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■鹿毛正三 アトリエ“薔薇絵亭”より (2024年2月10日~3月24日、苫小牧)

2024年03月21日 09時48分32秒 | 展覧会の紹介-絵画、版画、イラスト
 1923年(大正14年)根室生まれ。ほどなくして苫小牧に移り、武蔵野美術学校に入ったものの兵役で中断。戦後、武蔵野美大に復学した後、苫小牧に戻って教壇に立つ傍ら、風景画を中心に描き、2002年に歿した画家の回顧展。
 全道展会友で、国展にも出していたが、40歳で団体公募展への出品を取りやめたこと、50歳前後に研修として欧洲に2度長期滞在したこと、57歳で早期退職し画業に専念したこと…。戦中の召集や、復員後に東京の廃墟を見て帰郷したことなども含め、この世代にはよくある経歴といえるかもしれません。

 展示されている絵はほとんどが穏やかな筆致の風景画です。
 会場では全体を
「北国の風景」
「ふるさとの風景」
「街景」
「アトリエの面影」
のセクションに分けて、油彩を中心に81点を並べています。
 回顧展は編年順に作品を展示して作風の変遷をみることが多く、モチーフ別で陳列するのは珍しいと思います。
 
 そして、この順だと、かなり初期の1952年に描かれた「街景(金沢)」=右側の絵です=と、同じ頃と推察される絵が、後半に来てしまうのです。

 この排列はいかがなものかと最初は思いましたが、よく見るとこの企画展には、1953~69年制作の絵がほとんどありません(60年の「ウトナイ湖」のみ)。会場の解説によれば、画家は非具象画も手がけていたのですが、自らすべて焼却してしまったそうなのです。
 50年代から60年代にかけて画壇にはアンフォルメル旋風が吹き荒れ、抽象絵画が全盛となりました。70年代以降、具象に回帰した画家も多かったそうです。

 こうしたこともあって、鹿毛正三の画業を一般的な編年順でとらえることをやめたのかもしれません。
 ほんとうのところは聞いていませんが。
 
 
 展覧会の会場には、作品だけではなく、生前使っていたイーゼルや、大きく引き延ばしたアトリエの写真なども展示してあります。
 画家についてあまり知らない人にも親しみを持ってもらえるような工夫だと思いました。

 イーゼルの右手にある扁額「画作三昧」は、太田義久から贈られたもの。
 門のところにある「苫小牧市美術博物館」という字を書いた書家です。
 

 筆者が好きな絵を挙げれば、冒頭画像の右側の「不詳」です。
 1985年の30号ぐらいの風景画です。
 蛇行して中洲が広くなっているのか、河口が近いのか、判然とはしませんが、原始のままに流れる川の下流を描いています。
 岸辺に点景のように描かれた人か車から、スケールの大きさが感じられます。
 中景の草原、遠景の低山の連なりからも、これがどこを描いたのかはわかりません。
 かえって、北海道に典型的な、アノニマスな風景をとらえた感じが伝わってきて、目が離せませんでした。

 もう1点、「赤い橋」(1987)も忘れがたい1点でした。
 日高管内の山間にこういう風景があるのだそうです。
 橋のたもと、2人がいて、どうやらバス停もあるようです。
 日高管内の内陸部は、沿岸部に比べると交通網がそれほど充実していないところが多いので、どこなのか調べればわかるかもしれないと思いました。

 こういう、地元で親しまれた美術家を、地元の美術館がきちんと調べて取り上げることは、重要なことだとあらためて感じました。

2023年12月9日(土)~2024年3月24日(日)午前9時半~午後5時、月曜休み(祝日は開館し翌火曜休み・年末年始休み
苫小牧市美術博物館(苫小牧市末広町3)

一般300(240)円、高大生200円(140)円、中学生以下無料=「THE SNOWFLAKES」とセットです



・中央バス「都市間高速バスとまこまい号」・道南バス「都市間高速バス ハスカップ号」で「出光カルチャーパーク」下車、約300メートル、徒歩4分

・JR苫小牧駅から約1.5キロ、徒歩20分


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