ハイハイハイハーイ、おまたせ、小湧水でーす、やはり今年はホワイトクリスマスになりました、きれいでいいのですが寒さだけは予想外でした、はい、部屋が温まるまで振えながら、はい、小説に参ります、では、開幕開幕!
334 馬タクシー出発!
ここは、銭湯横のレストランの前、立ったまま待っち続けている村長がぼやいた。
「ほーら、やっぱりじゃ!皆が急がせるので、慌てて表へ出てきたが、やっぱりじゃ。ここは田舎の昭和村じゃ、何事もゆっくりじゃ、時間もゆっくり流れているのじゃ、・・とワシが言っても、理解できないのじゃろう、今の人達には分からんのじゃ、まあ仕方ないのう・・」
そんな小声のぼやきを、隣りで耳にしながら、ハナが村長に尋ねた。
「あの、村長さん、馬タクシーって言うけど、この近くには馬を飼っている牧場でもあるんですか?」
「おっ、馬の牧場?いや、ワシは聞いた事がないのう」
ハナには以外な応えだった。
村長は続けた。
「・・そうじゃ、馬と言えば、昔はここでは馬を飼っていた農家も多かった。ワシも子供の頃には、家で馬を飼っていたので、よく餌の草刈りを手つだわされた。特に稲わらを見せると馬は喜んで声を上げた、ああ、懐かしいのう」
「あの、その馬って、やっぱり馬車を引くために飼ってたのですか?」
ハナが念を押すように聞いた。
「いやいや、それだけじゃない。ここでは馬はいろいろな事に役立ったのじゃ、まずは春先に田を耕すためじゃ、他にも荷を運んだりしたが、そうそう、特に冬の雪が多い時期には、ずいぶん役立ったのじゃ。
そう、ここは基礎と並んで檜の産地じゃ、山で切り出した材木は、冬の雪のある時に引っぱって山から運び出すんじゃ。馬なら道がなくても雪の上を運び出す事ができるんじゃ」
それを聞いてハナナが思いついた。
「ああ、分かったわ!そう、クリスマスのサンタクロースさんのトナカイの馬車みたいにでしょ?」
すると、即、子供達が反論した。
「違う、違うよ、サンタクロースはトナカイだから馬車じゃないよ」
「そうだよ、サンタさんは車じゃなくてソリよ、雪の上を滑るそりよ」
ハナは突然の反論にびっくりした。
すると、村長が穏やかな声で話出した。
「ああ、そうじゃのう、車や道路のない昔は、きっと冬は馬に雪ソリを引かせて荷物を運んだんじゃろうな、しかし、冬は材木の切り出し以外は、あまり外へは出なかったのじゃ、雪の積もる前に必要な物は全部運んでおいて、雪籠りをしたんじゃ」
皆は村長の話を聞きながら、雪の多い冬の様子を想像していた。
突然一瞬にして、そんな想像が破られた。
「ニャーニャー、ブーブーブー!」
変な音を出しながら、黄色いネコの形が近づいてきた。
待っていた小型のネコタクシーだった。
それが、皆の待っていた玄関前に停車した。
「あっ、お迎えのネコタクシーだわ、私達、乗ってもいいのね」
ハナ達は、無人のタクシーに声をかけながら、少し開いたドアを開けて前席に乗った。
「おいらは馬タクシーに乗りたいから、乗らない」
グー太が乗らないと言うので、ハナ達は外国家族に声をかけた。
「あの、どうぞ、皆も乗れるから、家族全員で乗ったら?」
お姉ちゃんに声をかけ、全員が乗ると無人タクシーはちょうど満員になった。
運転席のパネルには、行先の音楽資料館のボタンがあり、また出発と言うボタンもあった。
「まだちょっとボタンを押すのは待ちましょうね、馬タクシーや人タクシーが到着して全員が揃ったらボタンを押しますから」
とハナが言うと、隣りのお姉ちゃんがokして英語に翻訳した。
お姉ちゃんが英語で通訳している、その時だった。
「はいはいはいはーい、おまたせー!」
大きな声を出しながら、変な腰高かのリヤカーみたいな車?が到着した。
「人が引っ張ってるよ」、「あっ、見た事がある」、「なーんだ人力車だわ」
子供や母親達の歓声に答えるようにして、人力車が、ネコタクシーの後ろに止まった。
「おまたせいたしましたー、大将村の人力車でーす、悪いけど今日は疲れているので、いつもは大人二人乗りですけど、今日は1人で願います」
汗をかきかき中年風の車夫が言った。
「ああ、それなら村長さんだ、いや、それとも木花咲姫様かな?」
長老達が言いながら迷っていた。
「いえ、わたくし達は何とでもなりますので、どうぞ高齢の村長さんが、お先に乗ってください」
木花咲姫が譲った。
「いやいや、ワシは年寄りと言えど、一応男じゃから、やはり女性の木花咲姫様からどうぞ!」
村長と姫は互いに譲り合った。
そんな譲り合いなど、全く関心が無いように、
「まだかな?遅いな、どうしたんだろう?」
子供達と母親、それに太郎や長老達はしびれを切らしたように馬タクシーの到着を待っていた。
そこから見える大正村へ続く路は真っ直ぐだった。
馬車は大きいから、遠くから小さく見えても分かるはずだ。
「まだかな?まだかな?」
皆は目を皿のようにして道路の先を見つめた。
すると馬らしき動物が先頭に立って向って来るのが見えた。
「あっ、あれかも?」
一瞬、皆が沸きだった。
が、すぐに違った!と失望した。
後ろに馬車のような大きな箱らしき物を引っ張っていなかった。
それに先頭には歩いている馬子らしき人影もあった。
やがて、その人影に導かれて、ゆっくりと近づいて来た馬は、よく見ると、後ろに荷車のような物があった。
二つの車輪だけの大八車と呼ぶ昔の荷車を引っ張っていた。
「ちっ、ったく!まぎらわしい!どうしてこんな時に荷車が来るんだ」
太郎が怒鳴った。
そのうちに、馬の手綱を引っぱりながら馬子のおっさんが、皆が見守る玄関前に、ゆっくりと馬と後ろの大八車を止めた。
そうして、皆の視線など物ともせず大声で怒鳴った。
「女将ー、女将ー!大正村から来た馬タクシーだー、お客さんはどちらかな?」
馬タクシーと言う言葉を聞いて、子供や母親達が言葉を失った。
(まさか、これが待ち続けていた馬タクシーだなんて、有り得ない!)
と心の中で叫んだだけで、言葉が出ずにフリーズして固まってしまった。
食堂から慌てて店長が出て来て、
「この方達よ、この方達よ」
と子供達と母親達を指さした。
「おーっ、ずいぶん大勢だな」
馬子のおっちゃんは、初め、少し驚いた様子で皆を見た。
「・・・・」
子供達も母親達も太郎達も一言もなく沈黙していた。
「・・まあ、いいか、それじゃ、さあ、荷台に乗ってもらおうか?」
と指図するように目配せしながら言ったが、皆がまだ唖然としていた。
「ああ、そうだ、車輪の近くは危険だから、そう、子供達は前か後ろに乗って車から離れてな」
と付け加えた。
子供達が、板を張っただけの荷車に目を向けると、所々に枯れ草が落ちていた。
「ああ、これはまずいな、さっきまで干し草を運んでいたからな、ちょっと埃っぽいかもしれん?そうだ、女将ー!ちょっと箒を貸してくれー!」
と言って箒を借りると、荷台の上をはいた。
「さあ、これで綺麗になった、さあ、どうぞ乗ってくんろ!ちょっと遅れてしまったから、早く出発するべー、さあ、乗った乗った!」
すると、おとなしくしていた年老いたような馬が、
「フンッ、フンッ、ヒヒヒーン、ヒヒヒーン!」
と大きな鼻息と声を出した。
そして、後ろ脚をパカパカと上下させて、歩き出そうとした。
「はっ、はっ、ドウドウ、ドウドウ!」
慌てた馬子、と言うか、馬方のおっちゃんが、声で老馬を落ち着かせた。
そんなおっちゃんと馬の勢いに釣られてか、やがて、何だかんだと皆が荷台に乗って、無事に?腰を降ろした。
「はっ、ドウドウ!」
鞭を打って本物の馬車の御者が出発するように、馬方のおっちゃんの声だけは堂々としていた。
と言う訳で、無事に?馬タクシーが出発した。
先頭の馬方のおっちゃんが手綱を持って一番前を歩き、その次には老馬が歩き、その後を大八車が続いた。
その第八車には、前後に子供達が、中ほどの車輪の近くには長老や修験者と母親達が座っていた。
太郎やタタロやゴクウとケンは、大八車の横を歩き、木花咲姫と侍女は最後尾を歩いていた。
その歩く速さは、あきれるほど遅かった。
ネコタクシーと人力車は、もうはるか前方に姿を消していた。
(つづく)