よのなか研究所

多価値共存世界を考える

「国際社会」と国際ルール

2012-02-15 09:28:24 | 時事

 

                                                                     Photo(街に繰り出した学生たち、インド)

 

インドという国は、北にロシア、東に中国、西にイスラーム世界、南のインド洋には各国の商船はもちろん、米空母をはじめ大国の軍艦が遊弋(ゆうよく)している環境にある。それゆえ、独立以来長年に亘り独自の平和外交を貫いているが、また国を守る意識は高く、兵力では中国に次ぐ世界二位の兵員数を保持している(軍事費では第10位、SIPRI 2008年版)。

外交の基本は「非同盟・全方位」である。ロシアとは長年にわたり友好関係を続け、かつて戦火を交えた中国とも定期首脳会議を持ち、ヨーロッパ諸国とも繋がりは深く、アメリカとは近年官民とも関係を深めている。しかし、他国からの内政干渉には厳しく対抗する。商取引でも、相手国から不本意な基準を押し付けられるとそれまでの取り決めを一方的に破棄することがある。

 

次期戦闘機の選定にあたってもインドの力がいかんなく発揮された。

わが国でもひところ次期戦闘機のニュースが流れていたが、F35に決定の発表以来話題にもならなくなった。同機は米ロッキード・マーチン社製でステルス性が優れているとされるが、専守防衛の国でステルス(つまり隠密行動)性能が必要か、との議論もあった。なにより他の競合機種に比して桁違いに高額であることと情報開示が極めて制限されているところに問題があったが、決定後は議論も沈静化しているようにみえる。同機は未だ開発中であり、日本政府が目指す20173月までの納入は不可能とされているにも拘らず、関係者は「同盟国だからなんとかやってくれると信じている」としている。他人のことばをそのまま信じていては防衛は難しい。

さて、インドの場合はどうか。この国は独立以来ロシア製の兵器を中心に国防をになっており、その影響下で国産化を進めてきた経緯がある。次期戦闘機の選定に当たっては、ロシア、米、仏、スイスの機種に英・伊・西・独などの共同開発のユーロファイターが候補に上がっていた。ロシアは当然自国のスホイを採用すると信じており、アメリカも近年の両国の親密度から自国のFシリーズを売りこんでいた。

結果はフランス・ダッソー社のラファールを選定したと報じられた。これから議会の承認を得て発注となるが、ほぼ確定と思われる。インドには旧型のミグやスホイ、フランスのミラージュなどの戦闘機にアメリカの輸送機もあり、また、将来ロシアのT50ステルス機も購入予定ということで、一つの国家に幾つもの国の軍用機が混在していることになる。そのことによる運用面での難しさやコストの上昇が考えられるが、特定の国に依存することのリスクの大きさを考えれば小さな問題と考えているようだ。

 

もう一つ、最近の動きでいえば、欧米諸国のイラン制裁に同調を求められたインドだが、イランとの原油取引を継続するのみならず、決済方法をドルから変更することでも両国は一致したと伝えられている("The Hindu"紙)。いわゆるドル離れであり、アメリカが最も警戒しているところである。

もともとイランとインドとは強い結びつきがあった。長くインド亜大陸を支配していたムガル帝国の公用語であるウルドゥ語は北インドの言語にペルシャ語の語彙を取り込んで出来上がった言葉である。ウルドゥ語は現在パキスターンの公用語となっているが、インドでも公用語の一つとされて紙幣にもその文字が書き込まれている。

インドは時に「国際社会」と対峙する。アメリカを中心とする先進諸国のイランに対する経済制裁には何ら正当性はない、と考えている。それは1998年に自国が核実験をした際に各国から非難され、アメリカと日本からは経済制裁を受けたが屈せず、結局主張を押し通したことで自信があるからだ。NPT(核不拡散条約)に加盟していないインドはIAEA(国際原子力機関)とは協定をむすんだが、査察を受け入れるのは民生用核施設のみであり、軍用については拒否している。結局、一部の反対を押し切って国際社会がインドへの核開発用の原料供給を受け入れざる得なくなった。ここにインドという国独自の存在が見られる。

「現に核兵器を持っている国が、他国に持つことを禁ずる権利があろうはずがない」というのがインドの変わらぬ論理であり、「すべての国が核廃棄するのであれば、わが国も率先して廃棄する」という主張に繋がっている。いわゆる「国際社会」と一線を引くインドの考える「国際ルール」である。

このような論理を是とするか非とするか、によって、インドという国の見方は変わってくる。

(歴山)