OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

エルビンのコルトレーン継承盃

2009-02-20 11:21:53 | Jazz

Puttin' It Together / Elvin Jones (Blue Note)

心機一転とか、人生の転機とか、とにかく何かのきっかけが大切なのは、この世の常です。

で、このアルバムは稀代の剛腕ドラマーとしてジャズ史に名を刻するエルビン・ジョーンズが、ジョン・コルトレーンのバンドを辞して後のレコーディングですが、それは明らかにジョン・コルトレーンの1965年あたりまでの音楽性を引き継いだものです。

ちなみにエルビン・ジョーンズはジョン・コルトレーンとの音楽的、そして人間的な確執から1965年いっぱいでレギュラーから抜けていますが、その後、いくらも経たないうちにジョン・コルトレーンが天国へ召されたことが、このバンドでのレコーディングに何らかのきっかけを与えたという推察は容易だと思います。

録音は1968年4月8日、メンバーはエルビン・ジョーンズ(ds) にジミー・ギャリソン(b) の鬼より怖い2人組に加え、当時の新鋭として注目株のジョー・ファレル(ts,ss,fl,piccolo) という、爆発的なトリオです。

A-1 Reza
 誰もが一度は耳にしたと思われる有名なボサノバ曲を、このトリオは汗ダラダラの熱風暴虐の演奏にしています。エルビン・ジョーンズの激烈ポリリズムと勝手気ままに徘徊するようなジミー・ギャリソンのペースを尻目に、曲想を一から作り直すようなジョー・ファレルのテナーサックスというトリオが束になって襲いかかってきますよ。
 もちろんこれは、所謂黄金のカルテットと呼ばれたジョン・コルトレーンの1965年頃までの音楽性を規範にしていますから、ジョー・ファレルのテナーサックスがいくら頑張っても、ジョン・コルトレーンのような肉体的&精神性の極限までいってしまうところには及びません。ドラムスとベースが全く同じというところからして、それは物足りなさへ繋がるのが正直な気持ちです。
 しかしジョー・ファレルには、明らかに新感覚というか、ロック系のスマートなスピード感あって、演奏全体を重さから救う、ある種のしなやかさが私は好きです。

A-2 Sweet Little Maia
 ジミー・ギャリソンが書いた、飄々として粘っこい隠れ名曲です。
 作者自身の強靭なペースワークが全篇をリードしているのは当然ながら、ヘヴィなエルビン・ジョーンズのブラシと空間を自在に浮遊するジョー・ファレルのソプラノサックスが不思議な魅力を作り上げていますから、妙に麻薬的な効力がありますねぇ~。
 このあたりの感覚は、当時流行のサイケロックあたりと共通の味わいかもしれませんし、そういうリアルタイムのロックファンにはジョン・コルトレーンの演奏も御用達だった事実が、無関係とは思えません。
 クライマックスで聞かれるジミー・ギャリソンのペースソロには、これが終わるとジョン・コルトレーンが降臨されるような錯覚が、実にたまりません。

A-3 Keiko's Birthday March
 エルビン・ジョーンズが当時新婚のケイコ夫人に捧げた痛快曲♪♪~♪
 しかしこれは、ドナルド・バードやペッパー・アダムスが「The Long Two Four」として既に発表していた曲ですし、エルビン・ジョーンズもそこに加担していた「10 To 4 At The 5 Spot (Riverside)」収録のバージョンが最初にある以上、何かと憶測には楽しいものがあります。
 ここではエルビン・ジョーンズの豪快なマーチングドラムソロに始まり、アップテンポでブッ飛ばしてスカッとする演奏になっています。ジョー・ファレルがピッコロで鋭く迫れば、ジミー・ギャリソンの揺るがぬウォーキングベースが逆に目立つという、実に上手いバランスも良いですねぇ~♪
 そしてクライマックスにはエルビン・ジョーンズの大車輪ドラムソロが必然として登場! ヘヴィなビートと絶妙のタイム感覚、そして思わせぶりと爆発のタイミングが絶対的に熱い名演になっています。

B-1 Village Greene
 このアルバムでは、最もジョン・コルトレーンのイメージに近い演奏で、ジョー・ファレルもテナーサックスで重厚に、そしてウネウネクネクネと熱演! もちろんエルビン・ジョーンズのドラムスも当然の如く暴れていますし、ジミー・ギャリソンに至っては、完全にモロな世界を再現しているのが、全く嬉しいところ♪♪~♪
 今となっては、ある種の安心感が良い意味でのマンネリとして、ここに聞かれるのでした。 

B-2 Jay-Ree
 ジョー・ファレルの書いたスピード感満点のモード曲で、ポリリズムが炸裂するエルビン・ジョーンズのドラミングが絶対的な4ビートを敲いているとはいえ、秘められたロック感覚がジョー・ファレルのテナーサックスから迸っていると感じます。
 こういう疾走のフィーリングって、マイケル・ブレッカーあたりにも確実に引き継がれたのかもしれませんね。この頃のジョー・ファレルを聴くと、私はいつもそう思います。

B-3 For Heaven's Sake
 熱い演奏が続いたこのアルバムの中で、ようやく登場という唯一のスタンダード曲に和みます。
 ジョー・ファレルのフルートは優しく幻想的であり、ジミー・ギャリソンのアルコ弾きと協調する導入部から2人のインタープレイによるテーマメロディのフェイクまで、なかなかの高密度♪♪~♪ エルビン・ジョーンズのブラシによる控えめなサポートも好ましく、ちょっとヤミツキになるかもしれません。

B-4 Ginger Bread Boy
 オーラスはジミー・ヒースの代表作にして、多くのミュージシャンが演目にしている有名モダンジャズ曲ですから、ここでそのカッコ良いテーマを大馬力でやってくれたのは快挙です。
 そして何といっても、ズンドゴでドカドカ煩いエルビン・ジョーンズの暴虐のドラムソロをイントロにしたヘッドアレンジがシンプルで結果オーライ! その後の3者によるインタープレイ的なアドリブパートの予告篇となって、実に絶妙なのです。
 それは4ビートの快楽地獄でもあり、モード天国への階段でもありますから、大音量で聴かないと、ちょいと損した気分になるかもしれません。

ということで、これはジャズ喫茶の人気盤でもあり、これを聴いているとジョン・コルトレーンの黄金のカルテットが愛おしくなる、二律背反の名盤だと私は思います。

その意味で、ジョン・コルトレーンが神様だった時期の我が国ジャズ喫茶を体感したファンには、ジョー・ファレルが可愛そうな扱いになってしまうのですが、今にして思えば、リアルタイムで、これだけコルトレーンのスタイルを現代的な感覚で表現出来たサックス奏者は稀だったと思います。

未だデイヴ・リーブマンも、スティーヴ・グロスマンも、そして当然ながらマイケル・ブレッカーも第一線で注目される前だったのですから!

う~ん、後が続きません……。

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