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■大原美術館展 (2012年7月8日まで、札幌)

2012年06月30日 22時40分20秒 | 展覧会の紹介-複数ジャンル
 いまでこそ美術館はすべての都道府県にあり、めずらしい存在ではなくなっているが、戦後しばらくは、国内にも数えるほどしかなかった。神奈川県立やブリヂストンなどと並び、本格的な美術館として長い歴史を刻んできた大原美術館は、特別な存在といえる。倉敷の観光コースにも組み込まれており、これは本当かどうかはウラはとっていないのだが、関係者の間ではよく「入場料収入だけで運営が成り立っている日本で唯一の美術館」といわれたものだ。
 さすがに、エル・グレコは「門外不出」とされているそうで、今回は来ていないが、そもそも日本の私立美術館が、印象派以前の巨匠の作品を何点も所蔵していること自体、すばらしいことであり、「よくぞ買っておいてくれました」としか言いようがない。今なら高騰していて絶対に買えないだろう(というか、市場にあまり出ない)。

 で、今回の北海道展については、テレビコマーシャルなどでは、ルノワールやモネ、モディリアニといった画家が大きくとりあげられていたので、海外の作家が見どころなのだろうかと、漠然と予想していた。
 実際に行ってみると、これはあくまで個人的な感想なのだが、国内の画家の方が、圧倒的におもしろかった。

 ひとことでいうと、19世紀の西洋から、ほんとに近年の現代美術まで、コレクションの幅広さを見せつけた展示であった。

 日本のものが面白く感じられた理由として、日本の近代美術史が書かれた時点で、先に挙げた神奈川県立や国立の美術館とならんで大原美術館が所蔵する作品が「名作」として認知されており、それらに沿って美術史のアウトラインが書かれてきたということがあるのではないか。勝手な推測だけど。
 本などで見た記憶がある作品がけっこうあるのだ。
(というか、日本の美術家で、知らない人はひとりもいなかった)

 海外の作家に話を戻すと、ほかにロダン、ユトリロ、スゴンザック、ヴラマンク、シャガール、ブラックなどがあったが、1920~30年代の無名画家のものもかなり並んでいた。
 こういうのを見ると、評価の定まらない同時代の美術品を買うことのリスクを、あらためて考える。もちろん、高評価が定まったときには、値段はすでに高止まりしているわけで、無名のうちに買うのがコレクションのおもしろさの一つなんだろうか(お金持ちじゃないから、そのへんの心理はわからない)。

 戦後のものでは、フォートリエやロスコはやはり一見の価値あり。
 ウォーホル、リキテンスタインもある。
 ラウシェンバーグは、帯広美術館の所蔵品のほうが断然おもしろい。

 日本の画家について、ランダムに。
 萬鉄五郎は自画像。この早すぎた画家の悲運を自ら予言しているような哀感と、画面構築への意思が両立している。

 岸田劉生。ヘンな言い方だけど、三岸好太郎が初期、いかにこの人に影響を受けていたかがよくわかった。これにそっくりな絵があるのだ。また、「リアリティー」を追い求めながらも、描いているのが湯飲み茶碗だったりするわけで、安直に西洋画の真似はしないぞという画家の思いが感じられる。

 関根正二「信仰の悲しみ」。19歳のときの作。これを描いた翌年、画家は亡くなってしまう。「薄命の悲しみ」とか「夭折の悲しみ」とも言いたくなるような作品。重要文化財。

 あと、白髪一雄、吉原治郎、草間彌生あたりも、北海道にいたらなかなか見る機会なんてないんだから、見てほしい。戦後前衛美術の熱気がびしばし伝わってくる。
 国吉康雄も良い。戦争直後の、脱力した日本人の心理に迫っている。

 こうして振り返ってみると、西洋に追いつけとばかりに必死だった画家の心もちがこちらに伝わってくる分、共感できるのかもしれないと思う。

 新しい現代美術が並んだ最後の部屋で、安井曾太郎と、福田美蘭が安井曾太郎の画風をわざとまねして描いた絵が並んでいるのには、笑ってしまった。福田美蘭、むだに?才能ありすぎ。
 小谷元彦の映像は、札幌芸術の森美術館で何年か前に見たばかり。
 ジュン・グエン=ハツシバの映像は、2001年の横浜トリエンナーレで話題になったもの。なつかしかったし、あらためて、ベトナムの近代を問いかけるすぐれた作品だと思った。


2012年5月19日(土)~7月8日(日)9:30~5:00(入場~4:30)、月曜休み
道立近代美術館(札幌市中央区北1西17)
一般1200円など


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