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■渡辺貞之「存在と眼」 (4月26日まで)

2009年04月24日 23時44分33秒 | 展覧会の紹介-絵画、版画、イラスト
 渡辺貞之さんは1940年(昭和15年)生まれ、深川市在住の画家。
 全道展会員、独立美術の準会員として活躍する一方、札幌時計台ギャラリーで毎年開かれているグループ展「櫂」のメンバーでもある。さらに地元・深川では、アートホール東洲館を切り盛りするとともに、市民劇団にもたずさわるなど、また、現役教員の時代には美術教育の本を出すなど、幅広く活動している。
 東洲館は、池田緑さん(帯広)の個展を開くなど、意欲的な企画を続けており、その点では大都市の美術館に劣らないものがある。

 今回の企画個展は、人物デッサンと、油彩によるもの。
 人物デッサンは以前、さいとうギャラリーでの個展で拝見したことがあるけれど、実にうまい。
 デッサンだけでも見れば満足できる画家といえばただちに故森本三郎の名が思い浮かぶ。ただ、彼は建築物や仏像がメーンである。むろん、人物デッサンはまったく発表しない人も多いからいちがいにはいえないのだが、渡辺氏が相当に巧みであることは疑いない。
 かたちの把握にすぐれているのもさることながら、全体的に暗く書いてハイライトを強調する手法も、効果を挙げているのではないかと思う。

 しかし、そういう技術的なことはさておき、どの人物も、まるで性格が画家に見透かされているのではないかと思われるぐらいに、それぞれの個性と存在感を存分に発揮しているように見えるのは、確かである。

 さて、今回出品されている油彩は
「黒い羽根の天使 3人ごっこ」
「童話の宅急便」
「黒い羽根の天使 家族ごっこ」
「黒い羽根の天使 最後の晩餐ごっこ」
である。

 筆者の記憶では、これまでの作品では、題の末尾が「…ゴッコ」とカタカナ書きであったと思うが、今回はひらがなになっている。
 それはさておき、会場に入ってすぐの「最後の晩餐ごっこ」に、非常に注目した。
 題名からもわかるとおり、レオナルド・ダ・ヴィンチのきわめて有名な「最後の晩餐」を、渡辺流に換骨奪胎した作品である。
 中央にいるイエスも、左右6人ずついる弟子たちも、渡辺作品によく登場する、モノクロームで描かれた子供たちになっているのだ。
 イエスが、頭頂部に角のような三角錐を載せているのも、他の渡辺作品に出てくる天使や子供と共通する。
 イエスとおぼしき子は、卓上に両手を差し出し、その手の間にある卵は宙に浮かんでいる。どうやら、裏切り者がいることを述べ伝えているというよりは奇蹟を行っているようすである。
 左右の弟子たちがざわついているのは、レオナルドの絵に似ている。
 ただし、この絵の最大の特徴は、画面に、ふすまをあけるのを途中でやめたような格好で、凹凸が生じていることだ。したがって、弟子たちの途中で、段差が生じており、その段差の左右は必ずしもスムーズにつながっていない。弟子たちの描写が一部、省略されているのだ。
 作者が、見るものに
「平面とはなにか」
という問いを投げかける装置になっているようでもある。

 卓上には魚料理などは見受けられない。晩餐にもかかわらず、マッチ箱が乗っかっているほかは、よく判別できないものばかりが見える。
 テーブルの下、地面に低いあたりを小鳥が飛んでいるのもフシギだ。床には猫が寝そべり、ドライフラワーらしきものが転がっている。
 弟子たちは、あえて、完成された描写ではなく、塗り残しのような、未完成の部分を持っていて、それがかえって魅力となっている。

 STVエントランスアートのサイトで、作者はこう語っている。

 私は、68年という歳月を経て、今この世に存在しています。長い間、人間として生きてきた終焉の域に入ってきたせいか、「自分はなぜこの世に現れたのか」ということをしきりに考えるようになりました。
 私の描く人物は、そのほとんどが私と緊密な関係にある者です。それは、今生きて存在している「私が知っている」人間の姿を描きたいからです。姿、形ではない私とモデルの精神的な関係に興味があるからです。それは、私のまったくの主観でもあります。
 描いているとき、私とモデル(観る者と観られる者)との相互の緊張感が高まったとき、ふと、画面の中の描かれている人物に「観られている」ことに気付きます。それは絵を描きながら、自分を見つめているもう一人の自分、私という存在の限りない不可思議さに対して、究極的な答えを模索している自分の眼なのではないでしょうか。自分自身が今生きて、この世にいるという実感、自分自身が存在しているということは、一体どういうことなのかということをじっと見つめ返す画面上の人物から、個人を超えた普遍的な存在の気配が強く発せられるような気になります。それが「描く」ことの最大の魅力になっているのです。

 
 また、この絵の天井の部分には、ローマ字でこう書かれている。

 この作品はぼくにとってライフワークになるような気がします 黒い羽根の天使の中で人との主体になると思う内容なのです
 

 渡辺さんは、子どもの姿を借りて、人間存在のおもしろさ、愚かしさ、美しさに迫っているのだと思う。


2009年4月6日(月)-26日(日)9:00-18:00(土・日曜は-16:00) 
STV北2条ビル エントランスアート(中央区北2西2 地図A) 

第5回櫂展(2007年)
第4回櫂展(2006年)
渡辺貞之個展(2003年)
第1回櫂展(2003年)
第57回全道展(2002年)
渡辺貞之個展(2001年)
 =以上画像なし


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1 コメント

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Unknown (きみこ(プリザーブドフラワー作り方))
2009-11-04 07:40:02

いつも楽しい情報ありがとうございます。
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