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共和政期のローマ法

2015-11-30 20:48:48 | 政治史・思想史

ロムルスのローマ建国(前753)から約250年後の前509年、7代目王タルクィニウス・スペルブスは追放される。以後、オクタウィアヌスが尊称「アウグストゥス」を贈られる前27年までの共和政期に、ローマ法の特徴的性格が形成された。ちなみに、アテナイの哲人たちも同時代人(ソクラテス前469生、プラトン前428?427?生、アリストテレス前384生)。

[3つの身分層]

(1)土地所有者である貴族patricii。騎兵隊として従軍し、ローマの軍隊の中核であった。(2)貴族と区別される平民plebs。(3)権利客体にすぎない奴隷。

貴族と平民の差は大きく、初期の共和政は「身分間の闘争と平民の政治参加要求」として特徴づけられる。ギリシヤから学んだ重装備歩兵隊という戦争技術は、歩兵隊を構成する平民の地位向上を伴い、前4世紀にはすべての政務官職が平民にも開かれる。上層平民は、新貴族nobilitas(政治身分classis politica)を形成するようになる。

 

[平民による身分闘争:護民官と十二表法]

(1)前494年、平民はローマから数km離れた「聖山」にたてこもって一切の奉仕義務を放棄する行動に出た(聖山事件)。この結果、平民が勝ち取ったのが「護民官」の官職である。

(2)さらに平民は成文法公開を目指して再びローマを退去する。これに妥協した貴族は、前451-450年、ローマで最初の成文法典となる十二表法lex duodecim tabularum(Ⅻ tablets)が公開された。この諸規定は慣習規範に支えられた訴権の集積である(内容は以下)。個別問題を扱った単行法律である民会議決(法律)lexはあるものの、ローマ人は、十二表法以降、ユスティニアヌス法典の編纂まで「法典」の制定をしなかった。

1.法廷召喚の手続

2.訴訟の手続一般

3.債務の執行手続

4.家族・家父権・相続・遺贈・後見

5.4のつづき

6.財産法(特に財産取得)

7.財産法(特に境界・相隣関係)

8.不法行為法・刑罰規定

9.8のつづき

10.宗教関係法(特に葬儀)

11.10の追加規定

12.11のつづき、暦に関する規定

 

[国制:半民主政的側面]

王政期からつづく民会comitaが組織された。百人隊(ケントゥリア)を単位とするケントゥリア民会(兵員会)は、法律lexの制定・政務官の任命・租税の徴収をおこなった。法律の制定は、血縁的部族または地区(トリブス)を単位とするトリブス民会でもおこなわれた。平民だけの平民集会は前3世紀には民会の一つと認められ、平民集会決定は、後に貴族を含む市民全体に適用される法律となった。

 

[国制:半貴族政的側面]

(1)元老院senatusは、かつて政務官にあった人々の集団であり、最盛期の共和政を体現する。終身制であり、任期制の政務官と比べて政治・行政の連続性を確保した。元老院の権限に明確な定義はなく、必要と認めたときに監督し、元老院決定を下した。元老院決定は、執政官によっても遵守されることが期待される一方、執政官や護民官は拒否権を行使できた。

(2)政務官magistratusは、軍事指揮権・警察強制権・裁判権を行使した。政務官職は、一年任期制・同僚制(同役制。ある官職が原則2名で占められる)の特徴がある。

ア最高職が執政官(統領)consul。執政官も同僚制により、互いが拒否権を有していた。

イそれに次ぐ法務官praetorは、民事裁判権を管轄した。

ウ法務官に次ぐ重要ポストが、査定官(戸口調査官)censor。租税賦課のため市民各人の財産による等級づけや、元老院議員の適正検査をする。査定官は、いかなる身分の市民であろうと、公的・私的行動をとりあげて地位を昇進させたり排除したりした(習律監視・習律裁判)。この「即決的な倫理裁判」に対し、裁かれた者は、同僚の査定官に異議を唱えてもらう・護民官に拒否権を行使してもらう・新任査定官に名誉を回復してもらう、といった手段で対抗した。

エ高等按察官aediles curulesは、一定の警察・行政権、市場での売買に関する紛争の裁判権を有していた。現代法の「売主の瑕疵担保責任」は、この裁判権に起源をもつ。

オ財務官quaestorは、国庫支出の監督と、罰金税金の徴収をした。政界の登竜門。

カ護民官tribuni plebisは、貴族に対して平民の権利を守る権能をもった。平民集会の招集・平民集会決定の提案、元老院の招集・提案、政務官や元老院のあらゆる措置に対する拒否権。

 

[古い私法裁判手続:法律訴訟]

十二表法の訴訟形態は法律訴訟legis actioである。ローマ法のactioは、客観的には訴訟制度の取り上げる訴訟類型をいい、主観的には審判人手続を成立させる権能をいう。各actioは、個別の歴史を持ち、「actio一般」というものは観念されていなかった。法律訴訟においては、法務官は市民法に基づいてのみactioを承認し、起訴方式として法を引用して法内容に即した文言を用いることが厳格に要求された(actioなければ法律なし)。

 

[新しい私法裁判手続:方式書訴訟]

(1)方式書訴訟は、「法務官の面前での法廷手続in iure(原義は「法務官の前に」)→審判人judexの面前での審判人手続aqud iudicem」という二段階をとる。

(2)法務官は、紛争両当事者間に「訴訟judicium」が成り立つかどうか決定する。法源である市民法ius civileは、十二表法、慣習法、平民集会決定、元老院決定がある。法務官は、訴訟が成立する場合には「方式書formula」を発給した。方式書は、〈審判人の指定+訴権actio〉から構成される。

例:買主訴権の方式書

Jが審判人となれ。<審判人の指定>

XがYから当該目的物を購入したがゆえに、<請求原因の表示>

それゆえに被告が原告に信義誠実に基づいて与え為すことを要するものはなんであれ、<請求の表示>

審判人よ、それについて被告が原告に責めあるものと判決せよ。もし明らかでないならば免訴せよ。<判決権限の付与>

(3)法務官は、任期の始めにいかなる方式書を与えるかを告示した。原告の主張する生活事実が方式書(actio)に適合するということは(客観的なRecht)、原告に権利が認められる(主観的なRecht)を意味した。他方で、時代の変化は新たな訴えを生み出し、法務官は「新たなactio」を創造した。新たな方式書が生み出されるにつれて、(市民法上の方式書とは区別された)法務官法ius praetoriumが形成された(現代の判例法の原型とも評価される)。

(4)新たに任命された法務官は、前任者の方式書を吟味した上で受け継いだ。それにより法的安定性が維持された。

 

兼子一『実体法と訴訟法』[1957]pp20-30

ゲオルク・クリンゲンベルグ『ローマ債権法講義』[原著1987、瀧澤栄治訳2001]pp1-37

『詳説世界史研究』[1995]pp45-51

田中成明ほか『法思想史第2版』[1997]pp20-22〔竹下賢〕

クヌート・W・ネル(村上淳一訳)『ヨーロッパ法史入門』[1999]pp7-37

オッコー・ベーレンツ、河上正二『歴史の中の民法ーローマ法との対話』[2001]pp78-93,303-308

ウルリッヒ・マンテ『ローマ法の歴史』[原著2003、田中実/瀧澤栄治訳2008]pp33-87

青柳正規『ローマ帝国』[2004]pp2-72

『概説西洋法制史』[2004]pp13-26〔屋敷二郎〕

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