ハイハイハイハーイ、おまたせ、飛騨の小路 小湧水でーす、いよいよウチの先生が騒いでいた30日が来ました、米国時間ですのでまだですが、果たして?
さて、先回途中切れだった原稿が届きましたので、早速、小説に参りたいと思います、はい、では、開幕、開幕!
327 飛騨の昭和村?
太郎が席に座ると、すぐにママさんが聞いてきた。
「それじゃ、太郎さんは何を飲みますか?ビール?それともお酒?それともワイン?」
とまるで自分の店のように、にっこり色っぽく頬笑んで聞いてきた。
「えっ、俺っ?俺は・・」
少し紅くなった太郎は、許可を取ろうと思って木花咲姫の顔や侍女の顔を見た。
が、ママさんの態度とは対照的に二人は何も言わず笑顔もなかった。
「あ・・おっ、俺は酒・・」
待っているママさんに向って、思わず口から言葉が出てしまった。
「それじゃ、給仕さん、お酒とコップをひとつ追加してね」
ママさんが爺達に注文し、太郎ににっこりとうなづいた。
注文を受けた長老と修験者がオドオドしながら、木花咲姫様に向って聞いた。
「あっ、あの、姫様、お酒の注文とデザートと飲み物の注文を受けましたが、よかったでしょうか?・・・デザートはすべてキャビア付きですが・」
長老の顔からは冷汗が噴き出した。
「えっ、キャビア付き?」
案の定、先に侍女が驚きの大声を上げた。
一瞬、長老達は、目と頭を臥せた。
閃光の後には、必ず雷鳴が来るからだ。
が、雷鳴はなく静かな間があった。
長老達が、どうなったのだろうか?と頭を上げうすうす目を開くと、
「・・まあ、いいんじゃないですか?」
との木花咲姫の声が頭上から聞こえた。
その姫様の声に、長老達はもちろん、太郎もホッと安堵した。
その時に、背後で、誰かが駆け出す足音がした。
思わず皆が目を向ければ、グー太とケンの小さな後ろ姿だった。
「ホホホホホ!」
その懸命な忍者きどりの駆ける姿に、木花咲姫に続いて皆も噴き出した。
小さな忍者が、ハナやハナナ達の代わりに、こっそり様子を探りにきたのだろう。
そんな滑稽な姿に、ようやく緊張していた空気が和んだ。
「それじゃ、木花咲姫様、ご注文を確かに受け賜りました」
と冷や汗を拭いだ長老達が立ち去ろうとすると、木花咲姫が呼び止めた。
そして、近寄って耳を口元へ寄せるように指先で指示した。
ギクッ!もしかしたら・・気が変わったのか?・・?」
長老達が、恐る恐る近づいて聞き耳を立てた。
「あの、キャビアって、ほんの小さなスプーン一杯だけをデザートに載せればいいからね、そのようにシェフに言っておいてくださいね」
と小声で耳打ちした。
「・・・・」
やがて新しい酒も運ばれてきて、太郎の仲間入りを祝っての乾杯もなされた。
長老達も給仕として、傍に立ったまま生唾をのみながら控ていた。
すると、ママさんに勧められて冷酒を飲んでいた太郎が、間もなく酔いで気が大きくなったのか、突然大声で言い始めた。
「あの、木花咲姫様、ちょっと聞きたいんですけど、今夜の泊まりはどうなっているんですか?俺達は何処で寝るんですか?」
この質問には爺達も聞き耳を立てて、太郎と木花咲姫の顔を見た。
また、知らぬ間に、グー太とケンが爺達の背後に来ていて、小さくなって会話の内容に忍者のように聞き耳を立てていた。
「あらっ、まだ泊まる宿が決まってなかったのですか?この村には泊まる場所はいっぱいありますから、こんな時間になっても大丈夫ですけど・・」
ママが少し驚いた顔をした。
「ああ、そうだった、そう言えば、俺はまだ泊まる宿は聞いていなかったな、この村に泊まる予定とは聞いてたけど、どこの宿かまでは、まだ聞いてなかった、いや、まだ決まってなかったんだ」
とバスの運転手も合槌を打って、木花咲姫の顔を見た。
木花咲姫は、しばらく黙って侍女と顔を見合わせていたが、
「あの、もし、ママさんでしたら、何処をお薦めしますか?ママさんのご意見をお伺いいたしたいと思いますが・・」
と丁寧に聞いてきた。
「えっ、私ですか?そうね、私だったら、昭和村の古民家がお薦めですね。あそこは落ち着けるんですよ、あっ、そうでした、あそこには昔ながらの静かな高級旅館もありますから、きっとそこなら姫様方も気に入られると思いますよ」
とママが言うと、隣の運転手が反対し出した。
「いやいや、ママさんよ、ほら、姫様達には子供達やここの太郎さん達や爺さん達も、それに猿さんも犬もいるんだぞ、高級旅館なんて大変な宿代になるぞ。もっと安くて大勢が泊まれる場所がいい」
すると、木花咲姫の隣にいる侍女が言い出した。
「あの、ちょっとお尋ねしたいんですが、今回ここで夕食を食べたあの子供達は、今夜は何処に泊まるんでしょうか?あの子供達も私達と同じように今日突然予約なしで来られたようですけど・・」
すると運転手がすぐ答えた。
「ああ、それならきっと、ここだ、この船だ、この船の二階の大広間なら、あのくらいの人数は何って事はない、もっと多くの子供達も毎年泊まっているからな」
ちょうど、その時、案内嬢が皆のいるテーブルへやって来た。
「ああ、やっぱり、運転手さん、ここでしたか?良かった見つかって、あの、村長さんが電話してほしいそうです、電話が切られているので繋がらないと言ってましたよ」
と運転手に言った。
「あっ、そうだった、忘れていた!早く村長に連絡するんだった、今夜の宿泊先が決り次第連絡するんだった、ああ、もうこんな時間になっていたんだ」
と運転手は舌打ちした。
するとそれを聞いていた案内嬢が驚いた。
「えっ、まだ宿泊先が決まっていなかったんですか?もうかなり遅い時間ですよ。
今、上の甲板上にいる子供達は、全員この船で泊まりますよ、もし皆さん方もそうしたいなら、ハンモックを準備いたしますよ」
と親切そうに言ってくれた。
「えっ、ハンモック?」
太郎が大声を出した。
「ハンモックって言ったら、木と木の間に繋いで昼寝する網じゃないか?」
太郎の言葉に爺達もうなづいていた。
「はい、そうです、この建物は帆船をモデルに建てられていますので、帆船の乗組員のように全員がハンモックで眠るのです、子供達には大変好評で、毎年夏休みに来る学校もありますよ、もっとも船長室や特別なお客さん用の寝室もありますが・・」
と案内嬢が答えると、太郎を始め皆は唖然とした。
すると、木花咲姫が突然、言い出した。
「あの、やっぱりママサンが仰るように、私達は昭和村で泊まりましょう、運転手さん、そのように村長さんに伝えて手配するよう伝えていただけませんか?」
急に言われた運転手は、慌てて、
「はい、それじゃ、早速電話します」
と言って、スマホを取り出しその場を離れた。
「あの、姫様、昭和村でお泊まりなら、私の店も近くですので、是非遊びにいらっしゃってください、大歓迎させていただきますので」
とママは言いながら、太郎や長老達に笑顔を向けた。
こうして、夜もかなり遅くなって、皆はバスに乗って昭和村へ行くことになった。
建物を出る前に皆は二階の大広間を覗いた。
そこには、無数のハンモックがアチコチに吊るされていた。
子供達がハンモックの中に横たわったりブランコのように揺らして遊んでいた。
ハンモックは向きや高さもいろいろで雑然としていた。
両端は太い丸太の柱や梁に繋がれていた。
丸太はハンモックのために設置したものだろう。
よくよく見れば、アチコチに二メートルほどの高さの丸太の太い柱が立っていて、それぞれが三メートルほど離れていて、上部が同じく丸太の梁で横につながれていた。
その丸太の梁には鉄の小さな輪がいっぱい付いていて、ハンモックの端の鉄のカギをひっかけるだけでよかった。
仲の良い子供達は、それぞれ話し易いようにハンモックの向きや高さを自由に変えていた。
入口の床にビニールホースを入れた一升瓶が置いてあった。
それを見て、太郎が、
「あっ、これはグー太用だ、もしかして、お前、まだオネショするのかい?」
とからかった。
さらに、屋上を覗くと、甲板上にはいくつかのテントが張られていた。
そのテントの中には、子供達が空気マットの上に寝転んでいた。
楽しくて嬉しくて、まだなかなか寝付かれないと言う様子だった。
その時、子供の1人が、太郎達に、どこに泊まるのか?と聞いてきた。
「俺達は、こんな甲板とは違う、ちゃんとした畳と床の間のある立派な古民家の昭和村だ」
と答えると、子供達が歓声を上げた。
「わーっ、すごい!トトロのジブリ村だ、いいな、いいな!」
(つづく)