします。ボールを投げる時の大事な規則を言い忘れておりました。
まず、ボールに穴を空けたり、中に何かを詰めたりしてはいけません。ボールはそのままの姿で使用してください。
なので規則を守るように願います」
このアナウンスを聞いて、今度は母親達や太郎が慌てて、互いに顔を見合わせた。
太郎は早速、仲間と思う母親達に向って言った。
「これは大家の仕業だ!「チキショー、あのアナウンスは間違いなく俺達を見ていた大家の指図だ、絶対に間違いない、きたない手を使う陰険な奴だ、よーし、それなら俺達も負けずに・・」
と太郎は別の手段を母親達と一緒に考え始めた。
そしてボールを重い粘土や味噌のような物で包んでガムテープで巻くアイデアを考えた。
すると、村長の傍にもどっていた大家が、また急いで奥へ駆け出した。
そして、同じようなアナウンスが流れた。
「再度、皆さん方にお知らせいたします。先ほど、ボールに穴を空けたり中に詰めたりする事は禁じられている事をお知らせいたしましたが、同じように、ボールの外側も、物で覆ったり何かをくっ付けたりする事も禁じられています。
なので、ボールはそのままボールの姿で投げるように願います。以上です」
それを聞いて太郎は怒り狂った。
「チキショー、また大家の奴、俺達の話を盗み聞きして先手を打ったな、どこまでも陰険な奴だ、絶対にギャフンと言わせてやるぞ」
すぐに大家はまた村長の元にもどってきて、立ち話を始めた。
太郎もまた裏へ移動して二人の背後で聞き耳を立てた。
大家が汗を拭き拭き隣の村長に話し始めた。
「いやいや、危ないところでした。でもこれでもう大丈夫でしょうボールの中にも外にも細工ができないようになりましたから。
もう安心です、でも先ほどは本当に慌てました、あんな手で来るとは、全く油断のならぬ奴ですな、あきれました」
この言葉に太郎は