韓国の名門、梨花女子大出身で、現在はアムステルダムを拠点に活動しているSanghee Song (シャンヒ・ソン)さんの、札幌では6年ぶりの個展。
前回は、エスエアの招きで札幌に滞在し、個展をひらいている。
今回は、メーンとなる映像作品(たぶん、これが「The sixteenth book of Metamorphoses 」だろう)を正面に投影し、もうひとつの作品(映像はふたつ)を側面に映している。
床の上には、英文が投影され、会場中央の台の上に、獣の頭骨らしきものが置かれている。
壁には「The sixteenth book of Metamorphoses」に登場する英紙ガーディアンが貼ってあるが、参考資料的な感じの扱いで、タブローやドローイング、写真などはない。
「The sixteenth book of Metamorphoses」は、ドローイングを組み合わせた、モノクロのアニメである。
手作りなので、アニメというより、紙芝居といったふさわしいような、動きのない画面だ。
しかし、筆者にとっては、衝撃的な物語だった。
Sanghee Songは、神話を創造したのだ。
筆者の貧しい英文読解力によると、こんな物語のようである。細部は違っていると思いますが、ご了承を。
(以下、ネタバレにつき、今後この作品を見る予定のある方は、青い字の部分はとばしてください)
…2億年以上昔、さまざまな動物が地球に満ちた。
彼らは自活していた。
神は自らの姿に似せて、完璧な生き物を作った。それはアメーバという名だ。
アメーバたちはお互い友人どうしになれず、孤立していた。
そこで、じぶんの肋骨を取り、土を着けて、生き物を作り出した。
それが恐竜だ。
アメーバの「Khola」とPlesiosaurus(プレシオサウルス)もお互いに愛し合っていた。
しかし、海の底のリヴァイアサンもKholaにひそかな思いを寄せていた。
ある日、アメーバたちは、自らをもっと強くしようと、恐竜を殺して肉を食べることに決めた。
Kholaも、「また次の時空で会おう」とプレシオサウルスと約束を交わし、殺してその肉を食べた。
Kholaは悲しみのあまり崖から海へと身を投げた。
ひそかにKholaを慕っていたリヴァイアサンは、彼女と一体化した。
その後。
リヴァイアサンはマッコウクジラに変身し、プレシオサウルスは海底で石油にすがたをかえていた。そして、サハリンからアムステルダムに至る海底パイプラインの中を通っていた。
クジラは、プレシオサウルスを追ってアムステルダム近くまで泳ぎ着いたが、ソナーシステムを狂わされ、ロンドンのテムズ川へと迷い込み、そこでゆっくりと死んだ。
石油になったプレシオサウルスはこの事態に怒り、復讐をしてやろうと誓った。パイプラインが破裂して、石油が太洋にあふれ、すべての生き物を絶滅させた。
これが地球の終末だ…。
壮大な神話であり、環境悪化への警鐘であり、生物を滅ぼすことへの批判である一方で、単なる三角関係のもつれみたいな部分もあって、非常に多義的な物語なのだ。
なお、「The sixteenth book of Metamorphoses」という題名は、古代ローマの詩人オウィディウスの「変身物語」にちなむ。
この本には、ギリシャやローマの神話に題材を得た変身譚が15巻に収録されている。
だから、第16の書というわけだ。
床にうつっていた英文は-
これが、「創世記」第6章にある、神がノアに向けて言ったことばであることは、いうまでもないだろう。
ただ、原文が「洪水」であったのに、この英文では「油」になっている。
作者は、油でこの世が滅びると思っているのかもしれない。
筆者はSFに明るくないのだが、パイプラインの破壊によって海が油まみれになり地球が滅亡するという話はあるのかもしれないと思う。
恐竜のほうは模様などもきちっと描かれ、輪郭線だけで表現されている「アメーバ」とは対象をなしている。
そして、全体的に白っぽかった画面が、最後に黒い油に覆われていく。
「創世記」というよりも「黙示録」のようだ。
ロンドンにクジラが迷い込んできたことは、実際にあったのだろう。
このシーンを見て思い出したのは、オーストラリアのタスマニア沖にあるキング島に200頭のクジラが打ちあげられたという最近のニュースだ。
タスマニアでは、ことし1月にもマッコウクジラ48頭が岸に打ちあげられて死んだが、原因はわかっていないという。
リヴァイアサンは、英国の哲学者ヒュームの著書の名前にもなっている想像上の海の怪物である。
リヴァイアサン(クジラ)の死が、地球の死に結びつく-というのは、いささか西洋人的な発想かもしれない。
アメーバが互いに友人を持てず、孤独である-というのも、なんだか胸にしみた。
恐竜を生み出すくだりは、いうまでもなく「創世記」の、アダムからイブが生まれるくだりをふまえているのだろう。
殺戮のシーンは、戦争のようだ。
際限がないのでこのへんでいったん打ち止めにするけれど、とにかく連想が連想を呼んで、はてしない思いを紡がせる、そんな物語なのだ。
(この項続く?)
2009年2月27日(金)-3月7日(土)13:00-23:00(初日19:30-、最終日-18:00)、日曜休廊
CAI02 raum1(中央区大通西5 昭和ビル地下2階 地図B)
□プロフィルなど(エスエアのページ) http://www.s-air.org/artists/2003/sanghee/index.html
前回は、エスエアの招きで札幌に滞在し、個展をひらいている。
今回は、メーンとなる映像作品(たぶん、これが「The sixteenth book of Metamorphoses 」だろう)を正面に投影し、もうひとつの作品(映像はふたつ)を側面に映している。
床の上には、英文が投影され、会場中央の台の上に、獣の頭骨らしきものが置かれている。
壁には「The sixteenth book of Metamorphoses」に登場する英紙ガーディアンが貼ってあるが、参考資料的な感じの扱いで、タブローやドローイング、写真などはない。
「The sixteenth book of Metamorphoses」は、ドローイングを組み合わせた、モノクロのアニメである。
手作りなので、アニメというより、紙芝居といったふさわしいような、動きのない画面だ。
しかし、筆者にとっては、衝撃的な物語だった。
Sanghee Songは、神話を創造したのだ。
筆者の貧しい英文読解力によると、こんな物語のようである。細部は違っていると思いますが、ご了承を。
(以下、ネタバレにつき、今後この作品を見る予定のある方は、青い字の部分はとばしてください)
…2億年以上昔、さまざまな動物が地球に満ちた。
彼らは自活していた。
神は自らの姿に似せて、完璧な生き物を作った。それはアメーバという名だ。
アメーバたちはお互い友人どうしになれず、孤立していた。
そこで、じぶんの肋骨を取り、土を着けて、生き物を作り出した。
それが恐竜だ。
アメーバの「Khola」とPlesiosaurus(プレシオサウルス)もお互いに愛し合っていた。
しかし、海の底のリヴァイアサンもKholaにひそかな思いを寄せていた。
ある日、アメーバたちは、自らをもっと強くしようと、恐竜を殺して肉を食べることに決めた。
Kholaも、「また次の時空で会おう」とプレシオサウルスと約束を交わし、殺してその肉を食べた。
Kholaは悲しみのあまり崖から海へと身を投げた。
ひそかにKholaを慕っていたリヴァイアサンは、彼女と一体化した。
その後。
リヴァイアサンはマッコウクジラに変身し、プレシオサウルスは海底で石油にすがたをかえていた。そして、サハリンからアムステルダムに至る海底パイプラインの中を通っていた。
クジラは、プレシオサウルスを追ってアムステルダム近くまで泳ぎ着いたが、ソナーシステムを狂わされ、ロンドンのテムズ川へと迷い込み、そこでゆっくりと死んだ。
石油になったプレシオサウルスはこの事態に怒り、復讐をしてやろうと誓った。パイプラインが破裂して、石油が太洋にあふれ、すべての生き物を絶滅させた。
これが地球の終末だ…。
壮大な神話であり、環境悪化への警鐘であり、生物を滅ぼすことへの批判である一方で、単なる三角関係のもつれみたいな部分もあって、非常に多義的な物語なのだ。
なお、「The sixteenth book of Metamorphoses」という題名は、古代ローマの詩人オウィディウスの「変身物語」にちなむ。
この本には、ギリシャやローマの神話に題材を得た変身譚が15巻に収録されている。
だから、第16の書というわけだ。
床にうつっていた英文は-
The end of all flesh is come before me for the earth is filled with violence through then and,behold I will destroy the them with the party.
And,I do bring a flood of oils upon the earth,to destory all flesh,wherein is the breath of life,from under heaven;and everything that is in the earth shall perish.
これが、「創世記」第6章にある、神がノアに向けて言ったことばであることは、いうまでもないだろう。
わたしは、すべての人を絶やそうと決心した。彼らは地を暴虐で満たしたから、わたしは彼らを地とともに滅ぼそう。(中略)わたしは地の上に洪水を送って、命の息のある肉なるものを、みな天の下から滅ぼし去る。地にあるものは、みな死に絶えるであろう。
ただ、原文が「洪水」であったのに、この英文では「油」になっている。
作者は、油でこの世が滅びると思っているのかもしれない。
筆者はSFに明るくないのだが、パイプラインの破壊によって海が油まみれになり地球が滅亡するという話はあるのかもしれないと思う。
恐竜のほうは模様などもきちっと描かれ、輪郭線だけで表現されている「アメーバ」とは対象をなしている。
そして、全体的に白っぽかった画面が、最後に黒い油に覆われていく。
「創世記」というよりも「黙示録」のようだ。
ロンドンにクジラが迷い込んできたことは、実際にあったのだろう。
このシーンを見て思い出したのは、オーストラリアのタスマニア沖にあるキング島に200頭のクジラが打ちあげられたという最近のニュースだ。
タスマニアでは、ことし1月にもマッコウクジラ48頭が岸に打ちあげられて死んだが、原因はわかっていないという。
リヴァイアサンは、英国の哲学者ヒュームの著書の名前にもなっている想像上の海の怪物である。
リヴァイアサン(クジラ)の死が、地球の死に結びつく-というのは、いささか西洋人的な発想かもしれない。
アメーバが互いに友人を持てず、孤独である-というのも、なんだか胸にしみた。
恐竜を生み出すくだりは、いうまでもなく「創世記」の、アダムからイブが生まれるくだりをふまえているのだろう。
殺戮のシーンは、戦争のようだ。
際限がないのでこのへんでいったん打ち止めにするけれど、とにかく連想が連想を呼んで、はてしない思いを紡がせる、そんな物語なのだ。
(この項続く?)
2009年2月27日(金)-3月7日(土)13:00-23:00(初日19:30-、最終日-18:00)、日曜休廊
CAI02 raum1(中央区大通西5 昭和ビル地下2階 地図B)
□プロフィルなど(エスエアのページ) http://www.s-air.org/artists/2003/sanghee/index.html
よっぽど私よりきちんと書かれているじゃないですか。
SF世界では石油は枯渇するのが共通認識のようです。原子力によって世界が破滅する話は良くありますが、石油による汚染はあまりないようです(現実的すぎるせいでしょうか)。
SFでなくても。
あの作品でパイプラインの描写が妙にくわしいのは、シャンヒさんがロイヤル・ダッチ・シェルのおひざ元に拠点を移したという事情もあるのかもしれません。
字幕の時間が短くて、Kholaがリヴァイアサンの中に入る仕組みとか、マッコウクジラが海で迷うとことか、ようわかりまへんでした。