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加害者側による債務不存在確認請求訴訟

2024-10-01 18:31:09 | 交通・保険法

【例題】Xは甲車を運転していたところ、脇見をしている間に乙車に追突した。乙車にはYが乗車していたが、Yは本件事故によって種々の不利益を被ったと主張している。Xの付保保険会社がYとの示談折衝を行っているものの、交渉は長期化している。

 

[債務不存在確認請求訴訟の管轄]

・事物管轄:訴訟物(後述)の価額による。

・土地管轄:[1]普通裁判籍となる被害者となる被告の住所(=義務履行地でもある)(※)。[2]事故場所(不法行為地)。

※通常の給付請求訴訟と異なり、被害者が被告に回されるため、「加害者の住所」での提訴はできない。

 

[訴訟物:加害者が不存在を主張したい被請求額]

・通常の給付請求訴訟では「被害者がその存在を主張したい具体的な損害賠償請求権」が訴訟物となる。これと同様に、債務不存在確認請求訴訟の訴訟物は「加害者がその不存在を主張したい具体的な損害賠償請求権」となる。□講義案(1)46

・訴訟物の価額は、「被害者の主張額(=上限)」と「加害者の主張額(=下限)」の「差額=加害者が不存在を主張する部分」となる。請求の趣旨には下限しか記載されないので、給付訴訟とは異なり、訴額を知るには請求の原因まで見る必要がある。□講義案(1)46

[例1]被害者が300万円を請求しているが(上限)、加害者は0円だと主張する場合(下限):訴訟物は「加害者が不存在を主張したい損害賠償請求権300万円」となる。つまり訴額は300万円。□講義案(1)46

[例2]被害者が300万円を請求しているが(上限)、加害者は200万円だと主張する場合(下限):訴訟物は「加害者が不存在を主張したい損害賠償請求権100万円部分」となる。つまり訴額は100万円。□講義案(1)46

[例3]被害者の請求額が不明な場合:訴訟物は「加害者が不存在を主張したい部分=金額不明な損害賠償請求権」となる。つまり、被害者の請求額(上限)が確定できない以上、加害者の主張額(下限)にかかわらず「訴額=上限と下限の差額」は算定できない。したがって、訴額は160万円と擬制される(民事訴訟費用等に関する法律4条2項後段)。□講義案(1)46

 

[請求の趣旨:訴訟物の不存在の確認請求]

・給付訴訟とは異なり、請求を特定するために(?)、請求の趣旨に法律関係(損害賠償債務の発生原因事実)を表示する必要がある。通常は、別紙交通事故目録を添付して、同目録を引用する形式で特定する(※)。□加藤細野322

※加害者側が事故の発生事態を争う場合は、「被告(被害者)において、・・・で発生したと主張する交通事故に基づく損害賠償債務」などと記載する。□岡口68

・別紙交通事故目録には「発生日時、発生場所、当事者(車種や車両番号)、事故態様」を記載する。

・債務が全く存在しないことを主張するとき:「原告の被告に対する別紙交通事故目録記載の交通事故に基づく損害賠償債務は存在しないことを確認する。」→被害者が具体額を主張していれば(上限)、上限がそのまま訴額(差額)となる。具体額の主張がなければ、訴額算定困難。

・債務が一定額を超えては存在しないことを主張するとき:「原告の被告に対する別紙交通事故目録記載の交通事故に基づく損害賠償債務は●円を超えて存在しないことを確認する。」→被害者が具体額を主張していれば(上限)、上限と下限の差額が訴額となる。具体額の主張がなければ、訴額算定困難。

 

[請求の原因:確認の利益]

・債務不存在確認訴訟では、「確認の利益の基礎となるべき事実(=当事者間での権利関係の争い)」が唯一の請求原因事実(訴訟要件)となる。すなわち、「訴訟物である特定の債務につき、被害者(被告)はその存在を主張し、加害者(原告)はその不存在を主張する」旨を訴状に記載する。□加藤細野322-3

・実務上は、裁判所に紛争の実態を早期に理解してもらうため、加害者(原告)側として、自身の主張の理由(責任原因の不在、責任割合、損害論、提訴に至った経緯など)を記載すべきだろう。□加藤細野323

 

[被告とされた被害者側の対応:反訴提起]

・債務不存在確認請求訴訟の被告とされた被害者は、通常、自身が主張する損害賠償請求権を訴訟物として反訴を提起することになろう。

・損害賠償請求反訴が提起された場合、裁判所からは、加害者(本訴原告=反訴被告)に対して債務不存在確認請求本訴の取下げが促されることも多い。もっとも、反訴における取下げの特則(=本訴の取下げとの違い)として、先に本訴が取り下げられた場合、被害者(反訴原告=本訴被告)は自由に反訴を取り下げることができる(民訴法261条2項ただし書)。この点を危惧する加害者が本訴を維持すれば、最終的に「損害賠償請求反訴が提起されている=債務不存在確認請求本訴の確認の利益なし」を理由として本訴は却下される(最一判平成16年3月25日民集第58巻3号753頁)。

 

加藤新太郎・細野敦『要件事実の考え方と実務〔第2版〕』[2006]

裁判所職員総合研修所監修『民事実務講義案1〔四訂版2刷〕』[2009]

岡口基一『要件事実マニュアル第1巻〔第3版〕』[2010]

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