判例は,特段の事情のない限り,使用者が懲戒解雇 時には認識していなかった事実を主張することはできないとしています。なぜなら,懲戒の適否はその理由とされた具体的な非違行為との関係において判断すべきものとされているからです。
では,特段の事情はどういう場合かというと,その懲戒の理由とされた非違行為と密接に関連した同種の非違行為の場合などを指すとされています。
たとえば,一連の横領行為の一部のみの調査が先行しこれのみで労働者を懲戒解雇したところ,その後の調査でその前後にも横領行為があり,裁判においてこれら一連の横領行為として懲戒解雇事由に該当するとの主張がこれにあたります。
この点,裁判例には,休日出勤命令を拒否し,さらに無断欠勤をしたことを理由に懲戒解雇を行ったあとに,その労働者が経歴詐称をしていたことが判明した事案について,特段の事情にはあたらず,経歴詐称の事実をもって懲戒解雇事由に該当するとの主張はできないとしたものがあります。
以上より,ご質問のケースでも,特段の事情があるか,すなわち,処分時に処分理由としていた非違行為と一連一体の同一類型の行為といえるかどうかがポイントになってきます。
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