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■大原美術館展 II (2017年4月22日~6月11日、札幌)

2017年06月11日 15時55分00秒 | 展覧会の紹介-複数ジャンル
 まさか5年前とおなじような企画をふたたびやるとは思わなかった。

 しかし、新聞報道などによれば「入場3万人」は1カ月あまりで達成している。これは5年前とまったくといっていいほど同じペースであり、主催者からみれば、こんなに「堅い」事業はないわけで、やりたくなる気持ちもわかる。
 なので
「もっと美術館の企画力を生かした展覧会が見たいのに」
というような希望はとりあえず封印しておこう。

 今回は、作品リストを見れば一目瞭然だが、両大戦間の日本と欧洲の絵画がほとんどである(1点のみマイヨールの彫刻)。日本画は1点もなく、民芸の作家たちによる陶磁器・染色が14点ある。
 第1次世界大戦と第2次世界大戦の間は、わずか20年ほどだが、戦争の甚大な被害、世界初の共産主義革命、大恐慌、ファシズムの台頭など、激動の時代であった。美術の世界もはげしく揺れ動いていた。とくに日本の美術界は、西洋からフォーブや抽象などさまざまな潮流が一気に流入してきた。
 美術界といえど現実の政治や社会と無縁でありえないことは、今回のピカソのうち1点「フランコの夢と噓」がスペイン内戦で反ファシズム側の支援のために制作されたことからもわかるのだが、その方面についてはあまり解説がなされていなかった。国内外ともいろいろ不穏なこの時期こそ、両大戦間の歴史に学ぶことは多いはずなのだが…。

 激動期でもあり黄金期でもあるこの時代に焦点を絞ったことはいいのだが、5年前の「大原美術館展」でも見た作品が、マティス「エトルタ―海の断崖」をはじめ、ヴラマンク、シャガール、土田麦僊、児島善三郎、坂本繁二郎、川口軌外、里見勝蔵と8点もあるのはいかがなものか。



 個人的には、大原美術館の設立とコレクションの基礎作りにあたって大きな役割を果たした画家・児島虎次郎が10点特陳されていて、こんなにいい画家だったんだと知ることができたのは、大きな収穫だったと思う。
 初期には明暗を強調した泥臭いリアリズムの「里の水車」から、フランスのまばゆい陽光がきらめく印象派ふうの「岸の森」など。とくに、花のアーチと和装の女性を組み合わせた3連作「朝顔」は、見ているだけで幸福になってきそうな、明るい色の乱舞する大作だ。



 キリコ「ヘクトールとアンドロマケーの別れ」は、さすが代表作のできばえ(この画家は、出来不出来の差が意外と大きいと思う)。
 代表作といえば、小出楢重「Nの家族」はまさに代表作で、重要文化財。この画家については以前書いた(岩阪恵子「画家小出楢重の肖像」小出楢重随筆集)ので、ここでは繰り返さないが、粘っこいタッチは、日本人の洋画を考え続けたこの画家らしい。そして、影の部分の緑の使い方などが実に巧み。

 前田寛治「二人の労働者」も代表作。
 画面上部に記されたローマ字の字釈は、会場のパネルにはあるのに、図録には載っていない。
<労働階級は自覚す 生存を不合理なる社会に強いられつつあることを>
と書いてあるらしい。

 また、デュシャンの「L.H.O.O.Q」もある。
 題をどう読むかについては、会場や図録にはなんの説明もない(笑)。

 このほか、デュフィ、ドラン(「イタリアの女」は冒頭の画像)、藤田嗣治、ミロ、スーティン、佐伯祐三、カンディンスキー、クレー、梅原龍三郎、岸田劉生の絵画、富本憲吉やバーナード・リーチ、河合寛次郎、濱田庄司の陶芸もあるから、まあ確かに、北海道ではめったに見られない豪華な顔ぶれなのは間違いない。

 会場の最後にあるのは、棟方志功「二菩薩釈迦十大弟子」。
 この棟方の代表作が、いま札幌に二そろいあるというのは、おもしろい偶然である。
 三岸好太郎美術館の展示作が屏風なのに対し、こちらは1点ずつ額装してある。
 図録によれば、二菩薩の版木は戦災で焼失し戦後に彫りなおしているが、大原美術館の所蔵品は、戦前の元の版木から刷ったものという。
 さすがに、三岸との違いは、会場ではわからなかった。



2017年4月22日(土)~6月11日(月)午前9時30分~午後5時(入場30分前まで)、月休み
道立近代美術館(札幌市中央区北1西17)

□公式サイト http://event.hokkaido-np.co.jp/ohara/#

大原美術館展 (2012)


一般1300円、高大生700円、中学生500円、小学生以下無料
所蔵品展との共通チケットなどあり





・中央バス、ジェイアール北海道バス「道立近代美術館前」で降車すぐ
(小樽、手稲方面行きは、都市間高速バスを含め全便が停車します)
・地下鉄東西線「西18丁目」4番出口から400メートル、徒歩6分

・市電「西15丁目」から700メートル、徒歩10分


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