OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

モンクとマリガンの奇蹟

2009-02-22 11:00:36 | Jazz

Mulligan Meets Monk / Thelonious Monk & Jerry Mulligan (Riverside)

安易に信じたくはありませんが、やっぱり奇蹟はあると思います。

例えば本日の1枚は、セロニアス・モンクとジェリー・マリガンという、普通はミスマッチとしか思えない2人が真っ向勝負で名演を繰り広げてしまった、まさに奇蹟の傑作盤!

まず、こんな「水と油」のアルバムがあること自体、私は信じられませんでした。なにしろセロニアス・モンクは強烈な不協和音なんて日常茶飯事の確信犯であり、一方、ジェリー・マリガンはスマートな歌心優先主義者にして、豪快なアドリブも得意な作編曲家という理論と実践の名手ですからねぇ~。

しかし一聴して、これはやっぱり凄いセッションだったと感動で震えるアルバムでした。

録音は1957年8月12&13日、メンバーはジェリー・マリガン(bs)、セロニアス・モンク(p)、ウィルバー・ウェア(b)、シャドウ・ウィルソン(ds) というガチンコのカルテットです。

A-1 Round Midnight
 セロニアス・モンク作曲によるモダンジャズ史上最も有名なオリジナル曲でしょう。マイルス・デイビスの決定的な名演を筆頭に、これまで多くの傑作バージョンが残されていますが、ここに聞かれる煮え切らない緊張と緩和が、極めてモダンジャズの真髄だと感銘させられてしまうのは、私だけでしょうか……?
 セロニアス・モンクは何時もと同じ唯我独尊のコードワークを使っているはずなんですが、ジェリー・マリガンは我関せずに十八番のフレーズばっかりで、実にしなやかなアドリブを繰り広げているのですから、吃驚仰天です。
 全体のグルーヴが、何時に無く弾んでいる感じもセロニアス・モンクのバンドにしては珍しく、また逆にジェリー・マリガンの不惑の姿勢が潔いと思います。
 そして後半に至っては、なんとか自分のペースを取り戻そうと力んでしまうようなセロニアス・モンクが憎めません。そんな「らしくない」姿の巨匠も良いですね♪♪~♪

A-2 Rhythm-A-Ning
 これもセロニアス・モンクの代表曲にして熱い演奏が何時ものパターンですが、ここでは曲の一部が改作され、尚更に激烈な対決姿勢が鮮明な仕上がりです。とにかく初っ端からノリノリのバンドの勢いが怖いほど!
 そしてジェリー・マリガンのバリトンサックスが豪快無比に咆哮するアドリブパートでは、途中からセロニアス・モンクが休んでしまうという「お約束」を実行し、その直後からのアドリブ再開ではツッコミ鋭い展開に持っていく十八番を演じています。
 しかしここでもジェリー・マリガンが全体を引っ張っている結果は明らかじゃないでしょうか? う~ん、マリガン恐るべし!
 シャドウ・ウィルソンのドラミングも熱いですね。

A-3 Sweet And Lovely
 モンク&マリガン、両者にとっても得意の演目だけに、ここでは対決と協調がさらに明白な結果を生んでいます。セロニアス・モンクがリードしてフェイクするテーマからアドリブへ、極上のハーモニーとカウンターのメロディを付けていくジェリー・マリガンが、実に良いですねぇ~~♪
 それゆえにセロニアス・モンクもテンションの高い心情吐露が素晴らしく、リラックスしてマイペースのジェリー・マリガンとの対比も鮮やかな名演だと思います。

B-1 Decidedly
 ジェリー・マリガンが提供した躍動的なオリジナル曲で、全くのマイペースで自在に吹きまくる作者に対し、ちょっと焦り気味のセロニアス・モンクが珍しくも微笑ましい演奏だと思います。
 特にジェリー・マリガンはアドリブパートの中盤から得意のストップタイムを使いながら、緩急自在の素晴らしさを披露しますから、たまりません。あぁ、このドライヴ感と歌心の見事な融合♪♪~♪
 しかしセロニアス・モンクの依怙地のアドリブも強烈! 負けん気でワザと音を切り詰めているような感じが結果オーライでしょうか。そのユニークな存在感は、やっぱり良いですねぇ~♪
 とはいえ、これも完全にジェリー・マリガンに牛耳られた演奏かもしれません。当時はセロニアス・モンクのバンドレギュラーだったと思われるドラムスとベースの2人も、マリガン派へと寝返った感じです。

B-2 Straght, No Chaser
 これまたセロニアス・モンクの有名オリジナルというブルースですが、ここでは、例えばマイルス・デイビスが演じているようなヤクザな雰囲気は無く、むしろ飄々としたジェリー・マリガンの解釈に作者が苦笑いしているような展開になっています。
 う~ん、これには賛否両論というか、少なくともサイケおやじには完全な肩透かしで、もっとブリブリに熱い演奏を期待していたのですが……。
 ただし、こういうムードを容認してしまったセロニアス・モンクがそこに居る以上、おそらくは侮れないものがあるんでしょうねぇ。これはド素人の私には理解不能というか、実際、演奏が進むにつれて淡々とした雰囲気が好ましくなってくるんですから、う~ん……。
 ただしハードエッジなドラムスとベースのグルーヴには、間違いなく黒人ジャズの凄味がありますし、セロニアス・モンクにしても安易な妥協では無いと思います。いや、そう思いだいですね。

B-3 I Mean You
 これもセロニアス・モンクのオリジナル曲で、結論から言えば、アルバムのフィナーレに相応しい快演になっています。特に作者自身がようやくというか、自分のペースを取り戻したかのような「らしい」アドリブを披露すれば、付かず離れずの姿勢が潔いジェリー・マリガンも素晴らしいかぎり!
 余計な手出しをしないドラムスとベースの伴奏も流石だと思いますが、ウィルバー・ウェイは与えらたれアドリブパートで少しだけの我儘を演じるのもまた、好ましいところでしょう。
 ラストテーマへのアンサンブルが、これまたクールで熱い!

ということで、アルバムを通して聴くと、意外にもジェリー・マリガンがペースを握ってしまった感も強いのですが、実は後年、このセッションの未発表テイクが公表され、実際に聴いて目からウロコ! そこにはセロニアス・モンク以下、リズム隊の暴虐までもが記録されていたのです。まあ、それゆえに纏まりの悪さや未完成な部分も否定出来ませんから、結果的にオリジナル仕様がベストになったのでしょう。

そしてセロニアス・モンクの協調性の見事さとか、ジェリー・マリガンの頑固さが表出した、全く意表を突かれたような仕上がりに! つまりプロデュースの上手い目論見が成功したのです。

しかしこれは、やっぱり奇蹟でしょう。

一般的には頑固で怖いセロニアス・モンクと融通のきくジェリー・マリガンというイメージが覆された仕上がりとはいえ、単にプロデュースだけでそれが達成されたとするには、あまりにもここでの演奏は濃密です。

他流試合が得意のジェリー・マリガンはもちろん、セロニアス・モンクにしても勝ち負けよりは良い試合が出来たという達成感があったんじゃないでしょうか。

今回も独断と偏見のサイケおやじですが、これも聴かずに死ねるかの1枚だと思います。

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