よのなか研究所

多価値共存世界を考える

悪い独裁者は消えゆくか、

2011-08-24 23:34:27 | メディア

                                 photo (イタリア、ミラノ中央駅) 

「独裁者」の定義は難しい。

なにしろ「悪い独裁者」と「よい独裁者」とがいるのです。両者はどう違うのか。

 

リビアの政変で三十年に亘って独裁を敷いてきたカダフィ大佐が失脚した、とテレビが伝えています。なんでも、チュニジア、エジプトに続く民衆運動の勝利であり、さらにシリアなど周辺の独裁政権に波及する可能性があるとのことです。欧米先進諸国にとってはいいニュースのようで、アナウンサーの声も上ずりがちです。こういう場合はたいてい、日本は欧米諸国の判断に同調します。というより、判断できない、といった方が正確かも知れません。ともかく、カダフィはキム・ジョンイル(金正日)と並ぶ現代の「悪い独裁者」の代表格なのです。

 

では、「良い独裁者」とはどんな独裁者でしょうか。

たとえば、サウジの王家です。シンガポールの人民行動党首です。ムバラクも一年前までは良い独裁者でした。

サウジアラビアとはサウド家のアラビアという意味です。国の政治を独裁し、経済を牛耳っているサウド家が少しでも傾くことがあれば、アメリカは直ちに介入することになります。そのためにサウジアラビアに米軍が駐留しています。国防のためのみならず、国内政治と経済を監視している状態は日本の場合と同じです。米国の国債を保有し、米ドルで貿易決済をしていることも同様です。

 

筆者がサウジアラビアに滞在したのは数日にすぎませんが、社会構造を把握するには十分でした。外国人を条件付き期限付きで導入して肉体労働に従事させ、自国民はオフィスでの軽い仕事に従事し、所得税もありません。生活が保障されているからに民衆に不満などはない、と考えられています。外国人労働者は集団生活を強いられています。外国からの企業駐在員や富裕層は「コンパウンドCompound」と呼ばれる塀に囲まれた特別居住区に外界とは遮断された生活環境に暮らしていました。

そんな理想社会に対し反発する国民がいるとすればそれは異分子であり、警察機構が厳しく見張っています。現実には政党もなく、選挙もありません。

 

シンガポールは「アジアの優等生」と言われてきました。1970年代には「開発独裁」ということばもありました。すなわち、経済発展をもたらすのであれば、政治家は独裁者であっても良い、という考えだったのです。そこには、ジャーナリズムをささえる報道機関の果たした役割がありました。確かに、人びとの所得水準はアジアで日本と並び飛びぬけて高い水準にあります。高層ビルが立ち並び、道路にも公園にもごみひとつ落ちていません。

この国は人民行動党の事実上の一党独裁です。労働党などの野党の存在は認められていますが、言論は制限され、投獄や国外追放などが実際に行われているのです。それでもこの国を「独裁国家」と批判めいた形容をする欧米先進諸国は見当たりません。それは、ひとえに欧米諸国に危険をもたらす可能性が低い、という理由によります。つまり、欧米諸国(特にアメリカ)の不興を買わない限り、独裁政権も安泰というわけです。

かつて韓国も台湾も急激な経済発展を遂げた背景は「開発独裁」があった、といわれてきました。よくよく考えれば、1960年代からのわが国の経済成長も、自民党単独長期政権という「開発独裁」だったという見解も成り立ちます。現にそのような論陣を張っている人もいます。

つまり、民衆は社会が安定し、所得が増えて生活が豊かになるならば政治体制や政治家個人はどうでも良い、ということかも知れません。悪いのは、民衆の生活を改善させることができず、国民の目をそらすために外国に侵攻をこころみる独裁者であり、特に先進諸国に喧嘩を売る独裁者です。そうでない限り、独裁者、独裁体制は容認されるという訳です。

 

むかしの独裁者、権力者たちは、壮大な建築物が好きでした。自分の名と関連付けたゴシックの壮大な寺院や、宗派の大伽藍、大議事堂、大会堂、首相官邸、大統領官邸、などを作ってきました。

イタリアのミラノ鉄道駅の壮麗さは建築学的にも評価されており、ライトが「世界で最も美しい鉄道駅」と評しているようです。この建物は1912年の建築コンペで優勝したスタッキーニのデザインで、1926年に建築が始まっています。これに口を挟んで、古代ローマ様式の壮大な空間を取り込んだのは、かのベニート・ムッソリーニでした。その姿の力強さ、内部のアーチの幅と高さ、壁面や列柱の浮き彫りには量感があふれています。独裁者が建築や芸術に関心を持っている時代はまだしも国民には害が少なかった、のかも知れません。少なくとも、後世にメッセージを残しています。イタリアで彼を懐かしむ人が多いことには驚かされました。

昨今、つぎつぎと退場していく独裁者たちを見ていると、単に「権力欲」、「金銭欲」に囚われていた人物との感を持たざるをえません。それは民主主義国と称する国にも同様に溢れています。

(歴山)

 



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