よのなか研究所

多価値共存世界を考える

島々の現実、明日のニッポン

2013-03-19 10:04:13 | 島嶼

                                    Photo ( 7万トン客船が停泊できる港湾、名瀬港、鹿児島県 )

二地域居住で一年の四分の一を過ごしている島は8万の人口があるにもかかわらず田圃がない。雨量の多い島に水田がない。ごくわずかの農家が田圃を持っているが、趣味かあるいは実験農園のごとき状態のものです。以前にも書いたように、これらの島々では昭和三十年代に国の減反政策で半ば強制的に稲作を放棄することになりました。その昔、「白い米を食べる」ことが裕福の証であった島々がやつとみんなコメを食べられるようになった頃を見図ったかのように、コメを作ることができなくなる、ということになったのでした。

現在は、多くはサトウキビの単作農家であり、野菜農家、果樹栽培、花器類栽培の農家であり、酪農家であり、また風と潮を観て海に出る半農半漁の家があり、漁業が主で閑散期にはオカの仕事に従事する家などがあります。島では食物交換の風習がありますが、主食のコメはみんな小売店で購入しています。

台風や豪雨被害等で本土との船便が二、三日とだえると、たちまち店という店の食料品売り場の棚は空っぽとなります。コメに野菜に肉魚に加工食品までが売り切れになります。みんなそのことを知っているので商品の売り足の速さに輪をかけることになります。値段は上がります。

今でも、たとえ高くついても自分の作ったコメを、親戚の作ったコメを食べたい、との思いが島の人たちにはありますが、現実にはとてもできるものではありません。半世紀前に土を盛ってサトウキビ畑や野菜畑、果樹園に転用された土地は、既に水路が無くなり、これから田圃を作るとなると、表土を一メートルほど取り除くことから始めなればなりません。個人の力でとてもできるものではなく、実際にコメを収穫できるまでには十年以上かかる、と言われています。その間、土地からの収穫はなく、誰も十年を食いつなぐことはできません。小さな島は観光でやっていけ、との政策かとも受け取れます。

小さな生活空間にいるものは、基本食糧を欠くとどれだけおカネを持っていてもご飯にありなくなる可能性があります。日本全土で敗戦後の一時期は似たような状況だったと聞かされます。つまり、日本自体が小さな島国にすぎないことが分かります。闇商人が太り、法を守るものが飢えた、という話はいろいろ残されています。本で読むこともできます。違法ではないまでも、違法すれすれの商いをする者たちがいて、それらの人々が長者となった時代でした。

これが、国のレベルの話になっているのが今話題の「環太平洋連携協定」なるものの実体でしょう。特定の国である作物やあるサービスが不足する状態を作り出し、それを提供する者が価格決定権を持つ、つまり事実上の独占権を持つようになります。その権利を確保するものがMNC(多国籍企業)や投資ファンドなどの営利企業です。

日本政府は農業を強化して云々、といっているが、それが方便であることは本人たちが百も承知しているのです。米や野菜や果物や魚や肉の国際競争力を強くする、と言ったところで、競争力は為替レートの変動が最大の要因であり、農家や酪農家や漁師が如何に努力しても出来ないことなのです。最近の経済の変動を見れば自明です。

国民の生命と財産を守る、と声高に喋っていますが、生命維持の基本たる「食べる」ことを不安定にしておいて一体何を守ろうとしているのか、判然としません。奇妙な話です。

関税は国家主権の一部であり、もともと二国間で取り決めていく筋合いのものであり、よしんば複数国で取り決めるにしても隣接する国家群が取り決めをするものであり、そこでも全面的包括的に関税を撤廃する、というのは主権の一部放棄になります。一体だれのための協定なのか、と疑問がわきます。

ここでインドの事例が参考になります。中国を追う形で経済成長を続けているインドは「基本食糧の自給」を独立以来の国是としています。安いから外国の食糧を入れるということをしません。また、外国からのそのような要請には、相手が大国であろうと拒絶しています。二国間協定を基本とし、南アジアの周りの国とは南アジア経済協力協定(SAARC)を結んでいますが、品目別に税率を決めて、国情に合わせてバランスがとれるようにしています。

私企業が相手国政府を訴えてその正否を国際調停機関が判断する、という仕組み(ISD条項)が登場するとどうなるか。豊富な資金量を有する投資ファンド、巨大企業グループが有能な弁護士とコンサルタントと称する人たちを伴って現れることになります。現に、公正な(?)ビジネス交渉の結果、日本の生保、損保の多くはいつの間にかカタカナ書きになってしまいました。テレビ広告で目につくのもこれらカタカナ書き企業です。長い歴史を誇っていた漢字書き企業の多くはどこかへ消えてしまいました。

国際調停機関の中立性にも疑問が呈されています。世界銀行(WB)の下部機関であることは周知のことなのです。これまでも資金量と交渉力を持つ私企業の理不尽、強硬な主張に押されている政府や民間企業はどんな目に遭うか、容易に想像できると思うのですが。

(歴山)



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