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■第5回櫂展 (7月21日まで)

2007年07月21日 00時43分48秒 | 展覧会の紹介-絵画、版画、イラスト
 全道展のバリバリ実力派会員7人からなるグループ絵画展。
 ことしで5回目(ただし、1回目の前年に深川で展覧会)になりますが、メンバーは不動です。
 単にテクニックをほこるのではなく、人間の実存に迫る絵が並んでおり、見ごたえ十分です。
 ただ、全体としてみると、濃密な描写や絵の具の飛散が減って、モティーフの形そのものをじっくりと見据えるという傾向が強まったかに見えるのが、ことしの傾向ではないかと思いました。暑苦しさの減少、といえるかもしれません。

 藤井高志さん(北広島)は、「刻まれた記憶」(150F)「過ぎし日の記憶」(同)「そこに生活があった」(同)の大作3点を出品しました。
 いずれにも、小さな川と木の橋が登場しています。
 「刻まれた記憶」は、画面手前に黄色い格子模様の床が展開して、その上に赤いワンピースの少女がすわっています。背後は、小川と橋のほかは、青一色で彩色された野原。ただ、画面左方のフキだけが、緑で描かれ、ちょっと幻想的な広がりになっています。また、木の橋の欄干に青い旗がはためいているのも目を引きます。
 一方、「そこに…」では、川が画面下部から上方へとほぼ一直線に延び、周辺にはみすぼらしい野のほかは、1匹の犬がいるだけで、題とはうらはらにあまり生活のにおいがしません。この川と橋は、かなり以前から藤井さんの絵に登場するので、おそらく作者の古い記憶に残っているものと思われます。
 そして、これは藤井さんの意図するものかどうかはわかりませんが、いわゆる美的な風景画とは次元の異なる、或る種ひじょうにリアルでアクチュアルな風景画になっているという点で、高く評価できるのではないでしょうか。
 ほかに「少女」(SM)「子供のいる風景」(6F)。

 福島孝寿さん(札幌)は、「時刻(とき)I」(120F)「時刻II」(100S)「時刻III」(100F)の3点。
 以前、人間の苦悩を暴きだすような、明暗の差の激しい画面構成でしたが、昨年あたりから色の調子を抑えた画面になっています。
 昨年は複数登場していた女性も、ことしはいずれもひとり。ほぼ単色で描かれています。
 さまざまな姿態をとる女性の周囲に描かれるのは、多様な大きい葉。シルエットだけのもの、輪郭線が主体に描かれているもの、リアルな描写をなされているもの…さまざまです。

 梅津薫さん(岩見沢)も、ことしからぐっと調子を抑えた、むしろ静かな画面になってきました。
 穏便な写実とは一味違った植物の描写がメーンなのは変わりませんが、以前なら人間社会を脅かしそうな勢いで伸張していた草むらも、ことしの「朝光」(100F)「白のエーテル」(120S)では、おとなしくはえている-といった感じです。この2点よりちょっと古い「草蒼の黄昏」(150変形)では、ビルよりも高くはえているように見えますが。
 ほかに「エスキス」「蒼踏」の小品2点を出品。

 あまり画風に変化が見られないのが渡辺貞之さん(深川)です。
 グリザイユ画法を駆使して描く子どもたちは、時に悪魔の角のような三角錐を頭頂部に乗せ、さまざまなポーズをとって見せます。卓抜なデッサン力を持つ渡辺さんの腕の見せ所です。
 今回も「黒い羽根の天使」シリーズ3点を出品(いずれも100S)。
 なかでも「二人ゴッコ」に注目しました。背後の壁に、赤い線で車の落書きがなされています。子どもの落書きという設定にして、油絵のなかにドローイングを導入するうまい試みだと思いました。さらに、おつゆがきとはちょっと違った意味合いで、灰色の絵の具が薄く壁を覆っています。まるで、絵が完成と未完成のあいだで宙吊りになったような、おもしろい表現です。
 2人の子供の背後には、やはり三角錐を載せた白い仔馬(木馬?)や自転車などが描かれ、見ていて飽きません。全体の色数を抑え、カラーとモノクロを同一画面で統合したようなつくりになっているのも、ユニークだと思います。
 同シリーズで「処理ゴッコ」「マイ・ホームゴッコ」を出品。

 B室にうつると、田崎謙一さん(江別)が「クローン球」(150F)と、「Clone Baby(群棲)」(変形 2273×1455)を出品しています。
 後者は、逆三角形のひじょうにめずらしい変形キャンバスです。
 田崎さんの作風は、基本的にこのグループ展がはじまったころから変わっていませんが、初めて見た人には強烈な印象を残すに違いありません。
 変形のかぎりをつくされた赤ん坊は、人間の未来への根源的な疑念を宿しているように、筆者には思えます。

 斉藤嗣火(つぐほ)さん(札幌)は、「標」(130F、同題2点)と「予感」(100S)、6Fの小品「森」を出品。
 「予感」と「標」の1点は、やや古典的なタッチながらひずんだかたちに描かれた女性像3人と、赤い目をしたフクロウが中空に浮かんでいるという絵柄。下方に地平線が伸びているため、彼女らは空中の風のうねりの中にいるように見えます。
 斉藤さんの絵も、つまるところ人間とは何か-という静かな問いを根底に潜ませているように筆者には感じられるのです。

 川本ヤスヒロさん(石狩)は「桂恋 1」(500変形)と「桂恋 2」(150変形)の2点。
 巨大なしゃれこうべは、ものすごい存在感です。「しゃれこうべ、ああ、ヴァニタスがテーマね」という表層的な理解をぶっ飛ばす重みに満ちています。
 今年の新しい傾向として、青い鳥が画面に飛んだり、しゃれこうべにとまっていることがあげられます。とりわけ、「桂恋1」では眼窩に1羽とまっていて、この頭骨が岩山のように見えてきます。
 青い鳥は幸福の暗喩かもしれません。となると、この絵は、ただ死を見るものに認識させるだけではない、複雑な構造を持っているのかもしれないのです。

 会場でくばっていたチラシには、つぎのように書いてあります。

 「3回位は続けようか」と話し合っていたのに、5回目を迎えることになりました。それは各自が作家として、この会に対する必要感が失せなかったからと思います。作家が集団を組む意味はお互いの視点の違いを作品からでなく、各々の人格から学び取ることにあると思っています。そうした私たちの姿勢を観ていただけたら幸いです。



07年7月16日(月)-21日(土)10:00-18:00(最終日-17:00)
札幌時計台ギャラリー(中央区北1西3 地図A

8月17日(金)-9月15日(土)10:00-18:00
アートホール東洲館(深川市1-9-19 深川駅前)
9月1日-15日、うなかがめーゆの美術館(同市9-17-44)でも同時開催(月・金曜開催)


第4回
第1回


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2 コメント

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文集もいただきました (パセリ)
2007-07-22 09:14:32
火曜日に見てきました。会場で、いかにも手作り風の
昔の小学校のガリ版文集みたいな『それぞれの記』と
いう小冊子もいただきました。(字はワープロです)
画家は絵の作品で表現し、作品で評価するのが正しい
のでしょうが、この文集も面白かったです。
その文集によれば、今年12月から来年の正月にかけ
て、‘グループ櫂’の皆様はヨーロッパ旅行に出掛けるのだそうです。来年の櫂展がいまから楽しみです。
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文集 (ねむいヤナイ@北海道美術ネット)
2007-07-23 00:05:29
もらえませんでした。
会場には、メンバーはどなたもいらっしゃいませんでした。
ちょっとさびしいことしの「櫂展」でした。
作品は良いんですけどね。
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