よのなか研究所

多価値共存世界を考える

有人島の無人の浜にて、

2011-08-18 16:51:34 | 島嶼

                     photo(ユノハマ、奄美市名瀬根瀬部)

奄美大島の市街地から離れた小さな浜に友人たちと上陸しました。釣りと潜りと貝拾いが目的でしたが、砂浜の西寄りの端に海亀の足跡が何本も残っていました。めったに人間が来る浜ではないのでまだ足跡が残されていたのですが、そろそろ卵が孵化して海に還って行く頃と思われます。漂着物が散乱している様子も確認しました。外国の文字表記のついたプラスチックやガラスの容器などがありました。

  

海亀の赤ちゃんは生存競争を生き延びてして無事成長すると再び自分が孵化した浜へ戻ってくるそうです。しかし、その確率は1パーセントに満たないとか。ちょっとさみしい話ですね。

その昔、この島では海亀の卵を採って食用にしていたようです。動物たんぱくを豚と鶏と山羊と海の幸に頼っていた島の生活では貴重な栄養源の一つでもあったのでした。近年は希少動物保護の考えが広がって希少生物に指定されている海亀とその卵を採取するひとはいません。

 

現在、筆者が生活している集落は世帯数96戸、人口194人だそうですが、その中にIターンの方が8世帯、22人おり、また島内の他の集落から移動してきた世帯もあります。もともとの村人はまだまだ多数派でありますが、子供の数が圧倒的に少なく、小学生が3人、中学生が2人だそうです。少子高齢化が進んでいる点では日本全土の傾向と同じですが、それを濃縮したような地域です。

この集落でも14日がお盆の送りの日でした(年中行事は旧暦で行われますが、今年は珍しく本土の月遅れお盆の一日違いでした)。集落では明るい内に各家庭を訪問し合い、日暮れ時に各家庭に造られた祭壇から慰霊をお供して墓地へ戻します。その後本家筋の家で会食していると、満月の明りが山の向こうから空を照らし始めます。するとチヂン(小鼓)の音がトン、トン、トンと鳴り始めます。「八月をどり」の前触れです。人びとは村の中心の広場に三々五々と集まり、踊りの輪が繋がっていきます。

しかし、今年は輪がやっと一本繋がるかどうか、という程度の人しか集まりませんでした。本土のお盆と日程が重なったために、Iターン組の数家族が帰省していたことも影響したようです(Iターン家庭に児童が多いのです)。それにしても、伝統行事が衰退しつつあることをこの目で確認するという体験をしました。

  

群島全域で「18歳問題」があります。高校を卒業する若者のほとんどが一度本土(一部は沖縄)へ出ていってしまうので、18歳人口が瞬間的に「零」となるのです。先年、福祉専門学校が開校しましたので、高校から先へ進む教育機関ができました。島内に大学を、という声は大きいのですが、なかなか難しい問題を抱えています。仮に大学ができたとして、就職という問題に行きあたります。日本中で就職難といわれている状況で、離島ではよほど特徴のある教育を考えないと、今度は「22歳問題」が発生すると思われます。それでも教育機関があることには大いに意味があります。若い人たちが集まる場所が確保されるだけでも有意義です。

  

島嶼の人口が減っていくと、最終的には無人化することになりかねません。鹿児島県吐喝喇(トカラ)列島の臥蛇(ガジャ)島が無人化したのは、昭和451970)年のことでした。現在も無人化が懸念されている島があります。

無人島であることをいいことに、種子島のすぐそばにある馬毛島を米軍の陸上空母離着陸訓練(FCLP)基地として活用する話が飛び出てきました。ごく一部ながら地元にこれを賛成するグループがあるそうです。いつの世にも、地域よりも歴史よりも、文化よりもご先祖よりもおカネが第一と考えるひとがいるものです。同様に沖縄県最北の硫黄鳥島を米軍の対地射爆撃訓練場とする案も提示されているようです。従来の久米島の鳥島では劣化ウラン弾の発射訓練、二五〇キロ爆弾の投下などで毒物汚染がひどく、人間の立ち入りができないとさえいわれています。

記憶に新しいところでは、尖閣列島への中国漁船の領海侵犯がありました。中国のみならず、台湾や香港からも上陸を目指す船団が近づく事件も続いています。

 

自国の領土である小さな島々についてもっと考えなければならないと感じます。その土地の人々が暮らしていけるような環境作りが必要です。従来の政策ではますます離島の人口は減っていくことが避けられません。あらたな政策を採るべく、議員、政党を選ぶときにその考えを詳しく知る必要があります。

わが国の無人島が外国の船団に狙われ、勝手に上陸することも避けねばならず、また外国の軍隊の施設とされてしまうことも避けねばなりません。国民の共有財産としての島にとってこれら二つは同様に、同程度に悲しいできごとです。領土は自分の手で守らなければ意味がありません。

世界のどこでも、無人島はいろんな意味で、いろんな名目で狙われやすい存在です。

 

冒頭の浜での釣りは、この日はエラブチ(ブダイの一種、青色に黄色の緑)とウーク(クマザサハナムロ)の二尾でした。ほかにガシチ(ウニの一種)を拾いました。同行した友人たちが大漁でこの日の夕食は久しぶりに刺身で満腹となりました。しかし、台風に冬の季節風に時を問わない暴風雨のやつてくる島であることを考え、海に向かって合掌礼拝しました。

(歴山)

 



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