おはようございます。
今日は水の話です。
上級者向けなので小難しい話です。
ブラジルヘビクビガメは水換えが嫌いです。
伝聞ですがブラジルヘビクビガメのペアを5年以上飼育されている方が日本にいるそうです。
その方は1,500×600の水槽で水深20㎝で長期飼育しています。
なんと水換えを一度もせずに足し水だけで飼育しているそうです。
水温はやはり22度上限だと聞きました。
ブラジルヘビクビは綺麗で古い水を好みます。
この水、水槽で再現するのは不可能です。
水は生体が暮らす限り必ず汚れるからです。
古くて綺麗な水をどう作るか?
巨大な水槽で濾過装置を設置しなければ古くて綺麗な水は作れます。
現実的にはドライタワーの曝気でアンモニアを気化させ硝酸塩を極小化させます。
そして硝酸塩を脱窒還元し窒素として気化させるのです。
あるいは大型水槽をオーバーフロー化し、ろ材を抜いて水を回して水量を稼ぐやり方です。
いずれにせよ濾過しない事がポイントです。
とまぁ、小難しいのでお見せします。
ブラジルヘビクビの飼育水で1ヶ月を経た飼育水の硝酸塩濃度です。
Red Sea社のかなり精度の高い試薬で検査しています。
50ppmを超えています。
因みにTDS値は96ppmですから飼育水の不純物の約半分が硝酸塩というわけです。
水道水のTDS値は120ppmですから不純物の含有量はこれでも飼育水の方が少なく、いわば綺麗な水なのです。
本当に綺麗な水はこの硝酸塩すら無い水です。
自然界では硝酸塩は澱んだ止水域で脱窒還元されなくなります。
濾過をすれば必ず硝酸塩が蓄積します。
水槽内では水換えにより硝酸塩を排出します。
ほぼ全換水後の硝酸塩です。
これで漸く20ppm以下です。
フィルター内部の水が残るため、0にはなりません。
TDS値は85ppmです。
これでも相当綺麗な水ですが、渓流やサンゴ礁といったいわゆる綺麗な水は硝酸塩はほぼ0です。
アジアアロワナやサンゴはこの硝酸塩が0の水に棲息しています。
アロワナ界はオーバーフローの大型濾過槽と換水、サンゴ界はプロテインスキマーによるアンモニア除去で対応しています。
前者は蓄積した硝酸塩を捨てる、後者は極力硝酸塩を発生させないアプローチです。
https://tropica.jp/2018/04/12/post-14492/
個人的にはブラジルヘビクビに最適なのはベルリン式のオーバーフローシステムだと考えていますが残念ながら淡水では泡が大きくてプロテインスキマーが使えません。
https://tropica.jp/2018/04/18/post-14199/
私もh&s社(ドイツ)の信者です。
かつて使用し、その性能に感嘆しました。
高価ながら最強のプロテインスキマーだと思います。
余談ながらドイツのマニアは飼育機材面でも我々日本人よりも一段上だと思います。
メタハラも実はライトは殆どドイツ製ですからね。
ナノバブルの淡水用プロテインスキマーが実用化されれば古くて綺麗な水を簡単に維持できるようになると思います。
脱窒還元が不可能なわけではありません。
昔からサンゴ界では研究されてきました。
海水に限れば上級者向けとはいえ、かなり実用化されています。
https://www.suisui52.co.jp/contents/category/denitrification/
私も昔、野辺商会のデニボールを使用していましたがはっきり言って上級者向けです。
誤使用すれば硫化水素が発生し、水槽全体が即死します。
水が読め、かつ濾過の仕組みをしっかりと理解していないと危険な濾過方式です。
なので面倒ですが安全な水換え方式が普及したのだと思います。
ナガクビ・ヘビクビ属は皮膚呼吸と直腸でのガス交換による溶存酸素の取込み量が約30%と言われており、特にブラジルヘビクビとコウホソナガクビは局所分布から分かる通り特殊な水質を維持できる事が長期飼育の条件でしょう。
おそらくマルナガクビも同様だと思います。
これらの種は水換えを抑え、かつ硝酸塩をいかに除去するかが飼育のポイントだと思います。
こうした特殊な水質を好む種は水道水換水はむしろ虐待でしかなくブラジルヘビクビなどはショック死すらします。
コウホソやギザミネのシェルロッドはこの水道水換水が原因だと私は推測しています。
我が家のブラジルはシェルロッドは一切ありません。
そもそも長期飼育例がないので分かりませんが、水質が合えばシェルロッドには罹患しないと思います。
なので合う水質は作ることが出来ました。
あとはいかに硝酸塩を除去するかです。
残念ながら淡水用の脱窒還元ろ材はありませんが、吸着剤はあります。
割と海水魚やサンゴ界では有名なシーケム社です。
https://www.seachem.com/about.php
というわけで9月15日からブラジルヘビクビのケージにシーケム社の硝酸塩吸着ろ材を投入しましたので次回の計測値をお待ち下さい。
マニアの使用レポートでは硝酸塩がほぼ0になったとあるので期待しています。
エンドレスになるので今回はここまでとしますが実は濾過能力と水質を決める要因は更に溶存酸素量と水流があります。
これはまた別の機会に譲りますが、濾過装置を大型化すれば水が綺麗になると思うのは思い過しです。
いかにアンモニア、亜硝酸、硝酸塩を水槽内に存在させないかが水質管理の王道です。
ですから飼育個体の総重量からアンモニア排出量を推測し、逆算から飼育水量と濾過方式を考えるのです。
機材メーカーさんのカタログデータは一面で正しく、他面では?な機材が大半です。
我々飼育者は誤情報に振り回されることなく、正しいプロセスによりゴールに至ることが必要です。
そのためには基礎基本の知識を取得することがカメのためだと私は考えています。
繁殖はここまで突き詰めなくても80%以上の種は可能でしょう。
私が「飼育」と「繁殖」は似て非なるもの、というのはこれなのです。
ですから繁殖がゴール、という考え方は昔から持っておりません。
飼育を突き詰めた結果が繁殖であれば巷間これほど多くのカメのCBが量産されるはずがありません。
温帯種などは屋外での半ば放置飼育の方がCB個体数は増えるでしょう。
ブラジルヘビクビとコウホソ、この長期飼育自体が困難な種は「飼育」と「繁殖」は同じなのかも知れません。
オオアタマヘビクビ、ブチハラヘビクビ、トゲモモヘビクビ、クロハラヘビクビ、ブラジルヘビクビ、コウホソナガクビを細々と繁殖させてきたEUマニアはやはり極めた飼育者だと言わざるを得ません。
「飼育」と「繁殖」を峻別すること、更にその峻別にモラルを勘案すること、外来種問題が社会問題化する昨今、我々飼育者がいま一度自戒すべき考え方だと私は思うのです。