酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

神田香織一門会&「T2」~意志の力とカタルシスに浸る日々

2017-04-30 23:14:54 | カルチャー
 「ロッキング・オン」HPによれば、レディオヘッドのイスラエル公演が波紋を呼んでいる。「アーティスツ・フォー・パレスチナ UK」は、イスラエルによるガザ無差別空爆などの〝ジェノサイド〟に抗議している。当地における文化活動ボイコットを訴える団体に賛同し、サーストン・ムーア、ロジャー・ウオーターズ、作家、俳優ら40人以上が公開書簡で公演中止を要請している。

 レディオヘッドが支持を公言するアムネスティが、<パレスチナに対するイスラエルの人権侵害>を告発し続けている以上、「分断や差別、憎悪をけしかける政治に立ち向かうため、一歩踏み出してほしい」というメッセージは届くだろう。<良心に基づき抵抗する側に寄り添う>という姿勢は、ロックファンの共感を確実に呼ぶからである。

 抵抗が胚胎したポピュラーミュージック(ブルース、ジャズ、ロック、フォーク)はメッセージ性と不可分だが、日本では、旗幟を鮮明にする表現者を嗤い、政治と音楽は別と考える風潮がある。反原発など政治を語るバンドが叩かれるのは、<黙ってお上(組織)に従え>という集団化の反映と捉えていいだろう。

 第11回オルタナミーティング「神田香織一門~平成世直し講談会」(27日、高円寺グレイン)に足を運んだ。サブタイトルの「3・11年から6年 福島を忘れない」が示すように、神田香織は反原発を伝え続け、ソールドアウト連発の人気を博している。
 
 当日は高橋織丸「人を喰う魚! 豊洲移転騒動の巻」でスタートした。築地市場で十数年、働いた経験のある高橋は、旧知の業者を取材し、豊洲移転にまつわる動きを20年近いスパンで調べ上げて、台本を構成した。社会性を追求する師匠の薫陶と年輪を感じさせる演目に感銘を覚えた。

 古典の「三方ヶ原戦記」を演じた神田伊織は入門2年の前座である。台本なしで落語家よろしく客席を目で追い、反応を観察して当意即妙のアドリブを入れる。「凄いな」と感じたが、講談のイロハを知らないから評価を保留していたが、神田香織の冒頭の言葉に納得する。「伊織は10以上の古典を諳んじている。弟子を褒めるのは気が引けるが、50年、いや、100年にひとりの逸材かも」と絶賛していた。青年の前途は洋々のようである。

 スベトラーナ・アレクシエービッチ(ノーベル賞作家)の「チェルノブイリの祈り」を十八番にする神田香織は、「フクシマの祈り」同様、原発事故の自己避難者をテーマにした「ルポ母子避難~消されてゆく原発事故被害者」(原作=吉田千亜)を演じた。政府の冷酷な対応への抗議を織り交ぜながら、子供の体内被曝を案じる家族の思いを熱く訴える。神田香織の意志の力に心を揺さぶられた.

 講談の前日、新宿ピカデリーで「T2トレインスポッティング」(17年)を見た。21年ぶりの続編で、這い上がれない男たちの現在を描いている。公開直後なので、ストーリーの紹介は最低現にとどめたい。

 ダニー・ボイル監督は「28日後……」(2002年)、アカデミー賞で8個のオスカーを得た「スラムドック$ミリオネア」(08年)、「127時間」(10年)と傑作を次々に発表し、鬼才から巨匠にジャンプアップする。この間、ロンドン五輪(12年)開会式で芸術監督を務めている。

 いかにもインディーズといった前作と主な登場人物は変わらない。裏稼業(売春やゆすり)で生計を立てているパブ経営者シック・ボーイ(ジョニー・リー・ミラー)、ジャンキーのままのスパッド(ユエン・ブレムナー)、殺人罪で服役中のベグビー(ロバート・カーライル)……。トリオがくすぶるエディンジバラに、マトモになったマークがオランダから帰ってくる。

 前作を見た頃の俺は〝現役ロックファン〟で、サウンドトラックの曲名とアーティストを即座に言い当てられた。だが、新譜を買う機会が減った今、「T2」ではクラッシュ、ブロンディー、フランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッド以外、馴染みのない曲ばかりだった。還暦になって感性は摩耗しているものの、根本的には進化も深化もない。本作を見ながら、「こいつら(登場人物)も俺も何も変わらないな」と笑ってしまった。

 <大人になる>ことを奨励する風潮がこの国にある。若い頃は不良だったり、政治活動に没頭していたりしても、次第に飼い慣らされて枠組みに収まることが、日本では美徳とされる。俺が大学卒業後、フリーターになったのも、今思えば「馴致されてたまるか」という意地が、心の片隅にあったのかもしれない。不発弾のまま時を過ごした俺と比べ、「T2」の登場人物は禍々しさと毒をブレンドし、自爆に向けて疾走する。〝青春の曠野〟に閉じ込められている者にとって、「T2」はカタルシスとノスタルジーが滲み出る玉手箱だ。
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