くりぃーむソ~ダ

気まぐれな日記だよ。

地図にない場所(26)

2020-04-29 20:12:59 | 「地図にない場所」
「そうだよ、早くしろ。あいつが来ちまう」と、ガッチは言いながら、戸惑っているサトルを突き落としました。
 あとわずかで、二人を捕まえられるはずだった恐竜は、不意に目の前から姿を消した二人を、そのまま追いかけ、勢い余って、奈落の底に真っ逆さまに落ちていきました。

「――ふぅ、助かったぜ」と、ガッチがやれやれというよう言いました。

 ガッチの声を聞いたサトルは、ぎゅっと目をつぶっていました。と、自分の体が、空中で止まっているのに気がつくと、そっと目を開きました。サトルは、また奇跡でも起こったのかと思いましたが、足元にはいぜんとして底なしの空間が広がり、時折吹きつける気流に、体がゆらゆら揺れていました。
 サトルの体は、しっかりとつかんだガッチの手で、かろうじて落下をまぬがれていました。その証拠に、ガッチのもう一方の手は、岩山の絶壁にできた小さな割れ目に、びくともせずに掛かっていたのでした。
「さて、これからどうするかだな――」と、ガッチが独り言のように言いました。「よし、サトル。ちょっとら揺れるが、我慢してくれ」
 ガッチはそう言うと、サトルを振り子のように左右に振り始めました。
 サトルは、だんだんと揺れが大きくなってくるにつれ、今にも真っ逆さまに墜落しそうな恐怖にとらわれ、すぐにでも、意識がなくなってしまいそうでした。

「――それっ」

 サトルの揺れが、十分大きくなったところで、ガッチはサトルの体を、思いきり宙に放り投げました。と同時に、岩に掛けていた自分の手も、ぱっと放しました。
 高く舞い上がったサトルの体は、勢いがなくなると、今度はもちろんのこと、放物線を描いて、地面に落ち始めました。
 しかし、その落下地点は、奈落の底ではなく、二人が飛び降りたそばの地面でした。サトルは、なにも手がかりのない空中で、ほとんど気を失いそうでしたが、遠くなりかけた意識の中で、ぼんやりと自分が助かりそうなことを知りました。
 かすかに笑みを浮かべたサトルは、けれど自分の体が、また上昇を始めたことに気がつきました。
 今度は、バサッバサッ――と、翼を羽ばたかせるような音が聞こえ、しばらくしても、上に昇るばかりで、まったく落ちていく気配はありませんでした。
 サトルは、次第に遠のいていく意識をどうすることもできず、奇妙な浮遊感を味わいながら、ゆっくりと目を閉じました。




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