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社宅に家財道具等を残したまま行方不明になる。

2014-01-13 | 日記

社宅に家財道具等を残したまま行方不明になる。

1 社員の行方を捜す努力
 まずは,電話,電子メール,社宅訪問,家族・身元保証人等への問い合わせ等により,社員の行方を捜す努力をして下さい。
 警察に行方不明者届を提出する場合は,親族が提出するのが通常と思われますが,勤務先からの行方不明者届も受理される扱いとなっています。
 それなりの期間努力しても社員の行方が分からないときは,退職扱いにし,社宅から出て行ってもらわざるを得ませんが,
 ① 労働契約を終了させる方法
 ② 社宅利用契約を終了させる方法
 ③ 社宅に残された私物の運び出し方法
等が問題となります。

2 労働契約を終了させる方法
(1) 合意退職・辞職
 行方不明になった社員が,退職の挨拶をしてからいなくなった場合や,退職する旨の書き置きを残しているような場合であれば,合意退職の申込ないしは辞職の意思表示があったと評価することができるかもしれませんが,何の前触れもなく突然行方不明になったような場合には,合意退職の申込ないしは辞職の意思表示があったと評価することは困難です。
(2) 無断欠勤が一定期間(30日~50日程度)続き,会社に行方が知れないときには当然に退職する旨の就業規則の規定
 行方不明になった社員の退職手続としては,就業規則に無断欠勤が一定期間(30日~50日程度)続き,会社に行方が知れないときには当然に退職する旨の規定を置き,適用することにより対処するのが一般的です。
 このような規定は,行方不明期間があまりにも短い場合には合理性を欠くものとして無効となる可能性がありますが,30日~50日程度の期間をおいているのであれば,通常は合理性を有する規定として有効となるものと考えられます。
 したがって,社員の無断欠勤が就業規則に定めた期間(30日~50日程度)続き,会社に行方が知れないときには,社員に対する意思表示なくして当然に退職の効力が生じることになります。
(3) 解雇
 解雇の意思表示は,解雇通知が相手方に到達して初めてその効力を生じるため(民法97条1項),有効無効以前の問題として,解雇通知が行方不明の社員に到達しなければ解雇の意思表示は効力を生じません。
 社員が社宅で生活しており,単に出社拒否をしているに過ぎないような事案であれば,社宅の当該社員の部屋に解雇通知が届けば社員の支配権内に置かれたことになりますから,実際に社員が解雇通知書を読んでいなくても,解雇の意思表示が到達したことになりますが,本当の意味での行方不明で,社宅にも戻っていない場合は,社宅の部屋に解雇通知が到達したとしても社員の支配権内に置かれたとは言えませんので,解雇の意思表示が社員に到達したことにはならず,解雇の意思表示は効力を生じません。
 電子メールによる解雇通知は,行方不明の社員から返信があれば,通常は解雇の意思表示が当該社員に到達し,解雇の効力が生じていると考えることができるでしょう。
 ただし,電子メールに返信があるような事案の場合,そもそも行方不明と言えるのか問題となる余地がありますので,解雇権を濫用したものとして無効(労働契約法16条)とされないよう,解雇に先立ち,行方不明の社員と連絡を取る努力を尽くす必要があります。
 行方不明の社員からメール返信がない場合は,解雇の意思表示が到達したと考えることにはリスクが伴いますが,連絡を取る努力を尽くした上で,リスク覚悟で退職処理してしまうということも考えられます。
 行方不明者の家族や身元保証人に対し,行方不明の社員を解雇する旨の解雇通知を送付しても,解雇の意思表示が到達したとは評価することができず,解雇の効力は生じないのが原則です。
 兵庫県社土木事務所事件最高裁第一小法廷平成11年7月15日判決では,行方不明の職員と同居していた家族に対し人事発令通知書を交付するとともにその内容を兵庫県公報に掲載するという方法でなされた懲戒免職処分の効力の発生を認めていますが,特殊な事案であり,射程を広く考えることはできません。
 例えば,家族に解雇通知書を交付し,社内報に掲載したといった程度では,通常は解雇の意思表示の効力は生じません。
 完全に行方不明の社員に対し,解雇通知する場合は,公示による意思表示(民法98条)によることになります。
(4) リスク覚悟の上での退職処理
 行方不明の社員が退職の効力を争うことは稀ですから,厳密な退職の要件を満たさなくても,リスク覚悟の上で退職処理してしまうという方法も考えられます。
 もっとも,後日,行方不明だった社員から連絡があり,復職を希望したような場合には,その時点で復職の可否を検討することになるものと思われます。

3 社宅利用契約を終了させる方法
 福利厚生施設としての社宅の法律関係は,社宅利用規程によって規律され,社宅の明渡しを請求できるかどうかは,社宅利用規程の明渡事由に該当するかどうかにより決せられ,通常は借地借家法は適用されません。
 社宅利用料が高額であるなどの理由から,社宅契約が借地借家法の予定する賃貸借契約と認定された場合は,契約の解約には6か月前の解約申入れが必要であり(借地借家法27条),解約には正当の事由が必要となります(借地借家法28条)。
 トラブルを避けるためにも,福利厚生施設としての役割に反しない金額の利用料設定にすべきでしょう。

4 社宅に残された私物の運び出し方法
 行方不明の社員が退職扱いとなり,社宅利用契約が終了したとしても,実際にどうやって部屋の明渡し作業を行うかは別途問題となります。
 行方不明の社員を相手に訴訟を提起し,公示送達(民事訴訟法110条)の方法により訴状を送達し,勝訴判決を得て強制執行するというのが,法律論的には本筋かもしれませんが,時間,費用,手間がかかります。
 かといって,勝手に荷物を運び出して処分してしまうわけにもいきません。
 実務上は,行方不明の社員の両親等の協力を得て,明渡しに立ち会ってもらい,荷物を引き取って保管してもらうことが多いのではないでしょうか。
 完全に適法なやり方と言えるかどうかは微妙なところであり,ある程度のリスクを覚悟した上で行うことになりますが,両親等の協力があれば,トラブルに発展するケースはそれほど多くはありません。

弁護士法人四谷麹町法律事務所

弁護士 藤田進太郎


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