飛騨さるぼぼ湧水

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連載小説「幸福の木」 400話 見ろ、ミロのビーナス?

2024-04-15 23:20:59 | 小説の部屋

ハイハイハイハーイ、おまたせ、飛騨の小路 小湧水でーす、お蔭様で無事に高山祭も終わりました。二日とも晴天で、さくらも満開間近かで海外観光客もコロナ前の元にもどって良かったです。
昨日は高山も暑くて体調を悪くした人も出たとか、はい、幸い、遅れながらも原稿が届きましたので、早速、小説に参ります、はい、では、開幕、開幕!

400 見ろ、ミロのビーナス?

スクリーン上の一糸まとわぬ裸のビーナスの姿に、消防団員はもちろん村長や太郎達もめを丸くして沸き立っていた。
「ちょっと発明兄ちゃん、これってどう言う事なの?」
ママさんが怒った厳しい顔で発明兄ちゃんに尋ねた。
「はっ、はい、ぼっ、僕も、初めてのサイトなので・・よく分かりません・・ひょっとしたら、いたづら天使のボタンを押した時、何かの手違いで、あの裕福な人達が入っている高額なサイトに入ったのかも知れません」
発明兄ちゃんが、慌てて答えたが、ママさんはまだ疑わしいと言う顔をしていた。
男性達は皆、思いがけないスクリーンの裸体に釘付けになっていた。
「あらっ、いたずら天使が内輪で扇ぐのをやめちゃったわ、どうしたのかしら?もう飽きちゃったのかしら」
ハナナが突然言い出した。
「あらっ本当。別の所へ行こうとしてるわ」
ハナもいたずら天使の動きが気がかりだった。
いたずら天使は、スクリーンの端にある「次へ」と言うボタンを押そうとしていた。
「あらっ変だわ、あのボタンはパソコンを見ている人達が押すボタンでしょ?画面の中の人は押せないはずよ」
ハナ達がいぶかしんだ。
しかし、いたずら天使がそのボタンを押すと、スクリーンの映像が変わり始めた。
ハナ達は、それに驚いた。
「あらっ、変ね、押せたみたいよ」
スクリーンは、やがて「ビーナス誕生」の絵画がだんだん小さくなって消えた。
そして、小さな点がだんだん大きくなって、同じくボッテチェリ作の「プリマベイラ(春)」と呼ばれる絵画がスクリーン全体に広がった。
今度は裸の女性はいなかった。
春の女神を囲んで女性達が透けそうな薄い衣装をまとって数人が集まっていた。
すると、いたずら天使がまたまた出てきた。
そして、また内輪をパタパタ扇ぎ出した。
その扇ぐ速さが、またどんどん速くなって、女性達の衣装を吹き飛ばし始めた。
透けるような衣装はもちろん、手で押さえていた衣装も次々に吹き飛ばされ、女性達が裸体になっていった。
「駄目よ、いたずら天使を止めさせて!このままでは大変、とんでもない事になるわ」
驚いたハナが、慌てて叫んだ。
するとハナナも、慌ててパソコンを覗き込んで、端にあった「次へ」と言うボタンを押した。
すると、たちまちスクリーンが変わり始めた。
全体に広がっていた「プリマベイラ」の絵画の画面が小さくなっていった。
そして、代わりに白い小さな彫像のような物が現れた。
そして程なくそれはスクリーンいっぱいに広がった。
それを見て、ハナナが越えを上げた。
「あっ、あたい、前にこれを見た事があるわ」
すると長老も叫んだ。
「ワシも見た事がある。そうじゃ、これは、確か、有名なミロのビーナスじゃ」
ママさん達も厳しい顔を元にもどしてうなづいていた。
そう、それはフランスのパリのルーブル美術館所蔵の有名なミロのビーナスだった。
上半身は裸体だったが、大理石の白さが如何にも清潔そうで美しさだけが目立っていた。
思わずハナナが大声で言った。
「ああよかった、今度は大丈夫よ、衣装も大理石だから、いたずら天使の内輪の風では吹き飛ばされたりしないわ」
するとハナも続いた。
「今度は衣装は無いし、下半身は大理石の布で覆われているから吹き飛ばされにくいわね」
ハナとハナナ達は、安心したようにスクリーンのビーナスを見ていた。
すると、案の定、いたずら天使がまたヒョコヒョコ現れて、同じように内輪で仰ぎ出した。
内輪は見えないほど速く仰がれて、台風のような風がミロのビーナスの腰の布を目掛けて吹いた。
ハナ達は、大理石の布だから大丈夫!と思って見ていた。
が、何故か、不思議な事に、あまりの風の強さに腰を覆っていた大理石の布がヒラヒラと波打ち始めた。
いたずら天使が、
「ああ、いい調子、もう少し、もう少し!」
と喜んで叫んでいるようだった。
それを見ていたハナとハナナは慌てた。
「ああ、大変、大変、大理石の布が風で少しづつめくれて行くわ」
それを見てた爺達も声を出した。
「やはり、天使じゃ、あの堅い大理石の布もふつうの布のように風の力でめくっていくとはのう、やはり魔術と一緒じゃ」
爺達は感心しながら見守っていた。
やがて、パタパタと鳴る腰の布の音が、さらに激しくなり、いよいよ一挙に吹き飛ばされそうになった。
その時だった。
「何じゃ、あれは?」
スクリーンを見ていた皆が度肝を抜かれた。
「???・・・・」
誰もが、唖然として目を奪われた。
元々両手が無いミロのビーナスの肩の下に異変が現れた。
両肩の下部から白い指や手が現れてきた。
そして、それがどんどんと伸びていった。
さらに、見ている内に、前腕上腕も伸びてきて完全なる手や腕になってしまった。
その長い美しい白い腕が、吹き飛ばされようとする腰の布をしっかりと抑えつけた。
いたずら天使が、負けまいと顔を真っ赤にして内輪を煽ったが、それは無駄だった。
「わーっ、ビーナスさんが勝ったわ、やったわ、やったわ!」
喜んだハナとハナナが思わずスクリーンのミロのビーナスに向って拍手を送った。
すると、ビーナスは、ハナ達に向って笑顔を投げかけていた。
その仕草には、冷たい大理石でなく、生きた温かい女性の体のような柔らかさが感じられた。
「ひょっとして、ミロのビーナスさんって、私達に微笑みかけているのかしら?」
ハナナが言った。
「もしかして、私達って、スクリーンの中の人達と話ができるのかしら?」
ハナも言い出した。
ハナとハナナは発明兄ちゃんに顔を向けた。

(つづく)

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