緊縮財政反対派の急進左派連合が第一党に躍り出る可能性が高まり、ユーロ圏離脱の可能性が出てきたことで、市場の緊張感が高まっていますね。
デフォルトの時期、ユーロ圏からの離脱の有無はどうなのか。二つの記事を取り上げてみました。
ギリシャのユーロ離脱が現実味を帯び、欧州財政・金融危機はこの2年半で最も緊迫した局面を迎えている。しかし、離脱すれば欧州経済に深刻な影響を及ぼす恐れがあるうえ、ギリシャにとっても経済が大混乱するいばらの道となる。 (ブリュッセル中沢謙介)
■820億円引き出し
14日、ギリシャのパプリアス大統領は各党党首に、「ギリシャの銀行から本日、8億ユーロ(約820億円)の預金が引き出され、一部はドイツ国債の購入に充てられた」と窮状を訴えた。同国民が、ユーロから離脱すれば、自国銀行に預けた預金が価値の激減する新通貨に交換されるという危機感を抱いたからだ。
市場だけでなく、ユーロ圏で暮らす市民も、離脱の可能性を視野に入れ始めた。
ユーロから離脱してかつての自国通貨「ドラクマ」に戻れば、ギリシャは厳しい緊縮財政から解き放たれるとともに、通貨安が進み、外国からの観光客や外国への輸出が増えて経済が良くなると期待する声もある。
6月17日の再選挙で緊縮見直しを掲げる急進左派政権が誕生すれば、ユーロ圏の離脱に向かうとの観測が強まっている。急進左派は、ユーロ離脱を目指しているわけではないが、緊縮策という約束を破れば、ユーロ圏と国際通貨基金(IMF)による支援が受けられなくなる。借金を返済できない債務不履行を経て、結果的にユーロ離脱に追い込まれる可能性が高い。
ユーロ圏とIMFは今年2月、公務員数削減などの緊縮策を行うことを条件に、総額1300億ユーロ(約13.3兆円)の第2次支援を決めているためだ。
■2けたマイナス
実際に離脱した場合、ギリシャ経済は壊滅的な打撃を受けそうだ。
市場ではまず、ギリシャの新通貨が短期間のうちに対ユーロで50~70%程度、暴落すると予測されている。通貨安で輸入価格が上昇し、前年比50%程度のハイパーインフレが起こるとみられ、生活必需品を買うのにも困るなど国民生活を直撃する。
同時に、新通貨を信用できないギリシャ国民や企業が自国の銀行から預金を引き出し、ドイツの銀行などに移す動きが加速する。金融システムが崩壊し、ギリシャは2けたのマイナス成長に陥るとみられている。
ギリシャは対外債務の大半について返済を断念し、債務残高は大幅に減る見通しだ。だが、ギリシャは元利払いを除く歳出が税収を上回る「基礎的財政赤字」の状態にある。市場や国際機関からの資金調達は困難で、赤字を埋めるため新たな緊縮策を実施せざるを得ない。
欧州主要行 損失拡大も
ユーロ圏も無傷では済まされない。ギリシャ政府や企業向け債権を抱える金融機関は回収が見込めず、損失を迫られる。欧州の主要行が保有するギリシャ向け債権残高(2011年末)は計904億ドル(約7.2兆円)に上る。ギリシャ国債を約500億ユーロ(約5.1兆円)保有するとされる欧州中央銀行(ECB)の財務も傷み、通貨の信頼性が損なわれる恐れがある。
ユーロ圏は2010年以降、金融支援制度を強化しており、当局者からは、「我々は多くのことを学び、防御のための仕組みを構築してきた」(ドイツのショイブレ財務相)と楽観論も聞かれる。金融機関はギリシャ向け債権を1年間で約3割減らしており、市場でも、「離脱による直接的な影響は壊滅的ではない」との声がある。
読み切れないのは、財政不安を抱えるユーロ圏の国への影響だ。イタリアやスペインなどに飛び火し、国債流通利回りの上昇が止まらなくなる恐れもある。
国民8割「残留望む」
欧州連合(EU)の基本条約であるリスボン条約は、ユーロを離脱するための規定を定めておらず、ユーロ離脱に関する明確なルールはない。その代わり、同条約50条の規定に基づいてEUから脱退すれば、ユーロからも離脱できるとの解釈が一般的だ。EUからの脱退には、加盟国の多数による同意が必要だが、ギリシャが脱退を表明すれぱ、他の加盟国もやむを得ないと判断するとみられる。
だが、実際にギリシャがユーロを離脱するかどうかはまったく不透明だ。当のギリシャ国民の8割はユーロ残留を望んでいる。市場では、高い確率で離脱するとの予測もあれば、可能性はほとんどないとの見方まであり、事態の行方を見通せないでいる。
ユーロ圏とギリシャは昨年11月や今年2月に危機が深刻化した場面でも、ぎりぎりまで駆け引きを演じ、最終的には深刻な事態を回避した。
再選挙が確定したことを受けて、ユーロ圏は「財政再建目標の期限延長の可能性を排除しない」(ユーロ圏財務相会合のユンカー議長)とし、多少、譲歩する可能性も示唆し始めた。市場では「ユーロ圏が財政再建目標の達成先送りを容認するなど、微修正を認める形で妥協を図り、最後は事態を収拾する」(アナリスト)との期待もある。
ユーロ圏に残りたいと、8割の国民が望んでいながら、緊縮財政の約束は反故にすると言う政党が支持を伸ばす。あきらめることなく、徹底的に有利な条件を追求するということでしょうか。
現存する赤字と借金返済は、逃れようがないのです。経済成長を実現させて税収を増やすことは大事ですが、為替自由化を拒む中国によって、世界中の富が中国へ集中する今日、経済成長は容易ではなく不確実です。その、不確実なものへの神頼みでズルズル財政出動をしてきたから、赤字と借金が膨らんだのです。
金融危機のリスクはありますが、デフォルトはどこかの時期で必要で、身軽にして負担を減らし、緊縮財政とばら撒きではない経済成長政策の両輪が必要でしょう。
デフォルトの時期について、英フィナンシャル・タイムズ紙の記事がありました。
ギリシャはいつデフォルトすべきか(2012年5月14日付 英フィナンシャル・タイムズ紙):日本経済新聞
経済と政治の状況からして、ギリシャにとって経済的に理にかなう選択肢は4つあるが、いずれも不確実性に満ちているとのこと。
第1の選択肢は現状維持で、IMFとEUが定めた通りに、さらなる緊縮財政と経済改革を断行する道。ここに潜むリスクの1つは、ギリシャが永遠の恐慌に苦しめられ、債務の罠から抜け出せないというもの。もう1つのリスクは、理論上は経済的にうまくいくかもしれないが、政治的にはほぼ確実に失敗するというものだそうです。
第2の選択肢は、ギリシャがプライマリーバランス(利払い前の基礎的財政収支)を均衡させるまで今の計画を断行し、均衡した段階でデフォルトするか、少なくともIMFおよびEUと緊縮・改革プログラムについて再交渉する道。この選択肢のリスクは、この段階に至るまでに必要な緊縮が厳しすぎたり、時間がかかりすぎたりするせいで、やはり政治的なリスクが影響を及ぼす恐れがあること。
第3の選択肢は、SYRIZA(急進左翼連合)のアレクシス・ツィプラス党首が示した道筋。ギリシャが即刻、今のプログラムを撤回して一部の改革を覆し、残っている対外債務のデフォルトの可能性を検討する道。そうしてもユーロ圏からの離脱にはつながらないとツィプラス氏は主張しているのだそうです。
ギリシャが一方的にプログラムを撤回したら、まず、EUがギリシャ向けの融資を打ち切る。次にギリシャはすべての対外債務についてデフォルトする。だが、プライマリーバランスが赤字なため、ギリシャは今以上に大規模な緊縮プログラムを実行しなければならないことになると。
4番目の選択肢は、ギリシャが今すぐ自発的にユーロ圏から離脱する道。
筆者の考える最善の選択肢は、2013年までにプライマリーバランスを均衡させ、その後に民間、公的を問わず残った対外債務をすべてデフォルトする戦略だそうです。ギリシャ国外では不評だろうが、ギリシャをユーロ圏から追放しにくくなるはずだとのこと。
デフォルトを後でするか、今するかの選択で、筆者は後でデフォルトする方がいいとの説。より穏やかに財政を調整でき、賢明な改革をいくつか進められ、ギリシャがユーロ圏内にとどまる確率を高めるからだとのこと。
ギリシャの国民の方々の選択はどうなるのか。ユーロ圏の各国の選択はどうか。世界に大きな影響力をもつEUの曲がり角は、どんな道へ進むのか。見つめるしかないですね。
# 冒頭の画像は、連立協議に臨むギリシャのパプリアス大統領(右から3人目)と各党党首
この花の名前は、プリムラ・ブルガリス
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