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弁護士法人四谷麹町法律事務所のブログ

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勝手に残業して残業代を請求する。

2013-09-14 | 日記
勝手に残業して残業代を請求する。

(1) 不必要に残業をする社員への対応
 不必要に残業をする社員に対しては,注意,指導して,改めさせる必要があります。
 長時間労働は,残業代(割増賃金)請求の問題にとどまるものではなく,過労死,過労自殺,うつ病等の問題にもつながるので,放置してはなりません。

(2) 早く帰るように注意しても帰らない社員への対応
 不必要な残業を止めて帰宅するよう口頭で注意しても社員が指導に従わない場合は,現実にオフィスから外に出るまで指導すべきです。
 終業時刻後も社員が社内の仕事をするスペースに残っている場合,残業していると評価される可能性が高いと考えられます。
 残業させる必要がない場合は,社内の仕事をするスペースから現実に外に出るよう指導して下さい。
 最低限,タイムカードを打刻させるとか,現実に働いていた時間を自己申告させるとかする必要がありますが,いつまでも部屋に残っているのを放置していると,タイムカード打刻後も残業させられていたとか,実際の残業時間よりも短い残業時間の自己申告を強制された主張されて,残業代請求を受けるリスクが生じます。

(3) 所定労働時間に仕事に集中しない社員の労働時間
 仕事の合間に,食事したり,仕事とは関係のない本を読んだり,おしゃべりしたり,居眠りした場合であっても,まとまった時間,仕事から離脱したような場合でない限り,所定の休憩時間を超えて労働時間から差し引いてもらえないのが通常です。
 居眠り等が目に余る場合は,その都度,上司が注意,指導して仕事をさせるのが本筋です。
 上司が部下の注意,指導,教育を怠っていたのでは,無駄な残業はなくなりません。

(4) 残業代支払の基本的な発想
 残業させたら残業代の支払を免れることはできないという前提で考える必要があります。
 ①残業自体を減らすことで残業代の発生を抑制するか,②残業代を支払済みにしておく必要があります。

(5) 能力が低い社員,真面目に仕事をしない社員の残業代
 本人の能力が低いことや,所定労働時間内に真面目に仕事をしていなかったことが残業の原因であった場合であっても,現実に残業している場合は,残業時間として残業代の支払義務が生じます。
 本人の能力が低いことや,所定労働時間内に真面目に仕事をしていなかったことは,注意指導,教育等で改善させるとともに,人事考課で考慮すべき問題であって,残業時間に対し残業代を支払わなくてもよくなるわけではありません。

(6) 一定金額以上は残業代を支払わない約束
 一定金額の残業手当を支給し,その金額の範囲内で残業を行う旨合意されていたとしても,残業手当の金額を超えて労基法上の割増賃金が発生している場合は,不足額部分の支払義務が生じるため,残業代の額を限定することはできません。
 例えば,「月5万円の残業代を払うから,5万円の範囲内で残業して下さい。」と伝えていたとしても,社員が現実に残業した時間で残業代を計算した結果,残業代の金額が5万円を超えた場合は,原則として追加の残業代の支払を余儀なくされることになります。

(7) 上司の責任・管理能力
 部下に残業させて残業代を支払うのか,残業させずに帰すのかを決めるのは上司の責任であり,上司の管理能力が問われます。
 その日のうちに終わらせる必要がないような仕事については,翌日以降の所定労働時間内にさせるといった対応が必要となります。

(8) 黙示の残業命令
 明示の残業命令を出していなくても,残業していることを知りながら放置していた場合は,想定外の時間にまで残業していたような例外を除き,黙示の残業命令があったと認定されるのが通常です。
 実際の事案では,どれだけ残業していたのかはよく分からなくても,残業していたこと自体は上司が認識しつつ放置していることが多いように思えます。
 上司が残業に気付いたら,残業を辞めさせて帰宅させるか,残業代の支払を覚悟の上で仕事を続けさせるか,どちらかを選択する必要があります。

(9) 事前申告制と残業代
 残業する場合には,上司に申告してその決裁を受けなければならない旨就業規則等に定められていたとしても,実際には決済を受けずに仕事をしていて,上司がそれを知りつつ放置していた場合は,黙示の残業命令により残業していたと認定され,残業代の支払を余儀なくされるリスクがあります。
 就業規則を整備しても,実態を伴わなければ,残業代請求対策として不十分です。

(10) 部下が上司の知らないところで残業したような場合
 「上司が先に帰って,部下が上司の知らないところで残業したような場合も,残業代を支払わなければならないのですか?」といった質問を受けることがあるが,弁護士に相談するような事案はたいてい,毎日のように部下が残業をしているのを上司が知りながら放置しているケースです。
 部下がたまたま1日だけ,上司の知らないうちにこっそり残業したといった程度の場合は,残業代の支払いを拒絶できる余地があるが,そのような場合は,弁護士に相談しなければならないような問題にはならなりません。

(11) タイムカードと労働時間
 残業代請求の訴訟では,タイムカードに打刻された出社時刻と退社時刻との間の時間から休憩時間を差し引いた時間が,その日の実労働時間と認定されることが多いです。
 タイムカードの打刻時間が,実際の労働時間の始期や終期と食い違っている場合は,それを敢えて容認してタイムカードに基づいて残業代を支払うか,働き始める直前,働き終わった直後にタイムカードを打刻させるようにすべきです。

(12) 自己申告制と労働時間
 基本的には申告どおりの労働時間が認定されますが,自己申告された労働時間が,実際の労働時間に満たない場合は,実際の労働時間に基づいて残業代が算定されることになります。
 自己申告制は,適切に運用しないと,隠れ残業時間(残業代不払い)が生じるリスクを負うことになりかねません。
 パソコンのオンオフのログで在社時間をチェックし,自己申告の労働時間との齟齬が大きい場合には当該社員から事情説明を求める等の工夫をすべきです。

(13) 長時間労働のリスク
 長時間労働は,過労死,過労自殺,うつ病等の問題が生じやすいです。
 当該社員の人生が破壊されるだけでなく,職場の雰囲気も悪くなり,会社が高額の損害賠償義務を負うこともあります。
 本人の同意があったとしても,月80時間を超えるような時間外労働を恒常的にさせるのはお勧めできません。

弁護士法人四谷麹町法律事務所
弁護士 藤田 進太郎

トラブルの多い社員が定年退職後の再雇用を求めてくる。

2013-09-14 | 日記
トラブルの多い社員が定年退職後の再雇用を求めてくる。

(1) 高年齢者雇用確保措置の概要
 高年法9条1項は,65歳未満の定年の定めをしている事業主に対し,その雇用する高年齢者の65歳までの安定した雇用を確保するため,
 ① 定年の引上げ
 ② 継続雇用制度(現に雇用している高年齢者が希望するときは,当該高年齢者をその定年後も引き続いて雇用する制度)の導入
 ③ 定年の定めの廃止
のいずれかの措置(高年齢者雇用確保措置)を講じなければならないと規定しています。

(2) 雇用確保措置の内容
 厚生労働省の「今後の高年齢者雇用に関する研究会」が取りまとめた「今後の高年齢者雇用に関する研究会報告書」によると,平成22(2010)年において,雇用確保措置を導入している企業の割合は,全企業の96.6%であり,その内訳は以下のとおりです。
 ① 定年の引上げの措置を講じた企業の割合 → 13.9%
 ② 継続雇用制度を導入した企業の割合   → 83.3%
 ③ 定年の定めを廃止した企業の割合    → 2.8%

(3) 継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準
 改正前の高年法9条2項は,過半数組合又は過半数代表者との間の書面による協定により,②継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準を定めることができる旨規定していました。
 平成25年4月1日施行の『高年齢者等の雇用の安定等に関する法律の一部を改正する法律』では,①継続雇用制度の対象者を限定できる仕組みの廃止について規定されていますが,平成25年4月1日の改正法施行の際,既にこの基準に基づく制度を設けている会社の選定基準については,平成37年3月31日までの間は,段階的に基準の対象となる年齢が以下のとおり引き上げられるものの,なお効力を有するとされています。
 平成25年4月1日~平成28年3月31日 61歳以上が対象
 平成28年4月1日~平成31年3月31日 62歳以上が対象
 平成31年4月1日~平成34年3月31日 63歳以上が対象
 平成34年4月1日~平成37年3月31日 64歳以上が対象
 継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準は具体的で客観的なものである必要があり,トラブルが多い社員は継続雇用の対象とはならないといった抽象的な基準を定めたのでは,公共職業安定所におい,て,必要な報告徴収が行われるとともに,助言・指導,勧告の対象となる可能性があり,勧告を受けた者がこれに従わない場合は企業名が公表される可能性もあります(高年法10条)。
健康状態,出勤率,懲戒処分歴の有無,勤務成績等の客観的基準を定めるべき。
 「JILPT「高齢者の雇用・採用に関する 調査」(2008)」によると,実際の継続雇用制度の基準の内容としては,以下のようなものが多くなっています。
 ① 健康上支障がないこと(91.1%)
 ② 働く意思・意欲があること(90.2%)
 ③ 出勤率,勤務態度(66.5%)
 ④ 会社が提示する職務内容に合意できること(53.2%)
 ⑤ 一定の業績評価(50.4%)
 常時10人以上の労働者を使用する使用者が,継続雇用制度の対象者に係る基準を労使協定で定めた場合には,就業規則の絶対的必要記載事項である「退職に関する事項」に該当することとなるため,労基法89条に定めるところにより,労使協定により基準を策定した旨を就業規則に定め,就業規則の変更を管轄の労働基準監督署に届け出る必要があります。

(4) 高年法9条の私法的効力 
 高年法9条には私法的効力がない(民事訴訟で継続雇用を請求する根拠にならない)と一般に考えられていますが,就業規則に継続雇用の条件が定められていればそれが労働契約の内容となり,私法上の効力が生じることになります。
 したがって,就業規則に規定された継続雇用の条件が満たされている場合は,高年齢者は,就業規則に基づき,継続雇用を請求できることになります。
 就業規則に定められた継続雇用の要件を満たしている定年退職者の継続雇用を拒否した場合,会社は損害賠償義務を負う可能性があることに争いはありませんが,裁判例の中には,解雇権濫用法理の類推などにより,継続雇用自体が認められるとするものもあります。
 最高裁第一小法廷平成24年11月29日判決は,定年に達した後引き続き1年間の嘱託雇用契約により雇用されていた労働者の継続雇用に関し,東芝柳町工場事件最高裁判決,日立メディコ事件最高裁判決を参照判例として引用して,「本件規程所定の継続雇用基準を満たすものであったから,被上告人において嘱託雇用契約の終了後も雇用が継続されるものと期待することには合理的な理由があると認められる一方,上告人において被上告人につき上記の継続雇用基準を満たしていないものとして本件規程に基づく再雇用をすることなく嘱託雇用契約の終期の到来により被上告人の雇用が終了したものとすることは,他にこれをやむを得ないものとみるべき特段の事情もうかがわれない以上,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められないものといわざるを得ない。したがって,本件の前記事実関係等の下においては,前記の法の趣旨等に鑑み,上告人と被上告人との間に,嘱託雇用契約の終了後も本件規程に基づき再雇用されたのと同様の雇用関係が存続しているものとみるのが相当であり,その期限や賃金,労働時間等の労働条件については本件規程の定めに従うことになるものと解される」と判示しています。
 この最高裁判決は,定年退職後の嘱託社員を継続雇用しなかった事案に関するものでであり,正社員が定年退職した直後に継続雇用されなかった事案に関するものではありませんが,正社員が定年退職した直後に継続雇用されなかった事案についても同様の判断がなされる可能性もあり,十分な検討が必要です。

(5) 希望者全員を継続雇用するという選択肢
 トラブルの多い社員が定年退職後の再雇用を求めてくることに対する対策としては,
 ① 改正法施行前から継続雇用制度を採用していた会社で「継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準」を維持する
 ② 再雇用自体は認めた上で,トラブルが生じにくい業務を担当させる(接客やチームワークが必要な仕事から外す等。)ことや,賃金の額を低く抑えること等により不都合が生じないようにすること
等が考えられます。
 継続雇用制度を維持した上で,「継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準」を定める方法によりトラブルの多い社員の継続雇用を阻止することができればそれに越したことはありませんが,継続雇用制度の対象者を限定できる仕組みは原則として廃止されています。
 改正法施行の際,既にこの基準に基づく制度を設けている会社の選定基準については,平成37年3月31日までの間は,段階的に基準の対象となる年齢が引き上げられながらもなお効力を有するとされていますが,例外的制度であるという位置づけは否めません。
 また,基準を適用することによる継続雇用拒否は,紛争を誘発しがちです。
 高年齢者雇用確保措置が義務付けられた主な趣旨が年金支給開始年齢引き上げに合わせた雇用対策であること,継続雇用制度の対象者を限定できる仕組みが廃止される方向に向かっていることからすれば,原則どおり,希望者全員を継続雇用するという選択肢もあり得るのではないでしょうか。
 統計上も,継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準制度により離職した者が定年到達者全体に占める割合は,わずか2.0%に過ぎないとされています(「今後の高年齢者雇用に関する研究会報告書」)。
 トラブルが多い点については,トラブルが生じにくい業務を担当させる(接客やチームワークが必要な仕事から外す等。)ことや,賃金の額を低く抑えること等により対処することも考えられます。
 改正法では,継続雇用制度の対象者を雇用する企業の範囲の拡大についても規定されていますので,そういった規定を活用することも考えられるところです。

(6) 継続雇用後の労働条件による調整
 高年法上,継続雇用後の賃金等の労働条件については特別の定めがなく,年金支給開始年齢の65歳への引上げに伴う安定した雇用機会の確保という同法の目的,最低賃金法等の強行法規,公序良俗に反しない限り,就業規則,個別労働契約等において自由に定めることができます。
 もっとも,就業規則で再雇用後の賃金等の労働条件を定めて周知させている場合,それが労働条件となりますから,再雇用後の労働条件を,就業規則に定められている労働条件に満たないものにすることはできません。
 高年齢者雇用確保措置の主な趣旨が,年金支給開始年齢引上げに合わせた雇用対策,年金支給開始年齢である65歳までの安定した雇用機会の確保である以上,継続雇用後の賃金額に在職老齢年金,高年齢者雇用継続給付等の公的給付を加算した手取額の合計額が,従来であれば高年齢者がもらえたはずの年金額と同額以上になるように配慮すべきであり,「時給1000円,1日8時間・週3日勤務」程度の賃金額にはしておきたいところです。
 高年法が求めているのは,継続雇用制度の導入であって,事業主に定年退職者の希望に合致した労働条件での雇用を義務付けるものではなく,事業主の合理的な裁量の範囲の条件を提示していれば,労働者と事業主との間で労働条件等についての合意が得られず,結果的に労働者が継続雇用されることを拒否したとしても,高年法違反となるものではありません。
 したがって,トラブルの多い社員との間で,再雇用後の労働条件について折り合いがつかず,結果として継続雇用に至らなかったとしても,それが直ちに問題となるわけではありません。

弁護士法人四谷麹町法律事務所
弁護士 藤田 進太郎